Daily Archives: 2011年1月14日

労災33(セイコーエプソン事件)

おはようございます。

もう金曜日ですか・・・?

今日は、午前中に遺産分割の打合せが1件、離婚訴訟が1件入っています

午後は、遺産分割協議を含め4件打合せが入っています。

夜は、弁護士会で弁護団会議です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

セイコーエプソン事件(東京高裁平成20年5月22日・判時2021号116頁)

【事案の概要】

Y社は、情報関連機器、精密機器の開発、製造、販売及びサービス等を主要な事業とする会社である。

Y社は、平成12年ころ、プリンターの製造を国内生産から海外生産に切り替えた。

Xは、Y社の従業員として、海外現地法人の技能認定業務等に従事していたが、出張先である東京都内のホテルにおいて、くも膜下出血を発症し死亡した(死亡当時41歳)。

【裁判所の判断】

松本労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法に基づく労災補償制度は、損害の填補それ自体を直接の目的とするものではなく、被災労働者とその遺族の人間に値する生活を営むための必要を満たす最低限度の法定補償を迅速かつ公平に行うことを目的とするものであり、業務に内在または随伴する危険が現実化して負傷、疾病、障害又は死亡が発生した場合には、使用者及び保険を管轄する政府に無過失の補償責任が発生するとすることにその制度趣旨があり、その補償責任は、危険責任の法理に基づくものと解するのが相当というべきである。

2 前記労災補償制度の目的・趣旨に照らせば、被災労働者が従事していた業務が、被災労働者の疾病の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には、被災労働者の従事していた業務と同人の疾病の発症・増悪との間には相当因果関係が認められ、業務起因性は肯定されると解するのが相当である。本件のごとき、脳・心臓疾患の発症に関しても同様であり、被災労働者が、脳・心臓疾患を発症する前に従事していた業務が、被災労働者に発症した脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には、被災労働者の従事していた業務と同人に発症した脳・心臓疾患との間には相当因果関係が認められ、業務起因性は肯定されるというべきである。

3 そして、社会通念上、(1)被災労働者の脳・心臓疾患発症当時、同人の基礎疾患(血管病変等)が、確たる発症の危険因子がなくてもその自然経過により脳・心臓疾患を発症させる寸前まで進行していたとは認められないこと、(2)被災労働者が、脳・心臓疾患を発症させる前に、同人の基礎疾患(血管病変等)をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務に従事していたと認められること、(3)被災労働者には、他に脳・心臓疾患を発症させる確たる発症因子はないと認められること、の3つの要件を満たせば、被災労働者が脳・心臓疾患を発症させる前に従事していた業務は、被災労働者の脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められるべきである。

4 本件において、Xがくも膜下出血を発症した当時、同人の解離性脳動脈瘤の基礎的な血管病態が、その抱える個人的なリスクファクターのもとで自然経過により、一過性の血圧上昇でいつくも膜下出血が発症してもおかしくない状態まで増悪していたとみるのは困難であり、むしろ、Xは、フィリピンやインドネシアでのほぼ連続した出張業務に従事し疲労が蓄積した状態であったところ、インドネシアから帰国後ほとんど日を置かず東京台場でのリワーク作業に従事せざるを得ず、かつ、その業務に従事中、解離性動脈瘤の前駆症状の増悪があったにもかかわらず、業務を継続せざるを得ない状況にあったものであり、それらのことが上記基礎的疾患を有するXに過重な精神的、身体的な負荷を与え、上記基礎的疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、その結果、解離性脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血が発症するに至ったとみるのが相当である。そうすると、被災者がくも膜下出血により死亡したのはその従事していた業務の危険性が現実化したことによるものということができ、したがって、Xのくも膜下出血の発症と業務との間には相当因果関係があり、Xは業務上の事由により死亡したものというべきである。

第1審では、業務起因性を否定しましたが、控訴審では、これを肯定しました。

第1審では、Xの海外出張の業務は特段考慮せず、長時間の時間外労働はなかったとして業務起因性を否定しました。

これに対し、控訴審では、上記のとおり、時間外労働は月平均30時間を下回るとしながらも、度重なる海外出張という過重な精神的、肉体的負荷で疲労が蓄積したことを重視し、業務起因性を肯定しました。

出張業務が多い場合の労災事件では、労働者にとって、非常に参考になる裁判例ですね。