賃金26(空港環境整備協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職手当支給規程の変更に関する裁判例を見てみましょう。

空港環境整備協会事件(東京地裁平成6年3月31日・労判656号44頁)

【事案の概要】

Y社は、航空公害の現状調査とその対策の研究、航空公害防止のための施設、環境の整備等を事業とする財団法人である。

Xは、昭和50年、Y社に採用され、Y社の運営する航空公害研究センターの研究員として稼働し、平成2年9月に退職した。

Y社は、給与制度改正の一環として、就業規則の退職金規程を改定した。

旧規程では、月額給与にその勤続月額を乗じ、さらにその者の勤続年数に応じた割合(5%~21%)を乗じて退職金手当を算定していたが、新規程では、勤続期間を区分して、区分ごとに、当該区分に応じた割合(100%~120%)と当該区分における勤続年数及び退職時の月額給与を乗じて金額を算定し、その合計額を退職金手当額とする内容に変更した(ただし、実際には、退職加算金等も支給された)。

これに対し、Xは、旧規則の支給率に基づく退職金の支払い(支給済み退職金との差額)を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、その不利益の程度を考慮しても、なおそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

2 Y社職員の給与については、その職務の性格からみて、公務員並みの水準に改善されることが望まれていたところ、Y社の給与制度には、退職手当の支給限度がなく、かつ支給倍率が公務員に比べて遙かに高く、その結果、給与が低いのに比べ退職手当が高く、制度としてバランスを欠き不合理であるという問題があったため、その改正が迫られていた状況にあり、このような不合理を招来する旧退職規程を改正しないまま給与改善と定年延長を併せて実施するならば、給与に一定の支給割合を乗じて算出される退職手当がますます多額になるため、その不合理性は一層助長され、本件給与制度改正の趣旨を没却する結果になることは明らかであったものということができ、本件退職規程変更は、給与制度改正の一環として、給与、諸手当等の改正と一体をなすものとして実施されたものと認めることができる

3 本件退職規程変更と給与規程改正とは不可分一体の関係にあることは前記のとおりであるから、本件退職規程変更によってY社職員の受ける不利益の程度については本件退職規程変更だけを独立に取り上げて判断するのは妥当でなく、給与制度改正の全体の中で検討すべき筋合である。

4 本件退職規程変更によりY社職員が退職時に受領する退職手当の支給倍率は低減されたとはいえ、これと一体となった給与規程改正により給与自体が従前の昇給相当分を大幅に越えて増額されたため、退職時の給与に所定の支給割合を乗じて算出される退職手当は見かけほど低下したことにはなっておらず、その一方で、賞与を含む給与の増額改善、さらには退職手当として後払いされるべき部分を給与として事前に受け取っているものと評価することができる金利相当分の利益をも合わせ考慮するならば、金額的に確定することはできないものの、本件給与制度改正によりY社職員が被る実質的な不利益は、Y社と同一歩調をとってきた財団法人航空振興財団の俸給表ないし公務員のベースアップ率を基準とする限り、僅かなものであると認めることができる。

5 改正前の給与制度には不合理な点があり、給与、退職手当を含めて勤労意欲を向上せしめるようなバランスのよい給与制度とする必要性があったこと、退職手当の算定方式については、その支給割合が極めて高水準で、しかも、支給限度がなく、公務員の退職手当より相当有利なものであったため、算定方式を従来のままにして、社会的な趨勢ともなっている定年を延長し、かつ給与も増額するとするなら、旧退職規程の不当性はさらに拡大することになるのであって、本件退職規程変更が給与改善及び定年延長の前提として必要不可欠であったことに鑑みると、本件給与制度改正の必要性が認められ、かつ、その改正された給与制度の内容自体、公務員に極力準じたものになっており、相応の社会的妥当性が存すると認められる

上記判例のポイント5は参考になりますね。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。