Category Archives: 漏水事故

漏水事故10 給湯器に接続された給湯管・給水管からの漏水事故につき、管理組合の修繕義務が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、給湯器に接続された給湯管・給水管からの漏水事故につき、管理組合の修繕義務が否定された事案(東京地判平成30年9月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションに属する本件建物の区分所有者である原告が本件建物の本件バルコニー内に設置されている給湯器に接続された給湯管・給水管からの漏水事故に関し、その漏水箇所が当該給湯管・給水管のうち共用部分に埋設されている部分にあり、その部分は共用部分に属するから、本件規約により、本件マンションの管理組合である被告がこれを修繕すべき義務があったのにこれを行わなかったと主張して、被告に対し、不当利得返還請求権(民法704条)、債務不履行又は工作物責任に基づき、(原告が支出した修理代金相当額)19万3320円+遅延損害金の支払を、また、(原告において修繕工事を完了するまで、本件建物の給湯器を使用できなかった結果)自宅の風呂を使えなかったため原告及び同居するその長男において80日間にわたり公衆浴場を利用せざるを得なかったと主張して、被告に対し、債務不履行又は工作物責任に基づき、(原告が支出した入浴料相当額)6万8800円+遅延損害金の支払を求めるほか、本件規約に基づき、本件バルコニーに設けられている給湯器据え付け用の基礎コンクリート部分のクラックの修繕を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件立上り部分が共用部分であることについては当事者間に争いがない。
本件架台部分は、本件バルコニーの躯体部分の建築後に、給湯器を据え付けるために本件バルコニー内に設けられたコンクリート製の架台であると認められる。そして、その構造や設置目的に照らせば、本件架台部分は、(本件建物の区分所有者の)専有部分に当たるか、少なくとも、(本件規約11条により,当該区分所有者の専用使用部分に当たるとされている)本件バルコニーに付随する専用使用部分に当たると認めるのが相当である。

2 本管から分枝した給水管の枝管及び給湯管は、本件建物の床上配管(床下スラブの上)を通っているところ、本件建物から点検・修理が可能であり、かつ、本件建物の用にのみ供される設備であるから、専有部分に当たるというべきである。
そして、本件架台部分は、専有部分か、少なくとも専用使用部分に当たるから、そこに埋設された本件架台部枝管も、当然に、専有部分に当たるというべきである。
これに対して、本件立上り部枝管は、共用部分である本件立上り部分に埋設されているので、その性格が共用部分に変化するか否かが問題となる。
しかし、本件立上り部枝管の距離(すなわち、本件立上り部分に埋設された部分の距離)は短く、隣接する専有部分からこれを点検・修理することが不可能であるとはいえないから、本件立上り部枝管も、専有部分という性格を失うものではないと解するのが相当である。

3 以上のとおり、本件架台部分並びに本件立上り部枝管及び本件架台部枝管は、いずれも専有部分(又は専有使用部分)に当たるから、本件規約16条又は17条により、本件建物の区分所有者が自己の責任と負担において管理すべきものである。
したがって、本件架台部分のクラック並びに本件立上り部枝管又は本件架台部枝管からの漏水については本件建物の区分所有者である原告が修繕義務を負うというべきである。

専有部分にあたるか共用部分にあたるかという争いは、少なくありません。

非常にテクニカルな争点なので、弁護士に相談することをおすすめします。

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漏水事故9 漏水事故につき、事故前から予定されていた耐震補強工事の補償金受領を理由に原告主張の損害が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき、事故前から予定されていた耐震補強工事の補償金受領を理由に原告主張の損害が否定された事案(東京地判平成30年11月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、自己の所有する部屋の階上の部屋における漏水事故によって、原告の所有権が侵害され、損害を被ったと主張して、階上の部屋の所有者である被告に対し、不法行為に基づき、内装工事費用88万9506円、事務所移転費用63万7110円及び弁護士費用15万2661円の損害賠償金合計167万9277円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件事故によって、605号室の造作等が浸水し、毀損され、605号室の資産価値が低下するなどの損害が生じたとし、その実情として、原告が事務所として使用していた605号室の用途に支障が生じるなど、原状回復工事を要する程度のものであったと主張する。
そして、本件事故後に、漏水対応工事代を88万9506円、移転費用を63万7110円とする見積書等が作成されている。
しかしながら、605号室については、本件事故当時(平成27年6月26日)、平成27年8月から605号室耐震補強工事の実施が予定され、これに伴い、原告が事務所を仮移転することも予定されていた。
そして、605号室耐震補強工事は、同年8月22日から同年10月28日まで実施され、605号室の事務所は、同年7月25日頃から同年10月29日頃まで、605号室から別室に仮移転し、原告は、移転補償費用を受領した。
また、原告は、605号室耐震補強工事の実施前に、605号室の内装工事を実施せず、605号室耐震補強工事等が実施されたことにより、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円を支出する予定も必要もなくなった。そして、原告が、605号室耐震補強工事の実施につき、何らかの支出をしたことを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり、本件事故前から、本件事故の約2か月後に605号室耐震補強工事の実施が予定されており、605号室は、605号室の耐震補強工事を受ける必要がある状態であったといえ、かつ、原告は、それに伴い、事務所として使用していた605号室を移転する必要がある状態であったといえる。

2 また、原告は、自ら605号室の内装工事をすることなく、605号室耐震補強工事が実施され、それに伴い、605号室から事務所を仮移転させたが、その移転補償費用を受領し、605号室耐震補強工事等が実施されたことによって、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円を支出する予定も必要もなくなった
よって、605号室が、本件事故当時、605号室の耐震補強工事を受ける必要がある状態であったこと、原告は、本件事故当時、約2か月後に予定されていた605号室耐震補強工事の実施を受け、それに伴い、移転補償を受けて、605号室の事務所を仮移転させることを選択できたこと、原告は、実際にそれを選択したことからすれば、本件事故による損害賠償を求める原告においては、本件事故当時、社会通念上、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円の支出を回避する措置を執るべきことが合理的な行為として期待されるというべきであって、原告において回避させることができた損害について賠償の対象とすることは相当ではないというべきである
そして、原告が、実際に、原告主張の上記費用の支出を回避できていることに照らせば、本件事故によって、原告主張の上記費用に係る損害が生じたということはできない。

被告側の調査・立証が奏功した事案です。

入念に調査することにより、結論は大きく変わります。

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漏水事故8 清算条項を含む承諾書に基づき保険会社から漏水事故の賠償を受けたことを理由とする追加の損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、清算条項を含む承諾書に基づき保険会社から漏水事故の賠償を受けたことを理由とする追加の損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和元年7月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物403号室を所有していた原告が、同建物の真上の階に所在する建物(本件建物503号室)からの漏水事故により、漏水が本件建物403号室に達し、建物修繕費用及び汚損した絨毯に係る財産的損害を被った旨主張して、本件建物503号室を所有していた亡Aから同建物を使用していた同人の子である被告に対し、被告は亡Aの建物所有者としての損害賠償責任(民法717条1項ただし書)を相続しており、また、被告自身も建物占有者としての損害賠償責任(同項本文)を負う旨主張して、損害賠償金合計920万円(建物修繕費用1049万2582円のうち800万円及び汚損した絨毯につき120万円)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件承諾書は、その記載から一見して、本件事故によって原告に生じた損害について、同承諾書記載の金額が原告に支払われることをもってその他の債権債務がないことを確認し、同金額を超える損害賠償責任を免責する内容の書面であることが明らかであり、同承諾書の当事者欄に亡Aの記名があることから、同承諾書が亡Aに宛てたものであることも明らかである。したがって、原告は、本件承諾書に署名押印したことにより、亡Aに対し、同承諾書に記載された上記内容のとおり意思表示をしたものと認められ、これにより、亡Aとの間で、上記内容のとおり合意が成立したものと認められる。
したがって、原告が、三井住友海上から、本件承諾書記載の金額である合計467万3560円の支払を受けたことにより、亡Aは、本件事故による損害賠償について、同金額を超える責任を免れたものと認められるか、原告は、亡Aに対し、更に本件事故によって生じた損害の賠償を求めることはできない。
以上によれば、亡Aに対する損害賠償請求権を被告が相続したことを前提とする原告の請求は、前提において理由がない。

2 本件排水管は、本件建物503号室の台所流し台床下に埋設されており、流し台自体を撤去しなければ視認したり接触したりすることができない位置に設置されていたことが認められる。しかるところ、本件建物503号室の使用借主にすぎない被告において、上記流し台を撤去して本件排水管が破損しているか否かを直接視認するなどして確認したり、破損箇所の修補を行うことは期待できず、また、そのような権限も有していなかったと認められるから、被告が、上記確認ないし修補等を行って本件排水管を維持すべき注意義務を負っていたということはできない。
また、本件事故当時、本件建物503号室に居住していた被告において、本件排水管の破損を予見し得るだけの兆候その他の事実を認識していたことは証拠上うかがわれず、被告が、本件排水管の破損の危険性を亡Aに事前に連絡するなどして本件事故を未然に防止すべき注意義務を負っていたということもできない
さらに、本件事故当時、被告が、本件排水管に過度の負担がかかるような態様で本件排水管を使用していたことや、本件排水管の定期的な清掃その他のメンテナンスに非協力的であったことをうかがわせる事情は証拠上見当たらない。

本件は、本人訴訟で、原告としては納得のできない事情があったのだと思いますが、清算条項が入っていますので、追加の請求は難しいです。

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漏水事故7 漏水事故につき被告の過失が認定されたが原告主張の損害との因果関係が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき被告の過失が認定されたが原告主張の損害との因果関係が否定された事案(東京地判令和2年3月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物1階で保育園を運営する原告が、同建物2階で家庭支援センターを運営する被告において、漏水事故が発生する可能性がある施設を適切に管理するという注意義務を怠るとともに、同センター内の設備の保存に瑕疵があったため、同センターにおいて漏水事故を発生させ、階下の同保育園に浸水被害を生じさせたと主張して、民法709条の規定又は717条1項本文の規定に基づき、被告に対し、損害金1億4530万8560円(修繕除菌費用5953万5000円、仮園舎の建築解体費用7236万円、仮園舎との間の引越費用10万円、人件費10万3691円及び弁護士費用1320万9869円の合計額)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件漏水事故の原因は、シャワー開閉ボタンの押下によって本件シャワーから出水したことにあると認められ、被告においては、物品がシャワー開閉ボタンを押下して本件シャワーから出水しないよう、同物品の配置に配慮するなどすべき注意義務を怠った過失があると認められる。

2 原告は、客観的には幼児を含めた人の健康被害が生ずる具体的な危険性が認められない状況の下、実際にも、原告使用部分において原告保育園の運営を継続していた平成28年12月までの間に園児に健康被害が多発したなどの事情がなく、本件各工事に先立ち原告使用部分の検査を実施することもしなかったのに、総額1億3000万円超を要する本件各工事の実施を決断しているのである。
このような事情からすると、本件各工事を実施するという原告の判断は、それが原告にとって、乳幼児の健康を対象にした万が一の事態等に備えたものであったとしても、原告独自の判断であるといわざるを得ず、その判断により生じた費用を被告に負担させることが相当であるという意味で本件各工事の必要性があったとは認められない。

3 本件各工事の施工が原告独自の判断と評価せざるを得ないものであり、その判断により生じた費用を被告に負担させることが相当であるという意味で本件各工事の必要性があったと認められないことは、前記で説示したとおりであるから、本件各工事の施工に伴い原告保育園の機能を移すために要した人件費も、本件各工事の工事費用と同様に、本件漏水事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない
また、本件漏水事故の発見日に係る人件費についても、本件漏水事故によって原告の従業員に対する給与支払額が現実に増加し、その支払を余儀なくされ、原告に損失が生じたと認めるに足りる的確な証拠がないから、同人件費が本件漏水事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

漏水事故につき、被告の過失が認定されてましたが、原告が主張する損害との間の因果関係がいずれも否定されたため、請求棄却となっています。

相当因果関係の有無については、損害が広がり過ぎないように、謙抑的に解釈される傾向にありますので注意が必要です。

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漏水事故6 漏水事故による原状回復工事完了までの転居費用の算定方法(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故による原状回復工事完了までの転居費用の算定方法(東京地判令和3年4月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が被告に対し、被告の所有するマンションの一室で発生した漏水事故により、原告が使用していた一室が居住不能となって、原状回復工事完了までの間、一時的に別の場所に転居せざるを得なかった上、原状回復工事の際に工事業者が原告所有の冷蔵庫を使用不能にしたとして、不法行為に基づき、一時的な転居により生じた損害126万円、冷蔵庫の購入価格23万8000円の損害賠償金合計149万8000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、34万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当該電気温水器からの漏水は、本件事故発生から20年以上前に設置された当該電気温水器のヒーター部分のパッキン劣化によるものであることからすれば、被告が相当期間にわたり、パッキンの交換や電気温水器の点検を怠っていたことが推認され、本件事故が生じたことにつき、被告に過失があったと認めるのが相当である。

2 原告は、本件事故により、一時的に本件イベントスペースに転居したため、本件イベントスペースを顧客に貸すことができなかったところ、本件イベントスペースを貸し出すことで1日あたりに得られるレンタル料は3万円を下らないとし、一時的な転居による損害が126万円(3万円×42日間)であると主張する。
しかしながら、原告が、本件イベントスペースに転居しなければならない合理的な理由はなく、本件物件の面積が22.05m2であることや、一般に一時的に数日間転居する場合にかかる費用等にかんがみれば、原告が、本件物件から一時的に転居したために生じた損害のうち、本件事故と相当因果関係のある損害は、34万円(1万円×34日間)と認めるのが相当である。

3 原告は、本件工事中に本件工事業者が原告所有の冷蔵庫をへこませて使用不能にしたと主張するが、これを認めるに足りない。

漏水事故に限らず、不法行為事案における損害額の算定は解釈が多分に含まれるため、一定程度の専門性が要求されます。

素人の方がなんとなく交渉すると損をしてしまうので気を付けましょう。

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漏水事故5 漏水及び火災警報器の誤発砲の原因究明及び解決を怠ったことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水及び火災警報器の誤発砲の原因究明及び解決を怠ったことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和3年8月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が被告から建物を賃借している中で、被告が、当該建物に発生した漏水及び火災警報器の誤発報の原因究明及び解決を怠ったことが修繕義務及び使用収益をさせる義務に違反し、また、当該違反を是正せず、不合理な説明に終始し、原因究明を打ち切ったことが、原告の有する継続して居住する利益を侵害する不法行為に該当するとして、転居費用及び慰謝料等合計205万7670円の損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告は、本件誤発報①及び②について、上階からの漏水を疑い、801号室、802号室及び901号室の実地調査を行ったこと、その結果、漏水の原因が判明せず、むしろ801号室の天井にも漏水の痕跡があったことを確認したこと、一方、同じ時期に、1202号室の浴室から漏水が生じたことが判明し、1202号室の漏水を止水したところ、以後、漏水の事象が発生しなくなったことが認められ、被告は、これらの調査結果や状況を踏まえ、本件誤発報①及び②の原因となった漏水の発生源は、1202号室の浴室の漏水であると判断したものといえる。
原告は、このような推論は不合理である旨を主張するが、マンションにおいては、排水管などが階を貫いて設置されており、このような排水管の表面を伝って、漏水が生じることは当然あり得るものといえ、被告の判断が不合理であるとは認められない

2 また、本件誤発報③については、階も全く異なるものであって、誤発報の状況も、発生した部屋の表示が出ないなど異なる事情があることから、被告として、原因が感知器に何かをぶつけたか、消防隊が訪問して異常がなかった301、302、307以外の部屋で、ライターやたばこなどを感知器付近で一時的に使用したことにあると判断したものであって、このような判断も不合理であるとはいえない
さらに、本件誤発報④については、インターホンのメーカーによる調査の結果、基盤に不良があるとの判断で、交換作業が行われたことからすると、本件誤発報④の原因は、本件誤発報①及び②の原因とは異なるものであり、既に修繕がされたものといえる。
以上によれば、被告は、本件誤発報について、その原因を順次調査検討し、必要な修理を行ったものといえ、被告において、修繕義務を怠ったとはいえない
原告として、立て続けに火災報知機の誤発報が生じたことや、直ちに原因が判明せず、判明した原因も直ちに首肯しうるようなものではなかったことから、被告の対応について不満を募らせたことは理解しうるが、そうであるからといって、被告の対応に債務不履行があったとまではいえないことは上記のとおりである。

結果責任を問われるわけではありませんので、判断や対応に合理性が認められれば、管理責任は問われません。

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漏水事故4 屋上部分の瑕疵を原因とする漏水について管理組合法人の工作物責任が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、屋上部分の瑕疵を原因とする漏水について管理組合法人の工作物責任が認められた事案(東京地判令和2年2月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、被告が共用部分を管理しているマンションの最上階の居室を所有している。

本件は、原告が、上記マンションの共用部分である屋上部分の瑕疵のため、上記居室に漏水が生じて損害を被った旨主張し、民法717条1項本文に基づき、被告に対し、口頭弁論終結時までに具体化した損害として461万4034円の賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、380万4512円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンションの最上階にある本件居室に生じた本件漏水は、本件マンションの共用部分である屋上部分の瑕疵によるものと認められる。
被告は、本件漏水が共用部分に起因することを否認するが、他の原因を具体的に主張立証するものではなく、また、被告自身、本件漏水の対策工事として、屋上の笠木部分等にシーリング充てん等を行う本件対策工事を行っているのであり、上記の否認には理由がない。
以上によれば、被告には、本件漏水について、民法717条1項本文に基づく責任があると認められる。

2 原告は、本件賃借人退去後の平成29年11月1日から令和元年12月31日までの26箇月間の賃料相当額が本件漏水と相当因果関係のある損害である旨主張する。
本件賃借人が退去したのは本件漏水が原因であると認められる。
被告は、本件居室の相当賃料額が10万円であることを争うほか、本件居室の稼働率が100%となるものではない旨主張する。
しかし、本件賃借人は、平成19年9月に本件賃貸借契約を締結してから10年間にわたり本件居室に居住していたものであり、本件漏水以外に、あえて本件賃貸借契約の解約を図る事情があったことはうかがわれない
そうすると、少なくとも令和元年12月31日までは、本件賃貸借契約は維持され、本件賃借人は本件居室に居住し続けていたと認めるのが相当である。
また、仮に本件賃貸借契約が継続していたとして、同日までに、本件賃借人が賃料の減額を求めたことをうかがわせる事情も認められない。

3 原告は、本件に関する立会のため有給休暇を11日使用したとして、11日分の収入額を本件漏水による損害として主張する。
確かに、原告は、本件漏水のため、本件賃借人から損害賠償を求められ、調停の申立てもされるなどして、一定の対応を要したことは認められる。
しかし、自らが有給休暇を取得して対応しなければならなかった具体的必要性ないし原告の対応の具体的内容を認めるだけの証拠はない
また、本件漏水に係る損害として、一定の弁護士費用を認めることをも考慮すれば、原告の休業損害を本件漏水と相当因果関係のある損害と認めることはできないというべきであり、原告の上記主張は採用することができない。

漏水事故が発生した場合の損害(特に消極損害)をどのように認定するかについては、同種事案の裁判例が参考になります。

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漏水事故3 区分所有建物買受後に発生した雨漏りを理由とする売主への修理代金相当額の一部請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有建物買受後に発生した雨漏りを理由とする売主への修理代金相当額の一部請求が棄却された事案(東京地判令和2年6月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告から、1階から3階までの区分所有建物を買い受け、その後に同建物を賃借りしたと主張する原告が、同建物3階の天井から発生している雨漏りについて、買受人又は賃借人の権利に基づいて、その修理代金相当額の一部である300万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、雨漏りについては、その修繕をして売ることが法的に決まっているから、本件雨漏りを防止するために本件建物3階の天井を修繕することが、売主である被告の義務であり、責任であると主張する。
しかし、雨漏りのある建物についての売買契約の締結に際し、当該雨漏りの防止の修繕工事を売主において施工すべき義務、責任を負うかは、基本的には売買契約の内容の如何によるのであり、当然に売主が同義務等を負うものではない
そして、原告と被告は、平成27年6月28日、原告が被告から、本件建物を、代金5650万円で買い受ける旨の本件売買契約を締結したが、本件建物は、昭和49年に新築され、相当の築年数を経た中古の区分所有建物で、平成27年の固定資産税評価額が、敷地権を含め、4億7569万6045円であったから、現状有姿を前提とした売買であったと推認される
そうすると、本件売買契約において、当然に売主として被告が同義務等を負うとはいえず、同義務等を負うべき黙示の合意が存在したと認めるに足りる事情もない

2 また、仮に本件売買契約の締結当時に本件雨漏りが存在し、その事実を原告が知らなかったとしても、本件売買契約が不動産取引を業として取り扱う商人(会社)間の取引であること、本件建物の固定資産税評価額が4億7569万6045円であるのに対し、本件売買契約の代金額が5650万円であることからすると、本件雨漏りの存在をもって、一般的な取引観念に照らし、本件建物が契約当事者である原告と被告の間で予定されていた品質、性能を欠く場合に当たると直ちに認めることはできないし、買主である原告が過失なくその事実を知らなかったとも認められない。ましてや、被告が原告を騙したと認めることはできない。

売買契約後に発生した雨漏りについては、契約不適合責任の追及という形で問題となることが多いですが、今回の事案ではやや異質な争い方をしています。

上記判例のポイント1のとおり、本件売買契約では、「現状有姿」での引渡しであることが明示されていないかったようです。そのため、売買代金等から解釈を余儀なくされているわけです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故2 マンションの特定の専有部分からの汚水が流れる排水管の枝管が共用部分に当たるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの特定の専有部分からの汚水が流れる排水管の枝管が共用部分に当たるとされた事案(最判平成12年3月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告及び被告らが居住する東豊エステートについて、原告が区分所有する707号室と被告鳥羽が区分所有し、同中村とともに居住する607号室は上下階の関係にあるところ、607号室の天井から水漏れ事故が発生し、607号室の天井裏を通っている排水管が原因しているとして、原告が被告らに対し、右排水管が本件建物の区分所有者全員の共用部分であることの確認を求めるとともに、被告鳥羽及び同中村に対し、水漏れによる損害賠償義務のないことの確認を求め、被告管理組合に対しては、原告が水漏れ費用の立替払いをしたとしてその求償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

原告と被告らとの間で、東豊エステート607号室天井内に設置されている別紙図面赤線部分の排水管は、東豊エステート区分所有者全員の共用部分であることを確認する。

原告は被告中村及び同鳥羽に対して、平成6年12月23日ころ発生した別紙図面の赤線部分の排水管に起因する水漏れによる損害賠償金21万6516円の支払い債務のないことを確認する。

被告管理組合は原告に対し、金12万7200円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件建物の707号室の台所、洗面所、風呂、便所から出る汚水については、同室の床下にあるいわゆる躯体部分であるコンクリートスラブを貫通してその階下にある607号室の天井裏に配された枝管を通じて、共用部分である本管(縦管)に流される構造となっているところ、本件排水管は、右枝管のうち、右コンクリートスラブと607号室の天井板との間の空間に配された部分である。
本件排水管には、本管に合流する直前で708号室の便所から出る汚水を流す枝管が接続されており、707号室及び708号室以外の部屋からの汚水は流れ込んでいない。
本件排水管は、右コンクリートスラブの下にあるため、707号室及び708号室から本件排水管の点検、修理を行うことは不可能であり、607号室からその天井板の裏に入ってこれを実施するほか方法はない。
本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし、区分所有法2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分に当たると解するのが相当である。

2 (原審:東京高判平成9年5月15日)本件排水管は、特定の区分所有者の専用に供されているのであるが、その所在する場所からみて当該区分所有者の支配管理下にはなく、また、建物全体の排水との関連からみると、排水本管との一体的な管理が必要であるから、これを当該専有部分の区分所有者の専有に属する物として、これをその者の責任で維持管理をさせるのは相当ではない。また、これが存在する空間の属する専有部分の所有者は、これを利用するものではないから、当該所有者の専有に属させる根拠もない。
結局、排水管の枝管であって現に特定の区分所有者の専用に供されているものでも、それがその者の専有部分内にないものは、共用部分として、建物全体の排水施設の維持管理、機能の保全という観点から、法の定める規制に従わせることが相当であると判断される。
よって、本件排水管は、専有部分に属しない建物の付属物として、共用部分であるというべきである。

今や実務上確定している考え方ですので、しっかりと押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故1 漏水事故につき管理組合の管理義務違反を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき管理組合の管理義務違反を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京高判令和3年9月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの専有部分の区分所有者である一審原告が、本件マンションにおける区分所有法3条の団体(管理組合)である一審被告に対し、本件建物において発生した天井からの2回に及ぶ漏水事故は、一審被告が本件マンションの管理規約に基づき一審原告に対して負っている共用部分の管理義務の履行を怠ったために発生したものであるとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、本件建物の修繕費用として390万円の、漏水事故によって一審原告が本件建物を賃貸できなかったことによる逸失利益として平成23年1月1日から判決確定まで1か月当たり14万1500円の割合による損害金の各賠償を求める事案である。

原審は、一審原告の請求のうち、本件建物の修繕費用390万円全額と、賃料の逸失利益466万9500円(月額14万1500円の33か月分)との合計856万9500円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を認容し、その余を棄却したところ、一審原告及び一審被告がそれぞれの敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

一審被告の控訴に基づき、原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。

前項の部分について、一審原告の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件マンションの規模や現況、管理組合の財政状態等の状況に照らせば、仮に、一審原告が主張するように、管理組合である一審被告が個別の区分所有者に対して本件マンションの建物等の維持管理をする債務を負うと解したとしても、その債務の内容は、建物等に瑕疵が一切存在しない状態を常時維持するというようなものではあり得ず、その時々の管理費等の積立額、区分所有者らの意向、当該瑕疵による損害発生の切迫度等の諸事情を総合的に考慮して、一審被告ないしはその管理者の合理的な裁量によって、修繕工事の内容や時期を決定し、数年あるいはそれ以上に長期の年月をかけて、順次これを実施していくというものにならざるを得ないのは当然であり、特に、区分所有者の中に一審原告のように管理費等を滞納する者がいる場合や、大規模な修繕工事のために近い将来における多額の費用の支出が見込まれる場合などには、なおさらである。
そうすると、一審原告が、一審被告に対し、一審被告において本件分電盤の修繕や汚水桝の清掃をしなかったことが一審原告に対する債務不履行に当たるとして、その責任を追及するためには、一審原告において、一審被告には善良な管理者の注意をもって建物等の共用部分の維持管理をする義務があるというような抽象的な主張をするだけでは足りないのであって、一審被告が本件各漏水事故が発生する前のそれぞれの時期において本件分電盤を修繕し、汚水桝を清掃すべきことが善管注意義務に基づく建物等の管理業務の具体的な内容となっていたことを基礎付ける事由を、主張立証する責任があるというべきである。
しかし、一審原告は、そのような事由を主張立証していない。

2 結局、一審原告は、偶々本件各漏水事故が本件分電盤の故障と汚水桝の目詰まりを原因として発生したという結果から遡って、いわば後知恵として、第一漏水事故が発生する前に本件分電盤を修繕し、第二漏水事故が発生する前に汚水桝を清掃しておくべき義務が一審被告(管理者)にはあったと主張しているにすぎないのであって、上記の主張立証責任を果たしていないというべきである。
このように、抽象的に管理組合が区分所有者に対して善管注意義務をもって建物等を管理する債務を負うとしてみたところで、当時の具体的状況の下での義務の内容は不特定のままであって、本件各漏水事故が発生した当時において、その債務の具体的な内容に他の業務に優先して本件分電盤の修理や汚水桝の清掃をすべき義務が含まれていたことの主張立証がされていないことになるから、一審被告(管理者)においてそれらの管理業務を行わなかったことをもって債務不履行に当たるということはできず、一審原告の主張は、失当というほかない。

原審(東京地判平成31年4月23日)判決とは180度異なる判断をしています。

漏水事故発生時の対応については、上記判例のポイント1の考え方をしっかりと理解しておく必要があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。