賃金212 勤務日数・シフトの大幅削減は違法?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、勤務日数・シフトの大幅な削減がシフト決定権限の濫用に当たり違法とされた事案を見てみましょう。

有限会社シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日・労経速2443号3頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Xと労働契約を締結し、Xを雇用していたY社が、Xに対し、本件労働契約において、Y社のXに対する別紙1債務目録記載の各債務の不存在確認を求める事案である。

本件反訴は、Xが、Y社に対し、①主位的に、本件労働契約において勤務時間を週3日、1日8時間、週24時間、勤務地、職種を介護事業所及び介護職と合意したにもかかわらず、Y社の責めに帰すべき事由により当該合意に基づき就労することができなかったと主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成28年5月1日から平成31年3月31日までの未払賃金230万8425円+遅延損害金、b)平成31年4月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、月額賃金10万4290円+遅延損害金、②予備的に、平成29年8月以降のシフトの大幅な削減は違法かつ無効であると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成29年9月支払分から令和2年3月支払分までの未払賃金207万9751円+遅延損害金、b)令和2年4月支払分から同年7月支払分までの未払賃金27万5668円+遅延損害金、c)同年8月支払分以降の賃金として、同年8月から本判決確定の日まで、毎月末日限り6万8917円+遅延損害金の支払を求めるとともに、③給与振込手数料の控除には理由がない旨主張して、本件労働契約に基づく賃金請求又は不当利得に基づく返還請求として、控除された給与振込手数料4746円+遅延損害金、④通勤手当の未払いがあると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、未払通勤手当15万1880円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社の本件各本訴請求をいずれも却下する。
 Y社は、Xに対し、13万0234円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、5149円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき,賃金を請求し得ると解される
そこで検討すると、Xの平成29年5月のシフトは13日(勤務時間73.5時間)、同年6月のシフトは15日(勤務時間73.5時間)、7月のシフトは15日(勤務時間78時間)であったが、同年8月のシフトは、同年7月20日時点では合計17日であったところ、同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減された上、同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ、同年10月のシフト以降は1日も配属されなくなった。同年8月については変更後も5日(勤務時間40時間)の勤務日数のシフトが組まれており、勤務時間も一定の時間が確保されているが、少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり得ると解される。

2 この点、Y社は、Xが団体交渉の当初から、児童デイサービス事業所での勤務に応じない意思を明確にしたことから、Xのシフトを組むことができなくなったものであり、Xが就労できなかったことはY社の責めに帰すべき事由によるものではない旨主張する。
しかしながら、第二次団体交渉が始まったのは同年9月29日であるところ、Xが児童デイサービスでの半日勤務に応じない旨表明したのは同年10月30日で、一切の児童デイサービスでの勤務に応じない旨表明したのは平成30年3月19日であり、平成29年9月29日時点でXが一切の児童デイサービスでの勤務に応じないと表明していたことを認めるに足りる証拠はない。
そして、Y社はこの他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないことからすれば、勤務日数を1日とした同年9月及びシフトから外した同年10月について、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず、このようなシフトの決定は、使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるというべきである。
一方、Xは、同年10月30日の第2回団体交渉において、児童デイサービスでの半日勤務には応じない旨表明しているところ、このようなXの表明により、原則として半日勤務である放課後児童デイサービス事業所でのシフトに組み入れることが困難になるといえる。そして、Xの勤務地及び職種を介護事業所及び介護職に限定する合意があるとは認められないところ、Xの介護事業所における勤務状況から、Y社がXについて介護事業所ではなく児童デイサービス事業所での勤務シフトに入れる必要があると判断することが直ちに不合理とまではいえないことからすれば、同年11月以降のシフトから外すことについて、シフトの決定権限の濫用があるとはいえない。
そうすると、Xの同年9月及び10月の賃金については、前記シフトの削減がなければ、シフトが削減され始めた同年8月の直近3か月(同年5月分~7月分)の賃金の平均額を得られたであろうと認めるのが相当であり、その平均額は、以下のとおり、6万8917円である。

この裁判例は非常に重要ですのでしっかり押さえておきましょう。

労働条件の不利益変更の一類型として捉えることができるため、考え方はそれほど難しくありません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。   

本の紹介1171 勝負できる思考と体を作るビジネスの本質(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

帯に「今こそ、『王道』を学べ!」と書かれているとおり、全く奇を衒わないビジネスの本質が書かれています。

言葉の使い方、気配りの本質、心と体の鍛え方、リーダーとしての立ち居振る舞い、組織内での作法、自らを高める方法・・・あらゆることが書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

性格・人柄がよくて、勉強も人一倍する。そういう人は誰でも応援したくなるし、引き上げたい気になる。頭がよくて自己過信する人よりも、Sさんのような人がビジネスで成功するんだろうね。・・・人の気持ちは『気配』に出る。気配を察するのが『目配り』」だ。相手の表情、視線、しぐさや所作を注意深く見て、相手の気持ちに応じて動くのが『心配り』である。こうした『配慮』の行き届いた人は、相手の印象に残り、周囲からも高く評価される。当然、チャンスにも恵まれるのである。」(189頁)

応援したくなる人柄というのは、もうそれだけで成功する決定的要素といえます。

ここに書かれていることができている人は、自然と周りが引き上げてくれるのです。

うまくいく人はうまくいく理由があり、その逆もまたしかり。

すべてには理由があります。

いかにえこひいきされるかがとても重要なのです。

セクハラ・パワハラ64 セクハラ発生後に会社のとるべき対応とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、セクハラの行為者とされる原告に対する会社の対応につき、職場環境配慮義務違反が否定された事案を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁令和2年3月27日・労経速2443号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であり、心因反応(以下「本件傷病」という。)であるとの診断を受けて休職中であったXが、後記のとおり、Y社から、平成30年8月末日限りで休職期間満了によりY社から退職したものとされたところ(以下「本件退職措置」という。)、本件傷病は、Y社がXをセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」ということがある。)の加害者として扱うなど職場環境配慮義務を尽くさなかった結果、発症したもので業務に起因するものであり、Xはその療養中であったものであるから、本件退職措置は、労基法19条に照らし無効であるなどと主張して、Y社との間で、①労働契約上の権利を有する地位にあること確認を求めるとともに、②Y社に対し、職場環境配慮義務違反(債務不履行)に基づき、損害金2569万6026円+遅延損害金の支払を、また、③Y社に対し、労働契約に基づき、平成30年9月から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額47万7709円の賃金と月額4万3631円の退職積立金、毎年6月10日及び12月10日限り各95万5418円の賞与+遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社がXに対する職場環境配慮義務を負っていることを前提に、その義務違反として、本件トラブルに関し、関係従業員から詳細に事実を聴取すべき義務の違反があったと主張する。
しかしながら、Y社は、本件トラブルの申告者であるBから事情を聴取しているばかりでなく、Xからも、そのヒアリングにおいて、本件発言の経緯を含めて言い分を聴取しており、必要範囲の確認は施しているものと認められるから、その所為に不足があるとは認められず、義務違反があるとは認められない。
この点、Xは、Y社がXに対するヒアリングにおいて曖昧な言葉で事実確認を行ったなどとも主張し、この点も問題視するが、証拠によっても、Bから問題とされたトラブルの内容については明確に特定できており、そのように認めることはできない。
Xは、Y社がXの主張を一顧だにせず始末書の提出や謝罪を強制したなどとその態度や措置も問題視しているが、Y社は、本件発言の経緯を含めてXの言い分を聴取しており、Xの主張をおよそ顧みなかったなどとは認め難い。また、Y社は、謝罪や始末書の提出をする意向があるかを原告に尋ね、Xも、本件発言の経緯は経緯としつつも、自己の不用意な発言を詫び、謝罪や始末書の提出にも任意応じる旨の意向を示したものであって、かかる経過に強制の事実は見出し難い。
Xは、Y社が懲戒を仄めかしたなどとして、この点についても主張しているが、謝罪の場でのDの発言は一般論にとどまるものと認められ、これを超えて懲戒としての具体的措置が検討された形跡もなく、かえって、爾後、特に会社から何か要求することもないので業務に集中していただきたいとY社から申し伝えられてもいることは前判示のとおりであって、この点から具体的な義務違反があるということもできない
Xは、XとBとをしばらく同じ部署で就労させ続けたことについても問題視するが、本件トラブルについては、謝罪の場が設けられたことにより、Bから人事部に謝意が述べられたメールが送られるなど一応の収束を見せていたものであり、Xから質問のメールこそ人事部宛に送られることがあったものの、その内容に、Bと同じ部署で稼働したくないとの申出までは書かれておらず、実際にもBの異動まで特段トラブルを生じているとも認められていなかったのであるから、Xの主張するような異動を命じるべき義務がY社に生じていたということもできない。
Xは、Y社が再調査をしなかったことが前記義務違反を構成するとも主張する。しかし、B申告に係る本件トラブルは、謝罪の場の設置によりひとまずの収束を見せ、その後、特段のトラブルなくBは異動し、Dからの再調査を一からすることになるがよいかというメールに対してもXにおいて特段明確な異議や異論が示されることのないまま事実経過が推移してきていたものであり、Y社としては本件トラブルを収束させたとの認識であったものである。もとより、BとXとの間では、謝罪の場においても本件発言の経緯をめぐって見解の齟齬が見られるなど、見解の相違がなお残っていたとはいえるが、当時、その認識の齟齬を埋めることのできる具体的な物証があることが見込まれたわけでもない。
しかも、Y社としては、本件トラブルを重大なものとまでは認識しておらず、Xに対し、Xが応じた前記措置のほかは、懲戒処分を含め、特段の措置をとることは何ら検討していなかったものでもある。そうすると、Y社が、その後Bとの間にトラブルが生じてもいなかった本件トラブルについて、再度調査を行うこととした場合における従業員間での紛議の再発も懸念し、特段の再調査までは行わなかったとしても、その対応は不合理なものということはできず、Xが主張するような義務違反を構成するものとは認め難い。
その他、Xは、本件トラブルについてY社所定の「セクハラ・パワハラに関する相談・苦情への対応の流れ」の手順書に則った取扱いがされていないこと、本件発言がどうして被害感情に結びつくかについてXがY社に質問しているのにY社がこれに適切に回答していないことも指摘する。
しかしながら、前者の点については、その指摘に係る手順書は、Y社内の同申出に関する基本的な手順を定めたものとはいえても、事案の内容や申告者の意向を措いて、いついかなる場合にもそのように取扱うべき趣旨のものとまでは解し難く、この点に関するXの主張は前提を異にするものといわざるを得ない。また、後者の点についても、Xは、自身に対するヒアリングにおいて、被害者の気持ちが重要であるなどとして本件発言の不適切なことを自認し、謝罪の意向も示していたものであるし、そもそもY社においてX指摘の質問に仔細応じなければならない義務があると認めるべき根拠に乏しい
したがって、これらの点によっても、Xが主張するような義務違反があるとは認め難い。

ハラスメント発生後の会社の対応をめぐって訴訟に発展することは少なくありません。

ガイドライン等で手続きの概要を知ることはできますが、被害者と加害者の認識のずれが大きい場合にいかなる事実認定をすべきは非常に難しい問題です。

必ず顧問弁護士に相談をしながら手続きをすすめていくことをおすすめいたします。

本の紹介1170 髙橋洋一式「デジタル仕事術」(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

頭のいい人がどのような日常生活を送っているのかがよくわかる本です。

加えて、物事をどのように考えているのかがとてもよくわかる本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ユーチューブは、間に入る人が必要なくなることを実感させてくれます。わかりやすく言えば、『中抜き』をして食べている人は、もういらなくなるということです。広告代理店や芸能事務所など『中抜き』をしていた人たちは、儲からなくなっていくはずです。マスコミもやっていけなくなります。・・・デジタル時代は、誰もが直接情報を発信できますので、中間にいるマスコミの存在価値はなくなっていきます。」(18~19頁)

同感です。

「中抜き」をする業務は今後は厳しくなると思います。

あらゆるものがダイレクトにつながる時代ですから、わざわざ仲介してもらう必要がないのです。

直接情報を発信・受信できる時代におけるビジネスは、これまでの伝統や常識からは決して思いつかないものばかりです。

不当労働行為268 退職した組合員の残業代と団体交渉(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職した組合員の在職中の時間外手当等を議題とする団交に応じなかった会社の対応が不当労働行為に当たらないとされた事案を見てみましょう。

鴻池運輸事件(群馬県労委令和2年2月13日・労判1236号104頁)

【事案の概要】

本件は、退職した組合員の在職中の時間外手当等を議題とする団交に応じなかった会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 本件団交申入れのうち、時間外手当に関する部分については、時機を失しており、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的状況が存在していたといえる。そうすると、当該部分が現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒んだとしても、正当な理由がなかったとまでは認められない。

2 本件髪切り行為について、会社が「A2の了解のもとに行われており、ハラスメント行為とは認識していない」と組合に回答していることから、会社は、本件髪切り行為そのものは認識していたといえる。
一方で、A2が、退職後、B3が作成した反省文を受領しているとの事情や、本件髪切り行為を行ったB3がC1地方検察庁において不起訴処分となった事実も会社が認識していることも認められる。
これらのことに鑑みると、会社が、本件髪切り行為について、本件団交申入れ時点においては、A2とB3の私人間の問題として既に解決済みの問題であり、その団交申入れが時機を失していると判断したとしても、無理からぬことと思料される。

3 以上のことや上記で述べたことから総合的に判断すると、本件団交申入れのうち、本件髪切り行為に関する部分については、個人間で解決済みの問題であり、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的状況が存在していたといえる。
そうすると、当該部分についても、それが現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒んだことに、正当な理由がなかったとまでは認められない。

すでに解決済みの問題と会社が認識していたことが客観的に状況に照らして不合理とはいえないと判断されています。

一般論としては団交拒否を安易にするべきではありませんが、本件のようなケースでは、事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に判断することが求められます。

本の紹介1169 やりきる力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

堀江さんの本です。

帯には「失敗を恐れるな!」と書かれています。

途中で投げ出さずに最後までやりきることの大切さが書かれています。

結果が出る前に投げ出さなければ、たいていうまくいきます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

意識的に『自分は変わりたい』と思って、行動する必要はない。ただ無心に、やりたいことをやり、好きなように動いて、情報のシャワーを浴び、頭のいい人たちと触れ合おう。いつの間にか、それまで見られなかったような豊かな景色が、視界の中に勝手に飛び込んでくるようになる。」(101頁)

まあ、そんなかんじです。

生きている間、やりたいことをひたすらやればいいという感じです。

依存せず、執着せず、理不尽から距離をおき、好きなように生きています。

不当労働行為267 組合員の配置転換と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、組合員Aに対し本社営業課長の任を解き運転職を命じたこと、および組合員Bに対し経理担当事務を解き一般事務担当を命じたことがいずれも不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

アクアライン事件(大阪労委令和2年5月11日・労判1236号103頁)

【事案の概要】

本件は、組合員Aに対し本社営業課長の任を解き運転職を命じたこと、および組合員Bに対し経理担当事務を解き一般事務担当を命じたことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

いずれも不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・以上を総合的に判断すると、Aに対する配転命令には、合理的な理由があったとはいえず配転当時、会社と組合との間の労使関係が対立関係にあったことからすると、Aに対する配転命令は、会社の組合嫌悪意思によるものとみざるを得ない。

2 Bと会社との間の雇用契約書には、業務内容として「経理事務」と記載されていたことが認められ、かかる雇用契約書の記載からすると、Bは、経理業務に従事することを前提に雇用されていたといえる。一方、Bが、事前に経理事務として適切さを欠くとの指摘を受けていたとの疎明はなく、会社が、一般事務への配転命令を行うに当たって、Bに対し、事前に内示を行ったり、その理由を説明したとの疎明もない。そうすると、Bは、一方的に、業務の異なる一般事務に変更されたといえ、かかる配転をされたことにより、精神的不利益がなかったとはいえない
以上を相当的に判断すると、Bに対する配転命令には、合理的な理由があったとはいえず、配転当時、会社と組合との間の労使関係が対立関係にあったことからすると、Bに対する配転命令は、会社の組合嫌悪意思によるものとみざるを得ない。

前記のとおり、会社と組合との間の労使関係が対立しているときに、合理的理由なく配転命令を出すと不当労働行為と認定されますので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談する体制を整え、無用なトラブルを回避することが肝要です。

本の紹介1168 自分を最大限「運用」する方法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、自分に投資をし、価値を高めることを勧める本です。

日々どのような選択をし、何に時間を使うのかは、その人の価値形成に直結していることがよくわかります。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

時間は投資の要素の中でも、どんな人でも同じように、絶対に取り戻すことができない有限なものです。しかし、時間を有効活用できないという悩みは、多くの人に共通しているのではないでしょうか。時間を無駄に使ってしまう最大の原因は、時間が限られたものであるという実感がないということだと思います。」(202頁)

まさにそのとおりです。

限りあるものであるからこそ大切にするのです。

人生が無限に続くかのような幻想を抱いているうちは、決して時間を大切しようなどとは思いません。

何の予定も入っていない休日より、いくつもの予定が入っている日のほうが、限られた時間の中で集中して物事に取り組むことができます。

したがって、勉強も運動も、多忙であることは決してマイナスではありません。

「時間があったらやるのに」などという言い訳は幻想にすぎません。

労働時間71 会社専属運転手の待機時間は労働時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社専属の運転手の労働時間に関する裁判例を見てみましょう。

ラッキー事件(東京地裁令和2年11月6日・労判ジャーナル110号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払割増賃金等の支払、労働基準114条に基づき、上記割増賃金と同額の付加金等の支払、Y社の代表取締役であるBに対し、会社法429条に基づき、違法な長時間労働への従事及び割増賃金の不払による精神的苦痛を慰謝するための慰謝料として上記割増賃金相当額の賠償等の支払、Y社の会長と称されていたCに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、Bに対するのと同様に上記割増賃金相当額の賠償をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求一部認容、損害賠償等請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが本件車両外で待機していた場合については、Xは、Bを被告事務所に送った後、本件駐車場に本件車両を駐車し、その後は、Y社事務所にBを迎えに行くまでは、本件居宅等で待機するなどしていたところ、Bから事前又は待機開始後速やかに迎えの時刻について指示があり、その時刻にCを迎えに行けば足りることが多かったといえる。
もっとも、事前又は待機開始後速やかに同指示がないことも相当程度あったほか、同指示があったとしても、指示の内容が前倒しに変更されることもそれなりにあり、いつBから迎え時刻についての指示がされるか明らかではないことも一定程度あったといえる。
そうすると、Xが本件車両外で待機していた時間については、その一部について、待機時間の自由な利用が保障され、Y社の指揮命令下から離れていたというべきであり、Xが本件車両外で待機していた時間の長さも勘案すると、各稼働日ごとに1時間は労働時間に当たらない時間があったと認めるのが相当である。

2 XとY社の間では雇用契約書が取り交わされておらず、また、本件当時、Y社には就業規則や賃金規程も存在せず、XとY社の間で営業手当として支払われた金員が割増賃金として支払われる旨の合意がされていたことを直接に裏付ける証拠はない。
Y社らは、Xの採用時の面接で営業手当を上記の趣旨で支払う旨合意していたとも主張するが、これを裏付ける証拠はなく、Xは、その趣旨の説明を受けたことを否定する趣旨の供述している。加えて、Cは、営業手当について、基本給以外の種々の営業行為に直接的又は間接的な動きをするための手当であると認識していたなどと、Y社らの上記主張に沿わない内容の供述をしている。
そうすると、営業手当が割増賃金として支払われていたと認めることはできない

待機時間の労働時間該当性の問題は、他の業種でも問題となります。

労働から解放されていたかを判断することになりますが、かなり微妙なケースも中にはあります。

この分野も事前の準備・運用が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理することが求めれています。

本の紹介1167 大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

帯には「肩の力を抜けば幸せな毎日がやってくる」と書かれています。

多くの人が我慢して無理して大丈夫なふりをして生きているように見えます。

いろんなものを背負っているため、「やっぱやーめた」とも言えず、体も心もくたくたに見えるのは私だけでしょうか。

リュックの中の荷物を軽くできれば、そんなにかんばらなくても生きていけます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

なりたい姿になるために本当に必要なことを見極め、ありったけの力を注ぐことが大切だ。もっとも重要な本質がわからないなら、それを考えることから始めなければならない。すべてをうまくやる必要はない。何もかもうまくできればそれに越したことはないが、まずは本質を取りちがえないことだ。もっとも重要なことに超集中しなければならない。」(128頁)

いろんなことに手を広げてみたくなるのはよくわかります。

しかし、手を広げれば広げるほど、瑣末な問題の処理が増え、本当に重要なことに集中することができなくなってきます。

何をやるかも大切ですが、何をやらないかを決めることもとても大切です。

あれもこれもと手を出すには人生はあまりにも短いです。