解雇390 法人格否認の法理の適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解散に伴う整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

TRAD社会保険労務士法人事件(東京地裁令和4年6月29日・労判ジャーナル131号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して主に社会保険労務士補助業務に従事してきたXが、Y社に対し、Y社の解散に伴って解雇されたことは無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めたほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社の唯一の社員であり、代表者であったBに対し、法人格否認の法理により、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払賃金等支払請求一部認容

【判例のポイント】

1 法人格否認の法理の適用について、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該法人に対し他の法人や出資者が権利を行使し、利用することにより、当該法人に対して支配を及ぼしているというだけでは足りず、当該法人の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して、法人としての実態が形骸にすぎないか判断すべきであるところ、Y社の社員はBであったが、Y社が解散するまでの間にこれとは別にB個人が個人事業主として社会保険労務士としての業務を行っていたような事情はうかがわれないし、Y社としての財産管理がされ、決算が行われていたと認められ、このような事情を考慮すると、Y社が実体がなく、形骸化していたとは認められず、また、法人格の濫用とは、法人の背後の実態が法人を意のままに道具として支配していることに加え、支配者に違法又は不当の目的がある場合をいうところ、BがY社の支配者といえるかはひとまず措くとして、Y社を解散させる必要性、合理性があったと認められるのであって、Xが主張するように、Y社の使用者としての責任を不当に免れる目的で本件解雇に及び、Y社を解散させたとは認められないから、支配者に違法又は不当の目的があったということはできず、BがY社の法人格を濫用したとは認められない。

法人格否認の法理の考え方がよくわかりますね。

ご覧のとおり、要件がかなり厳しいので、裁判所は、そう簡単には法人格の否認を認めてくれません。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。