配転・出向・転籍8(帯広厚生病院事件)

おはようございます。

今日も昨日に引き続き配転命令に関する裁判例を見てみてましょう。

帯広厚生病院事件(釧路地裁帯広支部平成9年3月24日・労判731号75頁)

【事案の概要】

Y社は、農業協同組合法に基づいて設立された医療に関する事業及び保健に関する事業等を目的とする法人である。

Xは、昭和43年4月、看護婦としてY社に雇用され、以後帯広厚生病院において看護業務等に従事しており、昭和56年4月に副総婦長の発令を受けた。

Y社は、平成6年3月、Xに帯広厚生病院中央材料室で、同日の組織変更の結果、副総婦長を改めた副看護部長待遇として勤務することを命じた。

中央材料室は、医療材料、器具類等の供給管理、消毒、滅菌等を主たる業務とする部署であり、本件配転命令当時、看護助手のみが配置され、看護婦は配置されていなかった。

Xは、本件配転命令が人事権の濫用に当たるものであり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

慰謝料として100万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、従業員は業務遂行上転勤又は担当業務の変更を命ぜられることがあり、正当な理由なくこれを拒んではならない旨定められていること、XがY社に看護婦として雇用されるに際し、特に勤務部署等を限定する旨の約定のなかったことが認められる。したがって、Y社は、少なくとも右範囲内において、同意がなくともXに配転を命ずることができ、業務上の必要性に応じ、その裁量によってXの勤務場所等を決定することができるというべきである。

2 しかしながら、Y社の配転命令権も無制限に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないのであって、Y社の配転命令権の行使が人事権の濫用に当たる場合には、当該配転命令は無効であるものと解される。そして、右人事権濫用の有無の判断は、労働力の適正配置、業務の能率増進、従業員の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など事業の合理的運営という見地からの当該配転命令の業務上の必要性と、その命令がもたらす従業員の不利益との利益衡量によって行われるべきである。そして、右業務上の必要性を判断するに当たっては、、当該人員配置の変更を行う必要性とその変更に当該従業員を充てることの合理性を考慮すべきであって、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどには、右配転命令は人事権の濫用に当たるものと解するのが相当である
なお、Xのように管理職の配置に関する業務上の必要性については、特に当該職員の能力、適性、経歴、性格等の諸事情のほか、組織や事業全体の運営を勘案した総合的見地からの判断がされるべきである

3 Y社は、Xの看護婦としての実務能力自体については大きな問題はないと把握していたこと、Xに職場秩序を大きく乱したり、職務上の指示命令を拒否したりするなどの問題行動もなかったこと、Xの協調性がないことや部下の管理ができていないことなどの問題点についても、これまでにY社の管理職等を通じての具体的事実関係の確認や是正を求める指示は限られた範囲で行われたにすぎず、Xに対して適切な指導、助言を行い、その管理能力について反省、改善を促すこともしていなかったこと、・・・Xが看護婦として副総婦長にもなり約13年間もその職にあり、また総婦長の候補にもなったことを考慮すると、Xの管理能力等の問題点が、看護部から外し、本件配転命令による権限縮小を要するまでの重大なものであったということはできず、また、その改善自体も困難であるとは認めることができないところ、Xを看護部の通常の指揮命令系統から排するまでの必要性があったものと認めることはできない

4 一方、Xの経歴、能力、従前の地位等に照らすと、その権限を大幅に縮小され、またXは病院内の情報に接することも困難な状況下に置かれるとともに、中央材料室における単純な職務に従事することを余議なくされ、これにより看護婦としてこれまで培ってきた能力を発揮することもできず、その能力を発揮することもできず、その能力開発の可能性の大部分をも奪われたばかりでなく、何らの具体的理由を説明されず、また弁明の機会を与えられないまま一方的に不利益な処遇を強いられた上、その社会的評価を著しく低下させられ、その名誉を著しく毀損されるという重大な不利益を被ったものと
いうべきである

5 以上の諸事情を総合考慮すれば、本件配転命令はその業務上の必要性が大きいとはいえないにもかかわらず、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、人事権の濫用に当たるものであって、無効であるといわざるを得ない。

この裁判例は、総論部分が参考になりますね。

どのあたりの事実を重点的に主張していけばいいかというのは、過去の裁判例の検討からおおよそ推測することができます。

東亜ペイント事件だけおさえておけばいいというものではありません。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。