退職勧奨1(ゴムノイナキ(損害賠償等)事件)

おはようございます。

さて、今日は、自己都合退職と会社都合退職に関する裁判例を見てみましょう。

ゴムノイナキ(損害賠償等)事件(大阪地裁平成19年6月5日・労判957号78頁)

【事案の概要】

Y社は、各種ゴム製品及び合成樹脂製品の製造販売を主な業とする会社である。

Xは、昭和61年11月にY社に採用され、生産管理部門にて、得意先及び仕入先への商品の受発注、入出庫の管理等の業務に従事していた。

Xは、平成14年4月、Y社に対し、退職願を提出した。退職当時、Xは、45歳であった。

Y社は、Xの退職を自己都合によるものとして、各種事務手続を行い、自己都合の場合の退職金を支払った。

これに対し、Xは、自発的に退職願を書いたものではなく、Y社の強要によって書かされたものであり、その実態は会社都合退職であると主張し、会社都合退職の場合と自己都合退職の場合の退職金差額及び基本手当差額の合計の支払をY社に求めた。

【裁判所の判断】

会社都合退職にあたる

【判例のポイント】

1 Xは、Aから、頻繁に呼び出され、罵声を浴びせられ、反省文を何度も作成させられるなど、退職強要に向けた嫌がらせを受けたと主張する。しかし、前述のようなクレームがあるXに対し、上司であるAが厳しく注意し、指導するのは、むしろ当然のことであるし、本人の自覚を促すため反省文を作成させたことにも合理性が認められる
しかも、漫然と反省を求めるのではなく、問題点を個別に書き出させ、一定期間経過後に改善状況を確認するとともに、クレームごとに問題点とあるべき業務内容を整理した一覧表を作成し、これに基づき一つ一つ事実を確認しながら指導を行うなど、その方法は具体的かつ丁寧で、退職強要に向けた嫌がらせと評価されるようなものではない

2 退職願は、Xが自ら書面をしたため、持参したというものではなく、Y社から交付された定型用紙に、Bが見ている前で記載し、提出したものであって、Y社主導のもとで作成されたものにすぎないし、同僚に対する発言も、今後の見通しが付いていないのに、あたかも当てがあるかのように見栄を張っただけのものというべきであって、いずれもXが自発的に退職を申し出た証拠にはならない
かえって、一向に改善されない業務態度に業を煮やしたY社が、Xに今後の身の振り方を考えるように告げ、これをもって暗に解雇の可能性をほのめかしながら退職を勧め、決断を促した結果、Xは、解雇される前に退職する途を選んだものと考えるのが自然である

3 以上検討したところを総合してみれば、Xの退職は、Y社が、業務態度の不良なXに対し、懲戒解雇等の処分に代えて、あるいはそれに先立ち、退職を促した結果であるということができる
そして、Y社がXの退職願を直ちに受領し、翻意を促すことも引き留めることも一切なかったことからして、Xの退職はY社にとって利益となるものであったと評価でき、この利益のために退職金額を高く支払うことには合理性が認められる。
したがって、このようなXの退職は、会社都合退職にあたるというべきである。

4 そうすると、会社都合退職として処理すべきところを、自己都合によるものとして退職金を計算し、離職票を作成するなどの事務手続を行ったという限度で、Y社には過失があったという他なく、この点でY社の行為は不法行為にあたる。

自己都合退職か会社都合退職かという問題は、雇用保険との関係だけではなく、退職金の支給金額にも影響してきます。

一見すると自己都合退職ですが、法的に見れば、会社都合退職であることは少なくありません。

結局のところ、退職に至る具体的事情を総合的に判断して決められる問題です。

また、会社側としたら、適切なプロセスを経ないで、単純に従業員が自分から退職願を出したのだから問題にはならないと考えていると、この事案のように負ける場合があります。 

日頃から顧問弁護士に相談の上、対応することが大切です。