Category Archives: 管理監督者

管理監督者39 管理監督者性の判断基準(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理監督者の該当性に関する裁判例を見てみましょう。

MUKU事件(大阪地裁平成30年7月20日・労判ジャーナル81号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、労働基準法37条に基づき、平成27年3月から平成29年2月まで毎月20日を支払期日とする割増賃金合計約398万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金として約379万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 アルバイトや正社員の採否や昇給等の最終的な決定は、全てY社代表者が行っていたというのであるから、Xが行った募集媒体の提案等は、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの職務及び権限とは認められず、また、Xは、自らを含む本件店舗の従業員のシフト表を作成し、自らもこのシフト表のとおりに勤務していたことが認められるが、Xによるシフト表の作成方法は、Xが本件店舗の店長に就任した平成28年2月以降も、Xの拘束時間が相当長時間に及んでいることに照らせば、Xが自分の都合に合わせてシフト表を作成することができる状況にあったとは認められないから、Xは、本件店舗の店長に就任後、自己の労働時間についての裁量を有していたとは認められず、そして、店長就任後のXの給与の額が、管理監督者の地位にふさわしいものであると評価することはできないこと等から、本件店舗の店長に就任した後のXが、実質的に経営者と一体的な立場にあるとはいえず、労働基準法41条2号所定の管理監督者に当たるということはできない

今は昔の論点です。

本件でも管理監督者性は否定されています。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者38 管理監督者性が認められることはほとんどありません(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、経営に関する権限を相当程度有した労働者の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

エルライン事件(大阪地裁平成30年2月2日・労判ジャーナル74号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、Y社に対し、平成25年12月16日から平成28年6月15日までの時間外労働、法定休日労働及び深夜労働に係る割増賃金合計951万1420円等の支払並びに労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

管理監督者には当たらない。

【判例のポイント】

1 Xについては、担当するグループの経営に関する権限を相当程度有し、それなりに高額な賃金を支給されるなど、管理監督者性を肯定する要素も認められるものの、その権限には一定の制約があった上、業務命令により容易に覆されるものであったことも踏まえると、Xが実質的に経営者と一体的な立場にあったとまでいうことはできず、出退勤の自由や待遇の点からみても、労基法上の労働時間等に関する規制による保護が不要であるということはできないから、Xが管理監督者に該当すると認めることはできない。

2 Y社は、Xが管理監督者であると認識して時間外手当等の支給対象外としていたものと認められるところ、Y社の法令解釈は結論として誤っていたといわざるを得ないが、Xの管理監督者性を肯定する要素も一定程度認められ、また、仮にXが管理監督者に該当するとしても、Y社は深夜労働に対する割増賃金の支払義務は免れないところ、本件においては、Xに対し、深夜労働に対する割増賃金の額を超える月額3万円の固定残業手当が支給されていることから、Y社が、Xは管理監督者に該当すると認識し、Xに対する割増賃金を支払わなかったことにも相当の理由があったと認められ、Y社による不払の対応が悪質であったということはできないから、本件において、Y社に対し付加金の支払を命ずるのは相当でない

なかなか管理監督者性のハードルは高いのです。

また、上記判例のポイント2に書かれているように、管理監督者に該当する場合でも、深夜労働に対する割増賃金は支払う必要がありますのでご注意ください。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者37 弁当チェーン店店長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、弁当チェーン店元店長の管理監督者性と割増賃金等請求に関する事案を見てみましょう。

プレナス(ほっともっと元店長B)事件(大分地裁平成29年3月30日・労判1158号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であり、平成26年8月5日にY社を退職したXが、Y社に対し、時間外労働の賃金及び寮費相当額として控除されてきた賃金部分+遅延損害金、付加金+遅延損害金、慰謝料50万円+遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1011万4971円+内953万3480円に対する遅延損害金(6%)を支払え

その余の請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Xは、その職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇などの実態からすれば、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有するとも、現実の勤務態度が労働時間等の規制になじまないような立場にあるともいえないから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者、すなわち管理監督者に該当するとは認められない。 

2 本件では、Xの時間外労働の割増賃金支払義務の前提問題として、Xの管理監督者該当性が主要な争点として争われているところ、この点に関する当事者双方の主張内容や事実関係のほか、栃木労基署はY社に対し是正勧告を行ったものの、Y社から管理監督者に該当する旨の報告書が提出されて以降特段の手続が取られていないことなどに照らせば、Y社がXの割増賃金の支払義務を争うことには合理的な理由がないとはいえないというべきである。
したがって、未払賃金に対する遅延損害金については、商事法定利率によるべきである。

3 Y社は、Xに対し、労基法37条の定める時間外割増賃金及び休日割増賃金の支払義務を怠っているものといえるが、当事者双方の主張内容や事実関係、その後の訴訟経過に照らせば、Y社に対し、付加金という制裁を課すことが相当とはいえない

管理監督者性に関しては、上記判例のポイント1のとおり、箸にも棒にもかからない感じですが、この争点の裏の意味としては、上記判例のポイント3のとおり、付加金を抑えるということが挙げられます。

うまくいくときといかないときがありますが。

あと、上記判例のポイント2についても、14.6%になっていない点で参考になります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者36 飲食店店長の管理監督者性と固定残業制度の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、飲食店店長の管理監督者性と固定残業代に関する裁判例を見てみましょう。

穂波事件(岐阜地裁平成27年10月22日・労判1127号29頁)

【事案の概要】

本件は、平成20年7月からY社に勤務しているXが、Y社に対し、平成23年9月分ないし平成25年9月分の未払の時間外・休日・深夜割増賃金282万1547円があると主張して、同金員及びこれに対する遅延損害金を請求するとともに、労基法114条に基づいて、同額の付加金及び遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し282万1547円+遅延損害金を支払え。

Y社はXに対し227万8089円の付加金+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の「店長」として勤務しており、担当店舗に勤務するパート等従業員の採用、給料、昇給等について一定の権限を有しており、毎月のシフト割などを決めるほか、担当店舗の金銭の管理、食材の発注量の決定、店舗の什器備品の購入について一定の範囲の権限があったことが認められる。
しかしながら、他方で、当該店舗の営業時間を変更することはできず、パート等従業員の給料や、昇給等についても一定の枠の範囲内での権限であった上、Xに与えられていた権限は、担当店舗に関する事項に限られていて、Y社の経営全体について、Xが、決定に関与することがなされていたとは認められないのであって、企業経営上の必要から経営者との一体的な立場において、労基法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないといえるような重要な職務と権限を付与されていたということは困難である

2 また、その勤務態様についても、タイムカードを打刻することが求められ、出退勤について監理されていた上、店長が担当店舗の営業日や営業時間を自ら決定する権限はなく、休むためにはアシスト等代行者を確保する必要があったというのであるから、Xは、実質的には、自らの労働時間を自由に決定することはできないものであった。
さらに、Xの収入が、賃金センサスによる平均賃金を上回っていたとしても、Y社において、店長が賃金面で、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られていたとは認められない
以上を総合すると、Xが労基法の41条2号の管理監督者に該当すると認めることはできないというべきである。

3 Xは、少なくとも、平成25年1月7日以降は、管理職手当(管理固定残業)として毎月10万円支給されているものが、みなし残業手当83時間相当として支給されていることを認識していたと認められる。
しかしながら、上記の83時間の残業は、36協定で定めることのできる労働時間の上限の月45時間の2倍に近い長時間であり、しかも、「朝9時半以前及び、各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当」とされていることを勘案すると、相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって、公序良俗に違反するといわざるを得ず、これがXとY社との間で合意されたということはできない
また、他方、Y社が本件において、店舗開店前や、閉店時刻以後の残業はあまり考えられないと主張していることなどに照らすと、「朝9時半以前及び、各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働」が、月83時間も発生することはそもそも想定しがたいものであったと言わざるを得ず、その意味でも、これをXとY社との間の労働契約において合意がなされたということはできない。
よって、管理者手当(管理固定残業)は時間外労働に対する手当として扱うべきではなく、月によって定められた賃金として、時間外労働等の割増賃金の基礎とすべきである。

管理監督者性と固定残業代が争点となっています。

いずれももはや昔の論点といえます。

近くに「社長、これだと裁判、100%負けますよ・・・」とアドバイスしてあげる弁護士や社労士がいたらよかったのに・・・と思ってしまいます(実際にはアドバイスをしても聞く耳を持たない経営者もおりますが)。

固定残業制度を導入する場合には、ちゃんとやらないと、基礎賃金が増えてしまうので、余計に多くの残業代を支払うことになってしまうことをまずは理解すべきです。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者35(新富士商事事件)

おはようございます。

今日は、退職した元営業所長の管理監督者性と割増賃金等請求についての裁判例を見てみましょう。

新富士商事事件(大阪地裁平成25年12月20日・労判1094号77頁)

【事案の概要】

本件は、自動車オークション会場における車両の移動等の業務を請け負っている株式会社であるY社との間で労働契約を締結し、営業所長として勤務していたXが、時間外および深夜割増賃金の支払いを受けていないとともに、一方的に賃金を減額して支給されたと主張して、Y社に対し、上記労働契約に基づき、時間外および深夜割増賃金ならびに遅延損害金の支払いを求めるとともに、不当利得に基づき、減額された賃金相当額の不当利得金及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

Y社は、Xが管理監督者に該当すると主張して、時間外割増賃金の支払義務を争っている。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定
→433万8618円の支払いを命じた

賃金減額分の13万4000円の支払いも命じた

【判例のポイント】

1 Xの職務内容及び権限についてみるに、Y社が行っている事業としては本件業務しか存在せず、本件業務の遂行に当たり、アルバイト従業員に対する業務の割当て、業務内容の指示及び出退勤時間の指定等に加え、A社との間の業務遂行上の調整等も、専らXの権限とされていたことが認められるから、Xは、本件業務の現場における責任者の地位にあり、アルバイト従業員の労務管理上の決定等についても一定程度の権限を有していたものと認められる。

2 しかしながら、Xの業務内容自体は、アルバイト従業員又は役職のない正社員であったときとほぼ変わりがなかったものであるだけでなく、Xは、正社員のみならず、アルバイト従業員についても、採用や賃金等の決定をする権限はないなど、本件業務に伴う経理や人事に関する権限を一切有しておらず、Y社及び関連会社の責任者が集まる幹部会議にも出席することはなかったものであるから、Xが有していた権限の範囲は、現場責任者としての限定的なものにとどまっていたものというべきである。
また、Xの労働時間に関する裁量権の有無についてみるに、Xは、タイムカードにより労働時間が管理されており、出退勤の自由に関する裁量権も有していなかったものといえる。
さらに、Xは、Y社のB営業所長として3万円の役付手当を支給されており、毎月の支給額は上司であるC部長と比較して、約3万5000円しか変わらないこと、年収は合計510万円程度にすぎないし、Xが毎月約30時間から時には100時間以上もの時間外及び深夜労働を行っていたことを考慮すると、その地位と権限にふさわしい処遇がされていたともいい難い

3 以上によれば、Xは、管理監督者にふさわしい職務内容及び権限を有していたとは直ちにいえないだけでなく、労働時間に関する裁量権も有しておらず、賃金上も管理監督者にふさわしい処遇がされていたとはいえないから、Xが管理監督者に該当するということはできない。

久しぶりに管理監督者性が問題となった裁判例を取り上げます。

結果は、やはり認められませんでした。

結果、会社は高額な支払いを命じられています。

裁判所が管理監督者性を認めてくれるのは、本当にごくわずかです。 そのあたりを踏まえた労務管理をする必要があります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者34(乙山石油事件)

おはようございます。 

さて、今日は、ガソリンスタンド元所長の管理監督者性と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

乙山石油事件(大阪地裁平成25年12月19日・労判1090号79頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、未払割増賃金等の支払を求めた事案である。

本件の争点は、Xが、本件SSの所長就任後、労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」に当たるかである。

【裁判所の判断】

管理監督者にはあたらない
→Y社に対し、346万6917円の未払割増賃金等の支払を命じた

【判例のポイント】

1 管理監督者については、労働基準法の労働時間等に関する規制は適用されないが(同法41条2号)、これは管理監督者が、企業経営上の必要から経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等の規制を超えて行動することを要請されざるを得ない重要な職務や権限を付与され、また、実際に労働時間について広範な裁量を有し、賃金面においても、他の一般労働者に比べてその職務や権限等に見合った十分な優遇措置が講じられている者であれば、同法の厳格な労働時間等の規制に服しないとしても保護に欠けるところはないとの趣旨によるものと解するのが相当である。そこで、同条にいう管理監督者に該当するかの判断にあたっては、この趣旨を踏まえ、職務内容や権限及び責任、勤務態様や賃金面の処遇等の実態に照らして総合的に判断することが相当である。

2 Xは、所長就任後も現場の業務に従事しており、営業時間の変更に関してY社代表者の了解を得た上で実施しており、営業時間を自由に変更する権限までは有しておらず、灯油の仕入値の交渉はY社代表者が担当しており、Xは全ての仕入値の交渉までは担当しておらず、金銭管理はY社代表者が行っていた

3 労務管理に関しても、本件出勤予定表を作成していたのはXであるにしても、Y社代表者も月の休日の日数はミーティングにおいて決めていたと供述するようにXが完全に自由に決められたわけではなく、むしろ、Y社代表者は、XがHやCを早めに退社させていたことについて注意しているから、Xの社員の出勤管理に関する権限は限定的なものに過ぎなかったといえる。また、従業員の給与は予め定められた計算式により計算されておりXには正社員の給与等を決定する権限はなく、アルバイト従業員の時給変更に関しては、Y社代表者の妻に意見を述べ、採用されたに過ぎない

4 これに加え、労働時間に関しては、Xは所長就任後も本件出勤予定表に従って勤務しており、さらに、平成23年11月頃にはY社代表者からタイムカードを退勤時にも打刻するように指示を受けるなど、出退勤に関する裁量権を有していたとは認められず、賃金額については、所長就任の前後で大きな差はなく、労基法上の労働時間等の規制を超えて勤務することを期待するに足りる処遇がされていたとは認め難い
以上を総合勘案すると、Xが管理監督者に該当するとは認められない。

本件の原告(X)に全く管理監督者性を肯定する要素がないとは言えませんが、これまでの管理監督者性についての裁判所の厳しい判断からすると、このような結果になってしまうわけです。

「例外規定の厳格解釈」というルールからすれば、この解釈の厳しさもやむを得ないのでしょうね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者33(フォロインプレンディ事件)

おはようございます。

さて、今日は、直営飲食店元店長または店長代理による未払賃金請求と管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

フォロインプレンディ事件(東京地裁平成25年1月11日・労判1074号83頁)

【事案の概要】

Y社は、飲食店の経営等を目的とする会社である。

Xは、Y社との間で、労働契約を締結し、Y社の直営飲食店で勤務した。

Xは、Y社に対し、未払割増賃金を請求した。

Y社は、Xが店長または店長代理を務めていた期間、管理監督者に該当していたと主張し争った。

【裁判所の判断】

Xは、管理監督者ではない。
→Y社に対し、335万余円の割増賃金及び同額の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労働基準法41条2号の趣旨は、いわゆる管理監督者については、職務及び責任の重要性並びに勤務実態に照らし、法定労働時間の枠を超えて勤務する必要があるため、法定労働時間等の規制に服させるのが適切でなく、また職務の内容及び権限並びに勤務実態に照らし、労働時間を自由に定めることができ、賃金等の待遇に照らし、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、労働基準法1条の基本理念及び同法37条1項の趣旨に反しないと解されるため、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を排除するところにあると解するのが相当である

2 Xは、平成21年1月末ころから同年8月5日までは「隠れやA店」の店長として、同年11月から平成22年4月までの間は「隠れやB店」の店長代理として、それぞれ稼働しており、アルバイト従業員の採用やその従業員らの労働時間の決定について一定の権限を有していたというのであるが、店長又は店長代理の地位は、XがY社に在籍していた当時における直営の6店舗、フランチャイズ加盟店舗を含めれば50を超える店舗のうち1つの長であって、2か月に1回の頻度で行われる店長会議及び主として毎年度末に開催される経営者会議への参加が義務付けられていたというものの、各店長又は店長代理はその1人として参加するにすぎなかったというのである。また、店長又は店長代理固有の業務は、営業日報・営業月報の作成、毎月のシフトの作成と各従業員の実労働時間の報告、年度ごとの事業計画書の作成、年度末に開催される経営者会議への参加等であり、それ以外は、店舗の営業時間のほとんどにおいて、配下のアルバイト従業員と同様の業務に従事するのが通常の形態であり、平成21年1月末ころ以降のXの基本給は22万円であるほか、役職手当等の権限ないし役職に対応する手当が支給されていたこともなかったというのである。
これらの事情に加え、「隠れやA店」の閉店の際に、Xの意見を聴取した形跡が窺われないこと等を総合すると、Y社が経営する飲食店の店長又は店長代理は、配下のアルバイト従業員等の採用や労働時間の決定等を行っていたものの、Y社そのものの重要決定事項への発言力や影響力があったとまではいえないし、労働時間についても自由に決定することができる状況にあったとは認め難い。また、賃金等の待遇に関しても、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、労働基準法1条の基本理念及び同法37条1項の趣旨に反しないということができるものであったとまでは認められない。

久しぶりの管理監督者性に関する裁判例です。 絶滅危惧種です。

上記判例のポイント1は参考になります。

付加金も満額認められていますので、すごい金額になっていますね。

判決までいかずに和解で終わることはできなかったのでしょうか・・・。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者32(VESTA事件)

おはようございます。

さて、今日は、営業社員2名による残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。

VESTA事件(東京地裁平成24年8月30日・労判1059号91頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産の調査、鑑定および資料収集業務、賃貸契約に対する保証業務等を目的とする会社である。

X1及びX2は、Y社に勤務していた者である。

Xらは、Y社に対し、未払残業代の請求をした。

【裁判所の判断】

X1については、約367万円の割増賃金の支払を認めた。

X2については、管理監督者性を肯定し、割増賃金の請求を棄却した。

【判例のポイント】

1 (1)X1の職務内容は、他の従業員と同様に、督促及び営業業務が中心であり、支店長としての職務内容も、支店の業務内容のとりまとめ及びその報告等にとどまり、人事に係る決裁権もなかったこと、(2)実際の労働時間について、Y社においては、タイムカードの打刻等が義務付けられていた形跡はなく、必ずしも厳格な労働時間管理がされていたとは認められないものの、その点は、他の従業員についても同様であり、X1が出社時間、退社時間に裁量を有していたとまでは認められないこと、(3)待遇の内容、程度について、X1は、平均賃金額よりも月額15万円前後と高額の賃金を取得していたことが認められるものの、他の従業員と同様に督促及び営業業務を担当しながら、支店長としての業務も遂行していたことに照らすと、その賃金額も必ずしも高額であるということはできない。

2 Y社は、X1の職務内容及び権限として、A営業所及びB支店に勤務中、中国・四国エリアの営業責任者として同エリア所在の各支店から提出される営業等に関する稟議書の取りまとめ、確認、承認をした上でY社に提出するほか、同エリアにおける従業員の採用及び退職の際に最終面接をし、その結果をY社に報告し、意見を述べる立場にあり、同エリアの従業員の人事に関する最終決定に当たってその意見が重視されていたから、X1が経営者と一体的立場にあったと主張する。しかし、稟議書の決裁権はX2にあり、従業員の人事権もY社の役員にあって、X1にはなかったことが認められるし、中国・四国エリアの稟議書のとりまとめ、確認、承認の権限、同エリアの従業員の最終面接をする権限があるからといって、X1が経営者と一体的な立場にあったと認めることはできない。また、従業員の人事に関する最終決定に当たって、X1の意見が重視されていたと認めるに足りる的確な証拠はないし、X1の意見がどのように取り扱われていたかも不明である。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。
以上によれば、X1が経営者と一体的な立場にある者ということはできないから、管理監督者には当たらないというべきであり、ほかにX1が管理監督者に当たることを裏付けるに足りる事情はうかがわれない。

3 ・・・続いて、A営業所及びE支店勤務中の平日の終業時刻については、これを認めるに足りる客観的記録は存在しないが、X1は、その本人尋問において、割増賃金を請求する全期間を通じて、主として督促及び営業業務を担当し、午後7時頃まで営業で外回りをした後、午後9時頃までは電話による督促業務等を行うことが義務付けられており、業務終了前に帰宅したことはなかった旨供述する一方、労基法108条等に基づき労働時間を適性に把握することを義務付けられるY社が、従業員の労働時間を厳格にしておらず、X1が午後9時頃までは営業及び督促業務に従事していたことについて積極的に反証していないことに照らすと、A営業所及びE支店勤務中の終業時刻は、どんなに早くとも午後9時を下回ることはなかったと認めることに十分な合理性がある。
したがって、X1のA営業所及びE支店勤務中の平日の終業時刻は、午後9時と認める

4 X2は、その本人尋問において、Y社の指示の下とはいうものの、自らの意思で出社時刻を決定していた旨供述しているし、そもそも従業員に対する労働時間管理が厳格に行われていなかったY社において、X2が労働時間を管理されていたとは認められないことに照らすと、X2は、一時、取締役の地位にもあり、その間の労働者性の問題はさておき、少なくともY社の営業部門の責任者としての立場にあり、その賃金又は報酬は、代表取締役の報酬に準ずる水準にあった上、実際の労働時間についても、厳格に管理されていたとまでは認められない一方、出社時刻には一定の裁量があったことがうかがわれるから、X2は、Y社の営業部門において、経営者の一体の立場にあったということができる
以上検討してきたところによれば、X2は、労働基準法41条2号の管理監督者に当たるというべきである。

労働時間の認定方法については、労基法108条を取り上げ、使用者の労働時間適正把握義務から、労働者側の主張する終業時間をそのまま認定しています。

また、そもそも会社内で労働時間管理が厳格になされていない場合は、管理監督者性の認定に際し、否定側に働く事情です。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者31(セントラルスポーツ事件)

おはようございます。

さて、今日は、スポーツクラブ運営会社のエリアディレクターと管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

セントラルスポーツ事件(京都地裁平成24年4月17日・労判1058号69頁)

【事案の概要】

Y社は、スポーツクラブの運営等を業とする会社である。

Xは、Y社に従業員として採用され、昭和56年からY社での勤務を開始し、平成15年10月からエリアディレクターに昇格したが、21年10月、副店長に降格した。

Xは、Y社に対し、平成19年11月分から21年9月分までの時間外手当等を請求した。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきである。具体的には、(1)職務内容が少なくとも、ある部門全体の統括的な立場にあること、(2)部下に対する労務管理等の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、(3)管理職手当等特別手当が支給され、待遇において時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、(4)自己の出退勤について自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを要すると解すべきである

2 Xは、人事、人事考課、昇格、異動等について、最終決裁権限がないことを理由に管理監督者でないと主張するが、Xの主張するように解すると、通常の会社組織においては、人事部長や役員以外の者は、到底、管理監督者にはなり得ないこととなる労働基準法が管理監督者を設けた趣旨は、管理監督者は、その職務の性質上、雇用主と一体となり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使するため、自らの労働時間を含めた労働条件の決定等について相当程度の裁量権が与えられ、労働時間規制になじまないからであることからすると、必ずしも最終決定権限は必要ではないと解するのが相当である。

3 Xは、営業部長より、前日の業務について、翌日の午前10時頃に定時連絡をすることを指示されていること、また、マネージャー及びエリアディレクターはお客様を出迎えるために各スポーツクラブの開館時間頃には出勤しなければならないと指示していたことから事実上、出退勤時間が拘束されていたと主張する。
しかしながら、Xは、自己の勤務時間については、人事部に勤務状況表を提出するために部下であるCの承認を受ける以外、誰からも管理を受けておらず、実際にXが遅刻、早退、欠勤によって賃金が控除されたことがないことからすると、営業部長の発言の趣旨は、エリアディレクターとしてエリアを統括する以上、エリアの状況を当然に日々営業部長に報告することを指示したにすぎず、出勤時間を拘束する趣旨ではなく、また、開館時間についてもXは必ずしも開館時間に出勤していたとは認め難いことからすると、これをもって事実上出勤時間が拘束されたとはいえない
したがって、Xは出退勤の時間を拘束されていたものとは認められず、Xは自己の裁量で自由に勤務していたものと認められる。

4 Xが管理監督者であっても、Y社は深夜手当の支払は免れない。

5 以上のとおり、Xは管理監督者に該当するのであるから、Y社には故意に時間外手当の支払を免れようとした悪質性はなかったものと認められる。
したがって、付加金の支払を命じることは相当でない。

珍しく管理監督者性が肯定されてました。

エリアディレクターだから、というような形式的な理由ではありませんので、エリアディレクターでも管理監督者と認められない場合も当然あります。

上記判例のポイント2、3は参考にしてください。

人事に関し最終決定権限までは必要がないという判断です。 

原告側代理人がそう言いたくなるくらい管理監督者性の基準は厳しいのです。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者30(サンクスジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は、業務上志望者の管理監督者性と給付基礎日額の算定に関する裁判例を見てみましょう。

サンクスジャパン事件(福岡地裁平成24年5月16日・労判1058号59頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXの妻が、Xは業務に起因して発症した急性心臓死により死亡したと主張して、佐賀労働基準監督署長に対し、労災保険法に基づき、遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、本件署長から、平成21年4月6日付けで、これらについて給付基礎日額を1万3236円として算定した金額を支給する旨の各処分を受けたため、上記給費基礎日額の算定に誤りがあるとして、被告国に対し、本件処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

管理監督者に当たらない
→遺族補償給付及び葬祭料の支給に関する処分を取り消す。

【判例のポイント】

1 一般に、管理監督者には労働時間、休憩及び休日に関する労基法の規定を適用しない旨を定める労基法41条2号の趣旨は、管理監督者は、重要な職務と責任を有し、労働条件の決定その他労務管理等について経営者と一体的な立場にあるため、同法の定める労働時間規制を超えて活動することが要請され、かつ、出退社等の事故の労働時間について自由裁量を働かし得る上、その地位にふさわしい待遇を受けているため、厳格な労働時間規制をしなくても労働者保護に欠けることにはならない、という点にあるものと解される。
そうすると、管理監督者に該当するか否かは、(1)その業務内容、権限及び責任に照らし、労務管理等に関して経営者と一体的な立場にあるといえるか否か、(2)自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有しているといえるか否か、(3)その地位にふさわしい待遇を受けているか否か、などの観点から個別具体的な検討を行い、これらの事情を総合考慮して判断するのが相当である。

2 Xは、Y社の商品部第4課長の地位にあり、同課が担当する家電等に関し、本件会社として仕入れる商品の選択、仕入値及び数量並びに店舗での販売価格の決定権限が与えられている。
しかし、Xの上記権限は、多岐にわたるY社の取扱商品のうちの限定された一分野に関するものである上、商品部の各課の全体的な売上げの状況などは、商品部部長が管理していることからすると、Xは、Y社から与えられた一定の裁量の範囲の中で、家電等の商品の仕入れや販売価格の決定等を行っていたことが推認される。
したがって、Xが上記の権限を行使していたことをもって、XがY社の経営全体に関する決定に参画していたなどということはできず、他にこれをうかがわせる事実を認めるに足りる客観的な証拠はない

3 Xが、この4名の部下に対し、人事考課、勤務時間の管理及び給与等の待遇の決定など、労務管理上の指揮命令権限を有し、これを行使していたことを認めるに足りる客観的な証拠は見当たらない
以上のとおり、Xが、本件会社の経営全体に関する決定に参画したとか、予算策定に直接的に関与していたとはいえない上、部下に対する労務管理上の指揮監督権限を有していた事実が認められないことなどからすれば、その業務内容、権限及び責任に照らし、Xが労務管理等に関して経営者と一体的な立場にあったとまではいえない。

4 Y社は、Xの労働時間について、タイムカード等による出退勤管理をしていない。しかし、役職に就いていないバイヤーについても同様の取扱いをしていたことからすると、単に、業務の内容及び性質からこのような取扱いをしていたにすぎないといえる。したがって、上記の事情をもって、Xが労働時間について裁量権を有していたことを根拠づけるものと評価することはできず、他にこのことをうかがわせる事情は見当たらない。
かえって、XはY社の設置した出勤簿に押印していた上、1週間ごとにXの予定を記載した週間行動予定表が作成されていることが認められることなどからすると、Xの稼働状況等については、Y社がこれを一定程度管理していたことがうかがわれる。これに加えて、Xの勤務実態からすると、Xが相当の長時間労働の常況にあったことが推測されることからすれば、Xに労働時間に関する広い裁量権が与えられていたということはできない

5 ・・・Xは、上記のとおり労基法41条2号にいう管理監督者に当たらないから、時間外労働等の割増賃金についてY社に請求できることを前提に給付基礎日額が算定されなければならない。そうであるにもかかわらず、Xが管理監督者に当たるとして、時間外労働等の割増賃金を基礎に入れることなく給付基礎日額を算定した本件処分は、上記給付基礎日額の算定を誤ったものであり、違法であるといわざるを得ない。

労災における給付基礎日額との関係で、管理監督者性が争われた珍しい事案です。

管理監督者性については、多くの裁判例を同じく、否定されています。

この程度の事情ではまず肯定されないと思います。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。