Daily Archives: 2011年7月19日

解雇52(神戸市職員懲戒免職事件)

おはようございます。

さて、今日は、先日に引き続き、公務員の飲酒運転に関する裁判例です。

神戸市職員懲戒免職事件(大阪高裁平成21年4月24日)

【事案の概要】

Xは、神戸市の職員として勤務してきた。

Xは、平成19年3月、酒気帯び運転をしたことを理由に、同年5月、地方公務員法29条1項1号及び3号の規定に基づき、懲戒免職処分を受けた。

Xは、本件懲戒免職処分の取消を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す。

【判例のポイント】

1 消防長は、Xの非違行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、Xの非違行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する懲戒処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分をすべきかを、その裁量により決定することができると解される。もっとも、懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきであるが、決定された懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であるとか、著しく不平等であって、裁量権を濫用したと認められる場合には、公正原則、平等原則等に抵触するなどして違法となると解される

 Xは、本件酒気帯び運転の事実を当日遅滞なく職場に報告しており、特段非違行為を隠蔽しようとしてはいないし、Xには前科前歴もなく、Xの消防局に採用後過去30年間に懲戒処分等の処分歴もなく真面目に勤務してきたものであり、Xの同僚など681名から人事委員会宛に処分軽減を求める嘆願書も提出されているところであって、これらの事情はXに有利に汲むべきものである。また、Xは、本件事故の翌日には、今後一切酒類を飲まない旨の誓約書を提出し、謝罪のため本件事故の被害者を訪れているのであるから、非違行為後のXの態度は決して非難すべきものではないということができる。さらに、Xは、消防車両を24年間にわたり運転していたが、その間、一切事故を起こしておらず、平成12年7月には、神戸市人事委員会から安全精励賞の表彰を受けているし、職場以外でも30年間以上無事故で運転を継続している

3 本件酒気帯び運転については、故意の点を除くと非違行為の外形的な性質、態様、結果の悪質性及び他に与えた影響の程度などは必ずしも軽微であるとはいえないけれども、他方で、懲戒処分の決定に際して極めて重要な要素を構成するXが酒気帯び運転の故意や認識を有していたことには大きな疑問があるだけでなく、本件酒気帯び運転の原因や動機、酒気帯び運転の前後におけるXの態度、懲戒処分等の処分歴、日常の勤務状況、国家公務員や他の地方公務員における処分との均衡、処分を受ける公務員の受ける不利益の程度などにおいてはXの有利に汲むべき点が多いことに照らすと、本件酒気帯び運転に対し、停職処分ではなく直ちに懲戒免職処分をもって臨むことは、社会通念上著しく妥当を欠いていて苛酷であり、裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものと評価すべきである。したがって、本件処分は違法なものとして取り消されなければならない。

本件も、前回の裁判例同様、懲戒免職処分は裁量権の逸脱・濫用として違法と判断されています。

上記判例のポイント2のように、裁判所は、Xに有利な事情をしっかり考慮してくれています。

逆に言えば、Xのように有利に斟酌できる事情があまりないと厳しいのかもしれませんね。

日頃の行いが、いざというときにものをいうのでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。