Category Archives: 日照権・眺望権

日照権・眺望権8 マンション建設により原告らの日照権が侵害された等を理由とする日陰補償の請求は認められるか?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション建設により原告らの日照権が侵害された等を理由とする日陰補償の請求は認められるか?(東京地判平成29年6月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らが、原告らの自宅の隣地にいわゆる分譲マンションを建設した被告に対し、①従前の建物の解体工事及び上記マンションの新築工事の騒音や振動が激しく、原告らの自宅建物に損傷が生じた、②上記マンションの日影により原告らの日照権が侵害された、③上記マンションの敷地に存する桜の木の根が原告らの自宅敷地に伸びてきていると主張して、不法行為に基づき、上記①に関する「工事迷惑料」78万円、上記②に関する「日影補償」478万円及び上記③に関する「桜古木の根撤去費」50万円の合計606万円(各原告につきいずれも303万円)の損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 冬至日の午前8時から午後4時までの間に地盤面から1.5メートル地点において、本件原告建物にかかる本件マンションの日影の範囲は、午前8時及び午前9時の時点では本件原告建物の全部に日影がかかる状況であるが、午前10時の時点では本件原告建物の南東側面(本件マンション側)のやや奥まっている2分の1ほどが日照を得られ、本件マンション側に出っ張っている残りの2分の1ほどに日影がかかり、南西側面は4分の3ほどが日照を得られ、奥まっている部分の一部である残り4分の1ほどに日影がかかる状況であり、午前11時の時点では本件原告建物の南東側面の4分の3ほどが日照を得られ、残りの4分の1ほどに日影がかかり、南西側面は全て日照を得られる状況であること、正午の時点では本件原告建物はもちろん本件原告土地の全部において日照を得られる状況であることが認められる。

2 加えて、被告が本件敷地の近隣に居住する住民らに対して、平成26年7月5日に第1回近隣説明会を、同年8月2日に第2回近隣説明会を、同年9月18日に意見交換会を、同月27日に第3回近隣説明会を、同年11月15日に第4回近隣説明会を、同年12月13日に第5回近隣説明会を、平成27年2月9日にあっせん前の事前協議を、同年3月10日に第1回あっせん協議を、同月28日に工事説明会を、同年4月6日に第2回あっせん協議を、平成28年9月28日に本件マンションからの近接建物の見え方について近隣住民に公開する会を実施したことについては当事者間に争いがなく、また、本件敷地上に本件旧建物が存在していた頃には、冬至日の午前8時から午後4時までの間に地盤面から1.5メートル地点において、本件原告建物にかかる本件旧建物の日影の範囲は、午前8時及び午前9時の時点では本件原告建物の全部に日影がかかる状況であり、午前10時の時点でも本件原告建物の南東側面の4分の1ほどが日照を得られるが、4分の3ほどに日影がかかり、南西側面は3分の2ほどが日照を得られ、残り3分の1ほどに日影がかかる状況であり、午前11時の時点では本件原告建物の南東側面の4分の3ほどが日照を得られ、残りの4分の1ほどに日影がかかり、南西側面は全て日照を得られる状況であり、正午の時点では本件原告土地の全部において日照を得られる状況であること、したがって、従前の状況と本件マンション建設後の状況とを比較した場合に、少なくとも後者の方が前者よりも日照の環境が悪化しているとはいえないことが認められ、これらの事情に照らすと、本件マンションの日影により本件原告建物の日照が阻害される時間及び部分はあるものの、これが原告らの受忍限度を超えるものであると認めるに足りず、他に原告らにおいて本件マンションの日影により受忍限度を超える日照権の侵害がされたということのできるような事情を認めるに足りる証拠はない。

受忍限度を超える日照権の侵害の有無を判断するにあたり、裁判所が、被告が複数回にわたり説明会等を開催したことを考慮している点は参考にしてください。

日陰の範囲・時間等という結果だけでなく、プロセスも大切だということです。

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日照権・眺望権7 区分所有建物の敷地との境界線上に存在する樹木を被告が伐採・剪定したら違法?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有建物の敷地との境界線上に存在する樹木を被告が伐採・剪定したら違法?(東京地判平成30年4月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らの居住する区分所有建物の敷地と被告が所有する土地の境界線上に存在する樹木を被告が伐採ないし剪定したことが原告らの生活利益を侵害する違法な行為であると主張する原告らが、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)として、原告らそれぞれに30万円+遅延損害金の支払を求めるものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らの主張する生活利益は民法709条の「権利又は法律上保護される利益」であると認めることはできないが、仮に、これが認められる余地があるとしても、これが私法上の権利といい得るような明確な実態を有するものと認められないことは明らかであるから、法律上保護される利益を超えて、権利性を有するものとまで認めることはできず、法律上保護される利益にとどまるものである。
そして、本件行為が原告らの主張する生活利益の違法な侵害となるかどうかは、被侵害利益たる原告らの主張する生活利益の性質と内容、侵害行為たる本件行為の態様、程度、侵害の経過等を総合的に考慮して判断すべきである。

2 被告は、被告の管理する住宅内に設置されている二段昇降ピット方式の機械式駐車場において、本件樹木により入庫車両に損傷が出るおそれがあったことから、その危険を避けるために、本件行為を行ったことが認められる。
そうすると、被告には、本件行為を行う一定の必要性があったと認められる。他方、本件樹木は本件土地と被告所有土地の境界線上に自生していることから(当事者間に争いがない。)、本件土地の所有者と被告所有土地の所有者の共有に属するというべきであるが、原告らの本件樹木に係る共有持分はごく僅かなものにとどまる。
これに加えて、本件樹木は、現状再度枝葉が伸びつつあり、今後も伸長が期待できること(なお、原告らは、本件行為が「断幹」に該当し、樹木に腐朽現象(樹の切断部分に腐朽菌の胞子が着き、それが樹本の中心部(芯部)に菌糸を伸ばし、樹本の中央部の木質を食べてしまう現象)などの悪影響を与えるものであると主張しているが、本件樹木の樹勢に現状において問題があるようには見受けられず、本件樹木に原告らが主張するような腐朽現象その他の悪影響があったことを認めるに足る証拠もない。)に照らすと、本件行為の本件樹木に与える影響は限定的なものであって、本件行為の経過、態様等に照らし、原告らの生活利益との関係で、本件行為の違法性の程度が大きいということはできない(なお、被告は、本件行為について保存行為であると主張するが、本件樹木のうち被告所有土地の利用に影響を与える部分の剪定にとどまるものであれば格別、本件行為のように、本件樹木のほぼ全ての枝葉を切り落として幹だけの状態にするのは、被告が行うべき保存行為の範囲を超える疑いを否定し得ない
また、本件行為について、共有物の管理という観点からみた場合に、共有者との協議も行わないまま一方的に被告が本件行為を行うことが共有物の管理として適切であるかどうかは別論である。)。
仮に原告らの主張する生活利益が法律上保護される利益に当たるとしても、その利益は限定的なものであるというべきところ、本件行為は上記のとおり、一定の必要性に基づいて行われ、その違法性の程度も原告らの生活利益との関係で大きいものとはいえないことに鑑みると、本件行為が不法行為法上違法であると評価することはできないというべきである。

被告の行為が保存行為、管理行為として不適切であったことを完全には否定しきれていませんが、総合考慮の結果、不法行為法上違法であるとまではいえないという判断です。

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日照権・眺望権6 タワーマンション購入に際し、販売会社担当者が、墓、西日、富士山眺望、植栽工事について事実と異なる説明した等として、損害賠償を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タワーマンション購入に際し、販売会社担当者が、墓、西日、富士山眺望、植栽工事について事実と異なる説明した等として、損害賠償を求めた事案(東京地判平成31年2月20日)を見てみましょう。

【事案の概要】

本件は、被告からタワーマンションを投資目的で購入した原告が、被告担当者の説明に問題があったなどと主張して、損害の賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告の主張は、要するに、被告の従業員は、原告が投資目的で1002号室を購入するということを知っていたのであるから、1002号室の資産価値に影響する事項に関して誤った説明をすべきではないのに、墓、西日、富士山眺望、植栽工事について事実と異なる説明をし、これによって原告の売買や賃貸を失敗に至らせたのであるから、被告には原告の逸失利益を賠償すべき義務がある、というものと解される。

2 原告(A)は、1002号室を案内された当初から、1002号室から墓が見えること及び1002号室に西日が差すことを認識していた
原告が1002号室の実情を認識していた以上、被告従業員の責任を基礎付ける事実は認められない。
被告従業員による窓の遮熱効果についての詳細な技術説明の有無及び可否は、本件の結論に影響しない。
富士山の眺望に関しては、原告が富士山の眺望が必須であると明確に被告側に伝えたことを認めるに足りる証拠はない。
植栽枯損工事の実施は、本件売買の約5か月後、1002号室及び4716号室の引渡しの約4か月後に、本件マンション管理組合により決定されたものである。
そうすると、被告が原告に対し、本件売買に係る契約の前並びに1002号室及び4716号室の引渡しの前後に、植栽枯損工事について説明義務を負うことは、時系列的にそもそもない。

売買契約締結時に、買主も事情を認識していたことを理由に被告の責任を認めませんでした。

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日照権・眺望権5 マンションに隣接して老人ホームを建築したことによる騒音・振動の被害や日照・眺望の阻害等を理由とする妨害排除請求等が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションに隣接して老人ホームを建築したことによる騒音・振動の被害や日照・眺望の阻害等を理由とする妨害排除請求等が棄却された事案(東京地判令和元年9月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションに居住する原告らが、本件マンション敷地に隣接するホーム敷地に有料老人ホームを建築した被告T社及び本件ホームの設計及び建築工事を請け負った被告K社に対し、被告らによる本件ホームの建築により、受忍限度を超えて、日照及び眺望の阻害、プライバシーの侵害、子どもの安全に対する危険並びに居宅の財産的価値の下落等の損害を被り、また、本件工事により、騒音・振動の被害及び本件マンションの壁の一部にひび割れの被害を被った旨主張して、人格権(日照権)に基づく妨害排除請求として本件ホームの4階部分の撤去等を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して、慰謝料、資産的価値の下落による損害金、本件工事によって生じた壁のひび割れの修繕費用及び弁護士費用の各合計金+遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、原告らは、当初、本件ホームの建築禁止を求めていたが、本件訴訟係属中の平成29年5月23日に本件ホームが完成したため、その訴えを4階部分の撤去等に変更した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 環境省の通達(騒音振動規制法の施行について)は、測定場所について「測定しやすく、かつ、測定地点を代表すると認められる場所とすること。この場合、法が生活環境の保全を目的としていることから、原則として住居に面する部分において行うものとすること」と規定しているところ、これは測定しやすさや代表的地点と認められる場所を測定場所とするに際し、生活環境の保全の目的から、原則として住居に面する部分において行うとするもので、必ずしも測定場所を隣接する敷地との境界線上にしなければならないとするものとはいえない。
そして、本件集音マイクがホーム敷地とマンション敷地の境界線の北端から東に約2.5メートル離れているに過ぎないこと、本件集音マイク及び本件振動測定器の測定結果は、北側道路面に電光掲示板によって騒音及び振動の数値が表示されるように設置されていること及び北側道路を挟んだ向かい側は駐車場であるがその向こうには他の住居があることが認められ、測定値を表示して近隣者に示すためには道路面が適切であること及び本件マンション以外にもホーム敷地の周辺には住居があることなどからすれば、本件集音マイクの設置場所が上記通達に反して不適切なもので、被告らが意図的に騒音値を低くするために設置場所を操作したとまでいうことはできない。
なお、原告ら各居室は、いずれも本件マンションの東側かつ北側道路側にあり、本件集音マイク及び本件振動測定器の設置場所に近接した位置にあるから、測定値は実際に原告らの受ける騒音に比較的近いということができる。
また、原告らは、境界線上に集音マイクを設置したと仮定して、各くい打ち地点と本件集音マイクの設置場所との距離とくい打ち地点に最も近い境界線上の距離との距離差を基に騒音減衰状況を計算するけれども、前提として測定時の騒音源が特定されておらず、くい打ち地点すべてが測定時の騒音源であるということはできない上、その計算方法も十分に検証されたものであるとはいえない
したがって、これをもって、原告ら主張の騒音があったと認めるには足りない。

2 結局、平成28年6月6日から平成29年4月29日までの間、本件集音マイクの設置場所における音量が80デシベルを超える1時間の時間帯は、5回であり、その測定された数値は最大でも82.9デシベルであり、東京都の規制基準の基準値である80デシベルを、基準値全体の4パーセント弱上回るにすぎないことからすれば、本件工事の騒音が受忍限度を超えるものであると認めることはできない。

騒音問題に関する訴訟の難しさを感じますね。

騒音の存在及び原因の特定が求められますが、費用をかけて専門家による調査が必須であるように思います。

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日照権・眺望権4 建築前のマンション売買交渉において、売主が居室からの眺望についてした説明が建築完成後の状況と異なるときは、買主は契約を解除して損害賠償を請求することができるとした事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、建築前のマンション売買交渉において、売主が居室からの眺望についてした説明が建築完成後の状況と異なるときは、買主は契約を解除して損害賠償を請求することができるとした事案(大阪高判平成11年9月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告販売業者が販売する分譲マンションにつき、被告販売代理人から説明を受けて同マンション完成前にその一居室を購入した原告が、パンフレットでは高い静粛性を売りにしているのに隣接ビルの騒音は極めて大きく、騒音について告知もしなかったとして、被告販売業者に対し、マンション売買契約を解除し、手付金の返還を求めるとともに、被告販売代理人に対し、交渉当初から眺望を重視する旨伝えたにもかかわらず、隣接ビルにより眺望を遮られることなどの説明をしなかったとして、契約解除によって生じた損害の賠償を求めた事案

なお、原審は、原告の請求を棄却した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。
→被控訴人Z社は、控訴人に対し、558万4503円+遅延損害金を支払え。
→被控訴人Y社は、控訴人に対し、558万4503円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 未だ完成前のマンションの販売においては、購入希望者は現物を見ることができないから、売主は購入希望者に対し、その売買予定物の状況について、その実物を見聞できたのと同程度にまで説明する義務があるというべきである。
 そして、売主が説明したところが、その後に完成したマンションの状況と一致せず、かつそのような状況があったとすれば、買主において契約を締結しなかったと認められる場合には、買主はマンションの売買契約を解除することもでき、この場合には売主において、買主が契約が有効であると信頼したことによる損害の賠償をすべき義務があると解すべきである。

2 これを本件についてみるに、被控訴人ら作成のパンフレット等では、本件マンションの本件居室からは二条城の眺望・景観が広がると説明し、本件居室の西側には窓があるとされており、二条城は、本件マンションの西側に存するのであるから、西側窓からも二条城の景観が広がると説明したことになる。また、販売代理人である被控訴人Y社の社員Aは、控訴人の質問に対し、隣接ビルは五階建であって六階にある本件居室の西側窓からは視界が通っていると発言しているのである。
ところが、現実に建築された結果では、本件居室の南側バルコニーからはやや斜めに二条城を望むことができるが、西側窓の正面に隣接ビルのクーリングタワーがあるため、窓に接近しないと二条城の緑がほとんど見えない状態であったのである。この状態は、説明の「二条城の眺望・景観が広がる」状態とは明らかに異なるものである。

3 控訴人は本件居室を購入するに当たり、被控訴人Y社の担当者に対して、視界を遮るものがないかどうかについて、何度も質問しており、被控訴人Y社においても、控訴人が二条城への眺望を重視し、本件居室を購入する動機としていることを認識し得たのであるから、被控訴人Y社は、未完成建物を販売する者として、本件居室のバルコニー、窓等からの視界についてその視界を遮るものがあるか、ないかについて調査、確認して正確な情報を提供すべき義務があったといわざるを得ない。
控訴人としては、当初から隣接ビルの屋上にクーリングタワーが存在し、それが本件居室の洋室4.6畳の西側窓のほぼ正面の位置に見えるとの説明を受けるか、少なくともその可能性について告知説明があれば、その購入をしなかったものと認められる。
もっとも、本件居室は、控訴人の解除後に、同一価格で購入した者があり、そのときには本件マンションは既に完成していたからその購入者は西側窓からの眺望が充分とはいえないことを知って契約したものと推認される。
しかし、マンションの居室の売買においては、眺望は重視される一つの要素であり、それであるからこそ被控訴人らも、パンフレットでそのことを強調したものである。
そのうえ、自ら使用する物の売買契約においては、購入者にとって目的物が購入者の主観的な好み、必要などに応じているかが極めて重要な点である(このことは、衣類売買における衣類の色を考えれば、明らかである。)。本件において、控訴人は、被控訴人らのパンフレット等にも記載されていた二条城の景観を特に好み、重視し、被控訴人Y社の担当者Aに対して、その点の質問をしていたのである。
そうすると、控訴人は本件売買契約を解除でき、被控訴人Z社は既に受領した手付金の返還に応じる義務がある。

原審は、同種裁判例でよく目にする「市街地における住居の眺望は、その性質上、長期的・独占的に享受しうるものとはいい難く、隣接建物により眺望が阻害されることは、特段の事情がない限り受忍せざるを得ない」という理由により請求を棄却しました。

これに対して、控訴審では、上記判例のポイント1のように判断し、真逆の結論となりました。

なお、本件は、上告受理申立てがされましたが、最高裁は、不受理の決定をしました(最判平成12年9月26日)。

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日照権・眺望権3 景観利益保護とマンションの一部撤去の可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、景観利益保護とマンションの一部撤去の可否(最判平成18年3月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、上告人らが、大学通り周辺の景観について景観権ないし景観利益を有しているところ、本件建物の建築により受忍限度を超える被害を受け、景観権ないし景観利益を違法に侵害されているなどと主張し、上記の侵害による不法行為に基づき、①被上告人Y1及び本件区分所有者らに対し本件建物のうち高さ20メートルを超える部分の撤去を、②被上告人らに対し慰謝料及び弁護士費用相当額の支払をそれぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

上告棄却

【判例のポイント】

1 良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。
もっとも、この景観利益の内容は、景観の性質、態様等によって異なり得るものであるし、社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるところ、現時点においては、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものを認めることはできない

2 ところで、民法上の不法行為は、私法上の権利が侵害された場合だけではなく、法律上保護される利益が侵害された場合にも成立し得るものである(民法709条)が、本件におけるように建物の建築が第三者に対する関係において景観利益の違法な侵害となるかどうかは、被侵害利益である景観利益の性質と内容、当該景観の所在地の地域環境、侵害行為の態様、程度、侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきである。
そして、景観利益は、これが侵害された場合に被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせるという性質のものではないこと、景観利益の保護は、一方において当該地域における土地・建物の財産権に制限を加えることとなり、その範囲・内容等をめぐって周辺の住民相互間や財産権者との間で意見の対立が生ずることも予想されるのであるから、景観利益の保護とこれに伴う財産権等の規制は、第一次的には,民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等によってなされることが予定されているものということができることなどからすれば、ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。
・・・以上の諸点に照らすと、本件建物の建築は、行為の態様その他の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くものとは認め難く、上告人らの景観利益を違法に侵害する行為に当たるということはできない。

有名な国立マンション事件最高裁判決です。

景観利益の侵害についての規範(かなり厳しい判断基準です)が示されていますので、同種事案はこの規範に基づいて判断されることになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

日照権・眺望権2 高層建物の建設が予定されていた地区(容積率600%)に存在する20階建てマンションの買主らが売主らに対し眺望権等の侵害、説明義務違反を理由とする損害賠償請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、高層建物の建設が予定されていた地区(容積率600%)に存在する20階建てマンションの買主らが売主らに対し眺望権等の侵害、説明義務違反を理由とする損害賠償請求が認められなかった事案(大阪地判平成24年3月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告らは、被告Y1産業から大阪市所在のマンションの区分所有権を購入して当該マンションに居住している者らであり、被告らは、本件原告マンション敷地に隣接する本件土地に本件マンションを建設した者らである。

本件は、主位的には、原告らが、被告らによる本件マンションの建築によって、眺望権又は圧迫感を受けずに生活する権利を侵害されているとして、予備的には、原告所有者らが、被告Y1産業には、原告所有者らとの間の売買契約の付随義務違反があり、また、本件原告マンションの眺望に関して説明義務違反があったとして、それぞれ以下の請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、一定の場所から見ることのできる周囲の景観、遠方の自然風物、人工物等に対する見晴らしが、人に視覚上の美的満足や心理的な開放感などをもたらす作用を有する場合において、その場所を所有又は占有するなどして、その場所からの良好な眺望を享受している者は、当該眺望を享受する利益を有しているといえる。
しかし、このような利益は、たまたまその場所の占有者が事実上これを独占的に享受し得る結果として、その者に独占的に帰属するといえるにすぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるをえないものである。
したがって、このような利益は、物権的な排他的、独占的支配を伴うものということはできず、当該利益の享受によって、常に人為的な変化を排除しうる権能を持つものではない
しかしながら、このことは、眺望に係る利益がいかなる場合にも法的保護の対象にならないことをいうのではなく、眺望に係る利益も、その享受者にとって、一個の生活利益として社会通念上も独立の利益として承認されるべき程度の重要性を持つ場合には、法的見地からも保護されるべきであるということになる。
そして、ある眺望を享受する利益が、単なる主観的利益を超えて法的な保護を得られる程度に重要な利益といえるか否かは、基本的には、当該眺望が、①客観的に重要な価値を有するといえるか、②主観的にも、単なる主観的利益を超える程に重要な価値を有するといえるかという点から判断されるべきである。

2 一般的に、マンションの周辺土地をいかなる方法で利用するかは、当該周辺土地の所有者の自由であるから、マンションの売買契約において、当該マンションの周辺環境が変化することは、両当事者間で、当然の前提とされているというべきである。
したがって、マンションの売買契約において、売主が、買主に対し、当該マンションの周辺環境(眺望、景観、静謐等)が良好であることを指摘して当該売買契約の勧誘をしたとしても、そのような周辺環境が時間の経過とともに徐々に変化していくことは、買主においても了解済みであるといえるから、売主が、当該マンションの引渡後にまで、その周辺環境に配慮すべき義務を負うことはないというべきである(売主が良好な周辺環境が維持されることを前提とする勧誘をしていた場合などに、説明義務違反との関係で問題になるにすぎない。)。
しかしながら、マンションの売買契約締結に当たって、売主が、その時点で、周辺環境の変化を制御し得る地位にあったか、又は、近い将来、そのような地位を取得することが確実であったときに、それを前提に、売主が当該マンションの周辺環境が良好であることを指摘して同売買契約を締結した場合には、売主は、買主に対し、売買契約に基づく目的物引渡義務の付随義務として、マンションの引渡後も、同マンションの周辺環境に対して配慮すべき義務を負うというべきである。
なぜなら、当該マンションの周辺環境の変化を制御し得る立場にある売主が、周辺環境が良好であることを指摘してマンションの販売を行っている以上、売主において、当該マンションの引渡後であっても、少なくとも自ら当該マンションの周辺環境を変化させることはないとの意思が表示されているというべきであるし、買主においてもそのことを前提として売買契約を締結したものというべきであり、売主が、目的マンションについて、その引渡後も、周辺環境に配慮すべきことをも、契約の一内容として合意したものといえるからである。

眺望権侵害及び説明義務違反に関する裁判所の一般的な考え方がよくわかります。

本件においてはいずれの請求も棄却されていますが、マンションの売主が買主に対して不適切な説明を行った場合には、責任が認められる余地も十分にありますのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

日照権・眺望権1 リゾートマンションの一室からの眺望を阻害するマンションの建築行為には故意又は過失があるとして不法行為を構成するとした事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、リゾートマンションの一室からの眺望を阻害するマンションの建築行為には故意又は過失があるとして不法行為を構成するとした事案(横浜地判平成8年2月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告株式会社乙山社の代理人である被告丙川ハウジングから本件マンションを買い受けた原告が、被告らが本件マンションの東側、808号室からの眺望等を阻害する位置に本件東側マンションの建築計画があることを故意又は過失により秘したまま原告に808号室を売却したことにより(主位的請求)、若しくは、被告らが808号室売却後、同室からの眺望等を阻害してはならないという信義則に違反して本件東側マンションを建築したことにより(予備的請求)、808号室の価格が下落するという財産的損害を被ったとして、被告らに対し、各請求につき債務不履行ないし不法行為(選択的併合)に基づく損害賠償請求+遅延損害金をした事案である。

【裁判所の判断】

原告の主位的請求を棄却する。

被告らは、原告に対し、各自金694万8000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告らが原告に対し、808号室を販売する際、同室からの眺望の良好さを大きなセールスポイントとし、本件マンション各室の価格を設定する場合も、眺望の良好さを要素のひとつとしていたことが窺える。そして、原告は、本件マンションのパンフレット類及び販売担当者の説明等から、本件東側マンションの敷地に建物が建築される可能性がないことを信頼して本件売買契約を締結したものと認められ、被告らもまた、原告がそのような信頼を抱いて右契約に及んだであろうことは、右の説明等をはじめとする本件売買契約の締結に至るまでの経緯により、十分窺い知ることができたものと解される。
このような経緯により形成された原告の信頼は、法的に保護されるべきものであり、被告乙山社は、原告に対し、808号室の眺望を阻害する本件東側マンションのような建物を建築しないという信義則上の義務を負うものというべきであり、また、被告丙川ハウジングも、本件東側マンション完成前から本件東側マンションの分譲業務を行うなど、被告乙山社による本件東側マンションの建築に加担するような行為を行わないという信義則上の義務を負うものというべきである。

2 原告は、本件東側マンションの建築によって808号室からの眺望が阻害されたことにより、財産的損害を被ったことが認められる。
そして、原告は、右眺望阻害により808号室の眺望景観分に相当する価値の下落という損害を受けたこと、右眺望景観分としては、最上階である808号室が一階部分よりその専有単価が約二六パーセント高いとされるもののうちの20パーセント分をもって相当であることが認められ、したがって、右の損害は、694万8000円と認められる。
原告は、本件東側マンションから808号室を覗かれることによるプライバシーの権利の侵害を根拠とする財産的損害も主張しているが、原告が本件東側マンションの建築により金銭に換算し得る程度にプライバシーの権利が侵害されたと認めることはできない。

リゾートマンションの最上階の一室を購入した所有者が売主及びその代理人に対して、眺望阻害に加担する行為を行ったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認められた事案です。

損害額の算定方法についても参考になります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。