賃金272 仮執行宣言付判決に対して上訴を提起し、その判決によって履行を命じられた債務の存否を争いながら、同判決で命じられた債務につきその弁済としてした給付の帰趨(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、仮執行宣言付判決に対して上訴を提起し、その判決によって履行を命じられた債務の存否を争いながら、同判決で命じられた債務につきその弁済としてした給付の帰趨に関する裁判例を見ていきましょう。

三井住友トラスト・アセットマネジメント事件(東京高裁令和4年3月2日・労判1294号61頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、①労働契約に基づく賃金(未払残業代)請求権に基づき、平成28年1月4日から令和元年7月31日(本件請求期間)の未払残業代である原判決別紙3「変更請求目録」及び原判決別紙4「追加請求目録」の各「E未払残業代」欄記載の各金員(合計2747万1761円)及び遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は、①未払残業代として1978万0532円+遅延損害金、②付加金として1402万3983円+遅延損害金の各支払を求める限度でXの請求を認容した。

これに対し、Y社は、敗訴部分を不服として控訴した。また、Xは、敗訴部分の全部を不服として附帯控訴するとともに、未払残業代の基準賃金額に一部誤りがあったとして、基準賃金額が増加した部分について訴えの追加的変更(拡張請求)をし、拡張請求分を含めて、①主文第1項(1)と同旨の判決を求めるとともに、②付加金として、2413万5538円+遅延損害金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

Y社の本件控訴及びXの附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
Y社は、Xに対し、2766万8492円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、令和3年7月9日東京法務局に対し、原判決で認容された1978万0532円及びこれに対する令和3年7月2日までの確定遅延損害金436万9320円(合計2414万9852円)を弁済供託したので、その範囲で債務は消滅した旨主張する。
しかしながら、仮執行宣言付判決に対して上訴を提起し、その判決によって履行を命じられた債務の存否を争いながら、同判決で命じられた債務につきその弁済としてした給付は、それが全くの任意弁済であると認められる特別の事情がない限り、民訴法260条2項所定の「仮執行の宣言に基づく被告が給付したもの」に該当するというべきであり、このことは、その仮執行によって強制的に取り上げられた場合や仮執行に際し執行官に促されて弁済した場合に止まらず、仮執行宣言付判決を受けたのちにY社が弁済をした場合一般についてあてはまるものである(昭和47年最判参照)。
Y社は、令和3年5月7日付けで強制執行停止決定を受けているので、これにより仮執行宣言付判決に基づく強制執行が行われる可能性がなくなったのであるから、Y社による弁済は全くの任意弁済に当たると主張するが、Y社としては、仮に強制執行停止決定を受けた後に弁済供託をしたとしても、その後、当審において、Y社に金員の支払を命ずる原判決が取り消されれば、供託した物の取戻しを請求する意思があることが通常であり、当該供託は暫定的な弁済をする意思でされているとみるのが妥当であって、本件において、Y社の供託が全くの任意弁済であると認められる特別の事情があるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、Y社の弁済の抗弁は採用することができない。

まず、金額にびっくりしてしまいますが、それはさておき、この論点は、未払残業代請求訴訟を被告(使用者側)代理人として対応する弁護士としては、常に頭を抱える問題です。

被告代理人としては、できれば付加金をなくしたいわけですが、未払残業代の金額についても争いたいという場合、苦しい選択を迫られます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。