守秘義務・内部告発9 公益通報が不正であるとしてなされた懲戒処分が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、公益通報を不正としてなされた懲戒処分の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人國士舘ほか(戒告処分等)事件(東京地裁令和2年11月12日・労判1238号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y法人から雇用されてY法人の設置する大学の教授を務めていた際にY法人から戒告の懲戒処分を受けたXらが、Y法人に対して、①Xらに対する前記各懲戒処分がいずれも無効であると主張してその無効確認、②前記各懲戒処分が不法行為であると主張してそれぞれ不法行為に基づく損害賠償金220万円+遅延損害金の支払を求め、前記各懲戒処分の懲戒委員会の委員長を務めた被告Y2に対して、③被告Y2が前記各懲戒処分の懲戒事由の当事者であるのに同委員長を辞することなく、虚偽の事実を前提に懲戒を促す言動をして前記各懲戒処分に至らせたことが不法行為に当たると主張して、それぞれ損害賠償金110万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y法人が、Xらに対し平成30年3月27日付けで行った戒告処分がいずれも無効であることを確認する。

Y法人は、原告らに対し、各60万円+遅延損害金を支払え。

XらのY1に対するその余の請求及びY2に対する請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y法人は、公益通報者が公益通報を行ったことを理由として、懲戒処分などの不利益処分をしてはならないと定める(本件公益通報規程11条1項)。同規程の公益通報は、Y法人の諸規定に違反する行為又はそのおそれのある行為を対象とするものであり(1条)、二重投稿は、Y法人が定める本件行動規範において研究者がしてはならない行為としたものであるから(1(1)ウ)、Y法人の諸規定に違反する行為又はそのおそれのある行為といえ、本件公益通報は、本件公益通報規程に基づく公益通報に当たる。
Y法人は、本件行動規範が平成26年に制定されたことから、それ以前の二重投稿は本件公益通報規程の対象ではない旨主張するが、本件行動規範は、その内容からして平成26年文科省ガイドライン及び日本学術会議報告を基づき制定されたものと認められるところ、これらの制定の前から、二重投稿が不正行為であると指摘されていたこと(1(1)ア)に照らせば、本件公益通報が通報対象とする平成22年より前の二重投稿も、「被告法人の諸規定に違反するおそれのある行為」に当たるから、本件公益通報規程の保護の対象外とはいえないものである。
Y法人は、本件出来事(1)~(3)が虚偽であると判断した上,本件出来事(1)~(3)が虚偽であるから本件公益通報は不正目的のものであり、保護の埒外にあると解釈して、本件公益通報書の記載を理由とする懲戒処分を行ったものである。本件公益通報の対象となったB教員の二重投稿問題に根拠がなく、これが真実ではないがゆえに本件公益通報が不正目的であるというなら格別、二重投稿の存否を検討することなく、本件公益通報に至った事情として記載された本件出来事(1)~(3)が虚偽であるから本件公益通報も不正目的であるとの判断は、根拠があるとはいい難い
したがって、本件各処分は、本件公益通報書の記載を理由としてXらに懲戒処分を行ったものであるから、本件公益通報規程11条1項に反しており、この点でも違法といえる。

使用者側の主張の意味は理解できますが、認識の誤りと判断されています。

公益通報を含む各種内部通報を理由に不利益な取扱いをすることは禁止されていますので細心の注意が必要です。

日頃から顧問弁護士に相談をする体制を整えておき、速やかに相談することにより敗訴リスクを軽減することが重要です。