Daily Archives: 2023年7月11日

賃金255 退職手当不当受領に基づく損害賠償請求権と消滅時効(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職手当不当受領に基づく損害賠償請求権と消滅時効に関する裁判例を見ていきましょう。

神戸市事件(大阪高裁令和4年12月20日・労判ジャーナル133号28頁)

【事案の概要】

本件は、K市が、Xらに対し、次の①のとおり主張して、次の②の請求をする事案である。
①K市は、地方公共団体であり、Xらは、K市の元職員又はその法定相続人である。当該元職員らは、労働組合の業務に専従し、あるいは専従期間に関する法令の適用を回避するために特定法人へ退職派遣されていた期間があり、K市は、Xらに対して退職手当を支払うに当たり、当該退職手当の額を算定するについては、前記専従期間及び退職派遣の期間を法令(又はその趣旨)に従って在籍期間から除算すべきであるのに、労働組合との間で法令の定める専従期間の上限を超過した者について当該除算すべき期間を限定する違法な取決めをした上、当該取決めに基づき本来除算すべき期間を除算せず高額な退職手当を支払った。本件退職手当受給者らが、当該退職手当を受領するに当たり除算期間の誤りを正すことなく退職手当を受領した不法行為により、K市に損害が生じた。
②不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、当該退職手当の過払額相当額の損害賠償金+遅延損害金の支払を求める。

原審は、当事者双方の不法行為の成否をめぐる主張のやり取りが続く中、第6回口頭弁論期日において、消滅時効の成否について判断するとして弁論を終結した。
原審は、K市の主張する損害賠償請求権は時効により消滅したとして、K市の請求をいずれも棄却し、K市は本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。
本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

【判例のポイント】

1 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害及び加害者を知った時から起算される(民法724条)。そして、「損害及び加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味し(最高裁昭和48年11月16日判決参照)、被害者が法人である場合には、通常、法人の代表者又は不法行為に関係する事柄について代表者から委任を受けるなど、特定の事項につき法人を代表する権限を有する者が「損害及び加害者」を知った時から時効期間が進行すると解される。
もっとも、代表者等も他の加害者とともに当該不法行為に加担するなどし、代表者等と他の加害者との共同不法行為が成立するような場合には、加害代表者等が損害賠償請求権を行使することを現実的に期待することは困難であるから、このような場合には単に加害代表者等が損害及び加害者を知るのみでは時効期間は進行せず、法人の利益を正当に保全する権限のある加害代表者等以外の代表者等において、損害賠償請求権を行使することが可能な程度に「損害及び加害者」を知った時から、時効期間が進行すると解するのが相当である。

2 これを本件についてみると、本件退職手当の受給が違法であるかについて当事者間に争いがあるものの、仮に本件退職手当の支給が給与条例主義の趣旨に反するものであり違法であるとして、その受給行為が不法行為に該当する場合には、給与課長が本件取決めに基づき、違法な退職手当支給決裁を行うのは、K市に対する背信行為であるといわざるを得ない。給与課長による支給決裁と本件退職手当受給者らによる受給行為は、K市に対する共同不法行為に当たるというべきである。
そして、弁論の全趣旨によれば、K市においては、給与課長が違法に支給された退職手当の返還請求を行う権限を有すると認められる。ところが、給与課長であっても、違法な退職手当支給決裁を行った場合には、自らが加担した共同不法行為に関し、自らこれを是正し、又はK市代表者を通じてK市が損害賠償請求権を行使するための役割を果たすことは期待できない。当該給与課長自身の認識のみを基準に、消滅時効の時効期間が進行するということはできない
そうすると、本件退職手当受給者らのうち、最終の本件退職手当を受給したY1の退職手当支給決裁を行った給与課長には、自らが加担した共同不法行為に関し、自らこれを是正し、又はK市代表者を通じて控訴人神戸市が損害賠償請求権を行使するための役割を果たすことは期待できなかったといえるから、給与課長の認識を基準に、消滅時効の時効期間が進行するとはいえない

上記判例のポイント1の消滅時効の起算日についての考え方は、是非、しっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有給休暇に関する運用を行うことが肝要です。