管理会社等との紛争31 使用細則上、焼肉店の経営が禁止されているにもかかわらず、その説明をせずに賃貸借契約を締結した場合の貸主、仲介者の責任(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用細則上、焼肉店の経営が禁止されているにもかかわらず、その説明をせずに賃貸借契約を締結した場合の貸主、仲介者の責任(東京地判令和3年8月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、焼肉店を出店するために不動産賃貸借契約を締結して分譲マンションの1階の店舗部分を借り受けた原告が、当該マンション管理組合の使用細則上、焼肉店の経営が明確に禁止されていたのに、これを知らされないまま前記契約を締結し、内装工事を進めたため、前記管理組合から工事続行禁止の仮処分を申し立てられ、焼肉店営業が事実上不可能となったとして、貸主である被告J食品、前記契約の仲介をした被告O土地及び被告O土地の代表者であり実際に仲介に関与した被告Y1に対し、説明義務違反等の不法行為ないし債務不履行に基づき、損害賠償として1877万7419円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、連帯して、855万5726円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、本件の債務不履行ないし不法行為として、①本件賃貸借契約締結時の説明義務違反、②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応、③本件通知を受けた後の不適切な対応の3点を一連一体のものとして検討すべきであると主張する。
しかし、①本件賃貸借契約締結時の説明義務違反が認められる場合には、適切な説明がされていれば原告は本件賃貸借契約を締結しなかったということになるから、そこで認め得る損害は、本来締結するはずのない賃貸借契約を締結したことによる損害に限られることとなり、本件賃貸借契約の締結を前提とした②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応についても不法行為ないし債務不履行の成立を主張して、契約の存在を前提とした損害の賠償を求めるのは背理である。
また、これとは逆に、②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応の義務違反が認められる場合には、本件賃貸借契約の締結を前提として、本件建物での営業ができなくなったことによる逸失利益等が損害となり得る一方、本件賃貸借契約の締結を前提とする以上、適切な説明がされていれば本件賃貸借契約の締結をしなかったとする①本件賃貸借契約時の説明義務違反に基づく損害の賠償を求めるのは、やはり背理である。
そこで、本件では、適切な説明がされていれば本件賃貸借契約を締結することはなかったという①本件賃貸借契約時の説明義務違反による不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償か、本件賃貸借契約の締結を前提に、その後の義務違反行為による不法行為ないし債務不履行を問題とする②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応に基づく損害賠償のいずれかのみが認容されるべきであると解される(その意味で、原告の主張する前記①と②・③はいわば選択的併合関係にある2つの請求とも同視できる。)。

2 被告Y1は宅地建物取引士の資格を持つ者であるところ、本件建物は、本件規約等を踏まえると焼肉屋を出店することが臭気や煙の点から認められない可能性が高く、被告Y1はそのことを知っていたものであり、そのような情報が焼肉店出店のため本件賃貸借契約を締結しようとした原告にとって極めて重要な情報であることは宅地建物取引士である被告Y1にとっては容易に理解できたはずである。
ところが、被告Y1は、被告O土地の代表者兼本件の担当者として、借主であった原告に上記の点を説明しなかったものであり、これにより、原告は、本件建物に焼肉店を出店することは十分に可能であるとの認識の下、本件賃貸借契約を締結したものであるから、被告Y1には説明義務違反があり、これは不法行為を構成するものというべきである。
また、法人としての被告O土地についても不動産仲介業者として説明義務を尽くさなかったものとして、不法行為責任を負うものというべきである。

3 原告は、逸失利益829万6230円も損害として主張する。
しかし、説明義務が尽くされていれば原告は本件賃貸借契約を締結しなかったのであるから、本件賃貸借契約の締結を前提に被告J食品が本件建物を焼肉店として原告に使わせることができなかったことに基づき請求する逸失利益を損害として認めることはできない

契約締結時における説明義務違反を理由とする損害賠償請求の場合、上記判例のポイント3のとおり、営業利益等の逸失利益を請求することができませんので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。