Category Archives: 解雇

解雇161(ブーランジェリーエリックカイザージャポン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、GMに対するセクハラ行為を理由とする降格と雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ブーランジェリーカイザージャポン事件(東京地裁平成26年1月14日・労判1096号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、GMとして採用したXに対し、セクハラ等GMとして不適切な行為があったとして、GMから業務部マネージャーに異動させ、賃金を減額した。また、Y社はXの定年日以降の労働契約は1年ごとの嘱託契約であったとして、平成25年2月28日以降、契約を更新しない旨を同年1月7日にXに通告したところ、Xが、本件降格が違法であると主張して、GMの地位にあることの確認および降格前の賃金と降格後の賃金の差額の支払い、慰謝料の支払いを求めるとともに、本件雇止めに効力がないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および平成25年1月以降の月例賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格は有効

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 本件降格に伴いY社はXに対して異動辞令しか交付しておらず、何らの懲戒処分を行っていないのであって、本件降格は人事権の行使として行われたものとみるほかない。

2 ・・・以上のとおり、複数の女性従業員の羞恥心を害するセクハラ行為を行っていたことが認められる上、裁判上は認定するまで至らない行為についても特に争っていなかったことも併せ考慮すれば、XにY社業務全般を統括するGMとしての適格性が欠けると判断したY社の判断に裁量の逸脱は認められない

3 Xは、減給額が過大であると主張するが、減給額が合計22万2000円に上るからといって、それだけで裁量を逸脱したものということはできない

4 X・Y社間において、雇用契約時に定年規定を適用しないという特約を交わしたということはないので、Xは平成24年2月末日をもって定年となり、同年3月からは嘱託契約が締結されたとみるほかないが、上記のとおり、Y社における嘱託契約は、1年のものとそうでないものがあること、Xについては、1年の嘱託契約となる継続雇用制度において定められた、定年6か月前までの条件提示と希望聴取という手続も踏まれていないことに照らすと、X・Y社間に1年の有期雇用契約が締結されたと認めることはできない
また、仮に1年の有期雇用契約であったとしても、定年後の継続雇用制度の趣旨からすればXには更新の合理的期待があり、降格後のマネージャーとしてのXの職務に問題があったと認められないことからすれば、本件雇止めは相当性を欠くものというべきである

複数のセクハラ行為の存在が認定されていることに加え、裁判上は認定するまでに至らない行為についても考慮の一要素となっていることは参考にすべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇160(学校法人専修大学(専大北海道短大)事件)

おはようございます。

今日は、希望退職に応じなかった教員らに対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学(専大北海道短大)事件(札幌地裁平成25年12月2日・労判1100号70頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、Y社が設置運営する専修大学北海道短期大学の教員として勤務していたXらが、平成24年3月31日付けでなされた解雇(整理解雇)は無効であるとして、XらとY社との間の雇用関係が存続することの確認並びに平成24年4月以降の賃金及び平成24年6月以降の賞与の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、整理解雇について規定する本件就業規則21条1項3号に基づくものであるところ、同号に基づく整理解雇が解雇権を濫用したものとして無効(労働契約法16条)になるか否かを判断するに当たっては、整理解雇が、使用者における業務上の都合を理由とするものであり、落ち度がないのに一方的に解雇され収入を得る手段を奪われるという重大な不利益を労働者に対してもたらすものであることに鑑み、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の遂行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続の相当性を総合考慮して判断すべきである。もっとも、前記①ないし④の全てが充足されなければ整理解雇が無効となるとは解されない。

2 北海道短大においては、平成17年10月頃までに入学志願者数及び入学者数が落ち込み、それに伴って財務状況も悪化していたことから、緊急3カ年計画等の各種改善策を実施したが、平成21年度末までに入学志願者数及び入学者数は微増に転じたものの、入学定員の充足や単年度の支出超過解消までには至らず、帰属収支差額及び消費収支差額においてなおも大幅な支出超過が続くこととなったというのである。これに加えて、Y社においても消費収支差額において支出超過となったこと、全国的に見ても短期大学の入学者数が年々減少しているという状況にあったことからすれば、本件募集停止決定をしたY社の経営判断は、合理的なものであったと認めるのが相当であり、また、本件募集停止決定によって北海道短大には新規入学者がいなくなり、閉校が必然的なものとなったのであるから、北海道短大の教職員らについて人員削減の必要性があったと認めるのが相当である。

3 Y社が、前記の方法のほかに、本件解雇を回避する方法として、早期希望退職者には退職金及び退職加算金に加えて基本給の7か月分の退職特別加算金を支払い、希望退職者には退職金及び定年までの残余年数に応じた基本給の6か月分ないし14か月分の退職加算金を支払うこととして、それぞれ希望退職者の募集を行っていること、本件解雇に伴うXらの不利益を軽減する方法として、Y社の費用負担による再就職支援会社の利用を提案したり、他の学校法人に対し北海道短大の教員の紹介文書を送付し採用機会を得られるよう努めたりしていることにも鑑みれば、Y社の対応は、本件解雇及び本件解雇に伴う不利益を回避、軽減するための努力を十分に尽くしたものと認めるのが相当である

4 Y社が、北海道短大の教職員協議会における意見交換や、北海道短大の教職員との個別面談を実施していることからすれば、Y社は、Xらに対し、Xらが加入する組合や教職員協議会を通じて又は直接に、本件解雇の必要性、本件解雇及びそれに伴う不利益の回避措置、本件解雇の対象者の選定について、納得を得られるよう十分な説明、協議を行ったものというべきである。

一般的に整理解雇の有効性は非常に厳しく判断されますが、上記判例のポイント3のように、ここまで被解雇者の不利益を回避、軽減する努力をすれば、裁判所も有効だと認定しやすくなります。

もっとも、会社の規模によってはここまでできないということも当然ありますが。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇159(トライコー事件)

おはようございます。

今日は、元従業員に対する適格性欠如等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トライコー事件(東京地裁平成26年1月30日・労判1097号75頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたところ、平成24年3月31日をもって解雇されたXが、Y社に対し、①上記解雇が無効であるなどとして、Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに同年4月1日以降の賃金および遅延損害金、②上記解雇がXに対する不法行為に該当する、あるいは、Y社が労働環境を整備する注意義務に違反したとして、慰謝料120万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

解雇予告手当の支払いを命じた

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、記帳・会計処理に関する相応の知識・経験を有するものと評価されて、記帳・経理業務を専門に担当するコンサルタントとして雇用されたものであり、本件雇用契約上、顧客から提供された原資料を基に適切な仕訳を行い、正確な会計書類を各顧客と取り決めた期限までに提出するとともに、原資料を所定のルールに従って分類整理してファイリングをして管理し、顧客からの会計書類の内容に関する問い合わせに対し、適切に回答すべき職務を有していたにもかかわらず、その職務を怠り、月次決算結果を所定の期限までに提出せず、会計処理を誤り、原資料を適切に管理せず、顧客からの問い合わせに対して適切に回答をしなかったものと認められる。そして、Xは、Y社から、職務懈怠が明らかになる都度、注意・指導をされながら、その職務遂行状況に改善がみられなかったものと認められ、結局のところ、Xは、前記の職務を遂行し得るに足る能力を十分に有していなかったものといわざるを得ない。
そうすると、Xについては、少なくとも、Y社就業規則55条(7)所定の解雇事由があるものというべきである。

2 Y社は、Xの上記職務懈怠によって、M社から業務委託を打ち切られ、また、B社及びP社に係る会計処理の修正に多大な労力を要するとともに、その修正が大きな規模に及んだものであると認められる。
また、Y社は、平成24年2月、Xの解雇を検討したものの、これを控えて、Xに対し、退職を勧奨し、その際、Xからの要望を受けて、一定期間引き続き在籍させる一方で、その期間の勤務を免除する取扱いをするなどして、当事者双方の合意による円満な退職を実現しようとしたものと認められる
これらの事実に、前記認定のXの職務遂行の状況やY社の注意・指導の状況等を併せみれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるというべきである。

3 解雇予告期間をおかず、解雇予告手当の支払をしなかったこと、解雇理由を速やかに通知しなかったことから、直ちに解雇の効力が否定されるものではなく、使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、また、予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合には、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、又は予告手当の支払いをしたときに解雇の効力を生ずるものと解すべきである(最高裁昭和35年3月11日判決)。
以上によれば、本件解雇は、有効なものであるが、その効力自体は、平成24年4月30日に生じたものであると認められる。

能力不足を理由とする解雇の場合には、この裁判例のように、注意・指導を繰り返すことが求められます。

それにもかかわらず改善が見られなかったという一連の流れを客観的に明らかにしておくことが必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇158(ジヤコス事件)

おはようございます。

今日は、業務命令違反等を理由とする試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ジヤコス事件(東京地裁平成26年1月21日・労判1097号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結していたXが、試用期間中に解雇されたことが、解雇権濫用であり、無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Xが試用期間中であり、XとY社との間の試用期間付雇用契約が解約権留保付雇用契約であることについては当事者間に争いがないが、試用期間中といえども一旦成立した雇用契約を解消させる以上、留保解約権の行使は、法的には解雇であるから、解雇権濫用法理に服することとなり、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合にのみ許されると解すべきである

2 Xが、顧客からの問い合わせに対し、マニュアル記載の回答そのものではない応対を複数回行ったことが認められる。
しかし、Y社の主張を前提としても、Y社の業務命令は、顧客に対し誠実かつ配慮を持って対応せよという趣旨なのであって、マニュアルの回答例そのものを回答せよという趣旨ではない上記Xの対応は、いずれも常識的な対応の範囲内というべきであり、やや事務的にすぎると思われる対応はあるものの、これがY社と当該顧客との継続的な取引を阻害するものであるとまでは認められない。Xの対応に関連して顧客から苦情があったことは認められるのは、前記・・・のみであり、その内容も・・のとおりであって、Xの対応に対する苦情とはいえない
したがって、Xの上記対応がY社の業務命令違反に当たる旨のY社の主張は、これを認めることができず、他にXの業務命令違反の事実の存在を認めることはできない。

マニュアル通りの回答をしないからといって、それだけで解雇が正当とはなりません。

結局は、程度問題なので、あとになってみないと解雇の有効性は判断できないところがつらいところですが、仕方ありません。

会社としては、短気を起こさず、教育し、根気強く改善を求めることからやりましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇157(P社事件)

おはようございます。

今日は、うつ病の労働者に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

P社事件(東京地裁平成26年7月18日・労経速2220号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社から平成23年9月28日付けで懲戒解雇の通知を受け、その後、平成24年2月1日付けで通常解雇の意思表示を受けたとして、それらの無効を主張し、Y社に対し、Xが労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに、給与及び賞与の支払い、遅延損害金、上記のY社による懲戒解雇の通知や本件解雇等がXに対する不法行為になるとして、不法行為に基づく慰謝料200万円、遅延損害金の支払いを求める事案である。

なお、Xは、平成23年6月28日、うつ病の診断を受け、同年7月8日付け休職届けにより、Y社に対し、体調不良を理由とし、同月9日から同年9月28日までの休職を申し出ていた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・先行解雇に係る通知書が懲戒解雇事由として掲げるXの無断欠勤は認められるが、それは8日間のことでしかなく、この程度の無断欠勤をもって就業規則の定める「無断欠勤・・・が著しく多く」に当たるとすることはできないというべきである。そうすると、先行解雇は、そもそも解雇事由のない不適法なものであったといえる。そして本件カルテの「体調悪い、うつ状態悪化、会社から一方的に懲戒処分通知書送られてきた。」とのXの訴えの記載及びD医師の診断によれば、先行解雇によって、本件うつ病の症状が何らかの程度、増悪したものと認めることができる
しかし、Xは、先行解雇の通知書を受領した後、ユニオンからY社への抗議書の作成方法を同年10月3日に教えてもらう段取りをし、同年9月29日に午前午後と2回、甲分院を訪れ、午後にD医師を受診し、同月30日には労働基準監督署への相談を行い、その結果をD医師に電話で報告していることを認めることができるのであり、このようなXの活動報告にかんがみると、本件うつ病の増悪の程度は、重いものであったとは決していえないものであったと認めることができる。
しかも、同時に、無断欠勤の理由と無断欠勤に至る経緯、同年6月27日のY社代表者との面談によりXが退職するかどうかを検討すべきこととなっていたこと、Xにおいても同年9月28日までY社に対する休職に関する連絡を取らずにいた態度を総合考慮すると、Xにおいて、先行解雇の時点までに、Y社から、自己に対し、退職に関する決定が求められなくなり、同年6月27日の段階で予告された懲戒解雇という手段が執られない状況になったと信じるのが相当であったという状態にはなく、むしろ、自己に対する懲戒解雇のあり得べきことを予期すべきものであったといえ、そのような意味で、Y社が先行解雇を行ったことにも斟酌し得る点がないではないというべきである。
以上によれば、先行解雇の違法性は、本件解雇の社会通念上の相当性を障害する事情ではあるが、相当性の検討をする際に、考慮すべき度合いは大きくないといえる

2 Xは、Y社代理人弁護士の申入れにもかかわらず、復職を認定する資料として、Y社が業務上の指示として指定した東京医科大学病院メンタルヘルス科の受診を拒否したのであり、このようにXが本件うつ病に関する復職手続を履践することを明確に拒否したために、Y社は、就業規則上求められている復職の判断をするについての前提資料が提出されない状態の下に置かれ、そのような状況の中で、Xの主治医であるD医師から相矛盾する内容の12月及び1月の両診断書が提出され、最新の一月診断書上からは就労不能の情報を得たという経緯が認められ、しかも、一月診断書により、Xの状況について「心身の障害により、勤務に支障が出た場合」と判断したことにも合理性が肯定されるというべきであるから、本件の事実関係の下では、Y社において、さらにXやその主治医であるD医師に対する問合せを行うことなく、復職ができないものとして、「心身の障害により、勤務に支障が出た場合」と判断したことには問題がない。

本件のように、精神障害により休職しているケースにおいて、復職の可否を決定することは、いつだって悩ましいものです。

正解が見えない「ケースバイケース」の世界です。

そんな中でも、過去の裁判例からヒントを得て、考えられる適正妥当なプロセスを踏むことが大切なのです。

今回のケースも参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇156(ミクスジャパン事件)

おはようございます。

今日は、経営悪化に伴う会社解散と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ミクスジャパン事件(東京地裁平成25年12月27日・労判1095号86頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を解雇されたX1~X12が、①当該解雇は、手続きの妥当性および相当性を欠いており無効であると主張し、解雇後2か月分の賃金の支払いを、②仮に上記解雇が有効であるとしても、Y社は、解雇の3か月前にはXらに解雇を予告すべき労働契約上の信義則に基づく義務を負っていたがこれを怠ったと主張し、そのためXらが上記解雇後2か月分の賃金相当額の損害を被ったとして、その賠償を求め、かつ、③未払いの時間外割増賃金、④付加金および各遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

本件解雇は有効
→2か月分の賃金相当額の損害賠償請求権は発生しない

信義則上の通知義務は認められない

時間外割増賃金、付加金の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社の業績が悪化し回復の見込みがないことから、単独株主であるMISA社の意向を踏まえて解散するに至ったことに伴うXらの解雇はやむを得ないものというべきであり、解雇について合理的な理由があったものと認められる。

2 Xらは、本件労働協約1及び2の失効後も、Y社は、本件労働協約2に定めがあった本件通知義務を信義則上負っていたところこれを怠っており、そのような状況下で行われた本件解雇は相当性を欠く旨主張する。
しかし、本件労働協約1及び2は、いずれも、その更新期間の限度が3年と明定されており、当該定めにより、本件解雇の約1年前である平成22年11月15日に失効している。・・・本件のように、新たな労働協約の締結を、本件組合内部における引継ぎの不備によって失念した場合についてまで、当然に、信義則上、Y社が本件通知義務を負うと解することはできない
したがって、Y社が、本件解雇の3か月前にその旨を通知せず、1か月前に説明するにとどまった点をもって、本件解雇が相当性を欠くものであるということはできない。

3 Xらの退職に伴う経済的手当としては、Y社がXらに対し、Y社所定の規定に基づく退職金を満額支給したことにより一定程度は果たされているとみることができ、それ以上の手当をすべきであるとする根拠は見いだし難い。また、本件解雇は、本件解散と同時にXらに説明されたものであるところ、長期間にわたり経営状況が低迷し、改善の兆しの見えないY社の事業について、これをいつ廃止するべきかという問題は、基本的にはY社側の経営判断により決定されるべきものであって、本件通知義務をY社が負っていない本件においては、本件解雇の通知が解雇の1か月前であること(労働基準法20条1項本文の要求する予告期間は遵守されている。)をもって、Xらに時間的余裕を与えなかったということはできないし、Y社が本件組合との団体交渉に応じ、本件組合の要求に対し検討の上回答していることなどからすれば、Y社においてXらの就職活動を援助する措置を取らなければならない根拠も格別見いだすことができない。

労働組合のみなさんは、上記判例のポイント2のような状況に気をつけましょう。

会社をいつたたむかは経営判断ですので、原則として会社の自由ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇155(ガイア事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、経営悪化を理由とする解雇および更新拒絶の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ガイア事件(東京地裁平成25年10月8日・労判1088号82頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、Y社による解雇及び更新拒絶が無効であるとする労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした未払賃金、時間外手当、育児休業給付金の申請手続にかかる証明拒絶による債務不履行および不法行為に基づく損害賠償およびそれらの遅延損害金の支払いならびにY社が関係諸機関から納付を求められている社会保険料のうちX負担部分を超える金員の支払義務のないことの確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

更新拒絶も無効

育児休業給付金相当額130万6800円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇の理由として、Xが平成23年11月半ばからY社からの連絡に一切応じなくなり、電話も電子メールもY社からのものは着信拒否の設定を行い、Y社から連絡が取れなくなったことを主張する。しかし、本件全証拠によっても同主張を認めるに足りず、かえって、平成23年11月13日にはXがY社に電子メールを送信しており、同月下旬にはXが体調不良となったためXの夫を介してY社と連絡を取っていることが認められる。本件解雇の有効性を基礎づける事実は認められず、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権を濫用したものとして無効と解するのが相当である。

2 本件雇用契約は合計8回、約2年間にわたり、その途中平成22年10月20日からは契約書に自動更新の条項が明記される中で更新されてきたものであるから、Xにおいて更新を期待することに合理的な理由が認められる。他方、Y社は、本件更新拒絶の際のY社の経営状況は悪化し、10数人いた従業員は数人に減り、それでも毎月赤字で、開発技術を持っていない総務要員を雇用することができなくなった旨主張するが、同主張を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件更新拒絶は無効であって、本件雇用契約は更新前と同様の条件で更新されていると認めるのが相当である。

3 本件解雇等は上記のとおり無効であり、XはY社の従業員の地位を有しているところ、使用者が労働者が雇用保険及び社会保険給付を受けるに当たって手続上必要な協力をすることは、労働契約上の付随的義務であると解され、その拒絶は債務不履行を構成する
・・・Y社が証明を拒否したのは、・・・8か月間であり、その間に支給されるはずであった育児休業給付金は130万6800円(16万3350円×8か月)であるから、Xの損害は130万6800円と認めるのが相当であり、Y社は同額について損害賠償義務を負う

使用者のみなさん、上記判例のポイント3に注意してくださいね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇154(アウトソーシング(解雇)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、契約に必要な誓約書等を提出しなかったことを理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

アウトソーシング事件(東京地裁平成25年12月3日・労判1094号85頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社であるY社と雇用契約を締結したXが雇用契約締結に必要な書類を提出しなかったとしてY社に解雇されたことから、Xが本件解雇は無効であるとして、Xが他社に就職する前日(平成25年1月31日)までの間の賃金(既払分を除く)の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

本件契約は平成24年8月31日をもって終了
→賃金54万2554円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 本件協定書は、使用者と労働者間の協定文書であり、本件誓約書は、労働者が遵守事項を誓約する文書であり、労働者に対して任意の提出を求めるほかないものであって、いずれも業務命令によって提出を強制できるものではない。したがって、Xが本件誓約書等の提出を拒んだこと自体を業務命令違反とすることはできない
ただ、本件誓約書を提出しなかった場合、それが本件誓約書に列挙された事由を遵守しない旨を表明したと評価できるようなときやY社の円滑な業務遂行を故意に妨害したと評価できるようなときには、社員としての適格性の問題が生じうるが、Xは、作業服代の控除の条項を問題にしていたのであって、本件誓約書に列挙された事由を遵守しない旨を表明したものとは評価できない。また、Xは、Y社の業務遂行を妨害する目的で本件誓約書等の提出を拒んでいたとも評価できない。そうすると、Xが本件誓約書等の提出を拒んだことは、「成績不良で、社員として不適当と認められた場合」に当たらない。

2 Y社は、A食品に対して、派遣労働者から守秘義務の履行に関する誓約書を提出させ、A食品の機密保持の確保を図る義務を負っており、本件誓約書の提出がないことにより業務上の不都合が生じていたといえる。しかしながら、Y社は、本件誓約書の提出がないまま3日間Xを勤務させているが、A食品との間で具体的な問題が生じていた様子はうかがわれない。また、Y社は、A食品の勤務では作業服代の控除が生じない旨の確認書を差し入れるなどして、Xの指摘する疑問点を解消した上で本件誓約書の提出を求めることもできたのであって、業務上の不都合が解雇もやむを得ない程度まで高まっていたとは認められない

3 本件業務に関する求人情報には「長期(3か月以上)」との記載があるが、雇用契約書には「実際に更新するか否かは、従事している業務の状況による」と記載されていること、就業条件明示書には1年単位の変形労働時間制を採用する旨が記載されているが、Xについて1年単位でシフト表が組まれていたわけではないことに照らすと、「長期(3か月以上)」との記載が更新を保証するものとはいうことはできない。
・・・そうすると、更新が1度もされたことがないXについて、更新の合理性期待があったと認めるに足りる事情はないというべきであり、本件契約は期限の8月31日をもって終了したと認められる

従業員に書面の提出を求めたにもかかわらず、提出されない場合、ただちに業務命令違反になるかは慎重に検討する必要があります。

まして、解雇をするとなるとなおさらです。

従業員が提出を拒む理由に合理性があるかどうかを検討する必要がありますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇153(ソーシャルサービス協会事件)

おはようございます。

今日は、事業本部閉鎖に伴う解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ソーシャルサービス協会事件(東京地裁平成25年12月18日・労判1094号80頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社による解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金および賞与ならびに不法行為(不当解雇)に基づく損害賠償金の支払いを求めた事案である。

Y社は、Xと雇用契約を締結したのはY社ではなく、権利能力なき財団であるY社東京第一事業本部であると主張して、X・Y社間の雇用契約の存在を争うとともに、仮に雇用契約が存在するとしても上記解雇は有効であると主張している。

【裁判所の判断】

解雇は無効

不法行為に基づく慰謝料の請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・Y社東京第一事業本部の役員の任免にはY社理事長が関与し、Y社東京第一事業本部の役員はY社理事会の決定及びY社理事長の指揮命令に従って業務遂行することとされているのであるから、Y社東京第一事業本部の財産がY社から独立して管理する体制が取られているとみることは困難である
そうすると、Y社は、登記、寄附行為、厚生労働省への報告等においては、Y社東京第一事業本部を本人格を有するY社の一部である従たる事業所として扱っているところ、上記のとおり、Y社東京第一事業本部について権利能力なき財団の要件を充足しているとみることは困難であるから、Y社東京第一事業本部がY社とは別個の権利能力なき財団であると認めることはできない

2 Y社において、本件解雇を行った平成23年10月当時、Y社東京第一事業本部の閉鎖に伴って、Y社東京第一事業本部の事業に従事していた人員が余剰人員となっていたことは認められるものの、Y社は同年3月時点において2億円を超える現預金を保有しており、上記余剰人員を削減しなければ債務超過に陥るような状況になかったことは明らかであり、人員削減の必要性が高かったものと認めることはできない。
にもかかわらず、Y社は、期間の定めのない雇用契約を締結しているXに対し、6か月間の有期雇用契約への変更を提案したものの、他の事業所への配置転換や希望退職の募集など、本件解雇を回避するためのみるべき措置を講じておらず、十分な解雇回避努力義務を果たしたものということはできない。上記のとおり、Y社においては、従たる事業所は完全な独立採算で独立した運営を行っており、本部が従たる事業所に人員配置を命じることはしない運用を行っていることが認められるものの、本件雇用契約における使用者がY社である以上、そのような内部的制限を行っていることをもって、Y社東京第一事業本部以外の従たる事業所への配置転換等の解雇回避努力を行わなくてよいことになるものではないというべきである
・・・そうすると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるものとは認められないから、その権利を濫用したものとして無効である。

3 普通解雇された労働者は、当該解雇が無効である場合には、当該労働者に就労する意思及び能力がある限り、使用者に対する雇用契約上の地位の確認とともに、民法536条2項に基づいて(労務に従事することなく)解雇後の賃金の支払を請求することができるところ、当該解雇により当該労働者が被った精神的苦痛は、雇用契約上の地位が確認され、解雇後の賃金が支払われることによって慰謝されるのが通常であり、使用者に積極的な加害目的があったり、著しく不当な態様の解雇であるなどの事情により、地位確認と解雇後の賃金支払によってもなお慰謝されないような特段の精神的苦痛があったものと認められる場合に初めて慰謝料を請求することができると解するのが相当である。
これを本件についてみると、一件記録を精査検討しても、前記特段の精神的苦痛を認めるに足りる事実はない。
よって、Xの不法行為に基づく慰謝料の請求は理由がない。

非常に珍しい事案です。

このような戦い方もあるのです。

上記判例のポイント2のとおり、人事異動に関する内部的な制限は、整理解雇における解雇回避努力を否定するものにはならない可能性がありますので、注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇152(横河電機(SE・うつ病罹患)事件

おはようございます。

今日は、休職期間満了を理由とする退職扱いに対する損害賠償請求についての裁判例を見てみましょう。

横河電機(SE・うつ病罹患)事件(東京高裁平成25年11月27日・労判1091号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、上司であったAから、長時間の残業を強いられた上、Xの人格を否定するような非難、罵倒、叱責等を受けたことから、肉体的、精神的に疲労困ぱいし、鬱病等にり患して休職し、休職期間の満了を理由に退職を余儀なくされたと主張して、Aに対しては不法行為に基づき、Y社に対しては主位的にAの不法行為についての使用者責任、予備的に労働契約上の安全配慮義務違反等による債務不履行責任に基づき、損害賠償及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原審は、Xが鬱病等にり患したことについてAに過失があったとは認められず、Y社に安全配慮義務違反等があったとも認められないとして、Xの請求をいずれも棄却した

この原判決に対し、Xが控訴し、逸失利益及び治療費に係る損害の主張を追加して、上記請求を拡張するとともに、Xの休職は業務上の傷病によるものであるから休職期間の満了を理由にXを退職扱いすることは許されないとして、XがY社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める訴えを追加した。

【裁判所の判断】

Y社に対し、534万5641円の支払いを命じた。

その余の請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 ・・・さらに、AがXの業務の成果について否定的な発言をしたこと、その他、AがXに対して強い口調で仕事上の注意や指示をしたことについては、Aの発言等は、Xの名誉を毀損する内容のものでもないのであって、Xがそれらに矛盾や不合理を感じることがあったとしても、業務上の指示・指導の範囲を逸脱したものということはできない
したがって、Aにおいて、Xに対する罵倒、誹謗中傷、責任転嫁、残業の強制、その他業務上の指示・指導の範囲を逸脱した違法な行為があったとは認められず、Aに対する不法行為に基づく損害賠償請求及びY社に対する使用者責任に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。

2 Xは、Y社がXに対して復職当初からフルタイム勤務を求めたことにつき安全配慮義務違反があると主張するが、休職者が復職するに当たり、短時間勤務から徐々に勤務時間を延ばしていく方法も考えられるが、場合によっては職場復帰の当初から本来の勤務時間で就労するようにさせた方が良いこともあり、一概に短時間労働から始めて徐々にフルタイム勤務に移行させるべきであると断ずることができるものではない

3 Xの鬱病の症状が遷延化し、Xが長期間にわたり休職を継続したことについては、Xの個人の素質、ぜい弱性、生活の自己管理能力が少なからず寄与しているものとみるべきであり、鬱病の発症から寛解状態が4か月以上継続した平成18年10月末日までの症状に基づく損害については、全てY社の安全配慮義務違反と相当因果関係があると認められるが、その後、動揺傾向があるとされつつも寛解状態が更に1年間継続した平成19年10月末日までの損害については、50%の限度において上記相当因果関係が認められ、それ以降の損害については、上記相当因果関係は認められないというべきである

4 Xが過重な心理的負荷の掛かる業務に従事せず、鬱病を発症しなければ得られたであろう収入額は、想定される基本給に、想定される残業代として、平成17年1月から8月までの平均残業時間を考慮し、3割を加算して、さらに想定される賞与(1か月当たりで計算する。)を加えた額から、上記期間中にXが実際に受領した給与、賞与及び傷病手当金の額を控除して、算出するのが相当である。

5 Xの精神障害は、平成19年10月を過ぎた頃には上記業務に起因する心理的負荷により生じたものとみることはできなくなっており、Y社から雇用を解かれた平成21年1月30日の時点において、鬱病の発症から3年以上が経過してもなおその症状が全快せず、Y社で業務に従事することが困難であったと認められる。
そうすると、Xは、平成21年1月30日の時点において、一般社員就業規則35条(8)の「業務上の傷病者で傷病発生のときから3か年を経ても全快しないとき」に該当する事由が存在し、かつ、労働基準法19条1項所定の解雇制限事由は存在しないから、Y社による解雇は、上記就業規則の条項に基づくものとして有効であるというべきである。
したがって、Xは、Y社に対して労働契約上の権利を有する地位にあるとは認められない。

この裁判例は、非常に重要ですので、みなさん、参考にしてください。

リハビリ出社については、使用者の安全配慮義務として当然に行われるべきものとまではいえない、というのが裁判所の考え方です。

また、長期にわたり休職が続いている場合、会社としては、解雇制限との関係で難しい判断を迫られることになります。

東芝事件のような例もありますので。

完全な正解は、どこまでいってもありません。 後から正解だったのかがわかるのです。

休職命令を発するとき、休職期間中、復職の可否については、専門家に相談をしつつ、慎重に判断しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。