日照権・眺望権7 区分所有建物の敷地との境界線上に存在する樹木を被告が伐採・剪定したら違法?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有建物の敷地との境界線上に存在する樹木を被告が伐採・剪定したら違法?(東京地判平成30年4月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らの居住する区分所有建物の敷地と被告が所有する土地の境界線上に存在する樹木を被告が伐採ないし剪定したことが原告らの生活利益を侵害する違法な行為であると主張する原告らが、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)として、原告らそれぞれに30万円+遅延損害金の支払を求めるものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らの主張する生活利益は民法709条の「権利又は法律上保護される利益」であると認めることはできないが、仮に、これが認められる余地があるとしても、これが私法上の権利といい得るような明確な実態を有するものと認められないことは明らかであるから、法律上保護される利益を超えて、権利性を有するものとまで認めることはできず、法律上保護される利益にとどまるものである。
そして、本件行為が原告らの主張する生活利益の違法な侵害となるかどうかは、被侵害利益たる原告らの主張する生活利益の性質と内容、侵害行為たる本件行為の態様、程度、侵害の経過等を総合的に考慮して判断すべきである。

2 被告は、被告の管理する住宅内に設置されている二段昇降ピット方式の機械式駐車場において、本件樹木により入庫車両に損傷が出るおそれがあったことから、その危険を避けるために、本件行為を行ったことが認められる。
そうすると、被告には、本件行為を行う一定の必要性があったと認められる。他方、本件樹木は本件土地と被告所有土地の境界線上に自生していることから(当事者間に争いがない。)、本件土地の所有者と被告所有土地の所有者の共有に属するというべきであるが、原告らの本件樹木に係る共有持分はごく僅かなものにとどまる。
これに加えて、本件樹木は、現状再度枝葉が伸びつつあり、今後も伸長が期待できること(なお、原告らは、本件行為が「断幹」に該当し、樹木に腐朽現象(樹の切断部分に腐朽菌の胞子が着き、それが樹本の中心部(芯部)に菌糸を伸ばし、樹本の中央部の木質を食べてしまう現象)などの悪影響を与えるものであると主張しているが、本件樹木の樹勢に現状において問題があるようには見受けられず、本件樹木に原告らが主張するような腐朽現象その他の悪影響があったことを認めるに足る証拠もない。)に照らすと、本件行為の本件樹木に与える影響は限定的なものであって、本件行為の経過、態様等に照らし、原告らの生活利益との関係で、本件行為の違法性の程度が大きいということはできない(なお、被告は、本件行為について保存行為であると主張するが、本件樹木のうち被告所有土地の利用に影響を与える部分の剪定にとどまるものであれば格別、本件行為のように、本件樹木のほぼ全ての枝葉を切り落として幹だけの状態にするのは、被告が行うべき保存行為の範囲を超える疑いを否定し得ない
また、本件行為について、共有物の管理という観点からみた場合に、共有者との協議も行わないまま一方的に被告が本件行為を行うことが共有物の管理として適切であるかどうかは別論である。)。
仮に原告らの主張する生活利益が法律上保護される利益に当たるとしても、その利益は限定的なものであるというべきところ、本件行為は上記のとおり、一定の必要性に基づいて行われ、その違法性の程度も原告らの生活利益との関係で大きいものとはいえないことに鑑みると、本件行為が不法行為法上違法であると評価することはできないというべきである。

被告の行為が保存行為、管理行為として不適切であったことを完全には否定しきれていませんが、総合考慮の結果、不法行為法上違法であるとまではいえないという判断です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。