Daily Archives: 2011年2月10日

解雇33(ヤマト運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマト運輸事件(東京地裁平成19年8月27日・労経速1985号3頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送事業を営んでいる会社である。

Xは、Y社に雇用され、セールドライバーとして勤務していた。

Xは、業務終了後、帰宅途上で飲酒し、自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙された。この時、交通事故は起こしていない。

Xは、この事実を、Y社に直ちに報告をしなかった。

Xは、この件で罰金20万円に処せられ、運転免許停止30日の行政処分を受けた(講習受講により1日に短縮)。

Y社の就業規則では、業務内、業務外を問わず、飲酒運転及び酒気帯び運転をしたときには(懲戒)解雇する旨規定されている。

Y社は、Xを懲戒解雇とし、退職金を支給しなかった。

Xは、解雇は無効であるとし、退職金不支給も不当であるとして争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

退職金については、3分の1を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 従業員の職場外でされた行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものであれば、規制の対象となり得ることは明らかであるし、また、企業は社会において活動する上で、その社会的評価の低下毀損は、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれが強いので、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、職場外でされたものであっても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあるといえる。

2 これを本件についてみるに、Y社が大手の貨物自動車運送事業者であり、XがY社のセールスドライバーであったことからすれば、Y社は、交通事故の防止に努力し、事故につながりやすい飲酒・酒気帯び運転等の違反行為に対しては厳正に対処すべきことが求められる立場にあるといえる。したがって、このような違反行為があれば、社会から厳しい批判を受け、これが直ちにY社の社会的評価の低下に結びつき、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあり、これは事故を発生させたり報道された場合、行為の反復継続等の場合に限らないといえる。このようなY社の立場からすれば、所属のドライバーにつき、業務の内外を問うことなく、飲酒・酒気帯び運転に対して、懲戒解雇という最も重い処分をもって臨むというY社の就業規則の規定は、Y社が社会において率先して交通事故の防止に努力するという企業姿勢を示すために必要なものとして肯定され得るものということができる
そうすると、Xの上記違反行為をもって懲戒解雇とすることも、やむを得ないものとして適法とされるというべきである。

3 退職金は、賃金の後払いとしての性格を有し、企業が諸々の必要性から一方的、恣意的に退職金請求権を剥奪したりすることはできない。このような見地からは、退職金不支給とする定めは、退職する従業員に長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由が存在する場合に限り、退職金が支給されないとする趣旨と解すべきであり、その限度において適法というべきである。

4 これを本件についてみると、Xは、大手運送業者のY社に長年にわたり勤続するセールスドライバーでありながら、業務終了後の飲酒により自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙されたこと、この行為は、一審の口頭弁論終結時ほどは飲酒運転に対する社会の目が厳しくなかったとはいえ、なお社会から厳しい評価を受けるものであったこと、Xは処分をおそれて検挙の事実を直ちにY社に報告しなかったこと、その挙げ句、検挙の4カ月半後、運転記録証明の取得によりXの酒気帯び運転事実が発覚したことなどからすると、その情状はよいとはいえず、懲戒解雇はやむを得ないというべきである。
しかしながら他方、Xは他に懲戒処分を受けた経歴はうかがわれないこと、この時も酒気帯び運転の罪で罰金刑を受けたのみで、事故は起こしていないこと、反省文等から反省の様子も見て取れないわけではないことなどを考慮すると、Xの行為は、長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由とまではいえないというべきである。
したがって、就業規則の規定にかかわらず、Xは退職金請求権の一部を失わないと解される。

本件も、懲戒解雇を有効としながら、退職金全額の不支給は認められませんでした。

結果として、退職金の3分の1を支払うよう命じました。

会社としては、難しいところですね。

就業規則には、懲戒解雇となった場合、退職金は支給しない旨が規定されている以上、規定に従った処理をするのが自然です。

就業規則の規定を「退職金を支給しないことがある」とし、一定程度の退職金を支給するのか、それとも裁判上等!という姿勢で臨むのか、会社の姿勢が問われるところですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。