有期労働契約15(河合塾事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

河合塾事件(最高裁平成22年4月27日・労判1009号5頁)

【事案の概要】

Y社は、予備校を経営する会社である。

Xは、Y社との間で、期間1年の出講契約を25年間にわたり繰り返してきた非常勤講師である。

Xは、平成18年度の出講契約の担当コマ数について合意できないことを理由に、Xとの出講契約を締結しなかったことが雇止めにあたるとして、地位確認、賃金、慰謝料等を求めた。

Y社は、平成17年12月、受講生の大幅な減少見込み、受講生の授業アンケートの結果に基づく評価が低いことを理由に、18年度の1週間あたりの担当コマ数を従前の7コマから4コマに削減する旨通告した。

Xは、文書で、週4コマの講義は担当するが、合意に至らない部分は裁判所に労働審判を申し立てた上で解決を図る旨返答した。

Y社は、そのような扱いはできないとして、結局、平成18年度の出講契約は締結されなかった。

【裁判所の判断】

雇止めとはいえない。

Y社の対応は不法行為に当たらない。

【判例のポイント】

1 平成18年度の出講契約が締結されなかったのはXの意思によるものであり、Y社からの雇止めであるとはいえない

2 Xの担当講義を削減することとした主な理由は、Xの講義に対する受講生の評価が3年連続して低かったことにあり、受講生の減少が見込まれる中で、大学受験予備校経営上の必要性からみて、Xの担当コマ数を削減するというY社の判断はやむを得なかったものというべきである

3 Y社は、収入に与える影響を理由に従来どおりのコマ数の確保等を求めるXからの申入れに応じていないが、Xが兼業を禁止されておらず、実際にも過去に兼業をしていた時期があったことなども併せ考慮すれば、Xが長期間ほぼY社からの収入により生活してきたことを勘案しても、Y社が上記申入れに応じなかったことが不当とはいい難い。

4 また、合意に至らない部分につき労働審判を申し立てるとの条件で週4コマを担当するとのXの申入れにY社が応じなかったことも、上記事情に加え、そのような合意をすれば全体の講義編成に影響が生じ得ることからみて、特段非難されるべきものとはいえない

5 そして、Y社は、平成17年中に平成18年度のコマ数削減をXに伝え、2度にわたりXの回答を待ったものであり、その過程で不適切な説明をしたり、不当な手段を用いたりした等の事情があるともうかがわれない

6 以上のような事情の下では、平成18年度の出講契約の締結へ向けたXとの交渉におけるY社の対応が不法行為に当たるとはいえない。

この事案は、第1審、原審、上告審で、裁判所の判断が異なります。

さまざまな事案の捉え方があることがわかり、大変勉強になります。

試験問題なんかにいいんじゃないかな。

第1審(福岡地裁平成20年5月15日・労判989号50頁)では、本件出講契約は労働契約であるとしたうえで、本件出講契約の終了は雇止めと認めました。

しかし、常に前年度と同程度の出講コマ数が確保された本件出講契約の継続を期待することは、いわば主観的願望の域を出ないものである等とし、雇止めは有効であるとしました。

第2審(福岡高裁平成21年5月19日・労判989号39頁)では、本件出講契約を労働契約であると見るのは躊躇されるとし、労働契約であるとは認めませんでした。

しかし、最高裁の判断と同様に、Xが承諾書を指定された期日までに提出しなかったことから出講契約が締結されなかったのであるから、Y社による雇止めとするのは無理があるとしました。

他方で、Y社のいささか理不尽ともいうべき強硬一辺倒の態度が、Xの消極的な抵抗へと追い込んでいったという面があることを否定できず、その限りで、Y社の対応は、Xに対する不法行為を構成するとして、慰謝料350万円を認めました。

福岡高裁、思い切りましたね!

ただ、結局、最高裁で破棄されてしまいました。

非常勤講師の雇止め事案に関する裁判例は、雇用継続への合理的期待が低いことを理由に、解雇権濫用法理の類推適用に比較的慎重な姿勢をとることが多いです。

本件もそのような判例のひとつです。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。