Category Archives: メンタルヘルス

メンタルヘルス7(多摩市事件)

おはようございます。

今日は、病気休職中の産業医面談(月1回)の不実施が安全配慮義務違反には当たらないとされた裁判例を見てみましょう。

多摩市事件(東京地裁令和2年10月8日・労経速2438号20頁)

【事案の概要】

本件は、普通地方公共団体であるY市の職員として勤務していたXが、Y社から人事権を濫用した違法な転任処分を受けたことにより、自律神経失調症にり患して病気休職に追い込まれ、さらに、病気休職中にY社職員から違法なパワーハラスメント行為を受けたことにより、退職に追い込まれたなどと主張して、Y社に対し、民法415条又は国家賠償法1条1項に基づき、①精神的苦痛に対する慰謝料200万円、②逸失利益としてXが休職をしなければ得ることができた1年分の給与相当額418万8340円、③弁護士費用61万8834円の合計680万7174円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、産業医面談は、休職中の治療を目的とするものではなく、使用者が休職者に対して復職又は休職に係る適切な処分をするにあたり、当該休職者の体調を把握する目的で実施されるものであるところ、本件要綱も、第1条において、「心身の故障のため病気休職をする職員について、病気休職の手続、職場復帰に際しての審査等について定める」ものとされていることから、本件要綱に基づく産業医面談も上記目的で実施されるものであることを認められる。以上に加えて、本件要綱が、産業医面談を受けることを休職者の義務として規定し、Y市が休職者の病状等に応じて上記義務を免除することや正当な理由なく上記義務を履行しない休職者に対して受信命令を発令することを定めていることに照らすと、本件要綱の規定を根拠に、Y市において休職者に対して月1回の産業医面談を実施すべき義務があると解釈することはできない

2 労働契約法5条は、使用者の労働者に対する一般的な安全配慮義務を定めたものであり、労働安全衛生法13条は、事業者の産業医選任義務を定めたものであるから、これらの規定から直ちに、Y市について、休職者に対して月1回の産業医面談を実施すべきであるという具体的義務が発生すると解することはできない。

3 Y市は、Xに対し、平成29年7月に2回目の産業医面談が実施された後、平成30年6月11日までの間、Xに対して産業医面談を実施していないが、その間、Xから体調不良を理由として平成29年9月の産業医面談がキャンセルされたこと、Xは、特定の産業医による面談を希望するとともに、Y市庁舎外での面談実施を希望していたため、産業医面談の日程調整が困難であったこと、P1保健師は、上記期間中にXとの間で3か月に1回程度の頻度で電話でやり取りを行っており、その際、Xに対して体調等を確認することもあったこと、Y市は、病気休職期間の延長申出の都度、Xから提出される主治医の診断書により、Xの病状を一定程度把握することができたことが認められる。
以上で認定した事実に照らせば、Y市は、上記期間中、産業医面談以外の方法でXの体調を一定程度把握していたことが認められ、上記期間中にY社がXに対して産業医面談を実施しなかったことをもって、Y市のXに対する安全配慮義務違反があったということはできない

休職期間中の使用者の安全配慮義務について問題となっている事案です。

使用者として何をどの程度行うべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス6(日本漁船保険組合事件)

おはようございます。

今日は、業務外の傷病(統合失調症)による休職期間満了での退職扱いが有効とされた裁判例を見てみましょう。

日本漁船保険組合事件(東京地裁令和2年8月27日・労経速2434号20頁)

【事案の概要】

本件は、業務外の傷病により休職していた労働者であるXが、使用者であるY社に対し、①主位的に、平成30年7月24日当時、Xは就労可能な状態にあったにもかかわらず、Y社が同日にXの復職申出を認めず、復職を不許可とし、これを前提として令和元年9月19日付けで休職期間満了を理由にXを退職扱いとしたことは違法無効であると主張し、②予備的に、Xが同年7月に復職を再度申し出た時点で就労可能な状態にあったにもかかわらず、Y社がXの提出した診断書を不受理とし、同年9月19日付けで休職期間満了を理由に退職扱いとしたことは違法無効であると主張して、XがY社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記①の復職を不許可とした後の賃金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・このような就業規則の定めによると,Y社において、休職命令は、休職期間満了までの間、解雇を猶予するものであるということができる。そうすると、「休職事由が消滅したとき」とは、職員が雇用契約で定められた債務の本旨に従った履行の提供ができる状態に復することであり、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解するのが相当である。そして、休職事由の消滅については、解雇を猶予されていた職員において主張立証しなければならないと解するのが相当である。

2 本件において「休職事由が消滅したとき」とは、Xが平成25年7月から平成27年末までと同様の勤務を行うことができる状態に復すること、すなわち、Xが、本件事務作業を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく本件事務作業を通常の程度に行える健康状態になった場合であると解するのが相当である。

3 本件診断書1及び指定医意見書は、いずれも、これらをもって、Xについて休職事由が消滅したことを認定するには足りない。そして、平成30年6月6日の面談時におけるXの様子、本件復職不許可の前後におけるXによるツイッターへの投稿内容、指定医の診察やA会長との面談に遅刻した際の状況等を併せ考慮すると、本件復職不許可の時点において、Xが本件事務作業を通常の程度に行える健康状態、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく本件事務作業を通常の程度に行える健康状態に回復していたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4 本件就業規則12条3項には、職員が復職を求める際に提出する主治医の治癒証明(診断書)について、Y社が主治医に対する面談の上での事情聴取を求めた場合には、職員は、医師宛ての医療情報開示同意書を提出するほか、その実現に協力しなければならず、職員が正当な理由なくこれを拒絶した場合には、当該診断書を受理しない旨の定めがあるところ、これは、平成30年6月5日付けの就業規則の改正により新設されたものである。
医師の診断書は、Y社においてこれを閲読しただけでその意味内容や診断理由を十分に理解することができるとは限らないことから、Y社が、診断内容を正確に理解して傷病休職中の職員の復職の可否を判断するために、主治医と面談し、主治医から直接に事情聴取をすることは必要であり、これについて職員に協力を求めることは合理的である。そして、職員が正当な理由なく協力を拒絶した場合には、Y社において診断書の内容を正確に理解することが困難となる以上、当該診断書を不受理とすることはやむを得ないというべきである。他方、職員としては、Y社が主治医と面談し、主治医から直接事情聴取を行うことによって、自己の傷病の回復状況を正確に理解してもらうことができ、また、医師宛ての医療情報開示同意書を提出するなど、Y社と主治医との面談の実現に協力することは容易なことであるから、上記定めの新設によって何ら不利益を被るものではない。以上によれば、上記定めの新設は、合理的なものであり、就業規則の改正前から休職していた原告にも適用される

上記判例のポイント4は押さえておきましょう。

また、上記判例のポイント3で示されているように、いかなる事情から復職の可否を判断するのが相当かを把握しておくことはとても重要です。

いずれにせよ判断が難しいところですので、顧問弁護士に相談することをおすすめします。

メンタルヘルス5(タカゾノテクノロジー事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、休職命令の無効と退職無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

タカゾノテクノロジー事件(大阪地裁令和2年7月9日・労判ジャーナル105号38頁)

【事案の概要】

本件は、医療機器等の製造、販売等を目的とするY社の従業員であったXが、Y社から休職期間満了を理由に退職扱いとされたが、その前提となる休職命令自体が無効であり、Xは退職とならないなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、出勤停止及び休職命令以降の未払賃金+遅延損害金の支払、また、Y社がY社の従業員によるXに対する性的言動を把握した後も配置転換等の適切な措置を取らなかったためにXが適応障害に罹患し、休業を余儀なくされたとして、不法行為又は債務不履行に基づき、休業損害等計412万3384円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社は、Xに対し、582万3803円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、令和元年7月から令和2年3月まで毎月26日限り月額26万3640円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、令和2年4月から本判決確定の日まで毎月26日限り月額26万3640円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xの欠勤が続いていたわけではなかった。B産業医は、Xが適応障害というより、うつ病等他の何らかの精神疾患を発症している疑いがあるとの所見を持っていたけれども、平成29年8月17日、Xと面談した結果、「今、病気の症状は感じられなかった。現時点で、僕がXさんに対して就業制限とかアクションを起こすことはない。」旨述べており、その趣旨は、時短勤務や勤務配慮の必要がないというものであって、B産業医の判断を前提とすると、仮にXが何らかの精神疾患を発症していたとしても、時短勤務等の必要もない状況であり、そうである以上、Xが更に欠勤する必要がある状況ではなかった。加えて、B産業医は、上記面談時点で、M医師がXを診断した場合、何もないと言われると考えており、Y社が本件各受診命令において、Y社担当者立会い等を条件としていたのも、M医師が診断した場合、その診断の当否はともかく、Xの意向を尊重して、適応障害等の精神疾患を再発又は発症していない(あるいは治癒している)との判断がされるものと考えていたためと推測される。そうすると、現にXの欠勤が続いている状況ではなかった上、産業医及び主治医ともXが欠勤する必要があるとは考えていなかったのであるから、Xが私傷病により長期に欠勤が見込まれる、又はそれに準ずる事情があると認めることはできない

2 Y社における賞与は、人事考課等を経て初めて具体的な権利として発生するものであるから、退職扱いがなければ、労働契約上確実に支給されたであろう賃金には当たらない。

主治医及び産業医がともに欠勤の必要性を否定している場合において、それでもなお休職命令を発することは根拠がないと判断されてもやむを得ません。

非常に判断が難しい分野ですので、顧問弁護士に相談することをおすすめします。

メンタルヘルス4(ビックカメラ事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、休職命令等の措置をとらずに行った解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

ビックカメラ事件(東京地裁令和元年8月1日・労経速2406号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、販売員等として勤務していたXが、平成28年4月15日付けでされた解雇は無効であるとして、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②平成28年5月分から平成30年3月分までの賃金として合計526万7376円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

Xは、Y社は、Xが精神疾患にり患している可能性を把握できたにもかかわらず、早期に専門的な医療機関の受診を指示せず、また、休職命令等の措置をとることなく、Xの問題行動が多くなったことを理由に、強制的に心療内科を受診させ、懲戒処分を続けたりしたものであり、かかる対応は不適切である旨主張する。
しかしながら、Y社は、Xの問題行動を確認するようになった後、Xに産業医との面談を行わせ、精神科医を受診させたほか、社員就業規程に基づき精神科医への受診及び通院加療を命じるなどしているのであるから、Xの問題行動が精神疾患による可能性について、相当の配慮を行っていたものと認められる
確かに、Y社は、Xに対して休職の措置をとることなく本件解雇を行ったものであるが、Xから休職の申出がされたことは窺われない上、Y社の社員就業規程においては、Y社が休職を命じるためには、業務外の傷病による勤務不能のための欠勤が引き続き1か月を超えたこと、又は、これに準じる特別な事情に該当することや、医師の診断書の提出が必要とされているところ、Xが1か月を超えて欠勤した事実は認められず、また、証拠によれば、Y社は、原告に対して精神科医の受診を命じた上で、診察した医師に対して病状等を照会したものの、Xの精神疾患の有無や内容、程度及びXの問題行動に与えた影響は明らかにならなかったというべきであるから、Xに対して休職を命じるべき事情は認められない
そして、Y社は、Xの問題行動に対して懲戒処分や指導を行っていたほか、精神科医への受診及び通院加療等を命じるなどしているのに対し、Xは、継続的な通院を怠り、問題行動を繰り返しているのであるから、これらの事情を考慮すると、Y社において休職の措置をとることなく本件解雇に及んだとしても、解雇権を濫用したものということはできない
したがって、Xの上記主張は、採用することができない。

会社としては、本裁判例同様、就業規則に基づき、精神科医への受診や通院加療を命じるというプロセスを踏むケースがあり得ることを認識しておきましょう。

この分野は本当に判断が難しいです。必ず顧問弁護士に相談の上、慎重に進めていくことが求められます。

職場のメンタルヘルス対策ガイドブック

おはようございます。

さて、今日は、愛知県から出されたメンタルヘルスのガイドブックを紹介します。

職場のメンタルヘルス対策ガイドブック(PDF)

特に内容として新しいものではありませんが、見やすくまとまっています。

是非、参考にしてくださいませ。

メンタルヘルス対策については、顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ丁寧に進めましょう。

メンタルヘルス3(メンタルヘルス対策の新たな枠組み)

「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」の報告書取りまとめ
~プライバシーに配慮しつつ、職場環境の改善につながる新たな枠組みを提言~
(厚労省)

「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」が対策の新たな枠組みを発表しました。

具体的な枠組みは以下のとおり。

1 一般定期健康診断に併せて医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認、必要と認められるものについて医師による面接を受けられるしくみの導入

2 医師は労働者のストレスに関連する症状・不調の状況、面接の要否等について事業者に通知しない

3 医師による面接の結果、必要な場合には労働者の同意を得て事業者に意見を提出

4 健康保持に必要な措置を超えて人事・処遇等において不利益な取扱を行ってはならない

このうち、2、3は、労働者のプライバシー保護の観点が含まれています。

メンタルヘルス不調には、特に医療関係者以外の者に知られたくないという要素があり、個人情報の保護に慎重な対応が必要とされます。

担当者のみなさん、メンタルヘルス対策については、顧問弁護士に相談しながら1つ1つ丁寧に進めていくことが肝心です。

メンタルヘルス2(中小企業における対策法)

財団法人産業医学振興財団から「中小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の進め方に関する研究」(平成21年度研究報告書)が発表されています。

内容は、かなり詳しいです。

メンタルヘルス対策は、顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ丁寧に進めていくことが求められます。

メンタルヘルス1(具体的対応策)

メンタルヘルスについて、(財)日本生産性本部メンタルヘルス研究所が、「第5回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果」を発表しています。

是非、参考にしてください。

この中で、上場企業での具体的取り組み内容について紹介されています。

1 管理職向けの教育 70.0%

2 長時間労働者への面接相談 63.8%

3 休職者の職場復帰に向けた支援体制の整備 49.5%

4 一般社員向けの教育 48.6%

5 社外の相談機関への委嘱 48.0%

会社として、取り組みやすいところから始めることが大切だと思います。

メンタルヘルス対策については、顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ丁寧に進めましょう。