本の紹介1107 いかなる時代環境でも利益を出す仕組み(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、アイリスオーヤマの会長です。

新型コロナウィルスによるパンデミック後に出版された本です。

今後、世界がどのように変わっていくのか、企業はどのように戦い方を変えていくべきかが述べられています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

多くの起業家は『この製品で儲けている人がいる。よし、俺も』と安易に事業化する。それでは周囲の共感を得られません。また、安易に起業すると粘りがない。環境が変化し、その製品が売れなくなったとき、早々に音を上げてしまう。経営は山と谷の連続ですから、『絶対に生き延びてみせる』と踏みとどまることができない起業家は無理です。」(249頁)

もちろん意気込みだけではどうにもならないことはあります。

今回のコロナによる飲食業界や観光業界に対する大打撃はもはやいかんともしがたい非常事態です。

しかし、経営一般の話でいえば、いかなる状況においても生き延びている企業は、ありとあらゆる工夫をし、大波の中でも転覆せず航海を続けています。

いかに変化に対応し続けられるか。

人生を掛けて経営をしている以上、いざというときには寝ている場合ではありません。

なにがなんでも転覆しないように踏ん張らなければいけない時があります。

会社を経営するというのはそういうことだと思います。

有期労働契約101 更新の上限設定と合理的期待の保護(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期労働契約の更新上限回数を超えての更新に合理的期待が認められないと判断された裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人仙台市社会福祉協議会事件(仙台地裁令和2年6月19日・労経速2423号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期雇用契約を締結し、Y社が運営する障害福祉サービス(生活介護)事業所である「a施設」で勤務していたXが、平成30年4月1日をもって雇用契約の期間満了により雇止めされたことについて、Xには労働契約法19条2号に該当する事由があるから、上記雇用契約は従前の内容で更新されるから、Y社が行った雇止めは違法であり、無効であると主張して、Xが、Y社に対し、雇用契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金+遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①本件募集要項には、勤務条件のうち更新・雇用期限等として「1年間の有期労働契約。勤務成績により更新は4回まで可能。」との明記されていたこと、②Xは、本件募集要項の内容を確認し、本件募集要項に基づいて応募をしたこと、③採用面接の際、XがC課長から雇用期間が1年間であり、契約更新の回数が4回までであり、5年間が限度であると説明を受けていたこと、④本件契約の雇用契約書において、「更新期間」は「指定管理期間終了まで(最長4回まで更新可)」と記載されており、Xが当該契約書に署名押印していたこと、⑤本件契約の更新について、契約更新ごとに雇用契約書が作成されており、平成26年度ないし平成28年度の更新時の雇用契約書において、「更新期間」は「最長4回まで更新可能」との記載がされており、Xがそれぞれの雇用契約書に署名押印していたこと、⑥平成29年度の雇用契約書において、「契約を更新する可能性 無し」、「更新期間」は「-」と記載がされており、Xが当該契約書に署名押印していたこと、以上の事実が認められる。
これらの事実によれば、Xは、Y社に採用される当初から雇用契約の更新回数が最長4回までであり、雇用期間が最大5年間であることを認識して、本件契約を締結していたものであり、その後の本件契約の更新についても、更新ごとに雇用契約書が作成され、その度に更新回数の最長が4回までであることについて明記がされ、最終更新年である平成29年度には雇用契約の更新を行わない旨が明記されていたことからすると、特段の事情がない限り、Xにおいて、雇用契約の更新4回、雇用期間5年を超えて更に本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認めることはできない

2 Xは、①Y社には特例延長制度があり、契約職員が5年を超えて雇用される制度が存在していたこと、②希望をすれば、契約職員から嘱託職員への身分の変更と施設の変更をすれば、5年を超えて雇い入れられる運用が労使慣行として成立していたこと、③Y社に採用される以前から5年を超えて雇用されている職員がいることを聞いていたこと、④平成21年3月の団体交渉において、5年雇止めをはじめとするY社の人事制度見直しが検討されることとなり、5年雇止めについても事態の打開可能性があったことからすると、Xには、更新回数4回、雇用期間5年を超えて、更に本件契約が更新されるものと期待することの合理的な理由がある旨主張する。
しかしながら、上記①の点について、特例延長制度(就業規則11条2項)は、Y社の会長がやむを得ないと認めた場合に適用されることとされていることが認められ、当然に特例延長制度が適用されるものではなく、特例延長制度があることが直ちに本件契約の更新への合理的期待を基礎付けるものとは認め難い

更新回数の条件を予め設定していたケースです。

これと似て非なるものとして、5年ルール適用直前になって、突如として上限設定を設ける場合には、既に更新の期待権が発生しているため、そう簡単にはいきません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1106 DIE WITH ZERO(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

将来が全く見えない現代社会において、老後の生活どころかこれから数年、数カ月の生活も不安でならないという方はとても多いと思います。

そのため、いろんなことを切り詰めてできる限りの貯金をするという方が増えてくるのではないでしょうか。

そういう方は是非この本を読んでみてください。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

年齢を問わず、健康ほど、経験を楽しむ能力に影響するものはない。健康は、金よりもはるかに価値が高い。どれだけ金があっても、健康をひどく損ねていたらそれを補うのは難しい。だが、健康状態が良好なら、たとえ金は少なくても素晴らしい経験はできる。」(175頁)

この本にも書かれていますが、最も大切なのは「バランス」です。

具体的には、健康と時間とお金のバランスです。

筋トレで「運動・栄養・休養」のバランスが大切なのと同じです。

どれが欠けても充実した生活を送ることができません。

年齢とともに健康に支障を来す方が増えてきます。

肉体、精神ともに健康であることがすべての前提ですから、自己管理をしていくことがとても重要です。

一度失った健康を取り戻すのはとても大変ですので。

有期労働契約100 担当業務の移管を理由とする雇止めの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、担当業務の移管によりなされた雇止めが有効と判断された裁判例を見てみましょう。

バンダイ事件(東京地裁令和2年3月6日・労経速2423号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期労働契約を締結していたXが、Y社に対し、XY社間の上記有期労働契約は労働契約法19条1号ないし2号に該当し、Y社がXの更新申込みを拒絶することは客観的合理的理由を欠き社会通念上相当であると認められず、これを承諾したものとみなされるとして、労働契約に基づき、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び②平成30年4月分以降本判決確定の日までの賃金として毎翌月25日限り22万1644円(平成30年2月ないし4月支給の平均賃金)の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約は約11年10か月の間合計14回にわたり更新され、その間、Xは、概ね週5日・1日7時間30分勤務を継続してきた。そうすると、一般的に見れば、契約期間満了時において、労働者において有期労働契約が更新されるものと期待することはあり得ることであり、そのように期待することについておよそ理由がないとはいえない。
もっとも、その期待が労働契約法19条2号の適用上「期待することについて合理的な理由あるものであると認められる」か否かを判断するには、上記に見た有期労働契約の更新の回数や雇用の通算期間、雇用期間管理の状況のほか、当該雇用の臨時性・常用性、それまでの契約更新の具体的経緯、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動などの諸事情を客観的に見た上で、当該有期労働契約の契約期間満了時においてどのような内容の期待を持つのが通常であるのかを具体的に認定・判断する必要がある。

2 本件においてXが本件雇用契約の期間満了時に合理的に有すべき契約更新に対する期待は、上記のような事情を踏まえたものというべく、その具体的内容は、X雇用の臨時性やその後の環境変化によってXの当初担当業務が減少しX雇用の臨時性が前景化する中、その労働条件に内容や分量が見合うような担当業務をY社内に確保することができれば本件雇用契約は更新される、という内容のものであったとみることができる。結局、本件において、Xが本件雇用契約の期間満了時に合理的に有すべき契約更新に対する期待は、以上のような具体的内容を有するものとして、労働契約法19条2号の適用上、本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認めることができる

3 当初サンプル発送業務は当時の海外販売会社とY社の事業部がグローバル戦略室に在籍していたXを介して行うものであったところ、前記のとおり、Y社商品の海外流通が進展してきたために、グローバル戦略室のXを介するよりも、海外販売会社とY社の事業部が直接やり取りした方が合理的かつ円滑であるということになり、海外販売会社・Y社事業部間の直接のやり取りが増加し、Xの担当業務が減少していくという状況下においてY社が一気通貫体制を構築する中で、Xが担当していたサンプル発送業務を平成30年4月から各事業部に完全移管した結果、Xの担当業務は、なくなったものである。前記のとおり、サンプル発送業務に要する時間が、上記完全移管によって1か月換算で平均約53時間から約8時間まで減少していることから見ても、上記完全移管について合理的必要性があったということができる。

4 Y社は、平成30年4月1日以降、Xの主な担当業務がなくなることを踏まえ、Xの雇用維持のための有意な措置を複数採ったということができる。そうであるにもかかわらず、Xは、Y社から提示された措置について真摯に向き合わなかったのであって、そのような状況下でY社に更なる措置を講ずべきであったとまではいえないから、Y社は、雇止め回避の努力を尽くしたとみることができる

5 Y社は、Xにその担当業務減少の状況を説明するなどしてXの意向を確認するなどしているし、前記で検討したとおり、Xの雇用維持のため複数の措置に取り組んできたのであり、前記のとおり、平成29年11月30日にも改めて状況を説明した上でXの雇用維持のための措置を複数提示してXに検討の機会を与えた経過が存する。これらからしても、Y社のXに対する本件雇止めの説明が不十分とみることはできず、本件雇止めの手続の相当性を肯認することができる

整理解雇類似の進め方により有効に雇止めを行うことができています。

ポイントをしっかり押さえることが肝要です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1105 未来を見る力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「人口減少に負けない思考法」です。

帯には「すべては過去の否定から始まる」と書かれています。

今後も当分の間、「人口減+コロナ過」というかなり厳しい状況を生きていかなければなりません。

過去の常識のままに生きていけるはずがありません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

日本では量的拡大こそが、”経営上の成功”であり、売上高、業界シェア、従業員数といった数字は大きければ大きいほど良いこととされてきた。一流企業は大企業であることが前提であったし、大企業はトップシェアを目指すのが当然であった。・・・だが、人口減少社会では、こうした『大きいことはいいことだ』というモデルは実現したくとも、実現のしようがなくなる。繰り返すが、もうそろそろ、これまでの成功モデルを本気で疑い、そこから脱する時期に入っている。」(61~62頁)

経営者によってこのあたりの考え方は異なるところですが、私は、変化の激しい時代には、スモールビジネスかつ人をできるだけ雇用しないというビジネスモデルがいいと思っています。

会社や商売は、意識していないとすぐに大きくなってしまいます。

固定費が多いビジネスですと、何らかの理由で売上が立たない時期が続くとあっという間にお金がなくなってしまいます。

常に身軽でいることが変化の激しい時代の生きる術です。

賃金203 有給休暇取得時に支払う「通常の賃金」の意義(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有給休暇取得時に支払う「通常の賃金」が争われた裁判例を見てみましょう。

日本エイ・ティー・エム事件(東京地裁令和2年2月19日・労経速2420号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある雇用契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、①年次有給休暇を取得した際に支払われるべき賃金に未払いがある旨主張して、雇用契約に基づく賃金支払請求として、合計9万0952円+遅延損害金の支払、②Xが東京労働局にY社の職場環境について相談したことに対する報復として、Y社が不当にXの勤務評価を低下させ、短期間の契約を提案し、退職に追い込んだことは不法行為に当たる旨主張して、損害賠償金165万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、2万3400円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 シフト勤務手当は、午前12時00分から午後2時59分の間に出勤し、7時間45分以上の勤務実績がある場合に、1回当たり900円が支払われるものであることが認められる。そして、Xの労働時間についての勤務条件は、始業時刻が午後1時50分、終業時刻が午後10時50分、休憩時間が1時間であり、1日の所定労働時間は8時間であることが認められるから、Xが出勤し、所定労働時間勤務した場合には、必ずシフト勤務手当の900円が支払われるといえる。
そうすると、シフト勤務手当は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金に当たると解するのが相当であるから、契約社員就業規則34条が、年次有給休暇を取得した場合の賃金について、シフトに係る手当は含まない旨規定している部分は労基法に反し、XとY社との間の労働契約の内容を規律する効力を有しないと解される(労働契約法13条)。

2 日曜・祝日勤務手当は、7時間45分以上の勤務実績がある場合に、1回当たり2800円が支払われるものであることが認められる。これは、日曜日及び祝日への出勤に対し一定額の補償をするとともに、日曜日及び祝日に出勤する労働者を確保する趣旨であると解されるところ、日曜・祝日という特定の日に出勤した実績があって初めて支給されるものであるといえる。日曜・祝日に年次有給休暇を取得した場合,当該休日に出勤した事実はないのであるから、日曜・祝日勤務手当は、その際に支払われるべき所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金には当たらないと解される。

3 Y社においては、7時間45分以上勤務した場合、時間外手当として1時間当たりの単価を時給×1.3とし、午後10時から午前5時までの間に勤務した場合に深夜手当として1時間当たりの単価を時給×1.3として支払うとされていることが認められるところ、時間外労働及び深夜労働に対して割増賃金を支払う趣旨は、時間外労働が通常の労働時間に付加された特別の労働であり、深夜労働も時間帯の点で特別の負担を伴う労働であることから、それらの負担に対する一定額の補償をすることにあると解される。年次有給休暇を取得した場合、実際にはそのような負担は発生していないことからすれば、年次有給休暇を取得した場合に、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金としては,割増賃金は含まれず,所定労働時間分の基本賃金が支払われれば足りると解される。

弁護士費用との関係では、費用対効果が悩ましい事案です。

細かい論点ではありますが、日常の実務においては参考になる裁判例です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1104 会社を離れても仕事が途切れない7つのツボ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

スタディサプリの社会科の先生の本です。

フリーランスの働き方のツボを伝授してくれています。

むしろ組織に属している人こそ変な癖がつく前に読むべき本かもしれません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

僕は、負け犬の集まりに顔を出さないようにしています。戦闘力の低い同業者や関係者が集まっても、そこは地獄の1丁目。嫉妬が渦巻く欠席裁判の連続で、人生の無駄遣いにしかならないからです。フリーランスは、『周囲にどういう人を置いてスタートするか』が本当に大事です。」(103~104頁)

まあ、負け犬の集まりかどうかはさておき、誰と時間を共有するかによって、その人の人生は大きく左右されることは間違いありません。

類は友を呼んでいる場合ではないのです。

自分が刺激を受ける人、こういう人になりたいと思う人とどれだけ同じ時間を共にするかが人生のターニングポイントになります。

ただ待っていても環境は変わりません。

自分から積極的に動かない限り、人生は1ミリも変わりません。

同一労働同一賃金16 嘱託職員の基本給・賞与と同一労働同一賃金(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、嘱託職員と正社員との基本給・賞与の相違と労契法20条に関する裁判例を見てみましょう。

トーカロ事件(東京地裁令和2年5月20日・労判ジャーナル102号2頁)

【事案の概要】

本件は、金属等の表面処理加工等を業とするY社(従業員560名)に1年の期間の定めのある労働契約により雇用され、21回の更新を経ている女性従業員Xが、期間の定めのない労働契約を締結した正社員と業務の内容等が同一であったにもかかわらず、基本給及び賞与が正社員よりも低額であり、地域手当を支給されなかったことが労働契約法20条に違反するとして、Y社に対し、主位的には労働契約による賃金請求権、予備的には不法行為による損害賠償請求権に基づき、金員の支払いなどを請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Aコース正社員と嘱託社員との間には、担当業務の範囲が限定され、役職への就任及び管理職への昇任が予定されていないなどの共通点がある。しかし、嘱託社員の担当業務はその一部に限られ、担当業務の範囲に相違がある上、Aコース正社員には職能資格制度が採用され、同制度を通じた職務遂行能力の向上、教育、評価等が予定されているのに対し、嘱託社員には同制度が採用されていないという点でも相違があり、人事評価の対象、項目及び評価方法並びに採用手続も異なっている。このように、Aコース正社員と嘱託社員とは、担当業務の範囲、期待される能力や役割に一定の相違がある

2 地域手当は、初任給の額が全国一律であるという正社員固有の賃金制度に由来する問題を解消するための手当ということができる。これに対し、嘱託社員の賃金は、採用の目的等を勘案して個別決定され、家賃の高さその他の各嘱託社員の居住地域固有の事情も考慮して、採用した地区ごとに賃金額を決定することも可能である上、転勤も予定されていないことに照らせば、嘱託社員には、初任給額が全国一律であることから生じた関東地区における正社員の安定的確保という地域手当の支給に係る事情は妥当しない
以上に判示した地域手当導入の趣旨や労使交渉を経て同手当が廃止された経緯を総合すると、Aコース正社員と嘱託社員との間における地域手当の相違は、不合理であると評価することはできない。

各種手当については、当該手当の趣旨から合理的な説明ができるかがポイントです。

趣旨がよくわからない手当は合理性の説明が難しいので注意が必要です。

合理的説明のしかたについては顧問弁護士に相談をしてください。

本の紹介1103 不思議とお金に困らない人の生き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

帯には「なぜあの人は、いつもお金に恵まれるんだろう?」と書かれています。

豊かさをいかにして手に入れるか、その思考方法が説かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

お前さんたち人間は、いろんなことが『普通』『当たり前』になってしまっておる。しかも普通のこと、当たり前のことには、喜びや感謝を感じにくい。これは、言い換えれば幸せのハードルが上がっているということじゃ。その結果として、カネを使う喜びや感謝を噛みしめる機会が減ってしまうんじゃよ。だから、幸せのハードルを下げて、今までは普通だったこと、当たり前だったことにも幸せを見出せるようになったほうがいいんじゃ。」(75~76頁)

幸せを感じるかどうかは、主観的なものなので、同じ環境にいても幸せを感じる人とそうでない人がいます。

また、幸せは、相対的なものではなく、絶対的なものですので、他の人と比べる必要はありません。

他人を妬んで幸せになることはありません。

見栄を張らず、世間体を気にせず、自分らしく自然体で生きているのが幸せです。

解雇335 諭旨解雇は無効で普通解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、カッター振り回し行為を理由とする懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本電産トーソク事件(東京地裁令和2年2月19日・労判ジャーナル102号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社から懲戒解雇され、その後予備的に普通解雇されたところ、上記各解雇が懲戒権の濫用あるいは解雇権の濫用に当たり、労働契約法15条、16条により無効であるなどと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同懲戒解雇後の賃金として、平成29年5月11日から本判決確定の日まで毎月10日限り23万3200円+遅延損害金の支払を求め、さらに、同懲戒解雇及び同普通解雇がXに対する不法行為に当たるとして、同不法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料として、1000万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、46万6400円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、平成29年4月のf部室内のレイアウト変更において、自席がFグループリーダーの横に配置されることに強く反発してこれを拒絶したにとどまらず、同月24日、前日の自己の退社後に席が移動されたことを知るや、G部長に対し、座席配置の変更について配慮のない行為をされ精神疾患を誘発した責任を同部長にとってもらうなどといったメールを送信し、翌25日もG部長に対し同旨の言動をして精神疾患に対する治療費を支払うよう求め、その住所を聞き出そうとしたり、同部長の前に立ちはだかったり、行く手を遮ろうとしたもので、被害妄想的な受け止め方に基づき、身勝手かつ常軌を逸した言動を執拗に繰り返したものといわざるを得ないし、その動機においても酌量すべき点はない。そして、Xは、翌26日も、病院への通院や弁護士の相談に行くための職場離脱を業務扱いにするよう求め、G部長にこれを断られるや、カッターの刃を持ち出してG部長の面前で自らの手首を切る動作をしたものであって、その動機は身勝手かつ短絡的である上、G部長や周囲の職員の対応いかんによっては自傷他害の結果も生じかねない危険な行為であったといえる。また、かかるXの行為によって、周囲の職員に与えた衝撃と恐怖感は大きかったものと推察されるし、2度も警察官が臨場する騒ぎとなったことも軽くみることのできない事情である。
このように、かかるXの一連の行為については、少なくとも、就業規則所定の懲戒事由としての「職務上の指示命令に従わず,職場の秩序を乱すとき」(80条3号)に該当することは明らかであるから、懲戒事由該当性が認められる。そして、前判示のとおりその態様も危険で悪質といえることや、この平成29年4月の部屋のレイアウト変更をめぐる一件以前にも、Xが種々の問題行動を繰り返していたことは前記認定事実のとおりであることからすれば、Xに対しては、相当に重い処分が妥当するといえないではない
しかしながら、他方で、G部長の適切な対応によるものとはいえ、この件によって傷害の結果は発生しなかったものであることや、前記認定事実のとおり、カッターの刃を持ち出したXの行為が自傷行為の目的に出たものであって、G部長や他の職員に向けられたものでなく、そのことはG部長も認識し得る状況にあったこと、前記のとおり、かかる行為が自己の要求を通すための自演であると認めるに足りる証拠はないこと、前記認定事実のとおり、Xが、gグループにおいて当初は種々雑多な業務に問題なく従事し、このうち、蛍光灯の掃除については約2000本にわたる蛍光灯をもう1名の社員と分担して行うなど、真摯な姿勢で業務に従事していた時期もあること、このレイアウト変更をめぐる件以前にも、Xに種々の問題行動があったことは前記認定事実のとおりであるものの、Xには懲戒処分歴はなかったことなど、Xにとって有利に斟酌すべき事情も認められる。このような事情をも勘案すると、1度目の懲戒処分でXを直ちに諭旨解雇とすることは、やや重きに失するというべきである。
以上のとおり、本件諭旨解雇及びそれに伴う本件懲戒解雇については、懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権の濫用に当たるものであって、労働契約法15条により無効であると認められる。

2 Y社は、平成29年7月11日付けで予備的に本件普通解雇の意思表示をしていることから、同解雇の効力について検討する。
前記認定事実のとおり、Xは、Y社入社直後に配属されたaグループ在籍時において、顧客との対応がうまく行かなかった時などに顧客に対し声を荒げるなどのトラブルを起こし、上司や先輩社員からの注意に対しても感情を高ぶらせるなどして、顧客との接点の少ないあるいは接点のない部署に異動を命じられたものの、そのような部署であるc事業管理部やe部においても同僚職員や上司との間でもトラブルが絶えなかった。Xは、その後、f部に異動となり、約2年以上に及ぶ出向先開拓の期間を経て、f部・gグループに配属されたが、ここでも、配属後しばらく経った後から、気に入らない業務については断ったり、他の従業員とのトラブルを起こすようになり、遂に前記で判示したとおりの平成29年4月のレイアウト変更に端を発する事件を引き起こしたものである。
このように、Xが、入社後配属された複数の部署においてトラブルを起こし、最終的に職場でカッターの刃を持ち出すなどの事件を起こしたことからすれば、Y社としては、このように職場秩序を著しく乱した原告をもはや職場に配置しておくことはできないと考えるのはむしろ当然であるといえ、かつ、それまでにも、Y社が、トラブルを起こすXに対し、その都度注意・指導を繰り返し、いくつかの部署に配転して幾度も再起を期させてきたことは、前記認定事実に照らし明らかであって、もはや改善の余地がないと考えるのも無理からぬものということができるから、本件普通解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当であると認められる。

諭旨解雇は相当性の要件を欠き無効と判断されている一方で普通解雇は有効とされた事案です。

同じ解雇でもこのように結論が分かれることがわかる非常に勉強になる裁判例ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。