Daily Archives: 2011年7月8日

解雇48(T事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職勧奨と整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

T事件(大阪地裁平成18年7月27日・労判924号59頁)

【事案の概要】

Y社は、各種印刷等を目的とする会社で、従業員40名ほどの規模である。

Y社には、デザイン室があり、常時2名程度のデザイナーが所属していたが、平成11年5月ころ、1名となっていたデザイナーのBが退職し、空席となったデザイナーを募集していた。

X1、X2は、Y社の従業員として勤務してきた。

Y社は、平成16年5月頃、Xらに対し、デザイン室を閉鎖するとともに、Xらに対し退職勧奨した。

Y社は、同年9月、Xらに対し、解雇通知をした。

Xらは、本件解雇を受け、地位保全、賃金仮払いの仮処分を申し立て、その後、デザイン室に復帰した。

Xらは、Y社に対し、本件退職勧奨について慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

退職勧奨は違法である。

整理解雇は無効である。

慰謝料請求を認める。

謝罪文については認めない。

【判例のポイント】

1 第2次退職勧奨は、デザイン室の閉鎖を宣言し、しかも、その後、営業からデザイン室への発注を停止するというものであり、単に、退職を勧奨したというものではなく、Xらの仕事を取り上げてしまうものである。解雇するというのであればともかく、勧奨といいながら、デザイン室を閉鎖し、しかも、他への配転を検討することもなく、退職を勧奨することは、退職の強要ともいうべき行為であり、その手段自体が著しく不相当というべきである

2 Y社は、Xらの前任デザイナーが退職した際に、デザイン室の閉鎖を検討することなく、X1を勧誘し、デザイナーとして期間の定めのない雇用契約を締結している。また、Xらを採用する前後において、急激な受注の減少など、デザイン室を閉鎖しなければならないような客観的な状況の変化が存したことを認めるに足りる証拠はない。さらに、そもそも、デザイン室は独立採算部門であったわけではなく、顧客からの受注業務を担当する営業担当者との連携、協力により、円滑、迅速に、より良質のデザインを提供する等の有形無形のメリット、及びこのようなメリットを顧客に対してアピールすることに存在意義を認め、期待していたことが窺える。
そうすると、仮に、デザイン室の収支が赤字になったとしても、直ちにデザイン室を閉鎖し、Xらを解雇する必要性があったとは認められない。

3 Y社は、営業社員がデザインの外注をすることを放置し、デザイン室における営業努力についても、Xらに任せきりにするなど、デザイン室の存続に向けた努力をしたと認めるに足りる証拠はない
以上によると、本件解雇は無効といわなくてはならない。

4 当時のY社代表者であったAの行為は、いずれも違法というべきであり、これらにより、Xらが精神的苦痛を受けたことが認められる。また、この間、AからXらに対し、Xらが結婚後も同じデザイン室に勤務することに対する嫌悪感に基づき、Xらを誹謗する言動が度々あったことが認められ、これらによっても、同様の精神的苦痛を受けたことが認められる。
Y社は、Xらに対し、上記精神的苦痛に対する慰謝料を支払うべき義務があり(民法44条、709条)、その慰謝料の額としては、X1において、50万円、X2において80万円が相当である。

5 Xらは、A社長の行った第2次退職勧奨やこれに続く本件解雇により、精神的苦痛を受けたことが認められ、その際、Y社の中における名誉や信用を一定程度毀損したというべきである。
しかし、上記から窺える毀損の程度を考えると、Xらが求める内容の謝罪文の必要を認めることはできない

やはり、この程度では、整理解雇は認められません。

要件の厳しさがよくわかります。

上記判例のポイント1の退職勧奨に関する判断は、参考になります。

退職の勧奨といいながら、客観的事情を考慮すると、解雇と同じではないかというのが裁判所の意見です。  

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。