おはようございます。
今日は、退職願及び懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。
宮田自動車商会ほか事件(札幌高裁令和6年3月22日・労判1343号40頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に雇用されたXが、使用者であるY社に対し、以下のアないしエの請求をするとともに、Y社及びその代表取締役であるAに対し、以下のオの請求をする事案である。
ア 懲戒解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 無効な懲戒解雇により就労を拒否されている旨主張して、民法536条2項に基づき、令和2年5月から本判決確定の日までの間の賃金(月額33万7000円)+遅延損害金の支払
ウ 無効な懲戒解雇により就労を拒否されている旨主張して、民法536条2項に基づき、令和2年4月から本判決確定の日までの間の賞与(夏季42万7000円、冬季79万円)+遅延損害金の支払
エ 賃金から根拠なく仮払金精算名目で1万9840円を控除した旨主張して、雇用契約に基づき、未払賃金1万9840円+遅延損害金の支払
オ A及びY社からパワーハラスメントを受けた旨主張して、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、賠償金110万円+遅延損害金の連帯支払
原審は、Xの請求のうち、前記ア及びエの全部並びにオのうち11万円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、Y社らが自らの敗訴部分に不服があるとして控訴し、Xが自らの敗訴部分のうち前記イ及びウに係る部分に不服があるとして附帯控訴した。
【裁判所の判断】
本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 Xが令和2年1月14日に本件退職願を提出したのは、令和元年12月28日におけるAやY社の役員らとの面談で、Y社から、F牧場の件、G店の件、福岡旅行の件などについて事情聴取がされ、これらに関する顛末書と進退伺書の提出を指示されたことが契機となっている。その当時、Xにおいて、具体的な転職や独立の予定があったとは認められず、本件退職願の記載も、労働契約の解消を強く求めるといった趣旨のものではない。
以上の事情を踏まえると、Xが、本件退職願を提出した際に、Y社との間の労働契約を積極的に解消したいとの強い意向を示していたということはできない。そうすると、Xによる本件退職願の提出は、労働者の一方的意思表示による労働契約の解約である辞職の申出ではなく、労働者と使用者の合意により労働契約を将来に向けて解約するための合意解約の申込みであったと解するのが相当である。
以上に対し、Y社は進退伺の意義や本件退職願が提出された経緯を考慮すると、XにはY社の意思にかかわらず退職する意思があったと考えるのが自然である旨主張する。しかし、Y社の主張する上記事情を勘案したとしても、その当時、たとえY社から慰留されたとしても労働契約を解消するほどの強固な意思をXが有していたとまでは認めることはできない。
2 Y社は、令和2年1月22日、Xに対し、本件退職願が正式に受理された旨伝えているから、同日の時点でY社とXとの間の労働契約が同年3月31日をもって終了する旨の合意が一旦は成立したということができる。
しかし、Xは、同年2月19日頃にY社から諭旨解雇処分を予定している旨伝えられたことがきっかけとなり、同月27日、Y社に対し、退職の意思表示を撤回する旨の意思表示をしている。これに対し、Y社は、Xに対し、同年3月6日に本件退職願の撤回はできない旨伝えたにもかかわらず、同月27日には、Xに対し、同年4月28日をもって懲戒解雇する旨の本件懲戒解雇の意思表示をしている。
本件懲戒解雇は、Y社とXとの間の労働契約が同年3月31日を経過した後も同年4月28日までは維持されることを前提に、同日をもって懲戒解雇処分により終了するとの内容であると解さざるを得ないから、Y社は、本件懲戒解雇の通知により、同年3月31日をもって労働契約を終了する旨の申込みに対する承諾を撤回し、改めて同年4月28日をもって懲戒解雇を行う旨の意思表示をしたものと評価するほかはない。
そうすると、Y社とXとの間では、同年1月22日の段階で、同年3月31日をもって労働契約が終了する旨の合意が一旦は成立したものの、その効果が発生する前の同年3月27日の段階で、X及びY社の双方が合意退職の申込み及びこれに対する承諾を撤回する旨の意思表示をした結果、合意が撤回されて退職合意の効果が生じないことになったということができる。したがって、本件退職願の提出により、Y社とXとの間の労働契約が終了したということはできない。
試験問題の題材になりそうな内容ですね。
上記判例のポイント1は重要ですので、しっかりと押さえておきましょう。
日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。