Author Archives: 栗田 勇

有期労働契約22(スカイマーク事件)

おはようございます

さて、今日は、客室乗務員の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

スカイマーク事件(東京高裁平成22年10月21日・労経速2089号27頁)

【事案の概要】

Y社は、定期航空運送事業等を行う会社であり、福岡・羽田間等に定期便を運航している。

Xらは、Y社の有期雇用契約社員で客室乗務員として勤務していた。

Xらは、Y社の不当な勤務形態の変更等に抗議したことに対する報復として雇止めを受けたとして、雇用契約上の地位確認と賃金請求、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

不法行為は成立しない

【判例のポイント】

1 X2は、みずから3月31日に退職すると記載して退職届を提出したのであるから、X2について退職の意思表示が存在したと認められる。この意思表示に瑕疵がなければ、Y社とX2の間の雇用契約は、X2の退職の意思表示(及びY社の承諾)により終了することになる。

2 X2は、業務評価不良(135人中133位、ランクD)を理由に雇止めの通告を受けても納得できず、労働組合の関係者からも雇止めは無効と助言されていたが、3月2日、それほど強く説得された形跡がないのに、みずから3月31日に退職すると記載して退職届を提出した
・・・そうだとすると、X2が退職届を提出した時点で、退職の意思がないのに形だけのつもりであったとか、退職の意思表示になるとは思わなかったなどと認めることはできないから、X2の退職の意思表示が心裡留保または錯誤により無効とはいえない。したがって、Y社とX2の間の雇用契約は、X2の退職の意思表示(及びY社の承諾)により終了したというべきである。それ以上に雇止めの相当性について判断する必要はない

3 X1が、カウンター業務支援により疲労状態での業務になりかねず、保安業務等に不安を感じたという点は理解できなくもない。しかし、そうであるからといって抗議目的で欠勤までするというのは、やや行き過ぎというべきであり、一定のマイナス評価を受けてもやむを得ないものと考えられる
X1について、前年度は相当の評価を受けて滞りなく更新を終えたのに、平成19年度は業務評価のうち特に社会人的資質項目が下から2番目であり雇止めになったが、このような悪い評価には、上記の欠勤の問題が大きく影響していると考えられる。Xらは、Y社が欠勤の問題を恣意的に評価したと主張するが、人事総務部における更新・不更新の判断は、15に及ぶ項目を数値化したうえで所定の基準に従い成績下位者から雇止め候補者を抽出して検討するなどの方式に基づいており、一応の公正さが担保されているということができる
・・・このような事実等によれば、Y社が、業務内容の変更に抗議をしたX1に対する報復として、恣意的に評価を低く抑えて雇止めを断行したと認めることはできない。そうだとすると、Y社のX1に対する不法行為は成立しない

本件では、雇止めの前に、従業員が退職の意思表示をしており、性格には、雇止めの問題ではありません。

退職の意思表示が有効か否かが問題となっています。

また、雇止め自体が報復等の不当な動機に基づいて行われたか否かについては、否定されています。

雇止めの対象者を選ぶ際、会社としては、上記判例のポイント3は参考になりますね。

 客観的に、「恣意的ではない」と見えるように準備することが大切です。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

配転・出向・転籍11(マリンクロットメディカル事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

マリンクロットメディカル事件(東京地裁平成7年3月31日・労判680号75頁)

【事案の概要】

Y社は、米国に親会社を置く医療機械器具等の輸入、販売等を業とする外資系会社で、従業員は約100名であり、大阪、仙台、札幌、福岡及び名古屋に営業所がある。

Xは、平成3年2月、Y社に採用され、東京において、マーケティング担当のマネジャー(課長代理待遇)として、職務に従事した。

Y社は、平成6年3月、Xに対し、営業部として仙台へ配転する旨の辞令を発令した。なお、本件配転命令以前に、Y社において、マーケティング部から営業部への異動を内容とする配転の前例はなかった。

Xは、本件配転命令に承服できない旨主張した。

Y社は、就業規則に基づきXを懲戒解雇した。

Xは、本件配転命令及び懲戒解雇の有効性を争い、仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

懲戒解雇も無効

【判例のポイント】

1 本件配転命令につきどの程度業務上の必要性があったかが不明確であるうえ、Y社がそのような配転命令をしたのは、むしろ、Y社が、Y社社長の経営に批判的なグループを代表する立場にあったなどの理由からXを快く思わず、Xを東京本社から排除し、あるいは、配転命令に応じられないXが退職することを期待するなどの不当な動機・目的を有していたが故であることが一応認められ、結局本件配転命令は配転命令権の濫用として無効というべきである

2 本件解雇は、Xが本件配転命令に従わなかったことを主たる理由とするところ、本件配転命令が無効というべきであることは前記認定のとおりであり、また、Y社が主張する他の解雇事由についても、Xの勤務成績ないし勤務態度の不良をいう点については、本件疎明資料の限度では具体的解雇事由としてのそれを認めるには不十分であり、また、Y社や経営陣を誹謗中傷する文書を米国本社に送り続けたという点についても、これを認めるに足りる疎明資料はなく、結局本件解雇は正当な解雇事由の存しない無効なものというべきである

本件は、仮処分事件ですが、賃金仮払いだけ認められています。

仮払期間は、1年間です。

やはり地位保全のほうはダメですね。

本件では、Y社が主張した配転命令の業務上の必要性について、裁判所はことごとく否定しています。

どうしても会社の主張は後付けになりがちなので、うそくさくなってしまうのです。

事前の準備が大切です。 気をつけましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍10(東武スポーツ(宮の森カントリー倶楽部・配転)事件)

おはようございます。

今日は、配転命令に関する仮処分事件についての裁判例を見てみましょう。

東武スポーツ(宮の森カントリー倶楽部・配転)事件(宇都宮地裁平成18年12月28日・労判932号14頁)

【事案の概要】

Y社は、4か所のゴルフ場を運営し、15か所のスポーツクラブを経営する会社である。

Xは、Y社が運営するゴルフ場でキャディ職従業員として勤務している。

Y社は、平成18年11月、Xらの職種をキャディ職から外し、就労場所を、本件ゴルフ場からY社の指定する不確定な場所へ変更する方針であるとする回答書を交付した。

Xらは、本件配転命令の有効性を争い、仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 Xらは、Y社によるキャディ職従業員の募集に応募して採用され、一般職とは異なる就業規則及び給与規定の適用を受けてきたこと、キャディ職は一定の専門的知識を必要とする職種であり、Xらの多くは、キャディ職としての研修を継続して受けながら、長期間勤務を継続してきたこと、キャディ職従業員が他の職種へ配置転換されるのは例外的な場合であったことからすれば、Y社とXらとの間の雇用契約においては、職種をキャディ職と限定する旨の特約が存在したと認めるのが相当である
・・・以上によれば、Y社は、Xらの同意なくして、その職種をキャディ職以外の職種に変更することはできないものと言い得る。

2 キャディ制度の存廃という雇用及び労働条件に重要な変更を及ぼす事項についての検討や、従業員へ説明可能な程度の経営施策等の決定も未了なまま、ただ、人員削減の目的で希望退職募集を提案したこと、また、雇用及び労働条件について具体案を提示しないまま現行キャディ制度の廃止を通告するに至ったこと、特段支障がないにもかかわらず計算書類の開示を一律に拒絶したことは、Y社において、Xらの雇用の確保、労働条件の維持について、真摯な検討を加え、Xらに対し誠実に対応をしたものとは到底言い難い。さらに、・・・Y社には、Xらの意思に配慮して配転を行おうとする姿勢が欠落しているものと断ぜざるを得ない
以上によれば、Y社は、本件配転命令の予告に至る過程及びその後のXらへの対応において、Xらの雇用、労働条件に関する問題の解決に向けて本件組合と誠実に協議を行ったものと評価することはできず、Y社の対応は、本件労使合意に抵触し、労使間の信義に反するものというべきである。

3 職種変更命令が実施された場合には、これに伴い、Xらのうち相当数の者について、通勤時間及び通勤距離が片道2時間超、片道平均80kmを要する那須フットサルクラブにおいて勤務することを余議なくされ、多大な負担が生じることになる。
また、約250万円という高額とはいえない賃金を、さらに約20%も減額する点については、Xらは、これにより、日々の生活において大きな困難を被ることが当然予想されるものであるし、個人事業主形態のキャディが取得するラウンド給よりも賃金が低額となることになる

・・・そうすると、職種変更命令は、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものというべきである。 
以上の事情を総合考慮すれば、職種変更命令を行うことは、職種限定特約違反の点をおくとしても、権利の濫用に該当し、許されないものというべきである。

判例のポイント1で勝負がついているんですけどね。

念のため、他の要件も検討しています。 

判例のポイント2は、どの要件との関係で検討しているのでしょうか・・・?

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍9(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件)

おはようございます。

今日は、格下げの配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件(神戸地裁平成16年8月31日・労判880号52頁)

【事案の概要】

Y社は、資本金3億2900万ドルで設立された選択洗浄関連製品、紙製品、医薬部外品、化粧品、食品などの研究開発、販売、輸出入等を事業目的とする外国法人である。

Xは、Y社のマーケット・ディベロップメント・オーガニゼーション部門(MDO)においてコンシューマー・マーケティング・ナリッジと呼ばれる市場調査(CMK)を担当していた。

Xは、Y社から退職を勧奨され、これを拒否すると、スペシャル・アサインメント(特別任務)を通告されるなどの嫌がらせを受け、さらにその後、単純な事務作業を担当する部署へ異動させ、降格することなどを内容とする配転命令を受けた。

Xは、これに従うことを拒否すると賃金の支払を停止されたが、本件スペシャル・アサインメント及び本件配転命令は、いずれも違法、無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の配転命令権につき、就業規則上ないし労働契約上、根拠規定が見当たらないと主張するが、一般に、労働契約は、労働者がその労働力の使用を使用者に包括的に委ねるというものであるから、使用者は、個々の労働契約において特に職種又は勤務場所を限定している例外的場合を除いて、上記の労働力に対する包括的な処分権に基づき、労働者に対し、その職種及び勤務場所を変更する配転命令権を有していると解されるところ、本件において上記の例外的事由は認められず、むしろ、Y社の就業規則には、転勤、すなわち勤務地の変更を伴う異動に関する規定が設けられており、これはY社に勤務地の変更を伴わない配転命令権があることを前提にしているものと見ることができるし、XとY社間の労働契約上も、正当な理由がない限り、Y社がその運営上命ずる異動に従う旨の合意が存するから、Y社は、Xに対する配転命令権を有すると認められる

2 本件スペシャル・ アサインメント発令の時点で、MDO-CMKにおいて、Xがなすべき職務がなかったとはいえず、それにもかかわらず、Y社が、早々にXに従前の仕事を止めさせ、もっぱら社内公募制度を利用して他の職務を探すことだけに従事させようとしたのは、実質的に仕事を取り上げるに等しく、いたずらにXに不安感、屈辱感を与え、著しい精神的圧力をかけるものであって、恣意的で合理性に欠けるものというべきである。 
・・・以上により、本件スペシャル・アサインメントは、業務上の必要性を欠いていたと認めるのが相当である。

3 ・・・本件スペシャル・アサインメントは、Xに不安感、屈辱感を与え、精神的圧力をかけて任意退職に追い込もうとする動機・目的によるものと推認することができる。 

通常、配転命令に業務上の必要性が認められない場合には、その裏返しで、不当な動機・目的が認定されやすくなります。

労働者側としては、会社の配転命令が、「嫌がらせ」目的であることをいかに立証していくかがポイントになってきます。

その際、直前に配転命令を動機付ける事情があったか否かを重点的に主張していきます。

会社としては、表向きまっとうな理由を説明できるように、事前の準備が大変重要になってきます。

過去の裁判例にヒントがいっぱいつまっていますよ!

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍8(帯広厚生病院事件)

おはようございます。

今日も昨日に引き続き配転命令に関する裁判例を見てみてましょう。

帯広厚生病院事件(釧路地裁帯広支部平成9年3月24日・労判731号75頁)

【事案の概要】

Y社は、農業協同組合法に基づいて設立された医療に関する事業及び保健に関する事業等を目的とする法人である。

Xは、昭和43年4月、看護婦としてY社に雇用され、以後帯広厚生病院において看護業務等に従事しており、昭和56年4月に副総婦長の発令を受けた。

Y社は、平成6年3月、Xに帯広厚生病院中央材料室で、同日の組織変更の結果、副総婦長を改めた副看護部長待遇として勤務することを命じた。

中央材料室は、医療材料、器具類等の供給管理、消毒、滅菌等を主たる業務とする部署であり、本件配転命令当時、看護助手のみが配置され、看護婦は配置されていなかった。

Xは、本件配転命令が人事権の濫用に当たるものであり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

慰謝料として100万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、従業員は業務遂行上転勤又は担当業務の変更を命ぜられることがあり、正当な理由なくこれを拒んではならない旨定められていること、XがY社に看護婦として雇用されるに際し、特に勤務部署等を限定する旨の約定のなかったことが認められる。したがって、Y社は、少なくとも右範囲内において、同意がなくともXに配転を命ずることができ、業務上の必要性に応じ、その裁量によってXの勤務場所等を決定することができるというべきである。

2 しかしながら、Y社の配転命令権も無制限に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないのであって、Y社の配転命令権の行使が人事権の濫用に当たる場合には、当該配転命令は無効であるものと解される。そして、右人事権濫用の有無の判断は、労働力の適正配置、業務の能率増進、従業員の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など事業の合理的運営という見地からの当該配転命令の業務上の必要性と、その命令がもたらす従業員の不利益との利益衡量によって行われるべきである。そして、右業務上の必要性を判断するに当たっては、、当該人員配置の変更を行う必要性とその変更に当該従業員を充てることの合理性を考慮すべきであって、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどには、右配転命令は人事権の濫用に当たるものと解するのが相当である
なお、Xのように管理職の配置に関する業務上の必要性については、特に当該職員の能力、適性、経歴、性格等の諸事情のほか、組織や事業全体の運営を勘案した総合的見地からの判断がされるべきである

3 Y社は、Xの看護婦としての実務能力自体については大きな問題はないと把握していたこと、Xに職場秩序を大きく乱したり、職務上の指示命令を拒否したりするなどの問題行動もなかったこと、Xの協調性がないことや部下の管理ができていないことなどの問題点についても、これまでにY社の管理職等を通じての具体的事実関係の確認や是正を求める指示は限られた範囲で行われたにすぎず、Xに対して適切な指導、助言を行い、その管理能力について反省、改善を促すこともしていなかったこと、・・・Xが看護婦として副総婦長にもなり約13年間もその職にあり、また総婦長の候補にもなったことを考慮すると、Xの管理能力等の問題点が、看護部から外し、本件配転命令による権限縮小を要するまでの重大なものであったということはできず、また、その改善自体も困難であるとは認めることができないところ、Xを看護部の通常の指揮命令系統から排するまでの必要性があったものと認めることはできない

4 一方、Xの経歴、能力、従前の地位等に照らすと、その権限を大幅に縮小され、またXは病院内の情報に接することも困難な状況下に置かれるとともに、中央材料室における単純な職務に従事することを余議なくされ、これにより看護婦としてこれまで培ってきた能力を発揮することもできず、その能力を発揮することもできず、その能力開発の可能性の大部分をも奪われたばかりでなく、何らの具体的理由を説明されず、また弁明の機会を与えられないまま一方的に不利益な処遇を強いられた上、その社会的評価を著しく低下させられ、その名誉を著しく毀損されるという重大な不利益を被ったものと
いうべきである

5 以上の諸事情を総合考慮すれば、本件配転命令はその業務上の必要性が大きいとはいえないにもかかわらず、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、人事権の濫用に当たるものであって、無効であるといわざるを得ない。

この裁判例は、総論部分が参考になりますね。

どのあたりの事実を重点的に主張していけばいいかというのは、過去の裁判例の検討からおおよそ推測することができます。

東亜ペイント事件だけおさえておけばいいというものではありません。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍7(ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件)

おはようございます。

今日は、フライトアテンダント(FA)から地上職勤務への配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件(東京高裁平成20年3月27日・判時2000号133号)

【事案の概要】

Y社は、アメリカ合衆国に本社を置く航空会社である。

Xらは、Y社のFAであったが、平成15年3月、地上職である成田旅客サービス部に配転を命じられた。

Xら5名は、(1)採用時に、職種をFAに限定する旨の合意があった、(2)Xらの所属する組合とY社の間で締結された労使確認書において、Xらの職種をFAに限定する旨の合意がされていた、(3)配転命令が、配転命令権の濫用に該当する、(4)配転命令が不当労働行為に該当する、などと主張して、配転命令の無効及び不法行為に基づく慰謝料請求をした。

【裁判所の判断】

配転命令は無効であり、不法行為に基づく慰謝料の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社において本件配転命令当時、コスト削減のための方策の一つとして、人件費の節約、余剰労働力の適正配置などを行う一般的な業務上の必要性はあったが、本件配転命令を行う具体的必要性について、(1)配転案の根拠となったコンピューターソフトの試算結果の信頼性が薄いこと、(2)Y社の主張するFA人員の余剰は、外在的原因によるものではなく、乗務便総数の増加以上に契約社員の乗務便を増やし、FAの乗務便を減らすなどしてY社自身が短期間に作り出したものであること、(3)契約社員の積極的活用についてXらFA、組合から反発を受けることを認識していながら、FAの乗務する便は従前程度とするなどの案が具体的に検討された形跡がないこと、(4)本件配転により、決して少額ではない人件費削減が見込まれるが、Y社の企業規模からすれば、本件配転を実施して人件費削減を断行しなければY社の経営が危機に瀕するあるいは経営上実質上相当の影響があるとは認められない

2 Xらは、本件配転命令により、月額数万円の諸手当を得ることができなくなり、誇りを持って精勤してきたFAの仕事から外され、無視できない経済的不利益及び精神的な苦痛を受けた

3 Y社は、FAの職位確保に関する努力義務並びにこれを果たすために努力状況及び対象事項が達成できない理由を具体的に説明する義務があるところ、(1)上記1(2)のY社の行為は、努力義務の対象事項達成の障害となる事実を自ら作出し、積極的に維持したものであること、(2)労使確認書を取り交わしたことを本件配転命令を控える方向で勘案すべき要素として考慮せず、その条項を考慮して具体的な努力をしたと認められないこと、(3)労使確認書締結のわずか11か月後、Xらの内2名の復職のわずか5か月後に本件配転命令がされたこと、(4)本件配転命令の問題を明らかにしてから実施までの間の期間が余りにも短く、Y社の交渉態度は誠実性に欠けることなど、Y社には努力義務違反又は信義則違反がある。

4 以上の諸事情を総合考慮すると、本件配転命令については、Y社の有する配転命令権を濫用したと評価すべき特段の事情が認められるというべきで、本件配転命令は権利の濫用に当たり無効である。

5 Y社が行った本件配転命令は、Xらとの関係で労使確認書による合意を含む雇用関係の私法秩序に反し違法であり、かつ、少なくとも過失があると認められ、不法行為が成立する

会社の配転命令権は解雇権と異なり、広い裁量が認められています。

配転命令が権利濫用と認められるケースを検討することで、権利行使の限界がわかってきます。

なお、本件の第1審は、Xらの請求を棄却しています。

高裁は、Xが主張した職種限定合意や労働協約違反の主張、不当労働行為の主張はいずれも排斥しましたが、配転命令権の濫用について認めました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

退職勧奨2(ダイヤモンド・ピー・アール・センター事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、自己都合退職と会社都合解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ダイヤモンド・ピー・アール・センター事件(東京地裁平成17年10月21日・労経速1918号25頁)

【事案の概要】

Y社は、ピーアール・パブリシティの計画及び実施等を目的とする会社であり、Aは、同社代表取締役である。

Xは、平成12年、Y社に入社し、主にグラフィックデザイナーとして、その業務に従事してきたが、平成16年5月、退職届を提出した。

Y社は、Xに対し、自己都合による退職を前提とした退職金を支給した。

Xは、Y社に対し、違法な退職勧奨を受けたことによる慰謝料請求及び退職金について会社都合による場合と自己都合による場合の差額分を請求した。

【裁判所の判断】

退職勧奨は違法。

本件退職は、会社都合の解雇に該当する。

【判例のポイント】

1 退職勧奨は、基本的に使用者が社員に自発的な退職を促すものであり、それ自体を直ちに違法ということはできないが、当該退職勧奨に合理的な理由がなく、その手段・方法も社会通念上相当といえない場合など、使用者としての地位を利用し、実質的に社員に退職を強いるものであるならば、これは違法といわざるを得ないAらによる退職勧奨は、女性は婚姻後、家庭に入るべきという考えによるものであり、それだけで退職を勧奨する理由になるものではないし、また、その手段・方法も、一貫して就労の継続を表明しているXに対し、その意思を直接間接に繰り返し確認し、他の社員の面前で叱責までした上、披露宴においても、Xの意に沿うものではないことを十分承知の上で自説を述べるなどし、結局、Xを退職に至らせているのであって、Aらのした退職勧奨は違法というほかない
したがって、Y社らは、民法709条及び同715条により、Xが被った損害を賠償する義務がある。

2 XがY社を退職せざるを得なくなったのは、Aらの違法な退職勧奨によるもので、Xに本来退職の意思はなかったのであるから、これをもって、Y社の給与規定22条6号に定める「自己の都合で任意退職する場合」ということはできず、同条4号に定める「事業の都合により解雇する場合」に該当するというべきである

よくあるケースとして、会社は、訴訟リスクを考え、解雇をできるだけせず、退職勧奨をすることが多いです。

そして、会社の退職勧奨により、従業員が退職願を提出した場合、会社は、「自己都合退職」という扱いにします。

しかし、本件のように、従業員が、会社の退職勧奨の違法性を争い、裁判所がその違法性を認定した場合には、退職理由についても当然、影響を与えることになります。

上記判例のポイント2のように、会社都合解雇と認定される場合がありますので、退職勧奨についても顧問弁護士に相談しながら適切に行う必要があります。

退職勧奨1(ゴムノイナキ(損害賠償等)事件)

おはようございます。

さて、今日は、自己都合退職と会社都合退職に関する裁判例を見てみましょう。

ゴムノイナキ(損害賠償等)事件(大阪地裁平成19年6月5日・労判957号78頁)

【事案の概要】

Y社は、各種ゴム製品及び合成樹脂製品の製造販売を主な業とする会社である。

Xは、昭和61年11月にY社に採用され、生産管理部門にて、得意先及び仕入先への商品の受発注、入出庫の管理等の業務に従事していた。

Xは、平成14年4月、Y社に対し、退職願を提出した。退職当時、Xは、45歳であった。

Y社は、Xの退職を自己都合によるものとして、各種事務手続を行い、自己都合の場合の退職金を支払った。

これに対し、Xは、自発的に退職願を書いたものではなく、Y社の強要によって書かされたものであり、その実態は会社都合退職であると主張し、会社都合退職の場合と自己都合退職の場合の退職金差額及び基本手当差額の合計の支払をY社に求めた。

【裁判所の判断】

会社都合退職にあたる

【判例のポイント】

1 Xは、Aから、頻繁に呼び出され、罵声を浴びせられ、反省文を何度も作成させられるなど、退職強要に向けた嫌がらせを受けたと主張する。しかし、前述のようなクレームがあるXに対し、上司であるAが厳しく注意し、指導するのは、むしろ当然のことであるし、本人の自覚を促すため反省文を作成させたことにも合理性が認められる
しかも、漫然と反省を求めるのではなく、問題点を個別に書き出させ、一定期間経過後に改善状況を確認するとともに、クレームごとに問題点とあるべき業務内容を整理した一覧表を作成し、これに基づき一つ一つ事実を確認しながら指導を行うなど、その方法は具体的かつ丁寧で、退職強要に向けた嫌がらせと評価されるようなものではない

2 退職願は、Xが自ら書面をしたため、持参したというものではなく、Y社から交付された定型用紙に、Bが見ている前で記載し、提出したものであって、Y社主導のもとで作成されたものにすぎないし、同僚に対する発言も、今後の見通しが付いていないのに、あたかも当てがあるかのように見栄を張っただけのものというべきであって、いずれもXが自発的に退職を申し出た証拠にはならない
かえって、一向に改善されない業務態度に業を煮やしたY社が、Xに今後の身の振り方を考えるように告げ、これをもって暗に解雇の可能性をほのめかしながら退職を勧め、決断を促した結果、Xは、解雇される前に退職する途を選んだものと考えるのが自然である

3 以上検討したところを総合してみれば、Xの退職は、Y社が、業務態度の不良なXに対し、懲戒解雇等の処分に代えて、あるいはそれに先立ち、退職を促した結果であるということができる
そして、Y社がXの退職願を直ちに受領し、翻意を促すことも引き留めることも一切なかったことからして、Xの退職はY社にとって利益となるものであったと評価でき、この利益のために退職金額を高く支払うことには合理性が認められる。
したがって、このようなXの退職は、会社都合退職にあたるというべきである。

4 そうすると、会社都合退職として処理すべきところを、自己都合によるものとして退職金を計算し、離職票を作成するなどの事務手続を行ったという限度で、Y社には過失があったという他なく、この点でY社の行為は不法行為にあたる。

自己都合退職か会社都合退職かという問題は、雇用保険との関係だけではなく、退職金の支給金額にも影響してきます。

一見すると自己都合退職ですが、法的に見れば、会社都合退職であることは少なくありません。

結局のところ、退職に至る具体的事情を総合的に判断して決められる問題です。

また、会社側としたら、適切なプロセスを経ないで、単純に従業員が自分から退職願を出したのだから問題にはならないと考えていると、この事案のように負ける場合があります。 

日頃から顧問弁護士に相談の上、対応することが大切です。

有期労働契約21(江崎グリコ事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

江崎グリコ事件(秋田地裁平成21年7月16日・労判988号20頁)

【事案の概要】

Y社は、菓子、食料品の製造及び売買等を目的とする会社である。

Xらは、Y社に営業担当従業員として採用され、以来1年ごとに契約を更新してきた。

Y社は、平成20年4月、Xらに対し、契約期間が満了する同年5月をもって雇用を打ち切る旨通告した。

その後、Y社とXらとの間で雇用の打ち切りについて交渉が行われ、雇用契約は、2ヶ月間、2度にわたって更新された。

しかし、Y社は、Xらに対し、同年12月、雇用契約を更新せず、雇用関係を終了させる旨通告した。

Xらは、本件雇止めは無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 有期の雇用契約において更新が繰り返されたときには、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になったと認められる場合、又は期間の定めのない契約と必ずしも同視できなくても雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性があると認められる場合には、雇用契約の反復更新後の雇止めには解雇権濫用法理が類推され、合理的な理由のない雇止めは、解雇権の濫用に当たり無効となるというべきである

2 Xらは、Y社に採用されて以来、本件雇止めまで約15年間、合計16回にわたってY社から雇用契約を更新されているのであって、平成19年まではXらとY社との間で具体的な交渉もなく当然に雇用契約が更新されてきたこと、ストアセールスについて雇止めの前例はほとんどなかったことに照らせば、XらとY社との間の雇用契約は、形式的には期間の定めのあるものであったが、更新を繰り返すことが当然に予定されており、雇用継続に対するXの期待利益に合理性があると認められるから、本件雇止めの効力を判断するに当たっては、解雇権濫用法理が類推されるというべきである

3 Y社は、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推されるとしても、本件雇止めは整理解雇が有効とされるための要件を具備している旨主張する。
整理解雇が有効とされるためには、(1)人員削減の企業経営上の必要性、(2)整理解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)労使間における協議義務の履行等の手続の妥当性が必要であると解される。

4 Y社の売上高は年々減少傾向にあり、平成20年度には過去15年間で初めての営業損失を計上するに至っているなど、Y社の経営状態は相当程度悪化している。また、「標準コール数」で示されるY社の秋田事務所におけるストアセールスの仕事量は、訪問すべき店舗数や各店舗における活動可能な業務内容の減少等を反映して、平成20年2月の時点で5名の合計値が319.3と東北管内の他の県と比べると4名分程度の仕事量しかなく、本件雇止めが行われた同年12月の時点では5名の合計値255.4と3名分程度の仕事量しかなかった。
こうした状況に照らすと、本件雇止めの時点において、Y社の秋田事務所におけるストアセールス合計5名のうち、2名については人員を削減する企業経営上の必要性があったというべきである

しかしながら、Xら3名の本件雇止めのうち1名については、人員削減の必要性が認められず、解雇権濫用法理が類推適用されてその雇止めが無効となると解される。

本件は、整理解雇の雇止め版です。

裁判所は、4要件のうちの1つ目の要件である「人員削減の必要性」について一部否定しました。

ストアセールス5名のうち2名については削減の必要性があったという認定です。

特徴的なのは、「標準コール数」という数値を根拠として、「一部」については人員削減の必要性を肯定し、「一部」については否定したという点です。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

賃金34(農林漁業金融公庫事件)

おはようございます。

さて、今日は、高次脳機能障害を負った労働者の退職と賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

農林漁業金融公庫事件(東京地裁平成18年2月6日・労判911号5頁)

【事案の概要】

Y社は、農林漁業金融公庫法に基づき設立された農林水産漁業及び関連産業に対して融資等を行う政策金融機関である。

Xは、平成5年、自宅で心肺が停止し、病院に搬送され蘇生したが、その間の低酸素脳症により、高次脳機能障害の後遺症が残った。

Xは、Y社の勧めにより、病院に通院中の平成6年3月、Y社に退職届を提出した。

Xは、本件退職は無効であると主張し、Y社に対し、退職届提出以後の賃金を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・高次脳機能障害の特徴的な症状に短期記憶力の低下という症状があることを考え併せれば、ある時点で、通常の判断をしているようにみえる言動をXが取ったからといって、それをもってXの判断能力が常時そのような水準にあるということはできないから、Xが外形的には、通常の能力を有するようにみえる言動を取ったことをもって、Xが本件退職時に意思能力を有していなかったことを否定する根拠とはならない
以上のとおりであるから、Xの本件退職の意思表示は無効である。

2 労働契約は、労働者の労務の提供に対し、その対価として賃金を支払うものであるから、労働者が、使用者、労働者双方の責任によらず、労務の提供をすることができない場合には、使用者は賃金の支払義務を負わない危険負担における債務者主義の原則)。

3 本件退職時にXに就労能力はなく、その状態が大幅に回復することは期待できないのであり、現実に、平成15年10月にXの後見開始決定が確定している。
そうすると、Xが本件で賃金を請求している期間もそれ以降も、XがY社に労務を提供することは不可能であったこととなる。
そして、このような労働能力の喪失は、本件疾病によるものであるから、Xに過失はなく、また、Y社がXの就労能力がないと判断したことは相当であったのだから、Y社がXの労務提供を受けなかったことにも過失はない。
したがって、危険負担の債務者主義の原則により、Xは、本件退職以降の賃金請求権を有しないというべきである

危険負担の債務者主義の原則からすれば、こうなります。

新しい判断ではないので、コメントはとくにありません・・・

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。