Author Archives: 栗田 勇

管理監督者20(レイズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

レイズ事件(東京地裁平成22年10月27日・労判1021号39頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産業を営む会社である。

Xは、Y社に採用され、その後、解雇された。解雇時は、営業本部長の地位にあった。

Xは、解雇後、Y社に対し、時間外・休日労働にかかる未払賃金の支払いを求めた。

これに対し、Y社は、Xが管理監督者にあたること、事業場外みなし制度が適用されることなどを主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定

事業場外みなし制度の適用も否定

【判例のポイント】

1 労働基準法41条は、同条2号に掲げる「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規定を適用しない旨を定めているところ、その趣旨は、同法の定める労働時間規制を超えて活動することが、その重要な職務と責任から求められる者であり、かつ、その職務内容(権限・責任)や現実の勤務態様等に照らし、労働時間規制を除外しても、同法1条の基本理念や同法37条の趣旨に反するような事態が避けられる(労働者保護に欠けることにはならない)ということにあり、行政通達が、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にある者をいい、その名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるなどとしているのも、前記趣旨に沿ったものと解される。

2 そして、同通達の内容をも踏まえると、管理監督者に該当するかどうかについては、(1)その職務内容、権限及び責任が、どのように企業の事業経営に関与するものであるのか(例えば、その職務内容が、ある部門全体の統括的なものであるかなど)、(2)企業の労務管理にどのように関与しているのか(例えば、部下に対する労務管理上の決定等について一定の裁量権を有していたり、部下の人事考課、機密事項等に接したりしているかなど)、(3)その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか(例えば、出退勤を規制しておらず、自ら決定し得る権限があるかなど)、(4)管理職手当等の特別手当が支給されており、管理監督者にふさわしい待遇がされているか(例えば、同手当の金額が想定できる時間外労働に対する手当と遜色がないものであるかなど)といった視点から、個別具体的な検討を行い、これら事情を総合考慮して判断するのが相当である。

3 Xは、Y社において「営業本部長」という肩書は有しているものの、その業務内容は、基本的には営業活動であり、(宅地建物取引主任者の資格を活用する点、より重い営業ノルマ等を課されている点は別論として)他の一般社員(営業担当社員)と異なるところはなかったものと解される。

4 Xは、原則として、午前9時前後にはY社に出社して、タイムカードに打刻し、Y社を退社する際もタイムカードに打刻していたこと、Y社は週休2日制であるにもかかわらず、Xが週2日の休日を取得することはあまりなかったことが認められ、Xは勤務時間(出退勤)について自由裁量はなかったものと強く推認されるといわざるを得ない。

5 Xが部下の査定に実質的に関与していたと認めることはできない

6 Y社は、Xに支給されている報奨金等の多寡をも問題としているが、報奨金は、基本的には、従業員の立場等とは関係なく、契約を成立させた事実に対して支給されるものであり、その多寡が直ちに管理監督者性を基礎付けるものであるとは解し難い。

本裁判例では、管理監督者性の問題のほかに、事業場外みなし労働時間制の適用の有無についても争点となっています。

この点は、また別の機会に検討します。

管理監督者性の問題で、会社側の主張が通ることはほとんどありません。

理由は簡単です。

基準が厳しいことと、会社が、都合よく管理監督者と認定しすぎていることです。

裁判所の示す基準をすべてみたす管理職は、ほとんど存在しないと思います。

会社としては、この問題を放置しておくと、本裁判例のように、いつか時間外・休日労働の未払賃金を請求されたときに、多額の出費をしなければなりません。

このあたりは、実質的な損得の判断が求められています。

「訴訟リスク」「敗訴リスク」を実質的に判断しましょう。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

有期労働契約19(ノースアジア大学(仮処分)事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

ノースアジア大学(仮処分)事件(秋田地裁平成22年10月7日・労判1021号57頁)

【事案の概要】

Xは、平成15年4月、Y大学の専任講師として、期間の定めのない雇用契約により採用され、その後、准教授となった。

Y大学は、平成19年3月、「大学の教員等の任期に関する法律」に基づき、専任教員の任期に関する規程を制定し、専任の全教員に任期制を導入した。

これに伴い、XとY大学との間では、任期2年の任期制雇用契約が締結された。

ところが、Xは、平成21年11月、懲戒処分となり、准教授から講師に降格され、基本給も減額された。

平成22年2月、Xは、Y大学から本件雇用契約が同年3月末をもって終了する旨の通告を受けた。

Xは、本件更新拒絶が不当な雇止めにあたり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 使用者と労働者の間で締結された期間の定めのある雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になったといえない場合であっても、当該契約で定められた期間の満了後にも継続して雇用されるとの労働者の期待に合理的な理由がある場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、使用者による雇止めに合理的な理由がない場合には、当該契約の期間満了後における使用者と労働者の間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の関係になると解すべきである。

2 ・・・結局のところ、任期法は、各大学が規則を定めることによって、その実情に合わせた任期制の導入を可能としていると解するべきであって、Y大学が主張するように、任期法に基づく任期制教員について一律に解雇件濫用法理が類推適用されないということはできない。

3 Xは、当初期間の定めのない労働契約を締結しており、その職務内容も専任教員としてY大学の常用的な職務を行っていたことからすれば、XとY大学との間の労働契約は長期間の継続を予定していたものであって、Xが任期制教員となったとはいえ、職務の重要性は増加しており、通算約7年間雇用が継続し、任期制導入後も1度更新されていることなどにかんがみると、Xが任期付き教員となったことによって、即座に両社の関係が長期的な雇用継続を予定しないものになったとはいえない

4 任期制規程を総合考慮すれば、Xが任期制の下でも雇用継続の期待を有することには一定の合理性がある。

5 Y大学が任期制導入に際して行った説明は極めて簡単で、任期制雇用契約書の提出期限が1週間にも満たなかったことなどからすると、Xが大学教員であることを考慮しても、従前の雇用契約から任期制に切り替わることによる不利益を十分に認識して任期制雇用契約を締結したということはできない

6 再任用を希望した教員が再任用されずに任期満了となった例は必ずしも多くなく、また、再任用の可否の判断においては、任期制導入前の状況との継続性が考慮されていたことを併せ考えれば、Y大学における再任用の運用は任期制導入前からの継続教員について配慮したものであったといえる

7 再任用の可否は、職名ごとに任期制規程で定められた最長年限までの期間を全体的に考慮した上で決定されており、雇用の継続性を推測させる一要素となるなどとして、Xには、本件雇用契約における任期の満了後にも雇用が継続するという合理的な期待が存在したというべきであり、本件更新拒絶には解雇権濫用法理が類推適用されると認められる。

8 平成21年度において、Xの評価が大きく下がったのは、本件アンケート送付とこれに伴う本件懲戒処分が多分に影響したものと推認されるところ、準教授からの降格と減給という本件懲戒処分は重きに失するといえ、相当性を欠くものということができる。

非常にマニアックな論点ですが、知っておくとよいです。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労働時間20(R社事件)

おはようございます。

今日は、労働時間に関する裁判例を見てみましょう。

R社事件(大阪地裁平成22年10月29日・労判1021号21頁)

【事案の概要】

Y社は大阪府下で小中学生を対象とする学習塾を経営する会社である。

Xは、文系講師として、Y社に16年間勤務し、平成15年3月、自己都合で退職した。

Xは、他の学習塾勤務等を経て、平成19年7月、Y社に再入社し、期間の定めのない雇用契約を締結した。

Y社では、年に4回、生徒アンケートを実施しており、Xは、生徒アンケートで文系講師のうち最下位が続いた。

Y社は、Xには授業能力向上、改善の意欲が認められず、生徒アンケートの評価は最低線から向上しなかったことを理由として、Xに対し、解雇を通告した。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争うとともに、時間外労働や休日労働の割増賃金を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

割増賃金の請求は認容。付加金も全額支払を命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの給与の中には、週8時間分の固定時間外手当が含まれていると主張する。しかし、給与明細書上、基本給と時間外手当が明確に区別されているとはいえないこと賃金規程上も固定時間外手当に関する規程は存在しないこと、その他にY社の上記主張を根拠付ける的確な証拠は見出し難いことからすると、Y社の同主張は理由がない。

2 Y社は、休憩時間の取得については各講師の裁量に委ねられており、予習時間、経営会議への参加、勉強会への参加は、いずれも労働時間には該当しないと主張する。
休憩時間とは、労働者が使用者による時間的拘束から解放されている時間を指すのであって、例えば、具体的な業務がなされていなくとも、使用者の指揮命令下におかれている限りは休憩時間ではなく労働時間であると解される

3 本件についてみると、Xを含む講師は、生徒からの質問があれば、これに対応する必要があったこと、受付事務職員がいたとしても、来訪者が講師との面談等を求めることもあり、その場合には各講師が対応しなければならないこと、Y社においては、休憩時間が明確に設定されていなかったこと、Xの配属先である各教室では、昼食時間中における生徒等に対する対応に関し、当番等を決めて対応していたとは認められないこと、各講師は、授業時間以外の時間において、生徒の成績をつけたり、成績分析をしたり、授業の準備のための予習をしたりする必要があったこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、Xは、在社時間中、Y社の指揮監督下から解放される時間を有していたとは認め難い

4 塾講師が、その業務を遂行する(具体的には授業を行うということ)ために、その授業内容の事前準備を行う時間が不要であるとはいえないこと、予習をして授業の質を高めることは塾講師にとって必須事項であること、講師経験の長短によって予習に必要な時間が異なることはあるということは窺われるものの、全く経験豊富な講師であったとしても、予習が不要となるとは考え難く、Xについても、授業のために必要があればそれに応じて十分な予習を行ってきたこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、授業を行うことに必要な予習を行うことは、Xの業務の一環であって、同時間については、労働時間であると評価するのが相当である

全国の塾関係者とすれば、この裁判例は困りますね・・・。

私も司法試験の勉強をしていた頃、塾講師をしていたので、状況はよくわかります。

在社時間は、授業を実際にやっていなくても、生徒の質問に対応したり、来客者の対応をするので、労働時間にあたると思います。

ただ、予習時間が労働時間かと言われると、違和感を感じます。

授業内容の事前準備は当然必要ですが、仕事の準備が必要なのは、塾講師に限りません。

塾側とすれば、当然納得できないと思います。

というわけで、Y社は控訴しております。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

賃金30(中谷倉庫事件)

おはようございます。

さて、今日は、取引先の倒産に伴う退職金減額に関する裁判例を見てみましょう。

中谷倉庫事件(大阪地裁平成19年4月19日・労判948号50頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送業や倉庫業を営む会社である。

Y社は、平成14年5月、年間売上げの3分の2を占める取引先2社が倒産したことから、連鎖倒産を回避するため、企業年金の解約、賃貸倉庫の閉鎖、土地の売却、取締役らの報酬減額、人件費削減の措置を講ずることとした。

Y社は、人件費削減の一環として、平成16年10月、退職金規程を改定し、退職金額をほぼ半額とすることとした。

これに対し、平成17年8月にY社を定年退職したXは、本件退職金規程の改定は無効であると主張し、旧規程と新規程との差額にあたる退職金を支払うように求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

2 そして、上記合理性の有無は、使用者側の就業規則変更の必要性の内容・程度、就業規則の変更により労働者が被る不利益の程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯等を総合考慮して判断すべきである。

3 Y社は、必ずしも経営状態が良好とはいえなかったところ、平成14年5月、売上高の3分の2を占める大口取引先が倒産し、売上が激減することとなった結果、経営規模を大幅に縮小し、生き残りをかけ、倒産回避のための措置を講じた。

4 退職金が給与の後払い的性格を有することを考えると、その減額の程度は大きい。しかし、Y社としては、今後、安定した経常利益を計上できる状態にあるとはいいがたく、本件改定を認めなかった場合の上記負担はY社の経営を圧迫することが予想され、倒産の危険も存し、本件改定はやむを得ないと言わざるを得ない

5 Y社は、労働者の過半数で組織する企業内組合の同意を得た。また、Xが所属する上記企業内組合とは別の労働組合に対し、何度も交渉を申し入れたが、同組合はこれに応じようとしなかった。

ここまでしっかりやれば、退職金規程の不利益変更も有効と判断されます。

会社として倒産回避のために必要な措置をとったが、それでもなお、従業員の賃金や退職金を減額しなければならない状況であったということがよくわかります。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金29(ドラール事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職金支給の有無や支給額を従業員ごとに決定できるかについて判断した裁判例を見てみましょう。

ドラール事件(札幌地裁平成14年2月15日・労判837号66頁)

【事案の概要】

Y社は、建築材料の卸販売並びにタイル工事の設計及び請負等を目的とする会社である。

Xは、平成12年3月までY社の従業員であったが、依願退職した。

Y社では、会社業績の悪化に伴い、退職金について、取締役会で個別の従業員について、退職金を支給するか否か、支給するとしていくら支給するかを決めることができるように就業規則を改定した。

これに基づき、退職金が支給されなかったXは、本件就業規則の不利益変更は無効であるから、それに基づく取締役会決議も無効であると主張し、改定前の就業規則に基づく退職金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

2 そして、上記合理性の有無は、使用者側の就業規則変更の必要性の内容・程度、就業規則の変更により労働者が被る不利益の程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯等を総合考慮して判断すべきである。

3 Y社は、就業規則変更当時、営業収益は約60億円から48億円に減少、営業利益は、約1億4000万円を確保していたものが約4000万円に激減し、経常利益も約2億円あったものが約8000万円に半減し、また、税引後当期純利益も約1億円あったものが約4291万円に半減した。
しかしながら、この改定にあたって、今後の退職者数及び退職金支給額の見込みや、収益改善のために他のどのような対策があり、退職金支給額の圧縮が避けられないものか否かについて具体的な検討がされたのか明らかでない。

4 本件改定にあたり代償措置やこれを緩和する措置を設けたり、関連する他の労働条件を改善したと認めるに足りる証拠はない

5 本件改定にあたり、従業員の過半数で組織する労働組合又は従業員の過半数を代表する者の意見を聴取したと認めるに足りる証拠はない

あてはめのしかたを学ぶにはとてもよい事案です。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金28(月島サマリア病院事件)

おはようございます。

さて、今日は、倒産の危機に瀕していたとまではいえない場合の退職金の減額に関する裁判例を見てみましょう。

月島サマリア病院事件(東京地裁平成13年7月17日・労判816号63頁)

【事案の概要】

Y社は、個人経営の病院である。

Xは、Y社を平成11年に自己都合退職した看護師である。

Y社は、生命保険会社との契約による企業年金と就業規則上の退職金制度を有し、後者から前者を控除した金額を支給することになっていた。

ところが、Y社は、経営状況悪化のため、退職金の算定基礎を基本給の100%から80%に引き下げ、勤続年数ごとの支給比率も削減する就業規則の変更を行った。

これにより、Xの退職金額は、674万円から359万円と47%削減された。

Xは、Y社に対し、変更前の算定方法に基づく退職金額の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 就業規則の変更に関し、変更部分の規定文言そのものを従業員に個別に周知しない限り変更の効力が生じないとするのは、労働条件の統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質に照らし相当ではなく、掲示板への掲示程度の周知であっても、変更の効力が生じたものとみることが相当である。

2 一般に、就業規則の作成及び変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に関することは、原則として許されないと解されるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないというべきである。

3 ここでいう当該条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金という労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

4 この合理性の判断要素として本件においてあらわれている事情としては、本件就業規則の変更による不利益性の程度のほか、Y社の経営状態等、代償措置の有無、従業員の側の対応が挙げられる

5 本件就業規則の変更については、その不利益性は相当程度大きいところ、Y社がこれに対する代償措置を講じた事実が認められず、かつ、従業員の対応等によって変更の合理性が基礎付けられるものではないと解される下で、本件就業規則の変更当時のY社の経営状態が、必ずしも芳しくなかったとはいえ、倒産の危機に瀕しているとまではいえないのであって、他に本件就業規則の変更の効力がXに及ぶことを根拠付ける主張、立証のない本件においては、この変更が合理的なものであると解することはできないものといわざるを得ない。

本裁判例は、とても参考になりますね。

上記判例のポイント4の判断要素のうち、代償措置と従業員側の対応について、Y社がもう少し工夫すれば、結果が変わった可能性があります。

「周知」するだけではなく、「協議」する機会を与えるべきでした。

また、Y社としては、慰労金・功労金付加の規定、10年後見直し措置を講じましたが、裁判所は、代償措置として不十分であると判断しました。

ここは、従業員の不利益の程度とのバランスが求められるところなので、本件のように、不利益が大きい場合には、相応の代償措置が求められるわけです。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金27(名古屋学院事件)

おはようございます。

さて、今日は、独自の年金制度を廃止する就業規則の変更に関する裁判例を見てみましょう。

名古屋学院事件(名古屋高裁平成7年7月19日・労判700号95頁)

【事案の概要】

Y社は、中学校と高等学校を併設する学校法人である。

Y社は、昭和34年5月、独自の年金制度を採用し、就業規則上の制度として位置付け、職員Xらは昭和42年3月以降、年金拠出金を積み立てていた。

しかし、Y社理事会は、昭和53年7月、独自の年金制度の廃止を内容とする就業規則等の変更を決議し、Xらに対し、独自の年金制度を昭和52年3月に遡って廃止する旨を通告した。

これに対し、Xらは、年金を受給しうる地位にあることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところであるが、労働条件の集合的処理、特に統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からして、当該就業規則の作成又は変更に合理性が認められる場合には、個々の労働者に等しく適用されるものであって、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を排除することはできないものと解される。

2 そして、退職年金が、賃金や退職一時金と並んで、労働者にとって重要な権利であることは論を待つまでもなく明らかであり、しかも本件年金規程に基づく年金受給権の原資には、職員の拠出分が含まれているものである上、その支給条件は明確化されていて、功労報償的性格よりも、むしろ権利性の色彩の強いものであるといえるから、これを剥奪する結果となる就業規則等の改廃については、そのような不利益を労働者に受忍させることが許容されるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが必要であるというべきである

3 Y社が、昭和50年度の時点で行った本件年金制度の将来予測によれば、本件年金制度を本件年金規程のまま存続させると、Y社の経常会計から本件年金基金に毎年補填しなければならなくなることが明らかになり、しかもY社は昭和48年に学校敷地の約3分の1を売却して約20億円の債務を弁済して間もなくの時期であり、財政的な基盤が十分とはいえなかったうえ、経常会計においては消費支出超過状態が続いていたのであるから、本件年金制度につき抜本的な改革を要する状態にあったものであることを認めることができる

4 そして、本件年金制度を維持しつつ基金の健全化を図る有力な方法として、適格年金制度に準ずる制度の導入が考えられるが、・・・一時的な延命策に過ぎず、いずれは同様の問題が発生することが予測されたことが認められる。

5 右の必要性との関係から見ると、・・・本件就業規則等の改廃の内容は、Xらに不利益を与えるものであるが、他方、代償措置として退職金制度の改正、非常勤講師としての再雇用制度の新設等考慮すると、他に私学共済年金制度が存在することと相まって、Xらが定年後において、相当程度の生活を維持しうる水準の収入を得ることが可能となっていることが認められるので、その内容も相当性があるものということができる

6 Xらは、・・・いずれも20年以上の勤続となり、拠出金の拠出義務を果たしているから、本件年金規程による年金受給資格を取得したものであり、Y社は、就業規則の変更によって、この既得の権利を侵害することはできない旨主張するが、Xらが具体的に本件年金規程による年金受給権を取得したものではなく、受給資格を満たしたものに過ぎないのであるから、具体的な年金受給権の取得を前提とする右主張は採用できない。

本裁判例も、他の裁判例同様、「高度の必要性」を要求しています。

「高度の必要性」に基づいた合理的な内容であるか否かについては、(1)必要性、(2)相当性、(3)適正手続という観点から判断されています。

また、参考になるのが、上記判例のポイント6です。

拠出金の拠出義務を果たし、年金受給資格をみたした従業員であっても、具体的な年金受給権を取得したとはいえず、それゆえ、年金制度を廃止しても、具体的な権利侵害とはいえない、と判断しています。

そういうもんですかね・・・。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金26(空港環境整備協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職手当支給規程の変更に関する裁判例を見てみましょう。

空港環境整備協会事件(東京地裁平成6年3月31日・労判656号44頁)

【事案の概要】

Y社は、航空公害の現状調査とその対策の研究、航空公害防止のための施設、環境の整備等を事業とする財団法人である。

Xは、昭和50年、Y社に採用され、Y社の運営する航空公害研究センターの研究員として稼働し、平成2年9月に退職した。

Y社は、給与制度改正の一環として、就業規則の退職金規程を改定した。

旧規程では、月額給与にその勤続月額を乗じ、さらにその者の勤続年数に応じた割合(5%~21%)を乗じて退職金手当を算定していたが、新規程では、勤続期間を区分して、区分ごとに、当該区分に応じた割合(100%~120%)と当該区分における勤続年数及び退職時の月額給与を乗じて金額を算定し、その合計額を退職金手当額とする内容に変更した(ただし、実際には、退職加算金等も支給された)。

これに対し、Xは、旧規則の支給率に基づく退職金の支払い(支給済み退職金との差額)を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、その不利益の程度を考慮しても、なおそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

2 Y社職員の給与については、その職務の性格からみて、公務員並みの水準に改善されることが望まれていたところ、Y社の給与制度には、退職手当の支給限度がなく、かつ支給倍率が公務員に比べて遙かに高く、その結果、給与が低いのに比べ退職手当が高く、制度としてバランスを欠き不合理であるという問題があったため、その改正が迫られていた状況にあり、このような不合理を招来する旧退職規程を改正しないまま給与改善と定年延長を併せて実施するならば、給与に一定の支給割合を乗じて算出される退職手当がますます多額になるため、その不合理性は一層助長され、本件給与制度改正の趣旨を没却する結果になることは明らかであったものということができ、本件退職規程変更は、給与制度改正の一環として、給与、諸手当等の改正と一体をなすものとして実施されたものと認めることができる

3 本件退職規程変更と給与規程改正とは不可分一体の関係にあることは前記のとおりであるから、本件退職規程変更によってY社職員の受ける不利益の程度については本件退職規程変更だけを独立に取り上げて判断するのは妥当でなく、給与制度改正の全体の中で検討すべき筋合である。

4 本件退職規程変更によりY社職員が退職時に受領する退職手当の支給倍率は低減されたとはいえ、これと一体となった給与規程改正により給与自体が従前の昇給相当分を大幅に越えて増額されたため、退職時の給与に所定の支給割合を乗じて算出される退職手当は見かけほど低下したことにはなっておらず、その一方で、賞与を含む給与の増額改善、さらには退職手当として後払いされるべき部分を給与として事前に受け取っているものと評価することができる金利相当分の利益をも合わせ考慮するならば、金額的に確定することはできないものの、本件給与制度改正によりY社職員が被る実質的な不利益は、Y社と同一歩調をとってきた財団法人航空振興財団の俸給表ないし公務員のベースアップ率を基準とする限り、僅かなものであると認めることができる。

5 改正前の給与制度には不合理な点があり、給与、退職手当を含めて勤労意欲を向上せしめるようなバランスのよい給与制度とする必要性があったこと、退職手当の算定方式については、その支給割合が極めて高水準で、しかも、支給限度がなく、公務員の退職手当より相当有利なものであったため、算定方式を従来のままにして、社会的な趨勢ともなっている定年を延長し、かつ給与も増額するとするなら、旧退職規程の不当性はさらに拡大することになるのであって、本件退職規程変更が給与改善及び定年延長の前提として必要不可欠であったことに鑑みると、本件給与制度改正の必要性が認められ、かつ、その改正された給与制度の内容自体、公務員に極力準じたものになっており、相応の社会的妥当性が存すると認められる

上記判例のポイント5は参考になりますね。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金25(松下電器産業(年金減額)事件)

こんにちは。

さて、今日は、退職年金の減額に関する裁判例を見てみましょう。

松下電器産業(年金減額)事件(大阪高裁平成18年11月28日労判930号13頁)

【事案の概要】

Y社は、1966年4月、私的な福祉年金制度を創設した。

本件年金制度は、基本年金と終身年金とを支給する。

Y社は預かり原資を他の社内資金と区別した管理・運用はせず、利息相当分と終身年金はY社自身の事業資金から支給される。

本件年金制度の根拠である年金規程には、「将来、経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合、あるいは法制面での規制措置により必要が生じた場合は、この規程の全般的な改定または廃止を行う」との定めがある。

Xは、退職時に本件年金の受給をY社に申し込み、本件年金規程の定めに従い、年金額、支給期間(20年間)、預かり原資、給付利率(8.5%~9.5%)、支給日等を定めた年金契約を締結した。

Y社は2002年4月、本件年金制度を現役従業員について廃止し、市場金利変動型の「キャッシュバランスプラン」を導入した。

本件改定を不服とするXらは、その違法・無効を主張し、本件改訂前の年金額と新年金額との差額分の支払等を求めて訴えを提起した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 年金規程の加入者との間の福祉年金契約の内容となるという機能との関係では、具体的な権利義務がすでに発生しているから、その不利益変更は、本来信義則に反することであり、加入者の利益を代表する組織があるわけでもない。そうであれば、年金規程を改定して加入者の権利を変更する要件としての「経済情勢・・・の変動」は、改定の必要性を実質的に基礎付ける程度に達している必要があり、改定の程度についても、変更の必要性に見合った最低限度のものであること(相当性)が求められるというべきである

2 年金規程23条1項の「経済情勢」には費用負担者であるY社の状況を含むと解すべきところ、1996年4月の本件協定締結以降の諸事情によれば、本件改定当時、Y社の業績は本件改定当時の予測を著しく下回って悪化しており、本件年金制度の従前通りの維持は困難と推認されること、2002年4月1日以後の退職者に対する本件年金制度の廃止によって、世代を異にする従業員間の公平の維持という本件年金制度の前提が失われたこと、本件年金制度を含む高いコストを製品価格に転嫁しているとの批判があったことに照らすと、Y社の総資産がなお大きいことなどを考慮しても、おおむね平成8年以降の経済状況からみて、本件改定当時、規程23条1項にいう「経済情勢に大幅な変動があった場合」との要件に該当すると解することができ、本件年金制度の給付利率を一律2%引き下げる必要性があったとも認められる

3 本件改定後の給付利率は、原資である退職金を他の方法で運用するよりもかなり有利な水準であること、年金額の減額幅の大きさを考慮してもXらの生活が本件改定によってきわめて深刻な影響を受けるとまではいい難いこと、Y社が周知や経過措置の追加を行ったことにより、加入者総数に対する本件改定についての賛成者の割合は最終的には約95%になったことを総合的に考慮すれば、本件改定は、Xらの退職後の生活の安定を図るという本件年金制度の目的を害する程度のものとまではいえず、Y社は、本件改定の実施に先立ち、不利益を受けることになる加入者に対し、予め、給付利率の引下げの趣旨やその内容等を説明し、意見を聴取する等して相当な手続を経ているから、本件改定については、相当性もあったと認められる

本件裁判例は、年金制度の不利益変更について、必要性と内容の相当性を考慮して、変更の合理性を判断しています。

変更の必要性の判断で、裁判例が考慮するのは、企業の経営状況、企業年金の財政負担と将来見通し、企業の経営改善策、経営改善策に伴う従業員・取引先・株主の負担、退職金・企業年金制度の見通し状況等です。

このほか、本裁判例では、現役従業員との不公平にも着目しています。

変更内容の相当性については、制度目的や受給者の期待度との関係で減額の程度、受給者の生活への影響の程度、改定後の給付利率の水準、受給者の大多数の同意などを考慮しています。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金24(小田急電鉄(退職金請求)事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職金の減額に関する裁判例を見てみましょう。

小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高裁平成15年12月11日・労判867号5頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、退職までの間、普段はまじめに勤務してきた。

Xは、京王井の頭線において、電車で痴漢行為を行い、警察に逮捕勾留され、20万円の罰金刑が言い渡されていた。

Y社は、昇給停止、および降格の処分を行った。

Xは、後日、JR高崎線の電車において、痴漢行為を行い、逮捕勾留され、起訴された。

Xは、勾留中、Y社の従業員らの面会を受け、その際、痴漢行為を認め、Y社が用意した自認書に署名指印して交付した。

Y社は、「業務の内外を問わず、犯罪行為を行ったとき」に該当するとしてXを懲戒解雇するとともに、「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない」と定める退職金支給規則4条にもとづき退職金を支給しなかった。

Xは、退職金全額の支払いを求めた提訴した。

【裁判所の判断】

退職金支給基準の3割を認容

【判例のポイント】

1 退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。しかし、他方、退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。

2 そして、その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。

3 退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど・・・強度な背信性を有することが必要である。このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反する

4 退職金が功労報償的な性格を有するものであること、そして、その支給の可否については、会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考えられることからすれば、当該職務外の非違行為が・・・強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、・・・当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち、一定割合を支給すべきものである。本件条項は、このような趣旨を定めたものと解すべきであり、その限度で、合理性を持つと考えられる。

5 本件では、相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないが、他方、職務外の行為であるとはいえ、会社および従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって相当の不信行為であることは否定できない。本件については、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割が相当である

退職金の減額については、その是非及び程度の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。