Category Archives: 賃金

賃金87(ZKR(旧全管連)事件)

おはようございます。

今日は、会員権等販売の元営業社員による未払歩合給等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ZKR(旧全管連)事件(大阪地裁平成26年1月16日・労判1096号88頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、雇用契約に基づき、未払いの歩合給およびこれに対する遅延損害金を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し約250万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、営業社員を募集する広告に、基本給のほかに歩合給を支給する旨を記載していたこと、Xは、入社時、Y社から、基本給の他に歩合給が支給されると聞いたが、その際、歩合給の支給に何らの留保は付されていなかったこと、入社後数ヶ月間は固定給が25万円であったが、数か月後に19万3000円に引き下げられたこと、給与規程に歩合給に関する定めはないが、Y社は歩合規定を設けて営業社員らに歩合を支払っており、Xに対しては、入社後平成23年4月度まで、明細書に総支給額として記載された金額から所得税の源泉徴収分を差し引いた金額が、特段の留保なく全額支払われていたこと、Y社は、Xに対し、平成24年3月9日に31万3000円、同年5月1日、同月31日及び同年7月2日に各5万円を支払ったが、その後は支払をしていないこと、Y社は、Xら営業社員に対し、月別の売上げを公表したことはないこと、Y社は、平成23年5月度以降明細書どおりの支払をしないことについて、Xに対し、売上げが上がらないので支払を待ってほしいと述べたものの、月次売上が6億円に達しないからである旨の説明をしたことはないことが認められる。

2 これらの事実によれば、XとY社との間には、Y社が、Xの上げた売上げ等に応じて歩合を計算し、明細書に記載してこれをXに交付し、当該明細書に記載された金額を歩合給として支給することを内容とする黙示の合意が存在し、これが本件雇用契約の内容となっていたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。

3 Y社は、歩合はY社がその従業員に対し恩恵的に支払っていた報奨金であってXに請求権はないと主張するが、上記各事実、・・・に照らせば、明細書を交付して支払われる金員は、Xの営業社員としての労働の対償すなわち賃金としての歩合給であり、その支払が上記のとおり本件雇用契約の内容となっていたものと推認される。

上記判例のポイント1のような事実が認定されれば、黙示の合意が存在するとされてもやむを得ないと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金86(X協会事件)

おはようございます。

今日は、賃金未払いのまま自宅謹慎処分を続けることが違法とされた裁判例を見てみましょう。

X協会事件(東京地裁平成26年6月4日・労経速2225号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員であったXが、Y社から正当な理由なく自宅謹慎を命じられ、その間にされた退職勧奨に応じなかったところ、自宅謹慎のまま賃金の未払が続き、Y社からの退職を余儀なくされたとして、雇用契約に基づく未払賃金の支払及び不法行為による損害賠償の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、未払賃金124万円と慰謝料30万円の合計154万円等の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、従前からの事務局内におけるXの言動、本件甲印刷での出来事、Dからの欠勤の原因の事実確認及び診断書の提出等により、Dのストレス反応及びこれによる欠勤の主たる原因がXとの人間関係によるものと判断して、本件謹慎処分に踏み切ったものと認められる。・・・これらの事情に照らせば、Y社が上記のような判断をしたことには相応の合理性が認められ、Xに対して行われた本件謹慎処分が違法なものとまではいえないというべきである。また、本件謹慎処分による自宅謹慎処分による自宅謹慎中のXの課題レポートの内容等に照らせば、Xが真摯に自らの対応を振り返り、反省ないし改善の意向を十分に示しているとはいい難いとY社が判断して、一定程度にわたってその謹慎期間を延長すること自体は、その間、賃金支払を継続していることに照らせば、必ずしも違法、不当なものとまではいい難いというべきである。

2 さらに、Y社の事務局の規模、XとDを始めとする他の事務局員との関係やXの仕事振り、Dの病状等を考慮すれば、Y社がXの勤務継続が困難であると判断して、Xに対し、賃金支払を継続しつつ退職勧奨を行うこと自体は、直ちには違法とはいい難いというべきである。

3 しかしながら、本件謹慎処分による謹慎期間は、その後も相当長期間にわたって継続されており、その間、Dの職場復帰等に向けて特にDとの間でXの状況を踏まえた話し合い等がされることもなく、また、Xに対しても、真摯な反省ないし改善を求めるという目的から離れ、専らXの退職を是として複数回にわたる退職勧奨を行うようになっていったことなどからすれば、Y社が退職勧奨に応じないXに対する対応を明確にすることなく、Xの自主退職を期待して本件謹慎処分の延長、更新を繰り返し、これを漫然と継続したことは違法といわざるを得ないというべきである。

4 ましてや、Y社が、退職勧奨に応じないXに対して、解雇等の措置に踏み切ることなく、また、Xの退職の意思が明らかでないにもかかわらず、平成24年1月分以降の賃金を支払わない措置をとったことは明らかに違法なものというべきである。なお、この点につき、Y社は、Xが本件謹慎処分による謹慎期間中に労務を提供していなかった旨を主張するが、XがY社に対して労務提供をできなかったのは、本件謹慎処分によってその受領を拒否されていたからであって、また、本件謹慎処分が当然に賃金不支給といった不利益措置を含むものであったことはうかがわれないから、Y社は、本件謹慎処分継続中もなおXに対する賃金支払義務を負っていたというべきである

退職勧奨の目的で謹慎処分を延長、更新を繰り返した行為が違法であると判断されています。

また、休職期間中、賃金の支払がない場合、休職命令に合理性が認められなければ、ノーワークだからといってノーペイにはなりません。

休職命令を発する場合には、気を付けて下さい。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金85(シー・エー・ピー事件)

おはようございます。

今日は、元従業員らによる未払賃金請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

シー・エー・ピー事件(東京地裁平成26年1月31日・労判1100号92頁)

【事案の概要】

第1事件
本件は、XらがY社に対し、労働契約に基づき、平成23年分から24年6月分の未払賃金およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

第2事件
Y社が、X1が、偽造書類を用いて、Y社に対する賃金請求権を請求債権としてY社の売掛金債権に対する仮差押決定を詐取したとして、不法行為に基づき、損害350万円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

第1事件につき、Xらの請求を一部認容(合計約150万円)

第2事件につき、Y社の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xらと賃金減額の合意をした旨の主張をし、これに沿う証拠もある。
しかしながら、賃金の減額という重大な内容の合意が成立していたのであれば、その旨を書面化するなどして明らかにしておくことが当然であるというべきであるが、そのような書面は一切存在しないし、そのような書面を作成しなかった理由について、Y社代表者は何ら合理的な説明をしないのであるから、Y社とXらの間で賃金の減額につき何らかの合意があったとは認められない
また、そもそも前記主張及び証拠によっても、Xらの各賃金のどの部分をどの程度減額するという合意であったのかについて具体的に説明したとは認められない。そして、仮に、Aにおいて抽象的にXらの賃金の減額をする旨を説明し、Xらがこれに承諾したとしても、これにより法的に拘束力のある合意が成立したとはいえない。
よって、Y社とXらの間に賃金減額の合意があったとは認められず、この点に関するY社の主張は理由がない。

2 仮差押命令申立てが相手方に対する違法な行為といえるのは、当該申立手続において債権者が主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、債権者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに敢えて申立てをしたなど、申立てが仮差押制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
これを本件について見るに、本件仮差押命令に係る請求債権は、本件訴えにおいてX1の請求に係る債権のうち元本部分と同一のものであるところ、賃金減額の合意は認められないのであるから、X1がY社に対して前記債権を有しているというべきである。
そうすると、本件仮差押命令申立手続において債権者が主張した権利が事実的、法律的根拠を欠くものとはいえない。

賃金減額の合意があったか否かについて、裁判所がどのように判断するのかがよくわかりますね。

応用できる点ですので、是非、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金84(日本テレビ放送網事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、傷病欠勤者の復職拒否を相当として、復職を前提とした賃金請求を認めなかった裁判例を見てみましょう。

日本テレビ放送網事件(東京地裁平成26年5月13日・労経速2220号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を傷病欠勤等していたXが、Y社に復職の申出をしたところY社からこれを拒否されたことにつき、復職拒否は正当な理由がなく、Xは復職を前提とした賃金請求権を有する旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、復職可能時から支払われるべき賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成22年9月10日又は、同年10月26日の時点で、復職可能であったと主張するが、Y社がXの主治医に対し、文書で治療経過や症状等にかかる意見を照会したところ、平成22年10月15日付け文書回答では「今後も職場における対人関係が休職前と同様である場合には、再度症状の悪化を招く可能性があり、その点に対する配慮が必要」と記載されていたこと、Xの状態は、平成23年において、人事局員と会うのではないかと緊張して吐いてしまうなどの状態であったこと、これらの状況を踏まえ、産業医は復職可能という判断はできないとの意見であったこと、他方、Xは人事局及びビデオラウンジへのリハビリ出勤を恣意的、客観性を欠くとして拒否し続けたことなどの事実関係によれば、Y社が、Xの主治医であるD医師の意見につき、現状のままXをビデオラウンジに職場復帰させると再度症状の悪化を招く可能性があると理解したこと、その後も、Xが人事局及び原職場のリハビリ出社を経るまで、Xの休職事由が消滅したと判断できないと考えたことは、いずれも相当というべきであり、Xの復職を認めなかったことにつき、Y社に責めに帰すべき事由は認められない

2 Xは、平成23年4月11日までに復職プログラムを履践したから、平成23年4月12日以降、Y社がXの提供する労務の受領を拒絶したことには正当な理由がないと主張するが、Y社の復職プログラムでは、会社のメンタルヘルス不調者の職場復帰の可否判断について、三段階(診療所、人事局、原職)のリハビリ出勤を経る運用をしているところ、Xは、第一段階の社内診療所へのリハビリ勤務を平成23年1月5日から同年4月14日まで行ったものの、毎日社内で7時間、8時間を過ごすのはつらいなどの理由で、週2回約1時間程度社内診療所に滞在することとしてしまい、人事局、原職場へのリハビリ勤務へ進もうとしなかったこと、それまでの診療所へのリハビリ出勤において、人事局員と会うのではないかと緊張して吐いてしまうという状態であり、産業医であるE医師としては、復職した状況に近いかたちで人事局及び原職場へのリハビリ出勤をしてみないと、復職可能という判断はできないという意見であったという事情からすると、平成23年4月12日の時点では、Xが復職可能であったとは認められず、同日以降、Y社がXの提供する労務の受領を拒絶したことに正当な理由はないとは認められない。

3 以上のとおり、Xに対するY社の復職拒否はいずれも相当であって、Xの就労不能はY社の責めに帰すべき事由によるものとは認められずXの復職を前提とした賃金請求権は認められない。

復職拒否をし、退職処分をする場合、会社としては、どの程度の対応をしたらよいのかは悩ましいところです。

会社としては、今回のケースの中で、主治医に対し、意見照会をする等の対応は、参考にしてください。

また、リハビリ出社自体は、法的な義務ではありませんが、仮に復職プログラムを策定し、運用していこうと考える場合には、どのようなプログラムにしたらよいか、顧問弁護士や顧問社労士に相談してみてください。

賃金83(ディエスヴィ・エアーシー事件)

おはようございます。

さて、今日は、更新後9年9か月勤務してきた従業員からの退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ディエスヴィ・エアシー事件(東京地裁平成25年12月5日・労判1093号79頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づく退職金およびこれに対する遅延損害金を求めた事案である。

本件の争点は、Xが、退職金規則1条(2)の「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」に該当せず、同条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するか否かである。

【裁判所の判断】

Y社に対し251万1250円の支払を命じた

【判例のポイント】

1  退職金規則1条(2)において、退職金請求権を有しない社員として定める「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」の意義については、同条における退職金請求権を有しない社員として、上記の者と併せて「試用期間中の者」及び「勤続3年未満の者」が規定されていることにも照らして合理的に解釈する必要があるところ、一般に、存続期間の定めのある雇用契約については、短期間の臨時的雇用として期間満了後の更新等による雇用継続がそもそも想定されていない形態のものから、当初より比較的長期の雇用継続が予定され、実際の雇用期間も長期に及び、およそ労働力の臨時的需要に対応するものとはいい難い状況のものまで様々な形態が考えられ得るのであり、当該被用者が、Y社との間で存続期間の定めのある雇用契約を締結した場合であっても、あらゆる場合において、当該被用者が「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」に含まれ、退職金請求権を有しないものと解するのは、退職金請求権を有しないものと解するのは、退職金の賃金後払的性格及び功労報償的正確に照らして相当とはいえない。この場合、当該雇用契約が存続期間の定めのある雇用契約であると解される場合であっても、当該有期雇用契約の締結時に当事者間において想定された更新可能性の程度、期間満了後の更新等による雇用継続の期間・実態、当該被用者の勤務内容・賃金形態等の諸般の事情を考慮した結果、当該被用者の従前の雇用継続状況が、退職金の賃金後払的性格及び功労報償的性格に照らして、「試用期間中の者」や「勤続3年未満の者」と同様に当該被用者の退職金請求権を否定すべき雇用の臨時的性格が存在しないという状況に至っている場合には、当該被用者は「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」には該当せず、退職金規則1条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するものと解するのが相当である

2 …Xの勤続期間については、上記黙示の更新前における1年間に加え、とりわけ同更新後において、9年9か月間という長期に及んでいる。…Xが、Y社において従事していた業務内容や勤務時間・執務条件等については、Y社との間で存続期間の定めのない雇用契約を締結していた他の被用者との比較において、特段の相違はみられない

3 仮に、本件雇用契約について、1年の存続期間を定めた有期雇用契約であると解するとしても、Xの雇用については、上記黙示の更新の前後を通算した勤続期間全体について、Xの退職金請求権を否定すべき臨時的性格が存在しないというべきであるから、Xは、退職金規則1条(2)に定める「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」には該当せず、同条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するものと解するのが相当である。

就業規則をはじめとする会社内部の規程の内容について、裁判所は、形式的に判断するだけでなく、具体的な事情を考慮した上で、実質的に判断します。

したがって、本件のような結論に至ることは何ら不思議なことではありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金82(A税務署職員事件)

おはようございます。

さて、今日は、早期退職特例の適用の可否と過払退職手当の返還請求に関する裁判例を見てみましょう。

A税務署職員事件(大阪地裁平成25年11月29日・労判1089号47頁)

【事案の概要】

Y社は、A税務署で勤務していたXが退職勧奨に応じて60歳の定年に達した後に退職した際、国家公務員退職手当法の経過措置規定を適用して退職手当の支給額を算定するに当たり、同法5条の3に規定する定年前早期退職者に対する退職手当の基本額に係る特例がY社に適用されると判断して上記支給額を算定した上で、Xに対して2958万0245円の退職手当を支給した。

本件は、Y社が、本来、Xには定年前早期退職特例が適用されないから、Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であり、本件退職手当との差額である102万9601円が過払いとなっていると主張して、Xに対し、公法上の不当利得に基づき、102万9601円及びこれに対する催告における納付期限の翌日である平成21年8月25日から支払い済みまで5%の遅延損害金の支払いを求める実質的当事者訴訟である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 ・・・そうすると、勧奨を受けて定年後に退職した者について、・・・「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」に含めることは、退手法4条1項及び同5条1項が、一定期間以上勤務し非違によることなく勧奨を受けて退職した者について、退職手当の基本額を優遇することとした趣旨に合致しないものというべきである。

2 Xは、Y税務署長から、4パーセントの退職手当の割増しがされるらしいとの話を受け、国税庁及び大阪国税局の人事政策に協力するため退職を承諾したにもかかわらず、退職後2年も経過してから、Y社がXに対して本件過払金の返還を請求することは信義則に違反すると主張する
しかしながら、退手法に基づき本来Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であって、本件過払金については法律上の原因を欠くものである以上、Y社としては、債権を適正に管理するために、Xに対してその返還を求めるべき責務を負っているものというべきである。そして、法律による行政の原理の観点からすれば、行政行為に対する信義則の法理の適用について慎重に考えるべきものであるところ、仮に、Xが主張するような事情が存在したとしても、それだけでは、Y社がXに対して本件過払金の返還を求めることが正義に反するものということはできない。

3 Xは、退職の記念に中国旅行をするなどして本件過払金を費消したから、現存利益は存在しない旨主張する
しかしながら、本件過払金は、本件退職手当の一部として支給されたものであって、Xの固有財産に混入して固有財産と区別することができない以上、本件過払金について、現存利益の消滅を観念することはできないというべきである。また、仮に、Xが、本件過払金に相当する額を旅行費用として費消したとしても、当該費用の支出を免れた部分について、Xに現存利益が存在するものというべきである。

行政行為に対する信義則の法理の適用について裁判所の考え方を参考にしてください。

また、上記判例のポイント3は、民法703条の現存利益に関する裁判所の考え方がわかりますね。

現存利益に関する考え方については、いくつか最高裁判例がありますので、確認しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金81(TBCグループ事件)

おはようございます。

さて、今日は、適格性欠如を理由とする降格・手当等減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

TBCグループ事件(東京地裁平成25年8月13日・労判1087号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の総務部長および関東地区の営業部を統括するゼネラル・マネージャーを兼務していたXが、Y社からゼネラル・マネージャーの職を解かれたうえ、出向を命じられ、その後も他社へ異動を命じられ、同時に部長職から課長Ⅱ職に降格され、さらに係長Ⅰに降格されたことに伴い、役職手当および職務給、調整手当を減額されたことに対して、これらの減額は無効であり、賞与算定に際して行われた人事評価が違法であって不法行為に当たると主張して、Y社に対して、支給されるべき給与および賞与との差額合計1318万3500円ならびに退職日まで6%の遅延損害金合計73万2091円および退職後から支払済みまで14.6%による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格処分は無効
→降格処分に伴う役職手当および職務給の減額も無効

調整手当の減額も無効

→1106万2000円+確定遅延損害金59万8514円+遅延損害金の支払いを命じた

賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上のとおり、Xに対する降格処分についてのY社の主張は前提を欠くものである。なお、Y社は、Xが総務部長として適性を欠くことについて、プローブ取引の責任について以外具体的に主張しないし、なぜ複数回の降格が必要であったかについても主張しない。なお、Y社は、XがY社の利益を犠牲にしてC社の利益を図ったのではないかという疑念を抱いているとも主張するが、XがC社の利益を図った事実を具体的に主張・立証しておらず、上記のような疑念だけでXが総務部長としての適性を欠いていたということはできない
したがって、降格処分は無効であり、降格に伴う役職手当及び職務給の減額も無効である。

2 調整手当は、給与規程上、「経済状況の変動、給与体系の変更等、調整が必要と認められた場合に暫定的に支給する」とされており、兼務の手当とはされていないこと、Xは、平成19年2月にゼネラル・マネージャーを解任された後も、3年以上調整手当の支給を受けてきており、兼務と調整手当との対応関係を見いだすのは困難であることに照らすと、調整手当は兼務の対価とは認められない
Y社は、給与管理の不備からXに調整手当を支給していることが見逃されてきたと主張するが、Y社自身が年2回の賞与の査定の際に幹部社員の賞与を厳格に査定していると主張しているにもかかわらず、その査定の際に、本給があるべき給与額より20万円以上かさ上げされていたことに気付かされなかったというのは不自然であり、Y社の主張は採用できない。

全体的に使用者側の主張・立証は具体性・整合性に欠けると評価されているように感じます。

「適性を欠く」との理由で解雇や降格をする場合には、客観的にわかりやすい証拠を会社側で準備しておかなければ、このような結果になります。 ご注意ください。

1000万円を超える支払を命じられていますので、会社としては厳しい結果ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金80(X薬局事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、事実審の口頭弁論終結時までに使用者が未払割増賃金の支払を完了した場合と裁判所が付加金の支払を命ずることの可否に関する最高裁判決を見てみましょう。

X薬局事件(最高裁平成26年3月6日・判タ1400号97頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、本訴として、Xを相手に、Y社に対する未払賃金債務が173万1919円を超えて存在しないことの確認を求め、Xが、反訴として、Y社を相手に、未払賃金の支払等を求めるとともに、労基法37条所定の割増賃金の未払金に係る同法114条の付加金の支払いを求める事案である。

第1審は、Xの反訴に係る未払割増賃金請求につき、173万1919円及び遅延損害金とともに、付加金86万5960円及び遅延損害金を認める判決をした。

Y社は、控訴した上で、控訴審の口頭弁論終結前に、Xに対し、未払割増賃金全額(遅延損害金を含む)を支払、Xはこれを受領した。これを受けて、Xは、上記割増賃金請求に係る訴えを取り下げ、Y社はこれに同意した。

原審は、以上の事実関係の下で、付加金請求につき、上記の限度でこれを認容すべきものとした。

【裁判所の判断】

付加金に関する部分を破棄し、同部分につきY社敗訴部分を取り消す。
→付加金に関するXの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 労働基準法114条の付加金の支払義務は、使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に同法37条の違反があっても、裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払いを命ずることができなくなると解すべきである(最判昭和35年3月11日、最判昭和51年7月9日参照)。

2 本件においては、原審の口頭弁論終結時の時点で、Y社がXに対し未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したものであるから、もはや、裁判所は、Y社に対し、上記未払割増賃金に係る付加金の支払を命ずることができないというべきである。

上記判例のポイント1を知らなかった使用者側のみなさんは、是非、覚えておきましょう。

一審で敗訴し、付加金の支払を命じられた場合には、控訴し、控訴審の口頭弁論終結時までに未払賃金を全額支払えば、付加金の支払は免れられます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金79(豊商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、元従業員による退職金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

豊商事事件(東京地裁平成25年12月13日・労判1089号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を退職したXが、①Y社の退職年金規程に基づく退職金の請求ならびに②時間外労働および休日労働を行ったことによる同各手当の請求を行ったところ、Y社が①XにはY社の退職年金規程の適用がなく、また、XとY社との間には退職金不支給の合意があること、②時間外労働および休日労働の事実が認められず、また、Xは労基法41条2号の管理監督者に該当すること、からいずれの請求にも応じられないとして争った事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、合計約178万円を支払え

【判例のポイント】

1 Xについては、嘱託雇用契約締結の期間を除いても、平成3年6月24日から平成21年8月30日までの18年間という長期間にわたりY社に勤務しており、退職金請求権の法的性質における賃金の後払的性格や功労報償的性格当然考慮されるべき期間就労していると評価できる。また、本件ではX・Y社間では1年ごとの契約更新に関する何らかの手続がなされた形跡はなく、社員台帳記載の各辞令や賃金減額の経緯も契約更新の事実と関連するものではない。そうすると、X・Y社間の平成3年6月24日から平成21年8月30日までの間の労働契約は期間の定めのない労働契約としての評価をするのが相当であるから、退職年金規程第3条の「嘱託」の類推適用によりXに同規程の適用がないとの解釈も採用できない

2 Y社は、Xの採用条件は、年収1200万円で月額100万円、嘱託扱いの雇用、退職金及び賞与はなし、基本的に1年契約であるが株式公開までの期間は契約の存続を見込む、という内容で合意したと主張し、証人Kは、平成3年の5月か6月ころだったと思うが、当時E證券に勤務していたLがY社の会長室にXを連れてきたこと、DからLとXの紹介を受け、その際、DからXの上記採用条件に関する説明がなされたこと、これに対しXは特に反論する様子もなく納得している様子だったことを供述する。
しかし、Lの電話録取報告書によると、LはXをKに紹介したのみでX・Y社間の契約に一切関与していないこと、XはLとKとは入社前に面識がなく、採用条件の説明はY社のM常務から受けた旨述べていること、Y社の代表取締役の立場にある者がXの採用条件の詳細を部下に相談せずに単独で決定したとするのはやや不自然であること、株式会社Cでの待遇との比較では、Y社のXに対する待遇が必ずしも好待遇とまではいえず、XがGの誘いをいったん断った経緯にも鑑みると、Dの上記採用条件に関する話に対してXが特に反論する様子もなく納得したと理解するには疑問が残ること、から証人Kの供述を採用することはできない

上記判例のポイント1の解釈のしかたは、参考になりますね。

退職金の法的性質と実際の勤務状況、契約更新の態様などから考えると、退職金不支給とする解釈はとりえないということです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金78(東名運輸事件)

おはようございます。

さて、今日はテレビ局の下ロケバス運転手による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

東名運輸事件(東京地裁平成25年10月1日・労判1087号56頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で稼働していたXが、平成20年6月から22年12月にかけての時間外労働等に対する割増賃金および付加金の各支払いと遅延損害金を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、583万7256円を支払え。

Y社はXに対し、400万円の付加金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、ロケバス業務に従事する従業員に関し、運行協定書が規定する事項については運行協定書が優先し、就業規則の適用が排除される旨を主張するから、運行協定書が就業規則の一部変更として有効であるか否かが問題となる。
就業規則の変更によって労働条件を変更するには、当該変更が合理的であり、かつ周知されている必要があるところ(労働契約法10条参照)、運行協定書は、その規定に特段不合理な点は認められないが、本件全証拠を総合しても、運行協定書の内容が事業場の労働者の知り得る状態におかれていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、運行協定書は、就業規則一般に必要な周知性を満たしているとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、XとY社との間の労働契約の内容と認めることはできず、単なる業務心得又は運用指針に止まるものというべきである

2 使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されていると解されること、Y社は、業務毎に作成される運転日報によって労働時間を記録、管理していたことに鑑みれば、本件においては、記載内容が不合理なものでない限り、運転日報に記載された時刻を基準に出勤の有無及び労働時間を推定することが相当である(ただし、この推定は事実上のものであるから、後述の運行表等、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び労働時間を認定することが相当である。)。

3 本来の輸送業務の他に、天候、出演者の体調、撮影の進行具合、買出しの必要等のために、撮影中の待機時間に突発的に運転業務を依頼される場合があること、予定外の依頼であっても、Xとして対応可能であれば応じざるを得ないこと、Y社も、待機時間中の依頼も支障のない限り手伝うようにという指示をしていたこと、等の事実を認めることができる
上記事実に鑑みれば、Xは、撮影中の待機時間についても、原則として労働契約上の役務の提供が義務付けられていたというべきである。

4 住宅手当及び通勤手当は、請求期間を通じて一定の金額が支払われていること、Xの住宅又は通勤に要する実費と支給額との関連を認めるに足りる証拠がないことから、実質的に、住宅事情や通勤費用にかかわらず支給されているものとみるべきであり、除外賃金に当たるということはできない。

5 携帯電話料は、ロケバス業務における携帯電話の使用頻度が相当高いものと推認されること…等にかんがみれば、従業員の私物を業務に利用することに伴う実費を負担するため、一種の経費精算として支給されているものとみるのが相当である。したがって、携帯電話料を算定基礎賃金に算入することは相当ではない。

トラックやタクシーのドライバーをはじめとする各種運転手が残業代等の請求をする場合、手待ち時間の問題がよく登場します。

ほとんどのケースで、労基法上の労働時間に該当すると判断するのではないでしょうか。

会社として、どのような対策を講ずるべきか、是非、顧問弁護士に相談してみてください。