Daily Archives: 2011年1月5日

管理監督者18(学樹社事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

学樹社事件(横浜地裁平成21年7月23日・判時2056号156頁)

【事案の概要】

Y社は、進学教室の経営及び運営等を目的とした会社で、小学生・中学生・高校生を対象とする受験予備校を東急田園都市線、横浜線沿線に開設している。

X1は、Y社の学習塾校長でマネージャーの地位にあり、その後、退職した。

X2は、Y社の学習塾の校長代理でマネージャーの地位にあり、その後、退職した。

Xらは、退職後、Y社に対し、時間外労働の割増賃金と付加金の支払いを求めた。

Y社は、Xらが労基法41条2号に規定する管理監督者に当たると主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外手当及ぶ同額の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労働基準法37条1項は、割増賃金の算定の基礎となる賃金を、「通常の労働時間又は労働日の賃金」と規定し、同条4項及び労働基準法施行規則21条で割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される手当を規定しているところ、これらの手当は制限的に列挙されているものであるから、これらの手当に該当しない「通常の労働時間又は労働日の賃金」はすべて算入しなければならず、これらの除外される手当は名称にかかわらず、その実質によって判断すべきであると解される。
そして、労働基準法37条4項及び労働基準法施行規則21条3号により割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいい、住宅の賃料額やローン月額の一定割合を支給するもの、賃料額やローン月額が段階的に増えるにしたがって増加する額を支給するものなどがこれに当たり住宅に要する費用にかかわらず一定額を支給するものは、除外される住宅手当に当たらないと解するのが相当である

2 労働基準法41条2号が管理監督者に対して労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めているのは、管理監督者がその職務の性質上、雇用主と一体となり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使するため、自らの労働時間を含めた労働条件の決定等について相当程度の裁量権を与えられ、報酬等その地位に見合った相当の待遇を受けている者であるからであると解される。したがって、同号にいう管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、雇用主と一体的な立場にあるものをいい、同号にいう管理監督者に該当するか否かは、(1)雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を有するか、(2)自己の出退勤について、自ら決定し得る権限を有するか、(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているかなどを、実態に即して判断すべきである。

3 X1については、校長として校長会議及び責任職会議への出席、時間割作成、配属された職員に対する第一次査定等を行っていたものの、校長会議及び責任職会議は、ブロック長以外の者が出席する会議等で決定された経営方針、活動計画を伝達されるだけであり、校長がY社代表者の決裁なしに校舎の方針を決めたり、費用を出捐したり、職員の人事を決定することはない

4 X2については、校長代理として責任職会議に出席していたのみであり、特別な事情がない限り校長業務を代理することはなく、直接他の職員に指示することもないことから、いずれもY社の経営に参画したり、労務管理に関する指揮監督権限を有していたとは認められない。

5 Xらについては、出退勤時間が定められ、勤務記録表により出退勤時間を管理されていたことから、出退勤について自ら自由に決定し得る権限があったとはいえない

6 さらに、役職手当が支給されていたものの、年収が400万円台半ばまでにとどまっていることから、待遇において、時間外労働の割増賃金が支給されないことを十分に補っているとはいえない

7 Y社は、Xらを含め雇用期間の定めのない正社員の約8割に該当するサブマネージャー以上の地位にある社員がいずれも管理監督者であるとして、時間外手当等を支払っていないところ、・・・Y社の行為が労働基準法37条に違反することは明らかである。
よって、本件については、労働基準法114条に基づき、Y社に対し、Xらの時間外手当等の認容額と同額の付加金の支払を命じるのが相当である。

Y社は、Xらに対し、付加金を含め、合計約1000万円の支払いを命じられました。

Y社は、控訴していますが、おそらく結論は変わらないでしょう。

遅延利息が増えるだけです。

また、Y社では、Xらだけでなく、雇用期間の定めのない正社員の約8割を管理監督者として扱っているようですので、この裁判例の影響は測り知れません。

あと、管理監督者性の問題とは直接関連しませんが、上記判例のポイント1の割増賃金の算定の基礎となる手当の範囲について、会社の担当者のみなさんは、もう一度確認してみてください。

せっかく支給しているのに、支給方法を誤ると、この裁判例のように、除外されなくなってしまいます。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。