Daily Archives: 2011年1月27日

配転・出向・転籍1(オリンパス事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

本件は、公益通報者保護法とも関連するケースです。

オリンパス事件(東京地裁平成22年1月15日・判時2073号137頁)

【事案の概要】

Y社は、デジタルカメラ、医療用内視鏡、顕微鏡、非破壊検査機器(NDT)等の製造販売を主たる業とする会社である。

Xは、Y社に正社員として入社し、平成19年4月から、IMS事業部国内販売部NDTシステムグループにおいて営業販売業務の統括責任者として業務に従事していたところ、取引先からY社関連会社に従業員が入社した。

これについては、Xは、取引先の取締役から、当該従業員と取引先の従業員と連絡を取らせないように言われるなどし、更に、2人目の転職者が予定されていることを知った。

Xは、上司に対し、2人目の転職希望者の件はとりやめるべきであるなどと言った。

これに対し、上司は、Xが上司に提言しに来たのは大間違いなどと電子メールで返信した。そこで、Xは、Y社のコンプライアンス室長らに対し、取引先からの引き抜きの件を説明し、引き抜きがまだ実行されるかもしれない、顧客からの信頼失墜を招くことを防ぎたい等と相談した。

その後、Y社は、Xに対し、IMS企画営業部部長付きとして勤務する旨命ずる配転命令をした。

Xは、この配転命令の効力を争うとともに、この配転及び配転後にXを退職に追い込もうとしたことが不法行為を構成するとして慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。

2 すなわち、配転命令は、配転の業務上の必要性とは別個の不当な動機や目的をもってなされた場合には、権利濫用となる。また、配転命令が、当該人員配置の変更を行う必要性と、その変更に当該労働者をあてるという人員選択の合理性に比し、その命令がもたらす労働者の職業上ないし生活上の不利益が不釣合いに大きい場合には権利濫用となる。

3 そして、業務上の必要性については、当該勤務先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

4 本件配転後、Xの賞与は若干、減額されているものの、勤務地は変わらず、本件配転命令によるXに生ずる不利益はわずかなものであり、本件配転命令が報復目的とは容易に認定し難い

5 Xによる上司及びY社のコンプライアンス室に対する通報内容は、業務及び人間関係両側面の正常化を目的とするものであった。Y社らは、不正競争防止法については全く認識しておらず、公益通報者保護法にいう「通報対象事実」に該当する通報があったとは認められない。

6 公益通報者保護法5条は、「公益通報」をしたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないと規定する。「公益通報」は「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を」「通報することをいう。」(同2条1項)とされ、
「通報対象事実」は、同法2条3項で定義されているものに限定され・・・不正競争防止法を含む多数の法律が政令で規定されている。そのため、内部告発にかかる事実が、これらのうちどの法律の問題であるかは必ずしも明確ではない。

配転に関する訴訟で勝訴するのは、従業員側にとって、非常にハードルが高いです。

それは、最高裁(東亜ペイント事件)が示した判断基準が、解雇等と比べて、緩やかだからです。

本件でも、不当な動機目的は認定されませんでした。

配転、出向、転籍に関する裁判例を検討し、いかなる場合に無効と判断されるのかについて、具体的事例を見ることとは、実務において参考になります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。