Daily Archives: 2011年2月4日

労災40(トヨタ自動車事件)

おはようございます。

昨日も、夜遅くまでK山組のみなさんと飲んでいました

今日は、午前中は、裁判の打合せが1件と破産の相談が1件です。

午後は、家裁で離婚調停をして、その後、破産等の打合せが2件です。

夜は、O社のOさんとお食事です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成15年7月8日・労判856号14頁)

【事案の概要】

Y社に勤務していたXは、昭和63年8月、ビルから飛び降り自殺をした(死亡時35歳)。

Xは、当時、複数車種の改良設計で忙殺されており、組合の職場委員長への就任や、開発プロジェクト、南アフリカ共和国への出張命令を受けており、強い心理的負荷を受けていた。

Xの遺族は、Xの自殺は、過重な業務に起因するうつ病によるものであると主張した。

【裁判所の判断】

岡崎労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務と傷病等との間に業務起因性があるというためには、労働者災害補償制度の趣旨に照らすと、単に当該業務と傷病等との間に条件関係が存在するのみならず、社会通念上、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化として死傷病等が発生したと法的に評価されること、すなわち相当因果関係の存在が必要であると解せられる。

2 精神疾患の発症や増悪は様々な要因が複雑に影響し合っていると考えられているが、当該業務と精神疾患の発症もしくは増悪させた原因であると認められるだけでは足りず、当該業務自体が、社会通念上、当該精神疾患を発症もしくは増悪させる一定程度の危険性を内在または随伴していることが必要であると解するのが相当である。

3 そして、うつ病の発症メカニズムについてはいまだ十分解明されていないけれども、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務錠ないし業務以外の心身的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性」理論が合理的であると認められる。

4 もっとも、ストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神破綻が生じるか否かが決まるといっても、両者の関係やそれぞれの要素がどのように関係しているのかはいまだ医学的に解明されている訳ではないのであるから、業務とうつ病の発症・増悪との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては、うつ病に関する医学的知見を踏まえて、発症前の業務内容及び生活状況並びにこれが労働者に与える心身的負荷の有無や程度、さらには当該労働者の基礎疾患等の身体的要因や、うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に検討し、社会通念に照らして判断するのが相当であると考えられる

5 Xは、7月下旬ないし8月上旬ころ本件うつ病に罹患し、本件うつ病による心神耗弱状態の下で本件自殺をしたものであり、Y社におけるXの業務が本件うつ病発症の要因の1つになっていたこと(すなわち、業務と本件うつ病発症との間に条件関係が存在していたこと)自体は明らかである。そこで、業務上の出来事がXの心身にどのような負荷を与えたかについて以下検討すると、いわゆる業務の過重性について本件を基準とする見解、すなわち本人が感じたままにストレスの強度を理解すれば足りるとする見解は採用できないけれども、ストレスの性質上、本人が置かれた立場や状況を充分斟酌して出来事のもつ意味合いを把握した上で、ストレスの強度を客観的見地から評価することが必要であり、本件においては、Xが従事していた業務が、自動車製造における日本のトップ企業において、内容が高度で専門的であり、かつ、生産効率を重視した会社の方針に基づき高い労働密度の業務であると認められる中で、いわゆる会社人間として仕事優先の生活をして、第1係係長という中間管理職として恒常的に時間外労働を行ってきた実情を踏まえて判断する必要があるというべきである

第1審は、業務上の心身的負荷の強度の判断については、「同種労働者(職種、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし、同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当」であると判断しました。

いわゆる「平均的労働者最下限基準説」です。

これに対し、本件裁判例は、第1審とは異なる見解に立っています。

また、この裁判例は、Xが中間管理職の立場にあるという事実を判断要素として取り上げています。

このあたりは、労働者側として参考になる部分だと思います。