Daily Archives: 2023年7月5日

賃金254 年次有給休暇の時季変更権行使が適法とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、年次有給休暇の時季変更権行使が適法とされた事案を見ていきましょう。

阪神電気鉄道事件(大阪地裁令和4年12月15日・労経速2512号22頁)

【事案の概要】

鉄道事業を営むY社に雇用されて車掌として勤務していたXは、平成30年9月19日につき年次有給休暇の時季指定をしたところ、Y社により時季変更権を行使されたが出勤せず、翌20日に欠勤を理由とする注意指導を受け、1日分の賃金9714円を減給された。
本件は、Xが、上記時季変更が違法であると主張して、Y社に対し、①雇用契約に基づき、減給された賃金9714円+遅延損害金、②労働基準法114条に基づき、上記賃金と同額の付加金+遅延損害金、③不法行為に基づき、違法な時季変更権の行使を前提とする注意指導による慰謝料50万円+遅延損害金の各支払を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 時季変更権の行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であって、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。このような勤務体制がとられている事業場において、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということができないと解するのが相当である(最高裁昭和62年7月10日判決、最高裁昭和62年9月29日判決)。
そして、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあったか否かについては、当該事業場において、年次休暇の時季指定に伴う勤務割の変更が、どのような方法により、どの程度行われていたか、年次休暇の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、当該労働者の作業の内容、性質、欠勤補充要員の作業の繁閑などからみて、他の者による代替勤務が可能であったか、また、当該年次休暇の時季指定が、使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、更には、当該事業場において週休制がどのように運用されてきたかなどの諸点を考慮して判断されるべきである。上記の諸点に照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかったとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはないと解するのが相当である(最高裁平成元年7月4日判決)。

2 Y社は、勤務割の中に予備循環を設けたり、W勤務を命じたりするなどして代替勤務者を確保していたところ、9月19日については、Xに先行して年休申請した車掌や社内行事のために勤務できない車掌がおり、Xに対して同日の年休を付与すると、確保していた代替勤務者を超える補充要員が必要となり、勤務割で確保された公休日の出勤回避やW勤務の上限の遵守といったQ1列車所において労使合意により実施されてきた取扱いに反しなければ、補充人員を確保できない状況にあったものということができる。これらの事情に照らすと、本件時季指定が1か月前にされたものであり、その間に使用者が通常の配慮をしたとしても、同日は、Xの代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にはなかったというべきである。

使用者の時季変更権の行使は上記判例のポイント1のとおり、決して簡単には認められません。

まずは最高裁の規範を押さえた上で、慎重に対応する必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有給休暇に関する運用を行うことが肝要です。