継続雇用制度16(津田電気計器事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

津田電気計器事件(大阪地裁平成22年9月30日・労旬1735号58頁)

【事案の概要】

Y社は、電子制御機器・計測器の製造・販売を業とする従業員50数名規模の会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社には、従来から定年である60歳から1年間の嘱託契約制度があった。平成18年3月、61歳で嘱託契約を終了した者を対象とした高年齢者継続雇用制度を導入した。

Xは、Y社が導入した継続雇用制度による雇用継続を申し入れたところ、選定基準に達していないとして継続雇用を拒否された。

Xは、Y社の査定は不合理であり、Xは選定基準を満たしていたとして労働契約上の地位にあることの確認と賃金支払いを求めた。

なお、Y社の継続雇用制度の概要は、(1)継続雇用を希望する者のうちから選考して採用する、(2)在職中の勤務実績および業務能力を査定し、採用の可否、労働条件を決定する、(3)「継続雇用対象者の査定表」には、業務習熟度、社員実態調査票、保有資格一覧表を、賞罰実績表を用い、総点数が0点以上の高齢者を採用する、(4)労働条件は、「継続雇用対象者」の総点数が10点以上の者は週40時間以内の労働時間とする、(5)本給の最低基準は満61歳のときの基本給の70%とし、これに1週の労働時間を40時間で割った割合を乗じて額とする、というものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年法9条2項の趣旨は、原則希望者全員雇用が望ましいが、困難な企業もあるから企業の実情に応じ、また、企業の必要とする能力経験が様々であるからもっとも相応しい基準を定めることが適当であり、同法9条1項に基づく事業主の義務は公法上の義務であり、個々の従業員に対する私法上の義務を定めたものとは解されない。

2 同法9条2項の選定基準の具体的内容をどのように定めるかについては、各企業の労使の判断であるから、選定基準の内容が公序良俗に反するような特段の事情のある場合は別として、同法違反を理由に当該継続雇用制度の私法上の効力を否定することはできない

3 事業主が、高年法9条1項2号、2項に即して就業規則において継続雇用制度の具体的な選定基準、再雇用された場合の一般的な労働条件を定め、周知したときは、自ら雇用する労働者に対し、当該就業規則に定められた条件で再雇用契約の締結の申し込みをしたものと認めるのが相当であり、当該就業規則に定められた基準を満たした労働者が再雇用を希望した場合、事業主の申込みに対する承諾があったとして、定年日の翌日を始期とする継続雇用制度の労働条件を内容とする再雇用契約が成立する。

4 事業主が法9条1項、2項に則して、継続雇用制度を導入し、具体的な選定基準や再雇用した場合の労働条件を明らかにしたのであれば、法律上の義務を果たすべく、条件を満たした労働者が希望すれば当然に契約を成立させるという確定的意思にもとに就業規則の制定を行ったものといえ、当該就業規則の周知は、申込みの誘引ではなく、当該就業規則に定める条件を満たした労働者を同就業規則で定めた労働条件で再雇用する旨の意思表示をしたものである

5 本件においては、査定の記載が、複数個所においていったん記入後低い評価に変更、修正されていること、上司が自分の経験で評価するとしか証言しなかったことなどから、Xのあるべき評価自体に重きをおくことはできない。そして、Xの直近1年の査定を具体的に検討し、使用者の査定項目のうち「チームワーク」のうち「自主的・積極的に上司に協力・補佐したか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、また、「仕事の達成度」のうち「こなした仕事の量・質は十分だったか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、これに表彰実績も加えると総点数は5点となり、採用基準を上回っている。

上記判例のポイント2のとおり、この裁判例によれば、結局、公序良俗違反となるような場合を除き、いかなる継続雇用制度を導入するか、いかなる選定基準とするかについては、労使協定で自由に決められるようです。

先日の新聞にも書かれていましたが、この分野は、今後、裁判が続くと思われます。

なお、この裁判例では、査定の当否の立証責任について、以下のとおり判断しています。

1 選定基準の要件を満たしている事実は、再雇用契約の申込みに付された契約成立条件にかかるから、再雇用契約の成立を主張する労働者において主張立証し、選定基準が、特段の欠格事由がない者は再雇用するというものであれば、欠格事由の存在は使用者が主張立証すべきである。

2 労働者は過去の人事考課が基準以上のものであったはずであることを裏付ける具体的事実を主張立証し、使用者は自己のなした人事考課を裏付ける具体的事実を主張立証し、裁判所が認定できた事実をもとにあるべき評価を検討し、基準を満たしたかどうかを判断する。

3 再雇用拒否という労働者にとって大きな不利益をもたらす人事考課については、人事考課を実施し、資料を独占的に保有している使用者側において人事考課の根拠とした事実、当該事実の考課基準のあてはめ過程の双方について具体的に論証しないかぎり権限の濫用と評価される場合が多い

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。