Daily Archives: 2011年7月17日

賃金33(神奈川信用農業協同組合事件)

こんにちは。

さて、今日は、選択定年制による早期退職の不承諾と割増退職金請求の可否に関する最高裁判例を見てみましょう。

神奈川信用農業協同組合事件(最高裁平成19年1月18日・労判931号5頁)

【事案の概要】

Y社は、農業協同組合である。

Y社は、定年年齢を満60歳としていたが、選択定年制実施要項を定めて、定年前に退職する者であっても、本人の希望により定年扱いとし、割増退職金の支払等の措置を講ずることとしていた。

Y社が本件選択定年制を設けた趣旨は、組織の活性化、従業員の転身の支援及び経費の削減にあり、同制度の適用に当たっては、事業上失うことのできない人材の流出防止などを考慮して、Y社の承諾を必要とすることとされていた。

Y社の従業員であったXは、退職することを希望する旨の申し出をした。

他方、Y社は、本件選択定年制を廃止することを決定した。

その後、Y社は、事業の全部をA信用農業協同組合連合会等に譲り渡して解散することを決議し、全従業員を解雇した。

そこで、Xは、本件選択定年制により退職したものと取り扱われるべきであると主張した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件選択定年制による退職は、従業員がする各個の申出に対し、Y社がそれを承認することによって、所定の日限りの雇用契約の終了や割増退職金債権の発生という効果が生ずるものとされており、Y社がその承諾をするかどうかに関し、Y社の就業規則及びこれを受けて定められた本件要項において特段の制限は設けられていないことが明らかである

2 もともと、本件選択定年制による退職に伴う割増退職金は、従業員の申出とY社の承認とを前提に、早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであるところ、本件選択定年制による退職の申出に対し承認がされなかったとしても、その申出をした従業員は、上記の特別の利益を付与されることこそないものの、本件選択定年制によらない退職を申し出るなどすることは何ら妨げられていないのであり、その退職の自由を制限されるものではない。したがって、従業員がした本件選択定年制による退職の申出に対してY社が承認をしなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はない

3 そうすると、本件選択定年制による退職の申出に対する承認がされなかったXについて、上記の退職の効果が生ずるものではないこととなる。

本件事案の高裁判決では、雇用主が承諾をするか否かは裁量に委ねられているとしつつ、裁量権の行使が不合理である場合には申込みどおりに制度適用の効果が生ずると判断し、事実認定の問題として処理しています。

これに対し、最高裁は、高裁判決を破棄し、雇用主の承認がなければ割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はないと判断しました。

「なんだかな~」という気もしますが、これが最高裁の判断です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。