Daily Archives: 2011年5月7日

賃金27(名古屋学院事件)

おはようございます。

さて、今日は、独自の年金制度を廃止する就業規則の変更に関する裁判例を見てみましょう。

名古屋学院事件(名古屋高裁平成7年7月19日・労判700号95頁)

【事案の概要】

Y社は、中学校と高等学校を併設する学校法人である。

Y社は、昭和34年5月、独自の年金制度を採用し、就業規則上の制度として位置付け、職員Xらは昭和42年3月以降、年金拠出金を積み立てていた。

しかし、Y社理事会は、昭和53年7月、独自の年金制度の廃止を内容とする就業規則等の変更を決議し、Xらに対し、独自の年金制度を昭和52年3月に遡って廃止する旨を通告した。

これに対し、Xらは、年金を受給しうる地位にあることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところであるが、労働条件の集合的処理、特に統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からして、当該就業規則の作成又は変更に合理性が認められる場合には、個々の労働者に等しく適用されるものであって、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を排除することはできないものと解される。

2 そして、退職年金が、賃金や退職一時金と並んで、労働者にとって重要な権利であることは論を待つまでもなく明らかであり、しかも本件年金規程に基づく年金受給権の原資には、職員の拠出分が含まれているものである上、その支給条件は明確化されていて、功労報償的性格よりも、むしろ権利性の色彩の強いものであるといえるから、これを剥奪する結果となる就業規則等の改廃については、そのような不利益を労働者に受忍させることが許容されるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが必要であるというべきである

3 Y社が、昭和50年度の時点で行った本件年金制度の将来予測によれば、本件年金制度を本件年金規程のまま存続させると、Y社の経常会計から本件年金基金に毎年補填しなければならなくなることが明らかになり、しかもY社は昭和48年に学校敷地の約3分の1を売却して約20億円の債務を弁済して間もなくの時期であり、財政的な基盤が十分とはいえなかったうえ、経常会計においては消費支出超過状態が続いていたのであるから、本件年金制度につき抜本的な改革を要する状態にあったものであることを認めることができる

4 そして、本件年金制度を維持しつつ基金の健全化を図る有力な方法として、適格年金制度に準ずる制度の導入が考えられるが、・・・一時的な延命策に過ぎず、いずれは同様の問題が発生することが予測されたことが認められる。

5 右の必要性との関係から見ると、・・・本件就業規則等の改廃の内容は、Xらに不利益を与えるものであるが、他方、代償措置として退職金制度の改正、非常勤講師としての再雇用制度の新設等考慮すると、他に私学共済年金制度が存在することと相まって、Xらが定年後において、相当程度の生活を維持しうる水準の収入を得ることが可能となっていることが認められるので、その内容も相当性があるものということができる

6 Xらは、・・・いずれも20年以上の勤続となり、拠出金の拠出義務を果たしているから、本件年金規程による年金受給資格を取得したものであり、Y社は、就業規則の変更によって、この既得の権利を侵害することはできない旨主張するが、Xらが具体的に本件年金規程による年金受給権を取得したものではなく、受給資格を満たしたものに過ぎないのであるから、具体的な年金受給権の取得を前提とする右主張は採用できない。

本裁判例も、他の裁判例同様、「高度の必要性」を要求しています。

「高度の必要性」に基づいた合理的な内容であるか否かについては、(1)必要性、(2)相当性、(3)適正手続という観点から判断されています。

また、参考になるのが、上記判例のポイント6です。

拠出金の拠出義務を果たし、年金受給資格をみたした従業員であっても、具体的な年金受給権を取得したとはいえず、それゆえ、年金制度を廃止しても、具体的な権利侵害とはいえない、と判断しています。

そういうもんですかね・・・。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。