配転・出向・転籍7(ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件)

おはようございます。

今日は、フライトアテンダント(FA)から地上職勤務への配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件(東京高裁平成20年3月27日・判時2000号133号)

【事案の概要】

Y社は、アメリカ合衆国に本社を置く航空会社である。

Xらは、Y社のFAであったが、平成15年3月、地上職である成田旅客サービス部に配転を命じられた。

Xら5名は、(1)採用時に、職種をFAに限定する旨の合意があった、(2)Xらの所属する組合とY社の間で締結された労使確認書において、Xらの職種をFAに限定する旨の合意がされていた、(3)配転命令が、配転命令権の濫用に該当する、(4)配転命令が不当労働行為に該当する、などと主張して、配転命令の無効及び不法行為に基づく慰謝料請求をした。

【裁判所の判断】

配転命令は無効であり、不法行為に基づく慰謝料の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社において本件配転命令当時、コスト削減のための方策の一つとして、人件費の節約、余剰労働力の適正配置などを行う一般的な業務上の必要性はあったが、本件配転命令を行う具体的必要性について、(1)配転案の根拠となったコンピューターソフトの試算結果の信頼性が薄いこと、(2)Y社の主張するFA人員の余剰は、外在的原因によるものではなく、乗務便総数の増加以上に契約社員の乗務便を増やし、FAの乗務便を減らすなどしてY社自身が短期間に作り出したものであること、(3)契約社員の積極的活用についてXらFA、組合から反発を受けることを認識していながら、FAの乗務する便は従前程度とするなどの案が具体的に検討された形跡がないこと、(4)本件配転により、決して少額ではない人件費削減が見込まれるが、Y社の企業規模からすれば、本件配転を実施して人件費削減を断行しなければY社の経営が危機に瀕するあるいは経営上実質上相当の影響があるとは認められない

2 Xらは、本件配転命令により、月額数万円の諸手当を得ることができなくなり、誇りを持って精勤してきたFAの仕事から外され、無視できない経済的不利益及び精神的な苦痛を受けた

3 Y社は、FAの職位確保に関する努力義務並びにこれを果たすために努力状況及び対象事項が達成できない理由を具体的に説明する義務があるところ、(1)上記1(2)のY社の行為は、努力義務の対象事項達成の障害となる事実を自ら作出し、積極的に維持したものであること、(2)労使確認書を取り交わしたことを本件配転命令を控える方向で勘案すべき要素として考慮せず、その条項を考慮して具体的な努力をしたと認められないこと、(3)労使確認書締結のわずか11か月後、Xらの内2名の復職のわずか5か月後に本件配転命令がされたこと、(4)本件配転命令の問題を明らかにしてから実施までの間の期間が余りにも短く、Y社の交渉態度は誠実性に欠けることなど、Y社には努力義務違反又は信義則違反がある。

4 以上の諸事情を総合考慮すると、本件配転命令については、Y社の有する配転命令権を濫用したと評価すべき特段の事情が認められるというべきで、本件配転命令は権利の濫用に当たり無効である。

5 Y社が行った本件配転命令は、Xらとの関係で労使確認書による合意を含む雇用関係の私法秩序に反し違法であり、かつ、少なくとも過失があると認められ、不法行為が成立する

会社の配転命令権は解雇権と異なり、広い裁量が認められています。

配転命令が権利濫用と認められるケースを検討することで、権利行使の限界がわかってきます。

なお、本件の第1審は、Xらの請求を棄却しています。

高裁は、Xが主張した職種限定合意や労働協約違反の主張、不当労働行為の主張はいずれも排斥しましたが、配転命令権の濫用について認めました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。