Daily Archives: 2011年1月18日

労災35(富士電機E&C事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、遺産分割調停です。

午後は、労働事件、相続等の相談が3件、労災の裁判、刑事裁判の判決、免責審尋です。

そして、今日は、被疑者国選担当日。

いつ接見に行けばいいのだろうか・・・

どうか遠くの警察署で逮捕されませんように

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

この裁判例は、会社のメンタルヘルス対策にとって、非常に参考になるものです。

富士電機E&C事件(名古屋地裁平成18年1月18日・労判918号65頁)

【事案の概要】

Y社は、富士電機のグループ会社であり、公共事業、富士電機関連の各種プラント、建物・高速道路等の設備・電気工事等を業とする会社である。

Xは、Y社に入社後、開発部に配属されたのを皮切りに、本社の設備部等において、電気工事の予算管理、原価管理、現地施行管理等の業務に従事し、その後、関西支社の技術第三部技術課長として大阪に赴任し、この異動により単身赴任することになった。

Xは、病院において、診察を受け、「自律神経失調症」の診断書の交付を受け、職場を離れ、約3か月間、自宅静養した。

その後、当時の上司Aから比較的容易な業務従事の提案があり、Xは職場復帰した。Aの提案は、A自身の判断によるもので、Y社社内での協議等を経たものではなかった。

その後、Xは、中部支社の技術部第三課長として名古屋に単身赴任し、民間・官公庁の建設現場の電気工事に関する業務に従事したが、単身赴任中の社宅で自殺した。

Xの遺族は、Y社に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却
→Y社に安全配慮義務違反は認められない

【判例のポイント】

1 Xはうつ病に罹患し自宅療養を経たものの、自らの希望により職場復帰を果たしたこと、技術課長として処遇されることを承知のうえ、自ら中部支社への転勤を希望した結果、中部支社の技術部第三課長として赴任したこと等に照らせば、中部支社への転勤を契機にうつ病の症状が軽減する傾向にあったと推認することができること、その結果、Xのうつ病は遅くとも平成10年12月8日頃の時点で、完全寛解の状態に至ったものと認められる。

2 昨今の雇用情勢に伴う労働者の不安の増大や自殺者の増加といった社会状況にかんがみれば、使用者にとって、被用者の精神的な健康の保持は重要な課題になりつつあるが、精神的疾患について事業者に健康診断の実施を義務づけることは、精神的疾患に対して、社会も個人もいまだに否定的印象を持っていることなどから、プライバシーに対する配慮が求められる疾患であり、プライバシー侵害のおそれが大きいといわざるを得ない

3 労働安全衛生法66条の2、労働安全衛生規則44条1項について、精神的疾患に関する事項についてまで医師の意見を聴くべき義務を負うということはできず、労働安全衛生法66条の3第1項所定の、事業者が負う就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるべき義務も、精神的疾患に関する事項には当然に適用されるものではないと解するのが相当である

4 Y社の安全衛生規程を根拠として、Y社の主治医等からの意見聴取義務や就業場所の変更の措置を講ずるべきなどの法的義務が発生するとも認めがたい。

5 もっとも、Xは、自らうつ病に罹患したことを報告していたことから、Y社としては、Xのうつ病罹患の事実を認識していたものといわざるを得ず、そのようなXが、職場復帰し、就労を継続するについては、Y社としても、同人の心身の状態に配慮した対応をすべき義務があったものといわざるを得ない

6 Y社はXを職場復帰させる過程において、内部的な協議や医師等の専門家への相談を経ないなど、いささか慎重さを欠いた不適切な対応があったことは否めないものの、同人の職場復帰に際し、同人の希望を踏まえて、診断書記載の休養加療期間よりも前に復帰を認め、担当業務・配置を決定するなど、心身の状態に相応の配慮をしたと認められることから、Y社に安全配慮義務違反があったとまで認めることはできない

この裁判例は、会社として、従業員のメンタルヘルス対策を講ずるにあたり、非常に参考になります。

精神疾患に罹患した従業員の職場復帰と会社の対応は、とても難しい問題です。

会社として、どこまでの対応が求められるのかは、ケースバイケースです。

顧問弁護士や顧問社労士に相談の上、対応方法をじっくり検討してください。