Daily Archives: 2011年1月8日

労災30(北海道銀行事件)

おはようございます。

今日は、浜松のホテルウェルシーズン浜名湖で弁護団会議があります

本来は、1泊2日なのですが、私は、明日、予定があり、今夜、帰宅します

この裁判も、予定されていた証人尋問がすべて終了し、残すは、最終準備書面の作成だけです。

最後まで力を抜かず、がんばりますよ!!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

北海道銀行事件(札幌地裁平成19年3月14日・判タ1251号203頁)

【事案の概要】

Xは、昭和58年にY社に入社し、本店や各支店で勤務してきたが、平成10年にうつ病との診断を受け、通院治療を受けてきたが、同年、Y社を退職した。

Xは、長時間労働やいじめ等により心理的負荷を受けてうつ病を発症し、その後、Xのうつ病発症が明らかになったにもかかわらず、Y社が療養を認めないなどの対応をとったことにより、Xのうつ病を悪化させたものであるから、Xのうつ病は、業務上の心理的負荷を要因として発症したといえ、Xの従事した業務とうつ病の発症との間には相当因果関係が認められるなどと主張した。

【裁判所の判断】

札幌東労基署長による休業補償給付不支給処分は適法である。
→業務起因性否定

【判例のポイント】

1 精神障害の発症や増悪は、現代の医学的知見では、環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神破綻が生ずるか否かが決せられ、環境由来のストレスが強ければ個体側の脆弱性が小さく友精神障害が起きる一方、個体側の脆弱性が大きければ環境由来のストレスが弱くとも精神障害が起きるとする「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていることからすれば、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係の有無を判断するについては、ストレス(業務による心理的負荷及び業務外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 そして、業務による心理的負荷が社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえるか否かの判断に当たっては、通常人を基準として、精神障害の発症の原因とみられる業務の内容、勤務状況、業務上の出来事等を総合的に検討するべきである。

3 ところで、個体側の要因については、顕在化していないものもあって客観的に評価することが困難である場合がある以上、他の要因である業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷が、一般的には心身の変調を来すことなく適応することができる程度のものにとどまるにもかかわらず、精神障害が発症した場合には、その原因は潜在的な個体側要因が顕在化したことに帰するものとみるほかはないと解される

4 このように個体側の要因については、顕在化していないものもあって客観的に評価することが困難である場合がある以上、他の要因である業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷が、一般的には心身の変調を来すことなく適応することができる程度のものにとどまるにもかかわらず、精神障害が発症した場合には、その原因は潜在的な個体側要因が顕在化したことに帰するものとみるほかはないと解される

5 業務そのものが一般的に過重なものであるといえない以上、たとえ本人にとって過重であり、他にストレスとなる要因が見つからなかったとしても、業務起因性があるとは認めることはできない。

6 また、精神障害の発症自体については業務起因性を認めることができない場合であっても、発症後の業務が、社会通念上、客観的に見て、労働者に過重な心理的負荷を与えるものであって、これによって、既に発症していた精神障害がその自然の経過を超えて増悪したと認められる場合には、業務起因性を認めることができると解するのが相当である

7 藤田医師作成の意見書には、症状の発生機序として「仕事上分からない事が多いまま、主任業務に適応せざるを得ず、大きな心理的負担を感じていたと思われる。」「業務負担による反応性のうつ病と診断した。」、また、「仕事から離れている間は安定していたが、復帰に際して、また不安定となっていた。」などという記載があるが、同意見書は、患者であるXの訴えのみを聴取して業務による心理的負荷の大きさを判断していることが窺えることから、仕事を契機としてうつ病が発症したということを述べたにとどまると評価するのが相当である

この事件は、控訴審(札幌高裁平成19年10月19日・判タ1279号213頁)でも同様の判断がなされています。

この裁判例で注目すべきは、上記判例のポイント6です。

精神障害の発病について業務起因性が認められるか否かを問わず、精神障害発病後の業務による心理的負荷により精神障害が「増悪」した場合の業務起因性を認めています。

なお、判断指針は、「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること」を判断要素としており、あくまで発病前の心理的負荷を対象としています。

判断指針と裁判所の判断基準が異なる場合があるわけです。

労災が認定されなかった場合でも決して諦める必要はありません!!