Category Archives: 漏水事故

漏水事故20 雨漏り事故発生時に、早急に補修工事を実施しなかった管理会社の債務不履行責任が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雨漏り事故発生時に、早急に補修工事を実施しなかった管理会社の債務不履行責任が否定された事案(東京地判平成29年10月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物をBに対して賃貸していた被控訴人が、本件建物において雨漏り事故が発生したため、控訴人に補修工事を依頼したにもかかわらず、控訴人が早急に工事を実施しなかったことから、被控訴人において、Bに対して雨漏り事故によって生じた損害の賠償を余儀なくされ、その賠償額と同額の損害を被ったとして、控訴人に対し、主位的に、被控訴人と控訴人の間で締結された雨漏り補修工事に関する委任契約の債務不履行に基づき、予備的に、本件マンション管理組合と控訴人との間の管理委託契約の債務不履行に基づき、損害賠償を求める事案である(なお、被控訴人の請求は、いずれも債務不履行を理由とするものであり、不法行為を理由とするものであると解することはできない。)。
原審は、被控訴人の主位的請求は理由がないとして、これを棄却したが、予備的請求については、46万0100円+遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして、これを一部認容した。

そこで、控訴人は、控訴人敗訴部分(予備的請求を一部認容した部分)を不服として控訴をした。

なお、被控訴人の主位的請求については、被控訴人がこれを棄却した原判決部分を不服として控訴又は附帯控訴をしていない以上、当審の審理の対象となるものではない。

【裁判所の判断】

1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 前項の部分につき被控訴人の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件管理委託契約3条には、控訴人が受託した管理事務の内容は、事務管理業務(同条1号)、管理員業務(同条2号)、清掃業務(同条3号)及び建物・設備管理業務(同条4号)とすることが定められ、本件管理委託契約の8条には、控訴人は、3条の規定にかかわらず、災害又は事故等の事由により本件管理組合のために緊急に行う必要がある業務で、本件管理組合の承認を受ける時間的な余裕がないものについて、その承認を得ないで実施することができる旨が定められているところ、上記の規定内容に照らすと、本件管理委託契約8条は、飽くまで、控訴人が本件管理組合との関係で緊急時にその承認を得ずして業務を実施することができることを定めたにとどまり、組合の財産が総組合員の共有に属するものであるとしても、この規定から、控訴人に、本件マンションの共用部分の管理業務に関し、区分所有者に対する直接の法的義務が発生すると解することはできないものといわざるを得ない
そうすると、控訴人が本件管理委託契約に基づいて、被控訴人に対して債務不履行責任を負うものと認めることはできず、被控訴人の上記主張は、採用することができないというべきである。

2 被控訴人は、本件建物の雨漏り補修工事が専有部分と共用部分の双方に関係すること、緊急の対応を要する工事であること、被控訴人が控訴人に直接補修工事の施工を求めたことを指摘するが、これらの事由により、被控訴人と控訴人との間に委任契約が成立したと認め得る余地があるとしても、この点が当審における審理の対象とならないことは、既に説示したとおりであり、また、本件マンションの区分所有者としては、控訴人による本件マンションの共用部分の管理業務について要望がある場合には、本件管理組合に対して、その申入れをし、本件管理組合において、当該要望の実現を図るべきものと解されるところ、被控訴人が控訴人に直接補修工事の施工を求めたとしても、本件管理組合に代わって求めたにすぎないものと認められる余地もある。
被控訴人の上記指摘は、本件管理委託契約の規定から控訴人に区分所有者に対する直接の法的義務が発生するとは解し得ないとする上記判断を左右するものでない。

上記判例のポイント1はしっかりと理解しておきましょう。

管理委託契約の規定内容をいかに解釈するかについては、必ず弁護士に確認することをおすすめいたします。

また、法的構成を債務不履行に限定する必要はなく、特に本件のような事案では、不法行為構成も主張しておくべきです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故19 漏水事故における区分所有者と管理組合との過失割合(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故における区分所有者と管理組合との過失割合(東京地判令和3年12月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件管理組合との間で火災保険を締結していた原告が、令和元年6月14日に本件マンションにおいて発生した漏水事故は、被告の過失によるものであり、原告はこの漏水事故について本件管理組合に保険金を支払ったことにより、本件管理組合が被告に対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権を代位取得した旨主張し、被告に対し、損害賠償金74万8864円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、59万7091円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件漏水事故の原因は、被告が本件洗濯機の給水ホースを水栓に接続する際に必要のない本件継ぎ手を取り付けた過失によるものであり、本件継ぎ手の使用の可否については、本件洗濯機の取扱説明書に記載されていたことなどからすれば、被告の過失の程度は大きい
一方で、本件漏水事故が発生した際、本件管理組合から依頼を受けた業者により、本件居室内の水回りを中心に、実際に水を流すなどして点検が行われたが、本件洗濯機の水栓及びその接続状況等に関しては何ら点検がなされなかったこと、本件漏水事故の原因が不明であるのに、Bにおいて、被告に対し、本件洗濯機を含む水回りの使用を許容したこと、6月14日以降も本件駐車場の天井からの漏水を確認しながら、同月21日に再び本件居室内を調査するまで、本件駐車場の天井の漏水箇所をビニール等で養生する程度の対応にとどまり、原因究明のための調査や被告に水回りの使用を中止するよう求めるなど、漏水を止めるための積極的な措置をとらなかったことが認められ、これらについては、公平の観点から、本件管理組合側の過失として一定程度考慮すべきである。
そして、被告は6月14日以降も同月21日までの間に本件洗濯機を使用していたため、断続的に漏水が生じたものと認められ、その間に損害が拡大していった可能性も否定できないことも併せ考慮すれば、過失割合については、本件管理組合20%、被告80%と認めるのが相当である。

被告区分所有者の過失が大きいことはさておき、上記のような事情があるにもかかわらず管理組合の過失割合が20%にとどまっている点は、裁判所の過失割合に対する考え方の1つの表れのように思います。

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漏水事故18 大規模修繕工事により発生した専有部分の漏水被害に関し、施工会社の損害賠償債務について460万5000円を超えて存在しないことの確認請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、大規模修繕工事により発生した専有部分の漏水被害に関し、施工会社の損害賠償債務について460万5000円を超えて存在しないことの確認請求が認められた事案(東京地判令和4年2月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が居住する専有部分を含むマンション(10階建て)の大規模修繕工事を施工した原告会社が、本件工事中に発生した被告専有部分の漏水被害に関し、被告に対し、上記漏水被害による不法行為に基づく損害賠償債務が460万5000円を超えて存在しないことの確認を求め、本件マンション管理組合である原告管理組合が、被告に対し、上記漏水被害による損害賠償債務が存在しないことの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、原告管理組合が、本件漏水被害が確認された時点で、直ちに漏水調査・工事を手配して原因究明及び被害軽減を図る当然の対応をしていれば、本件漏水被害を軽減することができた可能性が高いことから、原告管理組合も、原告会社と連帯して損害賠償責任を負う旨主張する。
しかしながら、本件漏水被害は、本件工事を施工した原告会社の施工不備によることが明らかである。
R社が本件漏水被害について調査及び補修工事を行ったのは、令和2年3月頃から同年5月頃にかけてであることが認められ、本件漏水被害が確認された令和元年5月21日から相当期間経過した後に調査等が行われたものであるが、本件全証拠によっても、この間に、原告管理組合について、不法行為と評価されるほどの何らかの注意義務違反があったことを基礎づける事実は認められないし、これにより本件漏水被害が拡大したと認めることもできない。
以上によれば、原告管理組合が、被告に対し、本件漏水被害に関して損害賠償債務を負うとはいえない。

2 本件工事により、被告専有部分の洋室、リビングダイニングキッチン(寝室を含む。)の天井及び壁面部分に漏水被害が生じたものと認められる。これら以外の箇所について、現在も補修を要する漏水被害が生じたことを認めるに足りる的確な証拠は存しない。
そして、専門委員の意見書では、上記の漏水被害の補修のためには、各部分のクロスの張替え及び漏水により変形した下地の石膏ボードの交換工事を行うことが必要かつ相当であり、その補修費用は、諸経費を含め、118万7037円が相当である旨の意見が述べられているところ、その信用性に疑問を抱かせる事情は何ら窺われない。
補修工事の内容及び被告専有部分の広さ等に鑑みると、同工事の期間中、仮住まいをすることが必要かつ相当ということはできるが、その費用を考慮しても、本件漏水被害と相当因果関係のある損害が460万5000円を超えないことは明らかである。
以上に対し、被告は、本件漏水被害に起因する修繕工事の見積書を根拠に、本件漏水被害の修繕工事費用は、888万2500円が相当である旨主張する。
しかしながら、S社による見積書は、被告専有部分の「リフォーム工事」についての見積書であり、その内容にも、浴室、キッチン撤去、洗面台、トイレ、給湯器、収納建具等の撤去、天井、床等の解体、コンパクトキッチンやユニットバス、洗面化粧台の設置等を含む給排水設備、電気工事等が含まれており、前記で認定した本件漏水被害が生じた範囲に照らしても、本件漏水被害の修繕のために必要な範囲を超えた工事についての見積りであることが明らかである。
また、M社による見積書及びT社による見積書についても、その内容に照らし、前記と同様、本件漏水被害の修繕のために必要な範囲を超えた工事についての見積りであることが明らかである。

漏水事故等による修繕工事費用について、複数の異なる見積書が証拠として提出されることは珍しくありませんが、本件では、専門委員が入っているため、裁判所としては専門員の意見書のベースに損害額を認定しています。

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漏水事故17 マンション内の給油管が破損し、専有部分に灯油が漏出した事故により、シックハウス症候群等に罹患したとして、後遺障害等級12級に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション内の給油管が破損し、専有部分に灯油が漏出した事故により、シックハウス症候群等に罹患したとして、後遺障害等級12級に該当するとされた事案(札幌高判平成29年3月23日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、1審被告が管理していたマンション内の給油管が破損し、1審原告らが居住するなどしていた専有部分に灯油が漏出した事故により、シックハウス症候群等に罹患したとして、1審原告らが、1審被告に対し、それぞれ民法709条又は717条に基づく損害賠償として、1審原告X1につき3503万4216円、1審原告X2につき1494万5335円及び1審原告X3につき1506万8043円の損害賠償金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、1審原告らの請求を、①1審原告X1の1審被告に対する319万7055円+遅延損害金、②1審原告X2の1審被告に対する95万5821円+遅延損害金、③1審原告X3の1審被告に対する109万6471円+遅延損害金の各請求の限度でそれぞれ認容し、その余を棄却したところ、1審原告ら及び1審被告はこれを不服として控訴した。

1審原告らは、当審において、通院旅費等及び弁護士費用(1審原告X1につき通院旅費等7万9160円及び弁護士費用351万1337円の合計359万0497円、1審原告X2につき通院旅費等7万9160円及び弁護士費用150万2449円の合計158万1609円、1審原告X3につき追加診察料等2万2000円及び弁護士費用150万9004円の合計153万1004円)+遅延損害金の請求を拡張した。

【裁判所の判断】

1審原告らの本件控訴及び当審における拡張請求に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告は、1審原告X1に対し、607万6215円+遅延損害金を支払え。
(2) 1審被告は、1審原告X2に対し、723万3349円+遅延損害金を支払え。
(3) 1審被告は、1審原告X3に対し、774万3527円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 シックハウス症候群患者の多くは、眼、鼻、咽頭等の粘膜や皮膚の症状とともに、頭痛、倦怠感、めまい、吐き気などの神経症状を訴え、また、眼球運動や脳血流量の異常が認められる症例も報告されていることから、何らかのシックハウス症候群の原因物質が脳内に到達し、中枢神経系に作用している可能性が示唆されるところ、本件についてはC医師の実施した赤外線瞳孔計による自律神経機能検査、目視による眼球追従運動検査及び重心動揺計による平衡機能検査のいずれにおいても1審原告らの異常が認められ、中枢神経系の障害につき他覚的にも証明がなされているものといえる。
そうすると、1審原告らの後遺障害については、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(後遺障害等級12級13号)と評価するのが相当である。

シックハウス症候群について後遺障害に該当すると判断された事案です。

結果、原審から損害額が大幅に増額しました。

医学的な立証が求められますので、事前に相当入念に準備する必要があります。

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漏水事故16 上階からの漏水事故につき、3000万円超の損害賠償請求に対し約130万円のみを損害として認定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上階からの漏水事故につき、3000万円超の損害賠償請求に対し約130万円のみを損害として認定された事案(東京地判平成29年10月6日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの一室を所有し、同室に居住している原告が、その上階の部屋を賃借して居住していた被告に対し、被告宅の洗濯機の排水部分から漏水が生じたために、原告宅の天井やカーペットが汚損されるなどの損害を被ったとして、不法行為に基づき、損害金3039万6500円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、129万4677円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件洗濯機使用時に本件事故が発生していること、本件事故による漏水箇所(原告宅キッチン)の真上に本件洗濯機が位置すること、本件洗濯機や、同種のビルトイン洗濯機の排水詰まりを原因とする漏水事故が本件マンションにおいて過去に複数回発生していること、本件事故の約1か月半後に実施されたデーエムの調査の際、本件洗濯機の周囲に洗剤様の白い粉末や、シミが観察されたこと(被告は本件事故の約3年前にも本件洗濯機の排水詰まりを原因とする漏水事故を起こしているが、上記の痕跡は比較的新しいもののように見受けられる。)、本件事故の漏水の経路についてほかに合理的な説明が考えられないこと等に照らせば、本件事故は本件洗濯機の排水詰まりを原因とするものと認められる

2 本件洗濯機の使用前に排水トラップを清掃するなどの義務があったかを検討するに、本件洗濯機や排水トラップの取扱説明書には定期的な点検や清掃が必要との記載があったことや、管理受託者等が本件事故前にも排水トラップの清掃を要請していたことに照らせば、かかる義務は認められる。そして、本件洗濯機の排水詰まりが原因で本件事故が生じており、デーエム等の調査によっても排水トラップの破損等、ほかの漏水原因が指摘されていない以上、被告はかかる清掃を怠っていたと考えるほかない

3 原告は原告宅全般にわたって天井の補修やカーペットの張替を求めるが、直接汚損されていない範囲も含んでおり、過大な請求といわざるを得ない。
原告は、汚水を含んだ漆喰の下で生活することは原告にとって耐え難い等というが、かかる主観的な事情をもって損害の範囲を決するのは相当でない。
また、原告は、少なくとも702万円(税込)は損害として認められるべきとして、三井不動産リフォーム株式会社作成の見積書を提出する。
しかし、同見積書は、本件事故から1年半以上が経過した平成27年5月31日に作成されたものであり、十分な現地調査を経たものとはいえない上、天井の下地となる石膏ボードはある程度含水したことが予想され、今後の耐久性も含め、漏水前と比べると劣っている可能性が高いとか、今回の漏水によりフローリングも腐食が起こっていると想定されるとか、可能性を指摘するにとどまっており、補修費用の根拠としてにわかに採用しがたい
そうすると、上記認定にかかる範囲の補修費用のみが本件事故と相当因果関係にあるといえる。
よって、デーエム作成にかかる見積書記載のとおり、補修費用(カーペット張替費用含む。)は117万4677円と認められる。
デーエムは三井住友海上の依頼を受けて損害調査をしているため、保険金の支出を減らす方向で査定しているとの指摘も原告からなされているが、損害範囲の認定や、工事の単価等に不合理な点は見受けられず、また、原告から全室に損害が及んでいる旨の主張を受けて再訪問までした上で当初の査定金額を維持しているのであり、相応に慎重な調査をしたものといえるから、原告の指摘は上記認定を左右するものではない。
その他、原告は転居費用も請求するが、上記認定にかかる補修工事の範囲や内容、原告宅の広さ等に鑑みて、工事期間中の仮住まいが必要とまでは認められず、上記費用は認められない。

漏水事故に限りませんが、このような事案の特徴として、責任論のみならず、損害論の難しさが挙げられます。

裁判所はかなり限定的・謙抑的に損害を認定する傾向にありますので注意が必要です。

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漏水事故15 建物内の漏水について管理組合が応急措置義務を負っていたとはいえないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、建物内の漏水について管理組合が応急措置義務を負っていたとはいえないとされた事案(東京地判令和3年11月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者である控訴人が、令和元年11月頃に生じた本件建物内の漏水について本件マンション管理組合である被控訴人に報告したにもかかわらず、被控訴人が本件マンション管理組合規約に基づく被害拡大防止のための応急措置義務を怠ったため、本件建物の売却が困難になり、精神的苦痛を被ったと主張して、被控訴人に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、売却が遅延した期間の住宅維持経費、同期間に生ずる利息金、慰謝料等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 確かに、本件マンション管理組合規約によれば、被控訴人(管理組合)は、本件マンションの敷地及び共用部分等の管理を、その責任と負担において行い、その管理する部分の修繕を行うとされており、これらの規定に照らせば、被控訴人は、共用部分等の管理を怠ったために漏水事故が生じた場合には、被控訴人の負担において修繕をすべき義務を負い、当該漏水によって区分所有者らに損害を与えたときは、その損害を賠償する義務を負うものと解される。
しかしながら、控訴人が主張するのは、一般的な修繕の義務ではなく、速やかに応急措置を行うべき義務である。
そして、上記規約には、被控訴人が管理する共用部分等において漏水事故が生じた場合に、これに対する応急措置を行って、被害の拡大を防止すべきことを定める規定は存在しない
そうすると、現に漏水が継続しており、応急措置を採らなければ被害の拡大が避けられない等の特段の事情がある場合には格別、そうでない限りは、上記管理規約に明記された修繕義務を超えて、被控訴人において速やかに応急措置を行う義務を負っているとまでは認め難い。
そして、本件漏水の現地確認が行われた令和元年12月9日の時点では、本件建物の天井に漏水の痕が認められるにとどまっていたこと、控訴人が被控訴人に対して本件漏水を報告した令和元年12月1日以降、令和2年7月17日までの間に、本件建物内において新たに漏水が発見されることはなかったことに照らせば、本件漏水について、被控訴人が、控訴人に対し、上記規約に明記された修繕義務を超えて、速やかに応急措置を行うべき義務を負っていたとまでは認められない
なお、被控訴人は、本件漏水について、その原因調査を行った上で、補修工事の実施について総会決議等を経て、令和2年6月17日に補修工事を完了させており、本件マンション管理組合規約に明記された修繕義務は履行したものと認められる。
以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、速やかに本件漏水に対する応急措置を行い、被害の拡大を防ぐ義務を負っていたとは認められない

管理組合としては、規約で定められている修繕義務は履行していることから、それ以上の義務(速やかに応急措置を行う義務)は負わないと判断されています。

裁判所が規約の内容を重視していることがよくわかりますね。

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漏水事故14 漏水事故について管理会社らの工事の遅延・瑕疵を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故について管理会社らの工事の遅延・瑕疵を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成30年4月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告管理組合及び本件スタジオを賃借している原告アイサイトが、原告管理組合との間で本件マンションの管理委託契約を締結していた被告ホームライフ及び原告アイサイトから本件スタジオの工事を請け負った被告トライに対し、被告トライが原告管理組合から別途請け負った本件マンションの1階メーター点検口に関する工事の遅延及び瑕疵により、本件マンション内に雨水等が漏水する事故が発生し、ゴキブリ、チャタテムシ等が多数発生し、本件スタジオの床・壁が腐敗したと主張して、
①原告アイサイトが、被告らに対し、不法行為による損害の賠償として、連帯して、本件スタジオの修繕費用等5062万9227円+遅延損害金の支払、
②原告管理組合が、被告らに対し、原告アイサイトに生じた損害を原告管理組合が立て替えて支払ったことによる求償金として、連帯して、1038万3122円+遅延損害金の支払、
③原告管理組合が、被告ホームライフに対し、本件管理委託契約の建物設備外観目視点検業務の不履行に基づく損害賠償として88万4940円+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件漏水事故は、本件点検口からの漏水、本件点検口の下の地中の本件マンションの外壁の貫通部分からの漏水及び洗面立ち上がり配管及び既存配管のジョイント部分の漏水及び隔壁の不存在が複合的に関与して発生したものであり、本件点検口の下の地中の本件マンションの外壁の貫通部分には、取れて抜けるのではないかと思われるほどの隙間が存在し、配管(躯体貫通部・CD管)からの流入により雨天時には常に漏水していたことが窺えるものの、本件点検口の下の地中の本件マンションの外壁の貫通部分の漏水又は③洗面立ち上がり配管及び既存配管のジョイント部分の漏水だけが本件漏水事故の原因ではないというべきである。

2 外壁・外観の目視点検をする義務とは、文字通り、外壁・外観の目視点検義務であって、建物設備外観に異常がないかを点検する義務であって、建物設備外観に異常がない限り、本件点検口の扉を開けて調べることは含まれていないというべきであり、ましてやパイプスペースの隔壁の有無を目視点検する義務はない
そして、本件点検口の扉の脱落が本件点検口の枠、扉吊し元の腐食によるものであることに照らすと、本件点検口に関する外壁・外観目視点検義務を履行しても、同腐食を見つけるのは困難であるし、扉が本件点検口の枠から取れていたとしても枠内に入っていた状態であれば、雨水が吹き込むとしてもその量は本件点検口が開いていた時とは比較にならないほど少ないものと思われる。
また、原告らが主張する本件漏水事故により生じた損害は、被告トライによる本件改装工事ないしは本件点検口工事の瑕疵による損害であって、それ以前に本件点検口の既存の扉が脱落し得る状態になっていたことは本件の損害と因果関係がない。

上記判例のポイント1のとおり、漏水事故の原因は、本件工事実施以前から存在するいくつかの要因が複合的に関与して発生したものであると認定された結果、管理会社等の責任が否定されました。

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漏水事故13 上階の部屋の所有者が浴室ドア下部の防水用コーキング部分の補修を怠ったことによる漏水につき、慰謝料3万円が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上階の部屋の所有者が浴室ドア下部の防水用コーキング部分の補修を怠ったことによる漏水につき、慰謝料3万円が認められた事案(東京地判平成31年2月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション内の一室に居住する控訴人が、上階の部屋の所有者である被控訴人に対し、被控訴人が同部屋の浴室ドア下部の防水用コーキング部分の補修を怠り、そこに生じていた穴ないし隙間(以下「穴」という。)を放置したため、控訴人の居室内に漏水が発生し、控訴人は精神的苦痛等の損害を被ったなどとして、不法行為に基づき、慰謝料及び弁護士費用等の合計22万3135円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は、漏水の原因となったコーキング部分の穴を控訴人が放置していたことと漏水事故との間の因果関係が認められないなどとして、控訴人の請求を棄却したところ、これを不服とする控訴人が控訴をした。

【裁判所の判断】

被控訴人は、控訴人に対し、3万3000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件水漏れ事故の原因等は、浴室床面に溜まった水が、507号室の浴室ドア下部の上がり框のコーキング部分の穴から浴室床下に侵入し、コンクリートクラックを通って407号室の浴室に到達したというものであるから、そのような穴があいていなければ、本件水漏れ事故は発生しなかったといえる。
したがって、被控訴人の過失と本件水漏れ事故との間の因果関係が認められる。
被控訴人は、本件水漏れ事故が、507号室の賃借人が浴室排水口を詰まらせたという浴室の不適切な利用によって生じたことを理由に、被控訴人に責任がない旨主張し、因果関係を否認している。
しかしながら、浴室は、外部への水の浸出を防ぐ機能が備わっているのが当然であること、コーキング部分の穴がなければ、同部分からの漏水は生じなかったことなどに照らせば、賃借人の清掃不徹底をもって被控訴人の過失と本件水漏れ事故との間の因果関係が否定されるものではない

2 本件で控訴人が被った損害は、慰謝料3万円及び弁護士費用3000円と認めるのが相当である(控訴人の主張する入浴施設利用料は、居宅の浴室が物理的に使用不能となったものではなく、慰謝料算定の基礎として考慮したものであるから、これと別個の損害として認めることはできない。)。

本件訴訟では、慰謝料部分についてのみ請求をしています。

弁護士費用との関係では評価が難しいところです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故12 専有部分の修理工事につき事務管理の成立が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の修理工事につき事務管理の成立が否定された事案(東京地判平成31年3月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告Y2所有の本件建物の修理工事を行ったことについて、①被告Y2に対し、事務管理に基づく費用償還請求権に基づき、又は、夫婦共同義務なるもの(原告の妻である被告Y2が原告居住建物を快適な状態に保つ法律上の義務)に基づき、原告が支出した本件工事代金97万7022円の支払と②本件工事代金の支払を拒むのは違法であるとして不法行為に基づき損害賠償金50万円の支払と③上記①及び②の合計である147万7022円+遅延損害金の支払を求め、被告管理組合に対し、本件工事は、本件マンションの共有部分に瑕疵があり、本件マンション管理組合である被告管理組合が依頼した大規模修繕工事を契機として浸水が発生するなどした結果として、これを行うことを余儀なくされたなどと主張した上、これについて、被告管理組合は、本件建物の所有者である被告Y2に対し、①被告管理組合が上記大規模修繕工事の工事業者に対し原状回復を行わせないのであるから、不法行為責任を負う、あるいは、上記大規模修繕工事の工事業者の行為について使用者責任を負う、②上記原状回復義務違反によって、本件マンションの管理規約の債務不履行責任を負うなどとして、被告Y2に代位して、被告Y2の被告管理組合に対する不法行為又は債務不履行責任の損害賠償請求権に基づき、147万7022円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告Y2は、原告に対し、平成29年11月24日付けの本件通知により、原告が本件建物について工事を行うこと(本件工事)を発注しないことを求めていることは明らかであるから、本件工事の実施は、本人たる被告Y2の意思に反するものであることは明らかである。
そして、本人の意思に反することが明らかでないことは、事務管理の存続要件である(民法700条ただし書)のみならず、その成立要件と解すべきであるから、本人の意思に反することが明らかである場合には、事務管理がそもそも認められないものと解すべきである。
このため、原告が行った本件工事について事務管理は成立しない。

2 原告は、本件建物は日々朽ち果てており、一日も早く修補しないと建物の財産価値は極度に下がってしまうにもかかわらず、本件通知をもって、事務管理に基づく支払を拒絶することに合理性はなく、原告に対する嫌がらせでしかないなどと主張するが、本件建物の所有者が被告Y2である以上、その財産をどのように処分するかは被告Y2の自由(しかも、原告が発注しようとしている工事の内容や費用も被告Y2に知らされていない。)であって、被告Y2の意思として工事の実施は不要であるとする本件通知を行うことが不当なものということはできない
これに加え、被告Y2が本件建物から出る形で原告と別居していたという状況の下では、原告による本件工事は、被告Y2の利益のみならず、原告自身が本件建物での居住を継続するために実施されたといいうること、原告は上記別居後本件口頭弁論終結時まで単独で本件建物に居住し続けていること、また、この間、原告と被告Y2との間に本件建物に係る使用貸借契約等の明確な契約関係がなく、単独で独立した占有権原なく本件建物に居住して占有し続けているともいいうること(なお、被告Y2と原告間の離婚成立時又はその後に財産分与により最終的な本件建物の帰属についての変更可能性があることも否定できず、事務管理に基づく費用の負担は流動的なものともいえる。)などをも併せ考えると、原告は、本件通知により本件工事の実施を拒絶し、原告による事務管理を否定することが信義則に反するものと認めることはできない
したがって、原告の事務管理に係る主張は理由がない。

この事案を通じて、事務管理の要件を確認しておきましょう。

第697条(事務管理)
① 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
② 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

【要件】
・法律上の義務がないこと
・他人のためにする意思を有すること
・他人の事務を管理すること
本人の意思や利益に反することが明らかでないこと

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故11 漏水事故について上階の一室を所有する被告の管理上の過失が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故について上階の一室を所有する被告の管理上の過失が認められなかった事案(東京地判令和元年12月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が所有し、鍼治療院に賃貸しているマンションの一室において発生した漏水事故は、同室の上階の一室を所有する被告の管理上の過失によるものであると主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、修繕工事費等の損害合計409万3969円遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件漏水事故の当時、被告は501号室に居住しておらず、水を使用していなかったと認められる上、平成29年10月2日の時点で本件給水管が切断されたことにより、以後501号室への給水が完全に止められたと認められる。
それにもかかわらず、その後も406号室への漏水は続いていたことが認められる一方、本件ビルにおいては雨漏りが多発しており、4階でも複数の部屋において雨漏り被害が発生している
そうすると、本件漏水事故の原因は、本件ビル自体の雨漏りによるものである可能性を否定することができず、むしろその蓋然性が高いというべきであり、本件給水管の劣化によるものとは認められない。

2 原告は、本件漏水事故は雨漏りによるものではないと主張し、その根拠として、平成29年9月にはさほど大きな雨が降っていないことや本件治療院から雨漏りによる水漏れ量の増減はないと言われていたことを挙げるが、平成29年9月20日の前後には一日50ミリメートル程度の雨が降っており、本件治療院からの報告内容を示す証拠は存在しないから、原告の主張を採用することはできない。
なお、原告は本件漏水事故後の大きな台風の時に漏水が発生していなかったとも主張するが、この主張によって本件漏水事故の原因が本件給水管の劣化によるものであることを積極的に根拠づけられることにはならないから、失当である。

漏水事故について責任を追及された場合に、被告としていかなる視点で反論すべきかというのは、まさに弁護士の腕の見せ所です。

裁判例を研究していくと、原告の立証が不十分であるという心証を裁判官に抱かせるための方法論がいろいろと見えてくると思います。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。