賃金86(X協会事件)

おはようございます。

今日は、賃金未払いのまま自宅謹慎処分を続けることが違法とされた裁判例を見てみましょう。

X協会事件(東京地裁平成26年6月4日・労経速2225号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員であったXが、Y社から正当な理由なく自宅謹慎を命じられ、その間にされた退職勧奨に応じなかったところ、自宅謹慎のまま賃金の未払が続き、Y社からの退職を余儀なくされたとして、雇用契約に基づく未払賃金の支払及び不法行為による損害賠償の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、未払賃金124万円と慰謝料30万円の合計154万円等の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、従前からの事務局内におけるXの言動、本件甲印刷での出来事、Dからの欠勤の原因の事実確認及び診断書の提出等により、Dのストレス反応及びこれによる欠勤の主たる原因がXとの人間関係によるものと判断して、本件謹慎処分に踏み切ったものと認められる。・・・これらの事情に照らせば、Y社が上記のような判断をしたことには相応の合理性が認められ、Xに対して行われた本件謹慎処分が違法なものとまではいえないというべきである。また、本件謹慎処分による自宅謹慎処分による自宅謹慎中のXの課題レポートの内容等に照らせば、Xが真摯に自らの対応を振り返り、反省ないし改善の意向を十分に示しているとはいい難いとY社が判断して、一定程度にわたってその謹慎期間を延長すること自体は、その間、賃金支払を継続していることに照らせば、必ずしも違法、不当なものとまではいい難いというべきである。

2 さらに、Y社の事務局の規模、XとDを始めとする他の事務局員との関係やXの仕事振り、Dの病状等を考慮すれば、Y社がXの勤務継続が困難であると判断して、Xに対し、賃金支払を継続しつつ退職勧奨を行うこと自体は、直ちには違法とはいい難いというべきである。

3 しかしながら、本件謹慎処分による謹慎期間は、その後も相当長期間にわたって継続されており、その間、Dの職場復帰等に向けて特にDとの間でXの状況を踏まえた話し合い等がされることもなく、また、Xに対しても、真摯な反省ないし改善を求めるという目的から離れ、専らXの退職を是として複数回にわたる退職勧奨を行うようになっていったことなどからすれば、Y社が退職勧奨に応じないXに対する対応を明確にすることなく、Xの自主退職を期待して本件謹慎処分の延長、更新を繰り返し、これを漫然と継続したことは違法といわざるを得ないというべきである。

4 ましてや、Y社が、退職勧奨に応じないXに対して、解雇等の措置に踏み切ることなく、また、Xの退職の意思が明らかでないにもかかわらず、平成24年1月分以降の賃金を支払わない措置をとったことは明らかに違法なものというべきである。なお、この点につき、Y社は、Xが本件謹慎処分による謹慎期間中に労務を提供していなかった旨を主張するが、XがY社に対して労務提供をできなかったのは、本件謹慎処分によってその受領を拒否されていたからであって、また、本件謹慎処分が当然に賃金不支給といった不利益措置を含むものであったことはうかがわれないから、Y社は、本件謹慎処分継続中もなおXに対する賃金支払義務を負っていたというべきである

退職勧奨の目的で謹慎処分を延長、更新を繰り返した行為が違法であると判断されています。

また、休職期間中、賃金の支払がない場合、休職命令に合理性が認められなければ、ノーワークだからといってノーペイにはなりません。

休職命令を発する場合には、気を付けて下さい。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。