Daily Archives: 2011年1月21日

解雇26(J学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、うつ病を理由とする解雇に関する裁判例です。

J学園事件(東京地裁平成22年3月14日・労判1008号35頁)

【事案の概要】

Y社は、Y女子学園中学校、Y女子学園高等学校を経営する学校法人である。

Xは、大学卒業後、他の学校等で勤務し、国語科の教員として勤務していた。

Xは、平成15年6月頃、うつ病を発症し、その後、症状が悪化し、休職した。

Xは、平成19年9月、復職したが、その後も何度か欠勤したため、Y社は、「心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれにこたえられないとき」(就業規則38条1項(2))に該当するという理由で、免職の通知をした。

Xは、Y社に対し、うつ病の罹患や悪化についてY社に安全配慮義務違反があり、また、解雇が相当性を欠くなどと主張し、損害賠償、雇用契約上の地位確認、解雇後の賃金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

Y社の安全配慮義務違反は認められない。

本件解雇は無効

【判例のポイント】

1 ・・・Y社の業務によるXの心理的負荷が非常に強度であったとは認められない。

2 Xは、うつ病の治療を通じて、抗うつ剤等の処方を受けたが、これらが効きにくい状態にあり、復職の約2か月前には、症状が悪化して約2週間にわたり入院した。医師は、時期尚早とも考えていたが、休職期間満了により退職させられることを避けるためもあって復職可能診断をした。このような事実によれば、Xのうつ病は、そのころ、あながち軽いものではなかったというべきである。また、Y社は、Xが無理なく復職できるように、かなり慎重な配慮をしているが、それにもかかわらず、Xは、平成19年11月ころから平成20年1月ころにかけて、円滑に復職することができず、欠勤して生徒に迷惑をかけることもあった。そうだとすると、Y社が、そのころ、これ以上業務を続けさせることは無理と結論づけて、退職させるとの意思決定をしたことは、やむを得ない面もあると考えられる(教員の配置の選択肢は限られているし、Xは、いったん非常勤講師になって、回復したら専任教員に戻るという提案を断っている)。

3 しかし、Xは、平成15年11月ころから平成18年夏ころまでの間、抗うつ剤等の投薬治療を受けながら、専任教員として業務をこなしてきた時期もある。・・・病院の診断書には、「症状が安定すれば、復職も可能と思われる」という記載がある。Y社の就業規則には、「業務外の傷病により、欠勤が引き続き90日を経過した」場合の休職期間は、「1年以内」であると定められているところ、医師からの指示に基づき休職に入ったXに対し、Y社が取得可能な休職期間は1年間であると通知したことにつき、就業規則の解釈に誤りがあったといわざるを得ず、Xの休職期間は90日分延長できたはずである。Xは、本件解雇後、かなり回復したことが認められ、平成21年3月17日を最後に、うつ病治療のために通院をした形跡がない。本件の証拠調べ期日における供述態度等によれば、Xの社会への適応に大きな問題があるとは見受けられない。医師は、証人尋問において、かなり慎重な表現ではあるが、復職の可能性を肯定する趣旨の証言をしている。
以上の事実を総合すれば、Xの回復可能性は認められるということができる。

4 添付資料(「職場復帰の手順と方法-メンタルヘルス不全による休業者を復帰させるには」)は、職場復帰の可否の判断において、主治医との連携を必要なものとしており、そのポイントとして、職場の安全衛生担当者が本人とともに主治医と三者面談を実施して、信頼関係を形成したうえで、復職可能性、復職後の職務の内容・程度等を慎重に判断していくことを推奨している。・・・ところが、Y社は、Xの退職の当否等を検討するに当たり、主治医から、治療経過や回復可能性等について意見を聴取していない。これには、校医が連絡しても回答を得られなかったという事情が認められるが、そうだとしても(三者面談までは行わないとしても)、Y社の人事担当者である教頭らが、医師に対し、一度も問い合わせ等をしなかったというのは、現代のメンタルヘルス対策の在り方として、不備なものといわざるを得ない

5 Xは、教員としての資質、能力、実績等に問題がなかったのであるから、うつ病を発症しなければ、この時期の解雇されることはなかったということができる。そうだとすると、Y社は、本件解雇に当たって、Xの回復可能性について相当の熟慮のうえで、これを行うべきであったと考えられる。しかし、Y社は、Xに対し、休職期間について誤った通知をしたうえで、Xの回復可能性が認められるにもかかわらず、メンタルヘルス対策の不備もあってこれをないものと断定して、再検討の交渉にも応じることなく、本件解雇に踏み切った。Y社が平成20年度末に本件解雇をしたのは、年度の変わり目において人員配置や予算執行計画を確定するためであったとも考えられるところであるが、このような事情は、Xの回復可能性等に優先するものとはいいがたい。
以上によれば、Xを退職させるとの意思決定に基づく本件解雇は、やや性急なものであったといわざるを得ず、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものというべきである。

本件においても、他の事案と同様、Y社としては、それなりの対策を講じたものだと思います。

本件では、Y社は、「メンタルヘルス不調者の職場復帰プログラム」を策定し、当該労働者に対しても、病状が
明確になってから休職期間満了直前までの間に、20回以上、臨床心理士によるカウンセリングの受診機会を設けるなどしたほか、産業医が主治医の見解を問い合わせるなど職場復帰に向けた対応を取っていました。

しかし、結果としては、上記判例のポイントのとおり、本件解雇は無効と判断されています。

メンタルヘルス対策は、非常に難しく、どこまでやればいいのかがわかりにくいですね。

就業規則の解釈に誤りがあったと判断され、それが結論に影響を与えた点は、注目すべきです。

本件のようなケースで、解雇をする場合には、顧問弁護士に相談の上、慎重に行ってください。