賃金7(片山組事件)

こんにちは。

さて、今日は、私傷病と労務受領拒否に関する最高裁判例を見てみましょう。

片山組事件(最高裁平成10年4月9日・労判736号15頁)

【事案の概要】

Y社は、土木建築会社である。

Xは、Y社の従業員として、建築工事現場における現場監督業務に従事していた。

Xは、バセドウ病と診断され、通院治療しながら、業務に従事していた。

Xは、バセドウ病に罹患していることを理由に現場監督業務のうち現場作業はできない旨を申し出て、現場の管理者はこの要望を容れてXを現場事務所における事務作業に従事させた。

その後、提出された主治医の診断書とXの病状説明・要望書をもとに、Y社は産業医に相談するまでもなく自宅治療が妥当であるとの結論に達し、Xに対し、当分の間、自宅で治療に専念する旨を命じた。

本件自宅治療命令は、Y社がXの病状は現場作業も可能な状態であると判断して現場勤務命令を発するまでの間続いた。

この間、Xは就労の意思を表明するために工事現場に赴くものの、Y社はXの就労を拒否し、本件自宅治療期間中欠勤扱いとして月例賃金を支給せず、冬季一時金を減額支給した。

これに対し、Xは、本件自宅治療命令は無効であるとして、同期間中の月例賃金と一時金減額分の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

破棄差戻し→賃金請求を認めた(差戻審・東京高裁平成11年4月27日・労判759号15頁)

【判例のポイント】

1 労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。

2 そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲を同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。

3 Xは、Y社に雇用されて以来21年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、また、本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである
そうすると、右事実から直ちにXが債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、Xが配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。

この分野の裁判所の判断は、本件最高裁判例をベースとしています。

本件判例の判断枠組みに従って、差戻審判決は、労働契約上Xの職種や業務内容の限定はなく、Y社には事務作業業務にXを配置する現実的可能性があり、Y社の業務全体の中でXを配置できる部署の有無を検討して配置可能な業務をXに提供する必要があるとして、Xの労務提供は債務の本旨に従ったものであると判定し、Xの労務提供は債務の本旨に従ったものであると判定し、Y社の受領拒否による労務提供不能であるとして、Xの賃金請求権を認容しました(民法536条2項)。

これまで、私傷病と解雇との関係を多く検討してきましたが、本件判例のように、賃金請求という形でも争いとなるわけです。

やはり、会社としては、このあたりの判断は、顧問弁護士や顧問社労士と相談しながら行ったほうが無難ですね。

 

労災40(トヨタ自動車事件)

おはようございます。

昨日も、夜遅くまでK山組のみなさんと飲んでいました

今日は、午前中は、裁判の打合せが1件と破産の相談が1件です。

午後は、家裁で離婚調停をして、その後、破産等の打合せが2件です。

夜は、O社のOさんとお食事です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成15年7月8日・労判856号14頁)

【事案の概要】

Y社に勤務していたXは、昭和63年8月、ビルから飛び降り自殺をした(死亡時35歳)。

Xは、当時、複数車種の改良設計で忙殺されており、組合の職場委員長への就任や、開発プロジェクト、南アフリカ共和国への出張命令を受けており、強い心理的負荷を受けていた。

Xの遺族は、Xの自殺は、過重な業務に起因するうつ病によるものであると主張した。

【裁判所の判断】

岡崎労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務と傷病等との間に業務起因性があるというためには、労働者災害補償制度の趣旨に照らすと、単に当該業務と傷病等との間に条件関係が存在するのみならず、社会通念上、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化として死傷病等が発生したと法的に評価されること、すなわち相当因果関係の存在が必要であると解せられる。

2 精神疾患の発症や増悪は様々な要因が複雑に影響し合っていると考えられているが、当該業務と精神疾患の発症もしくは増悪させた原因であると認められるだけでは足りず、当該業務自体が、社会通念上、当該精神疾患を発症もしくは増悪させる一定程度の危険性を内在または随伴していることが必要であると解するのが相当である。

3 そして、うつ病の発症メカニズムについてはいまだ十分解明されていないけれども、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務錠ないし業務以外の心身的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性」理論が合理的であると認められる。

4 もっとも、ストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神破綻が生じるか否かが決まるといっても、両者の関係やそれぞれの要素がどのように関係しているのかはいまだ医学的に解明されている訳ではないのであるから、業務とうつ病の発症・増悪との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては、うつ病に関する医学的知見を踏まえて、発症前の業務内容及び生活状況並びにこれが労働者に与える心身的負荷の有無や程度、さらには当該労働者の基礎疾患等の身体的要因や、うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に検討し、社会通念に照らして判断するのが相当であると考えられる

5 Xは、7月下旬ないし8月上旬ころ本件うつ病に罹患し、本件うつ病による心神耗弱状態の下で本件自殺をしたものであり、Y社におけるXの業務が本件うつ病発症の要因の1つになっていたこと(すなわち、業務と本件うつ病発症との間に条件関係が存在していたこと)自体は明らかである。そこで、業務上の出来事がXの心身にどのような負荷を与えたかについて以下検討すると、いわゆる業務の過重性について本件を基準とする見解、すなわち本人が感じたままにストレスの強度を理解すれば足りるとする見解は採用できないけれども、ストレスの性質上、本人が置かれた立場や状況を充分斟酌して出来事のもつ意味合いを把握した上で、ストレスの強度を客観的見地から評価することが必要であり、本件においては、Xが従事していた業務が、自動車製造における日本のトップ企業において、内容が高度で専門的であり、かつ、生産効率を重視した会社の方針に基づき高い労働密度の業務であると認められる中で、いわゆる会社人間として仕事優先の生活をして、第1係係長という中間管理職として恒常的に時間外労働を行ってきた実情を踏まえて判断する必要があるというべきである

第1審は、業務上の心身的負荷の強度の判断については、「同種労働者(職種、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし、同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当」であると判断しました。

いわゆる「平均的労働者最下限基準説」です。

これに対し、本件裁判例は、第1審とは異なる見解に立っています。

また、この裁判例は、Xが中間管理職の立場にあるという事実を判断要素として取り上げています。

このあたりは、労働者側として参考になる部分だと思います。

有期労働契約16(明石書店事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

明石書店事件(東京地裁平成22年7月30日・労判1014号83頁)

【事案の概要】

Y社は、本の出版および販売等を業とする会社である。

Y社では、期間の定めのない契約の従業員を正社員と呼び、有期労働契約の従業員を契約社員と呼んでいる。採用時は、全員、契約社員である。

Xは、Y社と有期労働契約を締結し、入社し、制作部に配属された。

Xは、Y社と、平成19年10月9日~平成20年4月30日、平成20年5月1日~平成21年4月30日、平成21年5月1日~平成22年4月30日と、労働契約を更新してきた。

しかし、平成21年5月1日~平成22年4月30日の労働契約の契約書には、「本件労働契約期間満了時をもって、その後の新たな労働契約を結ばず、本件契約は終了する。」(本件不更新条項)との記載がある。

Y社は、本件不更新条項を根拠として、Xを雇止めにした。

これに対し、Xは、本件雇止めは無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 期間の定めのある労働契約は、期間が満了すれば、当然に当該契約は終了することが約定されているのであり、原則として、期間の満了とともに、労働契約は終了することになる。しかし、期間の定めのない労働契約においては解雇権濫用法理が適用される一方で、使用者が労働者を雇用するにあたって、期間の定めのある労働契約という法形式を選択した場合には、期間満了時に当然に労働契約が終了するというのでは、両者の均衡を著しく欠く結果になることから、判例法理は、雇用継続について、「労働者にある程度の継続を期待させるような形態のものである」という、比較的緩やかな要件のもとに、更新拒絶に解雇権濫用法理を類推適用するという法理で運用している。もとより、具体的な解雇権濫用法理の類推適用をするについては、当該契約が期間の定めのある労働契約であることも、総合考慮の一要素にはなるものの、これを含めた当該企業の客観的な状況、労働管理の状況、労働者の状況を総合的に考慮して、更新拒絶(雇止め)の有効性を判断するという運用を行っているのであり、このような判例法理は、個別の事例の適切な解決を導くものとして、正当なものとして是認されるべきである。

2 本件においては、Xの労働契約の3度目の更新にあたって、更新の前年にY社の方針のもとに、本件不更新条項が付されたことから、Y社は、上記の判例法理の適用外になったと主張する。しかし、少なくとも従前においては、Y社の社内においては、期間の定めのある労働契約を締結していた契約社員には、更新の合理的な期待があると評価できることは明らかである

3 このような状況下で、労働契約の当事者間で、不更新条項のある労働契約を締結するという一事により、直ちに上記の判例法理の適用が廃除されるというのでは、上述の期間の定めの有無による大きな不均衡を解消しようとした判例法理の趣旨が没却されることになる。

4 本件不更新条項の根拠として、Y社は、厚生労働省告示に従ったのであるのであると主張するが、Y社が主張する方針、特に概ね3年を目処に正社員化できない契約社員の雇用調整を行うことの合理性を窺わせる事情が想定できないことを考えれば、本件不更新条項を付した労働契約締結時の事情を考慮しても、本件雇止めの正当性を認めることはできない。

突如、合理的理由なく、契約更新をしない旨の条項を入れただけでは、雇止めは有効にはなりません。

上記判例のポイント1の視点は、会社側も持っておくべきです。

有期労働契約だからといって、そんなに簡単に解雇できませんので、ご注意ください。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災39(S学園事件)

おはようございます。

昨夜は、久々に税理士のK山先生とTさんと飲みに行きました

K山先生、ごちそうさまでした!

いろいろとやらなければいけないことがありますね・・・

がんばろ!!

今日は、午前中は、書面を作成します。

午後は、判決を聞いて、そのまま原告の方と一緒に県庁で記者会見です

夜は、裁判の打合せです。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

S学園事件(大阪地裁平成22年6月7日・労判1014号86頁)

【事案の概要】

Y社は、高等学校卒業生を対象とした分析化学の教育指導を行うことを目的とする2年制の専修学校である。

Xは、Y社に専任講師として雇用され、Y社が設置する専門学校で稼働していた。

Xは、うつ病を発症し、それにより休業を余儀なくされた。

【裁判所の判断】

天満労基署長による休業補償給付不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務と精神障害の発病との間の相当因果関係を判断するに当たっては、今日の精神医学において広く受け入れられている「ストレス-脆弱性」理論、すなわち「環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に大きければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても精神障害が起こる」という考え方に依拠するのが相当である。そこで、同理論を踏まえると、業務と疾病との間の相当因果関係の有無の判断においては、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性とを総合的に考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発病させる程度に過重であるといえる場合は、業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することができる。これに対し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発病させる程度に過重であると認められない場合は、精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体的要因に起因するものといわざるを得ないから、業務起因性を否定することとなる。

2 なお、被告が判断基準として主張する判断指針は、労働者災害認定のための行政の内部指針であって、大量の事件処理をしなければならない行政内部の判断の合理性、整合性、統一性を確保するために定められたものであるが、基準に対する当てはめや評価に当たって判断者の裁量の幅が大きく、また、業務上外の各出来事相互の関係、相乗効果等を評価する視点が必ずしも明らかでない部分がある
以上のような判断指針の設定趣旨及び内容を踏まえると、裁判所の業務起因性に関する判断を拘束するものではないといわなければならない。

3 Xは、少なくとも後期授業が開始した平成14年9月12日から本件引率業務のためイギリスへ出発する前日の平成15年2月14日までの間、量的(労働時間)にも質的(業務内容による精神的負担感や緊張感が伴うもの)にも過重な労働を行い、心身の疲労が蓄積していたにもかかわらず、初めての海外経験である本件引率業務に従事し、さらに、帰国当日の同年3月11日から休む間もなく連日多岐にわたる業務をこなして、心身の疲労が頂点に達した同月16日及び同月17日の両日に、Y学園長から他の教員らの面前で一日体験入学の準備に遅刻をしたことについて厳しい叱責を受け、遂にその限界を越え、精神障害を発病させたとみるのが自然である。そうすると、Xが本件学校において担当した業務は、社会通念上、本件精神障害を発病させる程度に過重な心理的負荷を与える業務であったと認めるのが相当である。

参考になるのは、上記判例のポイント2のいわゆる「ストレスの相乗効果」論です。

他の裁判例でもこのような言い回しをしているものもあります。

行政の判断指針が批判される点ですね。

労働者側としたら、この視点をもって、裁判で戦うべきです。

実際、判例のポイント3では、裁判所は総合的に判断しています。

それから、上記判例のポイント3に出てきますが、他の従業員の前で、叱責するのは、避けましょう。

誰だって、同僚の前で、叱責されたら、落ち込みます。

継続雇用制度16(津田電気計器事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

津田電気計器事件(大阪地裁平成22年9月30日・労旬1735号58頁)

【事案の概要】

Y社は、電子制御機器・計測器の製造・販売を業とする従業員50数名規模の会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社には、従来から定年である60歳から1年間の嘱託契約制度があった。平成18年3月、61歳で嘱託契約を終了した者を対象とした高年齢者継続雇用制度を導入した。

Xは、Y社が導入した継続雇用制度による雇用継続を申し入れたところ、選定基準に達していないとして継続雇用を拒否された。

Xは、Y社の査定は不合理であり、Xは選定基準を満たしていたとして労働契約上の地位にあることの確認と賃金支払いを求めた。

なお、Y社の継続雇用制度の概要は、(1)継続雇用を希望する者のうちから選考して採用する、(2)在職中の勤務実績および業務能力を査定し、採用の可否、労働条件を決定する、(3)「継続雇用対象者の査定表」には、業務習熟度、社員実態調査票、保有資格一覧表を、賞罰実績表を用い、総点数が0点以上の高齢者を採用する、(4)労働条件は、「継続雇用対象者」の総点数が10点以上の者は週40時間以内の労働時間とする、(5)本給の最低基準は満61歳のときの基本給の70%とし、これに1週の労働時間を40時間で割った割合を乗じて額とする、というものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年法9条2項の趣旨は、原則希望者全員雇用が望ましいが、困難な企業もあるから企業の実情に応じ、また、企業の必要とする能力経験が様々であるからもっとも相応しい基準を定めることが適当であり、同法9条1項に基づく事業主の義務は公法上の義務であり、個々の従業員に対する私法上の義務を定めたものとは解されない。

2 同法9条2項の選定基準の具体的内容をどのように定めるかについては、各企業の労使の判断であるから、選定基準の内容が公序良俗に反するような特段の事情のある場合は別として、同法違反を理由に当該継続雇用制度の私法上の効力を否定することはできない

3 事業主が、高年法9条1項2号、2項に即して就業規則において継続雇用制度の具体的な選定基準、再雇用された場合の一般的な労働条件を定め、周知したときは、自ら雇用する労働者に対し、当該就業規則に定められた条件で再雇用契約の締結の申し込みをしたものと認めるのが相当であり、当該就業規則に定められた基準を満たした労働者が再雇用を希望した場合、事業主の申込みに対する承諾があったとして、定年日の翌日を始期とする継続雇用制度の労働条件を内容とする再雇用契約が成立する。

4 事業主が法9条1項、2項に則して、継続雇用制度を導入し、具体的な選定基準や再雇用した場合の労働条件を明らかにしたのであれば、法律上の義務を果たすべく、条件を満たした労働者が希望すれば当然に契約を成立させるという確定的意思にもとに就業規則の制定を行ったものといえ、当該就業規則の周知は、申込みの誘引ではなく、当該就業規則に定める条件を満たした労働者を同就業規則で定めた労働条件で再雇用する旨の意思表示をしたものである

5 本件においては、査定の記載が、複数個所においていったん記入後低い評価に変更、修正されていること、上司が自分の経験で評価するとしか証言しなかったことなどから、Xのあるべき評価自体に重きをおくことはできない。そして、Xの直近1年の査定を具体的に検討し、使用者の査定項目のうち「チームワーク」のうち「自主的・積極的に上司に協力・補佐したか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、また、「仕事の達成度」のうち「こなした仕事の量・質は十分だったか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、これに表彰実績も加えると総点数は5点となり、採用基準を上回っている。

上記判例のポイント2のとおり、この裁判例によれば、結局、公序良俗違反となるような場合を除き、いかなる継続雇用制度を導入するか、いかなる選定基準とするかについては、労使協定で自由に決められるようです。

先日の新聞にも書かれていましたが、この分野は、今後、裁判が続くと思われます。

なお、この裁判例では、査定の当否の立証責任について、以下のとおり判断しています。

1 選定基準の要件を満たしている事実は、再雇用契約の申込みに付された契約成立条件にかかるから、再雇用契約の成立を主張する労働者において主張立証し、選定基準が、特段の欠格事由がない者は再雇用するというものであれば、欠格事由の存在は使用者が主張立証すべきである。

2 労働者は過去の人事考課が基準以上のものであったはずであることを裏付ける具体的事実を主張立証し、使用者は自己のなした人事考課を裏付ける具体的事実を主張立証し、裁判所が認定できた事実をもとにあるべき評価を検討し、基準を満たしたかどうかを判断する。

3 再雇用拒否という労働者にとって大きな不利益をもたらす人事考課については、人事考課を実施し、資料を独占的に保有している使用者側において人事考課の根拠とした事実、当該事実の考課基準のあてはめ過程の双方について具体的に論証しないかぎり権限の濫用と評価される場合が多い

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

有期労働契約15(河合塾事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

河合塾事件(最高裁平成22年4月27日・労判1009号5頁)

【事案の概要】

Y社は、予備校を経営する会社である。

Xは、Y社との間で、期間1年の出講契約を25年間にわたり繰り返してきた非常勤講師である。

Xは、平成18年度の出講契約の担当コマ数について合意できないことを理由に、Xとの出講契約を締結しなかったことが雇止めにあたるとして、地位確認、賃金、慰謝料等を求めた。

Y社は、平成17年12月、受講生の大幅な減少見込み、受講生の授業アンケートの結果に基づく評価が低いことを理由に、18年度の1週間あたりの担当コマ数を従前の7コマから4コマに削減する旨通告した。

Xは、文書で、週4コマの講義は担当するが、合意に至らない部分は裁判所に労働審判を申し立てた上で解決を図る旨返答した。

Y社は、そのような扱いはできないとして、結局、平成18年度の出講契約は締結されなかった。

【裁判所の判断】

雇止めとはいえない。

Y社の対応は不法行為に当たらない。

【判例のポイント】

1 平成18年度の出講契約が締結されなかったのはXの意思によるものであり、Y社からの雇止めであるとはいえない

2 Xの担当講義を削減することとした主な理由は、Xの講義に対する受講生の評価が3年連続して低かったことにあり、受講生の減少が見込まれる中で、大学受験予備校経営上の必要性からみて、Xの担当コマ数を削減するというY社の判断はやむを得なかったものというべきである

3 Y社は、収入に与える影響を理由に従来どおりのコマ数の確保等を求めるXからの申入れに応じていないが、Xが兼業を禁止されておらず、実際にも過去に兼業をしていた時期があったことなども併せ考慮すれば、Xが長期間ほぼY社からの収入により生活してきたことを勘案しても、Y社が上記申入れに応じなかったことが不当とはいい難い。

4 また、合意に至らない部分につき労働審判を申し立てるとの条件で週4コマを担当するとのXの申入れにY社が応じなかったことも、上記事情に加え、そのような合意をすれば全体の講義編成に影響が生じ得ることからみて、特段非難されるべきものとはいえない

5 そして、Y社は、平成17年中に平成18年度のコマ数削減をXに伝え、2度にわたりXの回答を待ったものであり、その過程で不適切な説明をしたり、不当な手段を用いたりした等の事情があるともうかがわれない

6 以上のような事情の下では、平成18年度の出講契約の締結へ向けたXとの交渉におけるY社の対応が不法行為に当たるとはいえない。

この事案は、第1審、原審、上告審で、裁判所の判断が異なります。

さまざまな事案の捉え方があることがわかり、大変勉強になります。

試験問題なんかにいいんじゃないかな。

第1審(福岡地裁平成20年5月15日・労判989号50頁)では、本件出講契約は労働契約であるとしたうえで、本件出講契約の終了は雇止めと認めました。

しかし、常に前年度と同程度の出講コマ数が確保された本件出講契約の継続を期待することは、いわば主観的願望の域を出ないものである等とし、雇止めは有効であるとしました。

第2審(福岡高裁平成21年5月19日・労判989号39頁)では、本件出講契約を労働契約であると見るのは躊躇されるとし、労働契約であるとは認めませんでした。

しかし、最高裁の判断と同様に、Xが承諾書を指定された期日までに提出しなかったことから出講契約が締結されなかったのであるから、Y社による雇止めとするのは無理があるとしました。

他方で、Y社のいささか理不尽ともいうべき強硬一辺倒の態度が、Xの消極的な抵抗へと追い込んでいったという面があることを否定できず、その限りで、Y社の対応は、Xに対する不法行為を構成するとして、慰謝料350万円を認めました。

福岡高裁、思い切りましたね!

ただ、結局、最高裁で破棄されてしまいました。

非常勤講師の雇止め事案に関する裁判例は、雇用継続への合理的期待が低いことを理由に、解雇権濫用法理の類推適用に比較的慎重な姿勢をとることが多いです。

本件もそのような判例のひとつです。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

解雇30(横浜市学校保健会事件)

おはようございます。

さて、今日は、引き続き、私傷病と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

横浜市学校保健会事件(東京高裁平成17年1月19日・労判890号58頁)

【事案の概要】

Y社は、横浜市教育委員会から委託を受け、学校歯科保健事業を行っている団体である。事業の主たる内容は、市立の小中学校のうち希望する学校に歯科衛生士を巡回させて行う歯科巡回指導である。

Xは、歯科衛生士としてY社で勤務してきた。

Xは、頸椎症性脊髄症であり休業を要すると診断された。

Xは、私傷病職免および年休をすべて消化し終えても入院が必要で、業務に従事できない状態であったことから、診断書を添えて休職願を提出した。

Xは、約6年にわたり休職してきたが、Y社は、Xが「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」(Y社勤務条件規程3条3項2号)に該当すると判断し、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は無効であると主張した。

なお、本件解雇当時、Xは、左上肢を一時的に上げることはできるものの、左上肢を上げたままの姿勢を長く保持することが困難であるばかりか、左上肢を上げ下げする動作を繰り返していると左手に震え等の不随意運動が生じてしまうという状態にあった。また、左手の握力は9ないし12キログラムと、小学校低学年の女子程度のレベルしかなく、特に左手母指の筋力が著しく弱い状態にあった。Xは、補助具を用いても自力で立つことができず、常時車いすを使用する必要のある状態にあった。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、小中学校の児童に対する歯科巡回指導を行う歯科衛生士として、あらかじめ職種及び業務内容を特定してY社に雇用されたのであるから、特定されたこの職種及び業務内容との関係でその職務遂行に支障があり又はこれに堪えないかどうかが、専ら検討対象となるものである。

2 歯科衛生士が歯口清掃検査を実施するに当たっては「検査対象児童の歯、歯茎等、口腔内の状態を正確に把握することが必要であるところ、そのためには(1)歯科衛生士が、検査対象児童の口腔内をのぞきこむことができる適切な視線の位置(高さ)を確保する、(2)歯を覆っている唇あういは口付近の肉を検査の邪魔にならないよう押し広げるなどし、歯をむき出しにする、以上の2点が最低限必要である。

3 ・・・以上のような要請を満たす検査を行うには、歯科衛生士は、自分の両上肢の動きを自己の意思で完全にコントロールし、手指を用いて細かな作業を行うことができなければならないというべきであるところ、Xの左上肢の状況にかんがみると、Xの左上肢は、このような作業を行うには堪えられなかったことは明らかであり、結局、Xは、本件解雇当時、歯口清掃検査を行うことができない状態にあったというべきである。

4 Xは、Y社の業務中最も重要な意味を有することが明らかな歯口清掃検査そのものを行うことができないのであるから、本件解雇当時、Xが勤務条件規程3条3項2号「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」い該当していたものといわざるを得ないところである。

5 Xは、本件解雇は、単にXに身体障害が存在することを理由とするものであるから、介助者付きの原職復帰を認めずにした本件解雇は遠方14条1項、労働基準法3条違反である旨主張するが、左上肢の機能の背弦は、歯科衛生士としての資格を持つX自身が行わなければならない事柄に関する問題であって、介助者の有無によって結論に差異をもたらすものではないから、Xの主張は前提を欠いている

本件のポイントは、上記判例のポイント2です。

裁判所が、歯科衛生士であるXが最低限提供すべき履行の内容を基準として示しています。

つまり、Xが従事すべき業務の中核的部分を遂行するに足りるだけの身体的運動能力が認められるか否か、という点で、「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」の該当性を判断したわけです。

職場復帰時に、従前と同様の身体的能力を必要とするか否かが問題となるところですが、あくまで「最低限提供すべき」業務を遂行できるか否かが判断の分かれ目であるわけです。

この点は、従業員側に大変参考になるものですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

配転・出向・転籍1(オリンパス事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

本件は、公益通報者保護法とも関連するケースです。

オリンパス事件(東京地裁平成22年1月15日・判時2073号137頁)

【事案の概要】

Y社は、デジタルカメラ、医療用内視鏡、顕微鏡、非破壊検査機器(NDT)等の製造販売を主たる業とする会社である。

Xは、Y社に正社員として入社し、平成19年4月から、IMS事業部国内販売部NDTシステムグループにおいて営業販売業務の統括責任者として業務に従事していたところ、取引先からY社関連会社に従業員が入社した。

これについては、Xは、取引先の取締役から、当該従業員と取引先の従業員と連絡を取らせないように言われるなどし、更に、2人目の転職者が予定されていることを知った。

Xは、上司に対し、2人目の転職希望者の件はとりやめるべきであるなどと言った。

これに対し、上司は、Xが上司に提言しに来たのは大間違いなどと電子メールで返信した。そこで、Xは、Y社のコンプライアンス室長らに対し、取引先からの引き抜きの件を説明し、引き抜きがまだ実行されるかもしれない、顧客からの信頼失墜を招くことを防ぎたい等と相談した。

その後、Y社は、Xに対し、IMS企画営業部部長付きとして勤務する旨命ずる配転命令をした。

Xは、この配転命令の効力を争うとともに、この配転及び配転後にXを退職に追い込もうとしたことが不法行為を構成するとして慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。

2 すなわち、配転命令は、配転の業務上の必要性とは別個の不当な動機や目的をもってなされた場合には、権利濫用となる。また、配転命令が、当該人員配置の変更を行う必要性と、その変更に当該労働者をあてるという人員選択の合理性に比し、その命令がもたらす労働者の職業上ないし生活上の不利益が不釣合いに大きい場合には権利濫用となる。

3 そして、業務上の必要性については、当該勤務先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

4 本件配転後、Xの賞与は若干、減額されているものの、勤務地は変わらず、本件配転命令によるXに生ずる不利益はわずかなものであり、本件配転命令が報復目的とは容易に認定し難い

5 Xによる上司及びY社のコンプライアンス室に対する通報内容は、業務及び人間関係両側面の正常化を目的とするものであった。Y社らは、不正競争防止法については全く認識しておらず、公益通報者保護法にいう「通報対象事実」に該当する通報があったとは認められない。

6 公益通報者保護法5条は、「公益通報」をしたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないと規定する。「公益通報」は「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を」「通報することをいう。」(同2条1項)とされ、
「通報対象事実」は、同法2条3項で定義されているものに限定され・・・不正競争防止法を含む多数の法律が政令で規定されている。そのため、内部告発にかかる事実が、これらのうちどの法律の問題であるかは必ずしも明確ではない。

配転に関する訴訟で勝訴するのは、従業員側にとって、非常にハードルが高いです。

それは、最高裁(東亜ペイント事件)が示した判断基準が、解雇等と比べて、緩やかだからです。

本件でも、不当な動機目的は認定されませんでした。

配転、出向、転籍に関する裁判例を検討し、いかなる場合に無効と判断されるのかについて、具体的事例を見ることとは、実務において参考になります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

解雇29(北海道龍谷学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、私傷病と解雇に関する裁判例について見てみましょう。

最近、私が関心を持っている分野なので、同種の事案が続きます。

北海道龍谷学園事件(札幌高裁平成11年7月9日・労判764号17頁)

【事案の概要】

Y社は、高校を営む学校法人である。

Xは、Y社に雇用され、保健体育の教諭の職にあった。

Xは、授業中に脳出血で倒れ、右半身不随となり(当時46歳)、入院治療を受けた。

Xは、2年あまり後、復職を申し出たが、Y社はこれを拒絶した。

なお、Xは、入院中も通信教育を受け、高校の公民、地理歴史の教員免許を取得していた。

Yは、Xを保健体育の時間講師として採用し様子を見ると提案したが、Xはこれを拒否し、その後、Y社は、Xが就業規則の「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」に該当するものとしてXに通常解雇を通知した。

Xは、解雇は無効であるとして、労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、解雇通知を受けた当時において、Y社における体育教諭として要請される保健体育授業での各種運動競技の実技指導を行うことはほとんど不可能であったし、教室内等の普通授業においても発語・書字力がその速度・程度とも少なくとも未成熟な生徒を対象とすることが多い高等学校の教諭としての実用的な水準に達しないことから多大の困難が予想され、とりわけ、授業・部活動中の生徒の傷害等事故の発生時に適切な措置をとることができないことが確実であり、その余の分掌事務(例えば、学園祭における各種行事の実行指導とか、修学旅行の付き添いなど)か、相当の困難が伴う身体状況にあったものと認められ、これらを擁するに、Xの身体能力等は、体育の実技の指導・緊急時の対処能力及び口頭による教育・指導の場面等においてY社における保健体育の教育としての身体的資質・能力水準に達していなかったものであるから、Y社での保健体育教員としての業務に耐えられないものと認めざるを得ない。

2 もっとも、Xに対して適宜に補助者を付け、分担すべき業務を軽減し、また平素の授業における生徒の理解と協力を得られるならば、Xが保健体育の教員としての業務を遂行できる場合がありうること、Xが身体障害を克服する努力を続ける中で生徒の理解と協力を得つつ教員として活動することでXが主張するような教育的効果を期待し得る場合があることは、いずれも首肯し得ないではない。
しかし、本件においては、Xがその「身体の障害」によってY社の就業規則所定の「業務に堪えられない」と認められるかどうかが争点であって、Xが主張するような補助や教育的効果に対する期待(ただし、現実問題としてこれらが常に随伴するとは考え難い。)がなければ、Xが教員としての業務を全うすることができないのであれば、Xは身体の障害により業務に堪えられないもの、すなわち、同規則に該当するものであることを肯定するに等しいものというべきである

3 また、Xは、公民、地理歴史の教諭資格を取得したから同科目の業務に従事することができると主張するが、Xは保健体育の教諭資格者としてY社に雇用されたのであるから、雇用契約上保健体育の教諭としての労務に従事する債務を負担したものである。したがって、就業規則の適用上Xの「業務」は保健体育の教諭としての労務をいうべきであり、公民、地理歴史の教諭としての業務の可否を論ずる余地はないというべきである。

第1審では、Xが傷害を負いながらもこれを克服するために懸命に努力する姿を示すことは生徒への教育的効果も期待でき、この点を考慮に入れるべきであるとの指摘も行った上で、Xが業務に堪えられないとはいえず、解雇は無効であると判断されました。

これに対し、控訴審は、上記のとおり判断し、解雇は有効であると判断しました。

第1審は、Xが教育に携わる者であるという実質を重視したのに対し、控訴審は、あくまで就業規則の文言の形式的解釈を重視したというものです。

立場により、主張するポイントが異なるという点では、参考になる裁判例ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

労災38(音更町農業協同組合事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、ずっと裁判の打合せです。

午後も、裁判の打合せが3件、夕方から事務所会議です。

・・・接見に行かないと

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

音更農業協同組合事件(釧路地裁帯広支部平成21年2月2日・労判990号196頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社の事務職の正社員となり、酪農課、農産課を経て青果課に所属し施設管理業務を担当していたが、同課の係長が疾病で入院休職したので、同係長の担当していた販売業務の一部を分担するに至った。

Xは、業務増大のため疲労し、次第に体調の不良を訴えた。

Xは、Y社倉庫において、自殺した(死亡当時33歳)

Xの遺族は、Y社に対し、Xが過労によりうつ病に罹患し自殺したのは、Y社の職員に対する安全配慮義務違反によるものであるとして、損害賠償を請求した。

なお、北海道帯広労基署長は、Xの自殺は業務上災害であると認定した。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、約1億円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの自殺がY社における業務に起因するものであるか否かを検討するに当たっては、労働省労働基準局長の平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」と題する通達に従って認定するのが相当である。

2 Y社は、その雇用売る労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないよう注意し、もって、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っていると解するのが相当である。

3 Y社は、平成17年5月にタイムカード制を導入するまでは出勤簿でのみ職員の勤務を管理し、超過勤務についても職員の自己申告に委ね、これをチェックすることもしていなかったのであって、その労働時間管理は杜撰なものであったというほかないが、仮にそうであっても、課長は、上司としてXと職場をともにし、日々同人の動静を把握できる立場にあり、現にXの業務量が増大していることを認識していたものである。また、Xは、平成16年11月から度々体調不良や通院を理由として早退届や外出届を提出していた。こうした事情に加えて、平成17年2月にXが提出した自己申告書には、他部署への異動を希望する旨の記載があったこともあわせると、Y社は、Xが業務負担の増大及びこれを原因とする疲労の蓄積や体調不良に悩んでいたことを認識し、あるいは認識することが可能であったというべきである。
そうだとすれば、Y社は、遅くとも平成17年3月までには、Xの業務量を軽減する措置を講ずる義務があり、かつそのような措置を講ずることは可能であったというべきである。

4 ところが、Y社は、平成16年6月から翌9月にかけてわずか1か月間程度アルバイト2名を増員したほかは、Xの業務負担を軽減する措置を特段講じていない。それどころか、Y社は、平成17年4月1日付けで、Xを係長に昇格させているが、Xの青果課における従前の仕事ぶりや性格等からして同人が青果課係長職として相応しいかどうか十分に検討したかどうか疑問があり、しかも初めて管理職に就くXに対するフォローもしていないのである。その結果、Xの業務負担はさらに増大し、未処理案件は山積みとなり、Xは単純な業務ですら手をつかないような状態に陥ったものである。そうした状況下で、本件異物混入事件という、青果課係長としてのXの心に重い負担を与えたと思われる事件が発生し、さらに追い打ちをかけるように、本件異物混入事件の後処理をした翌日、課長による長時間の叱責があったのであって、これが決定的打撃となり、Xのうつ病エピソードを悪化させたものと推認するのが相当である。
したがって、Y社は、労働者であるXに対する安全配慮義務を怠ったというべきである。

5 Xは、平成16年6月以降、増大する業務負担に耐えながらも結局精神病に罹患し、妻と当時未だ1歳の娘を残し、33歳という若さで自ら命を絶つという非業の死を遂げたものである。Y社は、Xが心身に変調を来していることを現に認識し、あるいは認識し得べきであったにもかかわらず、特段の措置を講じなかったどころか、ほとんど何の配慮のないまま係長へと昇格させるという無謀な人事を断行し、さらには本件異物混入事件というXにとっても衝撃の大きかったと思われる事件の2日後に上司が長時間にわたって叱責を行った結果、Xを首つり自殺という惨い死に方へと追いやったものである。
こうした事情に照らすと、Xの死亡慰謝料は、3000万円をもって相当と認める。

会社側としては、大変参考になる裁判例だと思います。

従業員を昇格させる場合、通常、その従業員の職務上の責任は重くなります。

昇格させる際、その従業員が昇格後の職務上の責任を果たし得るか、また、その職務上の地位にふさわしい人物か否かについて、十分検討するべきです。

上記判例のポイント4は参考になりますね。

また、仕事上、上司が部下を叱責することはどの会社でもあることです。

しかし、これも方法、態様、程度によっては、パワハラと評価されること、本件同様に、労災につながり得ることを、十分認識するべきです。

いろいろな意見があるところだと思いますが、裁判所がそのように判断している現実をまずは受け入れましょう。