Daily Archives: 2011年1月15日

解雇23(ビーアンドブィ事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理等による懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ビーアンドブィ事件(東京地裁平成22年7月23日・労判1013号25頁)

【事案の概要】

Y社は、サービス業を目的とする会社で、事業内容として、カラオケボックス「カラオケ館」等を経営している。

Xは、Y社に正社員として期間の定めなく雇用され、Y社総務人事部部長の立場にあった。

Y社では、毎年、新年店長会を実施していたところ、平成22年の店長会は、Xが実施担当者とされ、準備を担当した。

Y社は、Xが、その過程で下見費用、参加者への寄贈品代金等の付替え、旅行代理店に対する付替え請求指示等を行った事実を把握した。

Y社は、精査・調査のためとして、Xに自宅待機を命じたうえで、退職勧奨を行ったが、Xが応じなかったため、懲戒解雇を通告した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

1年間の賃金仮払いを認めたが、雇用契約上の地位の保全は却下した

【判例のポイント】

1 労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効であると規定している。
同条は、これまでの学説と裁判例によって形成され、近時の最高裁判例によって要約された懲戒権濫用法理が法文化されたものであって、その内容は、(1)懲戒処分の根拠規定が存在していること、(2)懲戒事由への該当性、(3)相当性の3つの要件から構成されているものと解される(菅野和夫「労働法第9版」431頁以下)。
なお、「労働者の行為の性質及び態様」とは、当該労働者の態様・動機、業務に及ぼした影響、損害の程度のほか、労働者の情状・処分歴などを意味する(土田道夫「労働契約法」448頁)。

2 女性同伴で観光旅行を行い、その費用を会社の負担に付け回したことは、業務上の権限を逸脱する行為で就業規則に違反するが、同伴した女性は妻であったと認められること、オープンな形で事が運ばれていて画策といえるほどの策動性があるか疑問があること、下見費用2万3100円はY社の経営規模からみて僅少であり後にXが全額支払っていること、結果的に本件店長会を滞りなく実施させたことなどを考慮すると、懲戒解雇事由である「その事案が重篤なとき」に該当しない。

3 懲戒処分の効力を判断するに当たっては、当該処分の理由を個別に検討するだけでなく、全体的な見地からもこれを行うべきものと解されるが、処分事由を全体的にみても懲戒解雇事由に当たらない。

4 本件懲戒解雇は、Xに対して全く最終的な弁明の機会等を付与することなく断行されており、拙速であるとの非難を免れず、この点において手続的な相当性に欠けており社会通念上相当であるということはできない

5 仮の地位を定める仮処分は、Xに生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができるのであるから、賃金仮払いの仮処分についても、X及びその家族が困窮し、回復し難い損害を受けるおそれがあるか否かという観点から、他からの固定収入の有無、資産の有無、同居家族の収入の有無等を考慮の対象としつつ、仮払いを認めることによって使用者が被る経済的不利益を比較考慮して、その保全の必要性を判断すべきである

6 なお雇用契約の中核をなす権利は賃金請求権であって、その一部について仮払いが認められた以上、これに加えて雇用契約上の地位の保全を認める必要性はないものというべきである

本件のような経費、業務費等の不正経理は業務上横領に該当しうることから、特に非違性が高い行為です。

そのため、懲戒解雇を含む懲戒処分を相当とする裁判例は非常に多いです。

本件では、就業規則の懲戒解雇事由の1つである「その事案が重篤なとき」の文言解釈により、解雇事由は存在しないと判断されました。

就業規則には違反するが、懲戒解雇事由とまではいえない、ということです。

このあたりは、会社が判断するのは、極めて困難です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。