Daily Archives: 2011年1月20日

労災36(東加古川幼稚園事件)

おはようございます。

自宅で、本日の証人尋問の準備中でございます

今日も、昨日に引き続き、午前中に刑事裁判が1件あります。

午後は、ずっと証人尋問です

夕方、事務所で1件、裁判の打合せをし、その後、新年会です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

東加古川幼稚園事件(東京地裁平成18年9月4日・労判924号32頁)

【事案の概要】

Y社は、兵庫県加古川市内において、4か所の無許可保育園を設置、運営していた。

Xは、Y社において、保母として勤務していた。

Xは、適応障害に分類される精神障害を発症し、入院検査を受けることとなり、Y社を退職した。

Xは、入院翌日、精神的不安が消失し、検査値に異常がないと認められ、退院して自宅療養をすることになった。

Xは、教会において洗礼を受け、元気を取り戻し始め、新しい保育園探しを開始するなどした。その際、Xは、Y社に対し、離職票の発行を要求したところ、Y社は5月の連休明けにならないと発行できないなどとしXと口論となった。結局、Y社は、連休前に離職票を発行した。

Xは、離職票を受領した2日後、自宅において自殺した。

【裁判所の判断】

加古川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である。
そして、精神障害の発症については、環境由来のストレスと、個体側の反応性、脆弱性との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていると認められることからすれば、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 Xは、保母としての経験が浅かったのに、Y社で課せられた業務内容は極めて過酷なものであったというべきである。かかるY社での過酷な業務に加え、Xに対し、本件2月7日指示及び園児送迎バス時刻表作成業務が課せられたのであり、かかる業務内容は、Xに対し、精神的にも肉体的にも重い負荷をかけたことは明らかであり、Xならずとも、通常の人なら、誰でも、精神障害を発症させる業務内容であったというべきである。ましてや、Xは、これまで精神病や神経症の既往歴はなく、精神科医らの意見書等をも考慮すると、Xは、Y社の過重な業務の結果、適応障害に分類される精神障害を発症したというべきであり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

3 うつ病の特徴的な症状は抑うつ気分、意欲・行動の制止、不安、罪責間、睡眠障害であるところ、Xには病院退院後本件自殺に至るまでの間に上記のようなうつ状態の特徴的な症状がみられた。・・・Xは、病院退院後も、自殺に至るまでの間、精神障害であるうつ状態に特徴的な症状がたびたび出ていたと認めるのが相当であり、自殺するまでの間に、Xの症状が寛解したと認めるに足りる的確な証拠は存在しないというべきである。

4 精神障害が寛解していたとの主張については、当該病院には精神科がなく、診察した医師も精神科医でないことや、当該病院を短期間で退院し、精神科受診を勧められなかったことが、精神医学的に適当な措置であったかどうかは疑わしいこと、うつ病には気分変動があり、これを繰り返しながら回復していくことを考えると、受洗や就職活動の開始は、寛解したと認める決め手にならない

5 本件自殺が精神障害によるものではなく、いわゆる「覚悟の自殺」であるとの主張についても、たしかにXの遺書の内容は理路整然としており、文字の乱れもないが、精神的抑制力が著しく阻害された場合や、うつ状態による希死願望が生じた場合に、必ず文字が乱れるという関係は認められない

本件で特徴的なのは、退職後1か月経過後に自殺した点です。

退職後の事情により自殺したとなれば、業務起因性が否定されます。

本件では、在職中の事情によると判断されました。

被告の主張に対する裁判所の判断は、とても参考になります。

なお、この事案は、本件行政訴訟のほかに、民事訴訟も提起されており、最高裁判所(最三小決平成12年6月27日・労判795号13頁)で、損害賠償請求が肯定されました。

ただし、本人の性格や心因的要素が過失相殺の対象とされ、8割の減額がされています。