Daily Archives: 2011年1月6日

労災29(中部電力事件)

おはようございます。

今日から通常業務を開始します

午前中、交通事故の相談が1件、その後、遺産分割調停

午後は、打合せが3件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

中部電力事件(名古屋高裁平成19年10月31日・労判954号31頁)

【事案の概要】

Xは、工業高校卒業後、Y社に勤務し、火力発電所等において一貫して現場の技術職として業務に従事してきた。

Xは、火力センター工事第1部環境整備課燃料グループに配属され、デスクワーク中心の業務に従事した。

Xは、その後、環境整備課の主任(一般職の最高職級に該当)に昇格したが、うつ病を発症し、これによる心神耗弱状態の下で自殺した。

【裁判所の判断】

名古屋南労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法に基づいて遺族補償年金及び葬祭料を支給するためには、業務と疾病との間に業務起因性が認められなければならないところ、業務と疾病との間に業務起因性があるというためには、単に当該業務と疾病との間に条件関係が存在するのみならず、業務と疾病の間に相当因果関係が認められることを要する。

2 そして、労働者災害補償制度が、使用者が労働者を自己の支配下において労務を提供させるという労働関係の特質に鑑み、業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に、使用者に何ら過失はなくても労働者に発生した損失を填補する危険責任の法理に基づく制度であることからすると、当該業務が傷病発生の危険を含むと評価できる場合に相当因果関係があると評価すべきであり、その危険の程度は、一般的、平均的な労働者すなわち、通常の勤務に就くことが期待されている者(この中には、完全な健康体の者のほかに基礎疾病等を有するものであっても勤務の軽減を要せず通常の勤務に就くことができる者を含む。)を基準として客観的に判断すべきである。

3 したがって、疾病が精神疾患である場合にも、業務と精神疾患の発症との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては、何らかの素因を有しながらも、特段の職務の軽減を要せず、当該労働者と同種の業務に従事し遂行することができる程度の心身の健康状態を有する労働者(相対的に適応能力、ストレス適所能力の低い者も含む。)を基準として、業務に精神疾患を発症させる危険性が認められるか否かを判断すべきである。

4 また、本件のように精神疾患に罹患したと認められる労働者が自殺した場合には、精神疾患の発症に業務起因性が認められるのみでなく、疾患と自殺との間にも相当因果関係が認められることが必要である。

5 うつ病のメカニズムについては、いまだ十分解明されてはいないが、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるか否かが決まり、ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、反対に個体側の脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破たんが生ずるとする「ストレス-脆弱性」理論が合理的であると認められる。

6 判断指針(「心理的負荷による精神的障害等に係る業務上外の判断指針について」)は、上級行政庁が下部行政機関に対してその運用基準を示した通達に過ぎず、裁判所を拘束するものではないことは言うまでもないし、その内容についても批判があり、現在においては未だ必ずしも十全なものとは言い難い
そこで、業務起因性の判断に当たっては、判断指針を参考にしつつ、なお個別の事案に即して相当因果関係を判断して、業務起因性の有無を検討するのが相当である。

7 Xの上司は、Xに対して「主任失格」、「おまえなんか、いてもいなくても同じだ」などの文言を用いて感情的に叱責し、かつ、結婚指輪を身に着けることが仕事に対する集中力低下の原因となるという独自の見解に基づいて、Xに対してのみ、複数回にわたり、結婚指輪を外すよう命じた。
これらは、何ら合理性のない、単なる厳しい指導の範疇を超えた、いわゆるパワーハラスメントとも評価されるべき
ものであり、一般的に相当程度心理的負荷の強い出来事と評価すべきであるとし、叱責や指輪を外すよう命じられたことは、1回限りのものではなく、主任昇格後からXが死亡する直前まで継続して行われていたと認められ、うつ病発症前、また死亡直前に、Xに大きな心理的負荷を与えたと認められる。

このケースも、日研化学事件同様に、パワハラを一原因とした自殺事案です。

会社としては、上記判例のポイント7のような上司の発言を防止しなければなりません。

また、この裁判例では、平均的労働者最下限基準説とほぼ異ならない基準を採用しています。

上記判例のポイント2、3のとおり、この裁判例は、同種労働者ないし平均的労働者を基準にしながら、その労働者群の中に「相対的に適応能力、ストレス適所能力の低い者も含む」としています。

この裁判例も、判断指針に依拠することについて消極的ですね。