管理組合運営32 理事長が総会決議を経ずに共用部分を変更した行為が善管注意義務違反にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事長が総会決議を経ずに共用部分を変更した行為が善管注意義務違反にあたるとされた事案(東京地判平成30年3月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションを管理する原告の理事長であった被告が、①主位的に、原告の総会決議を経ずに、電気料金を負担させない賃貸借契約を締結したことは善管注意義務違反であることを理由に、②予備的に、原告の理事長であった被告が、電気料金の原告負担の合意をするにつき、原告の総会決議も経ずに、また、理事会の決議も経ずに、原告に電気料金を負担させるような合意をしたことは善管注意義務違反であることを理由に、原告に損害が生じたとして、原告が、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、131万5058円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンションのラウンジであったところをBの店舗をして賃貸することとなったのであり、本件賃貸部分は従来の用途を全く変えたものといえるから、共用部分の変更に当たる。
共用部分の変更をするためには原告の総会で区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による決議を経る必要がある(本件マンションの管理規約50条3項(2))から、被告は、Bとの間で、本件賃貸借契約を締結するにあたり、総会での決議を経る必要があった。
しかし、被告は、本件賃貸借契約を締結するに際し、総会での決議を経ていない。
本件当時、被告は原告の理事長であったところ、理事長は区分所有法上の管理者とされており(本件マンションの管理規約41条2項)、管理者の権利義務は委任に関する規定による(区分所有法28条)から、被告は、原告に対し、善管注意義務を負い(民法644条)、本件マンションの業務を法律や規約に従って行わなければならない。
そうすると、被告が総会での決議を経ないまま本件賃貸借契約を締結したことは、善管注意義務に反するといえる。

2 この点、被告は、9年もの間、区分所有者から異議が出されなかったことからすれば、区分所有者全員が本件賃貸借契約を黙示的に承諾したことと評価できる旨主張する。
確かに、本件マンションの住人は、本件賃貸部分の横を通ってエレベーターホールに行くことになるので、本件賃貸部分でBが営業していることについて把握していたと推認できるし、本件賃貸借契約後の平成18年9月30日に開催された本件マンションの第25回通常総会において提出された監査報告書の中にある収入明細書には、屋内施設使用料収入として、Bから月額6万円の賃料が支払われている旨の記載がなされており、この点からも区分所有者は、本件賃貸部分がBに賃貸されていることを把握できたといえる。
しかし、区分所有法37条1項には、集会(本件マンションの総会に該当)においては、招集通知に記載された事項についてのみ決議ができる旨規定されているところ、これは事前に通知されていない事項は集会において十分に討議できず、そのような状況において決議することは望ましくないし、集会に出席しなかった者にとってはその者を除外して決議をされるという不都合があり、これらの不都合を回避するための規定と解され、本件マンションの管理規約にも同様の規定がある(管理規約50条9項)。
このような区分所有法の趣旨(本件マンションの管理規約も同趣旨と解される。)からすると、本件マンションの区分所有者において、本件賃貸借契約の存在を認識しえた状況で、総会において特段の異議などが出なかったことをもって、実質的に区分所有者の負担となる電気料金の原告負担という内容が含まれる本件賃貸借契約について黙示の承認を認めることは、上記趣旨を没却することとなり相当でない

共用部分の変更は、総会の特別決議を要します。

被告としては、黙示の同意の主張をしましたが、区分所有法の趣旨から認められませんでした。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。