賃金275 原審判決を維持し、請負制賃金の計算において割増賃金を控除する賃金制度が判別性の要件を満たし、合理的であるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、原審判決を維持し、請負制賃金の計算において割増賃金を控除する賃金制度が判別性の要件を満たし、合理的であるとされた事案を見ていきましょう。

JPロジスティクス事件(大阪高裁令和5年7月20日・労経速2532号3頁)

【事案の概要】

本件は、貨物自動車運送事業等を行っているY社との間で労働契約を締結し、集配業務に従事していたXらが、Y社に対し、Xらに支給すべき能率手当の算定に当たり割増賃金の一部である「時間外手当A」に相当する額を控除しており、労働基準法37条所定の割増賃金の一部が未払である等と主張し、その支払いを求めた事案である。

原審は、Xらの請求を全て棄却したため、これを不服とするXらが控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 請負制賃金に係る仕事の単位量に対する賃金率に関しては、労基法27条が、出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、労働時間に応じ、一定額の賃金の保障をしなければならない旨を定めており、最低賃金法のような特別法は存在しない
本件賃金規則等は、時間制賃金と請負制賃金とを併用する併用型賃金体系を採用しているところ、その一部を構成する時間制賃金の水準は最低賃金法に違反すると認めるには足りない。また、賃金規則等の定めによれば、時間制賃金に対応する時間外手当A(60時間を超える労働時間に係る時間外手当を含まない。)の総額が、取り扱った荷物の重量、伝票枚数、客の軒数、走行距離等の集配業務の業務量に基づいて算出される賃金対象額を上回る場合、本件計算方法に基づき、能率手当が支給されることはないが、時間制賃金に対応する基本給及び時間外手当の支払も減額されることはないから、最低賃金法に違反しない内容の賃金が保障される。さらに、本件賃金規則等が併用する請負制賃金は、出来高を示す揚高の一定割合を賃金として支払うことを保障するものではなく、質の高い労働(労働密度の高い労働)を提供した場合に、賃金対象額と時間外手当Aとの差額に相当する価値を見出して、時間外賃金に加算をする性格のもので、出来高払制賃金とは異なり、Y社が併用している請負制賃金によって、出来高払制賃金の下で生じ得るような弊害が生じる危険性があると認めるには足りない
これらの諸事情に照らせば、本件賃金規則等の定めは、能率手当算定の計算式を「賃金対象額」-「時間外手当A」としている部分も含め、労基法27条が求める賃金の保障をしているものと解するのが相当である。

2 Xらは、本件には、時間外手当の額を控除する計算方法について判別性の要件を欠く旨判断した最高裁令和2年3月30日(国際自動車事件第2次上告審判決)の射程が及ぶから、本件の計算方法も判別性の要件を欠く旨主張する。しかしながら、上記判決の事案では、「歩合給(1)」の金額を導くために「対象額A」から差し引かれる割増金に歩合給対応部分が含まれており、歩合給に係る基礎賃金やそれを基礎として算定した時間外手当の額が不明確になってしまい、判別性を欠くことが明らかである。また、上記判決の事案では、「対象額A」は、出来高を示す揚高の一定割合を合計する方法で計算されており、「歩合給(1)」として、出来高に比例した歩合給の支払を保障する趣旨の定めがされていて、「歩合給(1)」が「出来高払制によって定められた賃金」に該当することが明らかである。
これに対し、本件賃金規則等において、能率手当算定の賃金対象額は、出来高を示す揚高の一定割合という形で計算されるものではなく、「出来高払制によって定められた賃金」とは異なる「その他の請負制によって定められた賃金」に該当することが明らかである。そうすると、本件の能率手当については、上記判決が指摘した「出来高払制によって定められた賃金」に該当する歩合給に関する問題は生じない

最高裁はどのように判断するでしょうね。

上記判例のポイント2にもあるとおり、国際自動車事件との比較検討をする必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。