Category Archives: 労働時間

労働時間92 位置情報を把握できる勤怠管理システムの導入後、直行直帰の営業職に事業場外みなし労働時間制の適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、位置情報を把握できる勤怠管理システムの導入後、直行直帰の営業職に事業外場みなし労働時間制の適用が否定された事案を見ていきましょう。

セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京高裁令和4年11月16日・労経速2508号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、未払割増賃金等の支払及び未払賞与等の支払及び労働基準法114条に基づく付加金請求等の支払を求め、また、XはY社による違法な行為により精神的苦痛を被ったなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料150万円等の支払を求めた事案である。

現存は、Xの請求をいずれも棄却したところ、Xが請求の確認を求めて控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、労基法38条の2第1項により事業場外労働みなし制の適用を受けるためには、雇用契約書又は就業規則により同項の適用があることを明記しなければならないと主張するが、事業場外労働のみなし制は、労基法の規定に基づく制度であり、雇用契約書又は就業規則に別途定めを置くことは要件とされていない

2 週報は、エクセルの1枚の表に、1週間単位で、当該MRが担当する施設ごとに、業務を行った日付とその内容とを入力するものであり、内容欄のセルには相当の文字数の文章を自由に入力することができるから、Y社は、MRに対し、週ごとに、事後的にではあるが、MRが1日の間に行った業務の営業先と内容とを具体的に報告させ、それらを把握することが可能であったといえる。
また、週報には始業時刻や終業時刻等の記入欄はないものの、Y社は、平成30年12月、従業員の労働時間の把握の方法として本件システムを導入し、MRに対して、貸与しているスマートフォンから、位置情報をONにした状態で、出勤時刻及び退勤時刻を打刻するよう指示した上、月に1回「承認」ボタンを押して記録を確定させ、不適切な打刻事例が見られる場合には注意喚起などをするようになった。そうすると、平成30年12月以降、Y社は、直行直帰を基本的な勤務形態とするMRについても、始業時刻及び終業時刻を把握することが可能となったものといえる。
そして、Y社は、本件システムの導入後も、MRについては一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとして扱っているが、月40時間を超える残業の発生が見込まれる場合には、事前に残業の必要性と必要とされる残業時間とを明らかにして残業の申請をさせ、残業が必要であると認められる場合には、エリアマネージャーからMRに対し、当日の業務に関して具体的な指示を行うとともに、行った業務の内容について具体的な報告をさせていたから、本件システムの導入後は、MRについて、一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとすることなく、始業時刻から終業時刻までの間に行った業務の内容や休憩時間を管理することができるよう、日報の提出を求めたり、週報の様式を改定したりすることが可能であり、仮に、MRが打刻した始業時刻及び終業時刻の正確性やその間の労働実態などに疑問があるときには、貸与したスマートフォンを用いて、業務の遂行状況について、随時、上司に報告させたり上司から確認をしたりすることも可能であったと考えられる。
そうすると、Xの業務は、本件システムの導入前の平成30年11月までは、労働時間を算定し難いときに当たるといえるが、本件システムの導入後の同年12月以降は、労働時間を算定し難いときには当たるとはいえない

この裁判例の理屈でいえば、今の時代、もはや労働時間を算定し難いことなんて想定できないのではないかと思えますがいかがでしょうか。

事業場外みなし労働時間制を導入する際は、必ず事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間91 就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案を見ていきましょう。

日本マクドナルド事件(名古屋地裁令和4年10月26日・労経速2506号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、
①Y社が、XとY社との労働契約が平成31年2月10日付け退職条件通知書兼退職同意書による合意解約により終了したと主張するのに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②主位的に退職の意思表示が無効であることを理由とする労働契約に基づく賃金請求として、予備的に違法な退職強要があったことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、退職日の翌日である令和元年5月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り45万4620円+遅延損害金の支払、
③時間外労働を行ったと主張して、労働契約に基づき平成29年3月13日から平成31年2月12日までの未払割増賃金合計486万0659円の一部である61万0134円+遅延損害金の支払、
④付加金+遅延損害金の支払
⑤(ア)Y社における業務や違法な退職強要等により労作性狭心症及びうつ病を発病したことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求若しくは(イ)上司らによるパワーハラスメント等により人格的利益を侵害されたことを理由とする使用者責任(民715条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の一部である200万円+遅延損害金の支払
を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、61万0134円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金61万0134円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現にXが勤務すしていたQ1店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすとY社が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定していたものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない

2 Y社は、全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は、就業規則に基づくものであると主張する。
しかし、労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(通達)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない
加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(通達)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することはできない。
よって、Y社の定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。

管理監督者性に関する別の日本マクドナルド事件同様、他の従業員への波及効果が大きいですね。

シフト表で事前に出勤日を管理するだけでなく、就業規則上でも特定をする必要があることをしっかりと押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間90 警備現場からの移動時間など勤務実績報告書の提出等に要した時間が労働時間に該当するとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、警備現場からの移動時間など勤務実績報告書の提出等に要した時間が労働時間に該当するとされた事案を見ていきましょう。

テイケイ事件(東京地裁令和4年6月1日・労経速2502号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結したXが、Y社に対し、平成30年10月から平成31年9月までの期間における時間外労働に対する割増賃金及び交通費の不払がある旨主張して、①労働契約及び労基法37条1項に基づき、8万3715円+遅延損害金、②労基法114条に基づき、付加金7万3860円+遅延損害金、③労働契約に基づき、交通費7110円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、6万1179円+遅延損害金を支払え。

2 Y社は、Xに対し、2万8728円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、毎週水曜日に、本件支社に赴き、勤務実績報告書を提出していたほか、制服等を着用し、内勤の従業員による点検を受け、シフト希望表を作成して提出し、賃金支払票の交付を受けていたことが認められるところ、これら本件業務報告等はXの業務に関連する行為であることは明らかである。
そして、本件書面には、警備員には、週に1度、水曜日に会社に来てもらい、勤務希望表及び勤務報告書の提出、給料明細の受取り、制服の点検等を行う旨記載されていること、Xは現場における業務がない日もわざわざ自宅から本件支社に赴いて本件業務報告等を行っていることを踏まえると、本件業務報告等は、Y社の明示又は黙示の指示により行った業務というべきであり、これに要した時間は労働時間に該当するというべきである。

2 Y社は、警備員に対し、勤務実績報告書を本件支社に持参することを義務付けておらず、郵送やファクシミリにより行うことも可能であった旨主張し、郵送での提出が認められたことがあることを示す証拠を提出している。
しかしながら、勤務実績報告書の提出自体は業務命令であることは明らかであるし、警備員の本件業務報告等の対応を行っていたP1課長は、警備員の7割程度は勤務実績報告書を本件支社に持参していたにもかかわらず、持参する警備員に対し、郵送やファクシミリでの対応が可能であることを明確に指示していたとはうかがわれないのであるから、例外が認められる場合はあるにせよ、原則としては本件支社に勤務実績報告書を持参することを求めていたというべきであって、勤務実績報告書の提出に要した時間は、Y社の指示により業務を行った時間というべきである。

理屈からするとこのような結論になることはほとんど争いがないところかと思います。

決して警備員に限った話ではないのでみなさんも気を付けましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間89 事業場外労働のみなし時間制適用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、事業場外労働のみなし時間制適用の可否に関する裁判例を見ていきましょう。

ヨツバ117事件(大阪地裁令和4年7月8日・労判ジャーナル129号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく割増賃金等の支払を求め、また、不当な天引きがあったとして、雇用契約に基づく未払賃金等を求め、さらに労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 事業場外労働のみなし時間制の「労働時間を算定し難いとき」(労基法38条の2第1項)に該当するか否かについて、Y社ではタイムカードの打刻が義務付けられており、Xは、タイムカードが残存する月以外の月についてもタイムカードを打刻していたことがうかがわれ、そして、タイムカードは打刻した時刻を客観的に記録するものであること、Xのタイムカードをみると、一部手書きの時刻もあるものの、おおむね出勤時刻及び退勤時刻が打刻されていることからすれば、Y社とすれば、Xのタイムカードの打刻内容を確認することで、Xの労働時間を把握することが容易に可能であったということができること等から、本件におけるXの業務が、「労働時間を算定し難いとき」に当たると認めることはできない。

労働時間の例外規定については、有効要件が厳しいので、安易に導入するのは非常に危険です。

残業代を減らすための王道は、残業時間を減らすことです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間88 控除された乗継ぎが遅れた2分間分の賃金(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、控除された乗継ぎが遅れた2分間分の賃金に関する裁判例を見ていきましょう。

西日本旅客鉄道事件(岡山地裁令和4年4月19日・労判ジャーナル129号52頁)

【事案の概要】

Xは、旅客鉄道事業等を営むY社との間で雇用契約を締結した運転士であるところ、電車入区作業(回送列車をa電車区に移動させて留置する作業)を行う際、乗継ぎのために待機すべきホームの番線を間違えたために、指定された時刻より2分遅れて乗継ぎ作業を開始し、1分遅れて入区作業を開始・完了した。Y社は、乗継ぎが遅れた2分間は勤務を欠いたものであるとして、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、当該2分間分のXの賃金を控除した(ただし、うち1分間分は後に返還された)。
本件は、Xが、Y社に対し、上記賃金控除は違法であり、不法行為にも該当すると主張して、雇用契約に基づく未払賃金56円及び不法行為に基づく慰謝料200万円と弁護士費用20万円の合計220万0056円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、56円+遅延損害金を支払え。

 Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 賃金請求権の発生根拠は、労働者と使用者との間の合意(労働契約)に求められるところ、労働者が債務の本旨に従った労務の提供をしていない場合であっても、使用者が当該労務の受領を拒絶することなく、これを受領している場合には、使用者の指揮命令に服している時間として、賃金請求権が発生するものと解される(前記前提事実のとおり、Xは、午前7時09分から午前7時11分までの間、全く労務を提供しなかったものではなく、本件は、労務の提供が履行不能となった事案ではない。)。
したがって、Y社が、午前7時09分から午前7時11分までの間の原告の労務を受領したといえるか否かについて検討する。

2 本件につき検討すると、午前7時09分から午前7時11分までの間のXの労務について、Y社による明示の受領拒絶はなされておらず、実際に労務が行われたこと自体に争いはない。
Xは、午前6時48分までに乗務点呼を終えた後、勘違いにより2番線ではなく5番線で待機し、午前7時08分頃、自身が乗り継ぎをするはずの回送列車が2番線に向かっているのを見て当直係長に電話をかけたところ、ホームを間違えていたことに気付いたため、直ちに2番線の〔5〕地点に向かい、午前7時11分に乗継ぎ作業を開始したものである。
そうすると、午前7時09分から午前7時11分の間にXが提供した労務内容は、自身の待機場所の誤りの有無を確認し、その誤りに気付いて、小カード所定の正しい待機場所へ向かい、小カードで指示されていた乗継ぎ作業を開始したものであって、直ちに小カード所定の業務内容に修正すべく行動したものであり、遅滞は生じつつも被告が指定した小カード所定の業務の実現に向けて行われた労務であって、Y社にとっても有益性を有するものといえる。
Y社において、Xのこのような労務の受領を予め拒絶して、急きょ他の乗務員等に午前7時09分以降の小カード所定の作業を行わせ、あるいは同作業の実施を取りやめるなどする意思があったものとは解し難く、小カードにより時刻を指定して業務を指示したことをもって、これに反する上記労務の受領を予め黙示に拒絶していたなどと認めることはできない。
Xは、午前6時33分に出勤点呼を受け、午前6時48分に乗務点呼を受けてから、ホームに出場し、自身の待機場所の誤りを修正して指定された正しい待機場所に向かい、入区作業を行うという小カード所定の業務の遂行に向けた一連の労務を行っている間、Y社の指揮命令に服していたものといえ、Y社において、このような労務のうち一部を切り取って、当該部分の労務を受領していないなどということはできない。
したがって、Y社は、午前7時09分から午前7時11分までの間のXの労務を受領したものと認められ、Y社の上記主張は採用できない

2分間の賃金56円の請求が認められました。

本訴訟対応に要する費用を考えると、費用対効果では到底説明がつきませんね。

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労働時間87 事業場外労働のみなし制の適用の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

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今日は、事業場外労働のみなし制の適用の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

協同組合グローブ事件(熊本地裁令和4年5月17日・労経速2495号9頁)

【事案の概要】

本件は、(1)Y社に勤務していたXが、①Y社に対し、賃金の未払があるなどと主張して、労働契約に基づき、未払賃金82万7948円+遅延損害金の支払等を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、29万6080円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社では、業務後の報告として、訪問先への直行の有無、始業時間、終業時間、休憩時間のほか、行き先、面談者及び内容とともにそれぞれの業務時間を記載したキャリア業務日報を業務時間内に日々作成させ、毎月月末までに所属長に提出することとされていたことが認められる。
そして、Y社が提出を求めていたキャリア業務日報には、単に業務内容を記載するだけでなく、具体的な業務時間を記載することとされており、Y社は、業務の遂行の状況等につき比較的詳細な報告を受けているものというべきである。
使用者であるY社において、全ての行き先や面談者に対して業務状況を逐一確認することは困難であると考えらえるが、Xの事業場外労働では実習実施者や実習生などの第三者と接触する業務がほとんどであり、虚偽の記載をした場合にはそれが発覚する可能性が高く、実際に支所長が審査しており、業務の遂行等に疑問をもった場合、Xのほか、実習実施者や実習生などに確認することも可能であることなどからすると、同業務日報の記載についてある程度の正確性が担保されているものと評価することができる。

2 そして、労働時間の一部につき事業場外みなし制が適用される場合には、事業場外の労働について労働基準法38条の2第1項ただし書の「業務の遂行に通常必要とされる時間」を把握して労働時間を算定する必要がある。しかるに、Y社では、支給明細書上の残業時間の記載のほか、別紙労働時間算定表におけるY社の支払済み手当の残業時間等の計算を併せ見せると、Y社は、労働時間の一部が事業場外労働である場合には、キャリア業務日報に基づいて労働時間を把握した上で残業時間を算定していたことが認められる。そうすると、Y社自身、キャリア業務日報に基づいて具体的な事業場外労働時間を把握していたものと評価せざるを得ない

事業場外みなし労働時間制を採用する場合には、労働時間が算定しがたい場合である必要がありますが、過去の裁判例を参考に、裁判所が当該要件についてどのような事実に着目して判断しているのかをしっかり理解しておく必要があります。

安易に同制度を採用するとやけどしますので、ご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間86 警備員の休憩時間の労働時間該当性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、警備員の休憩時間の労働時間該当性が否定された事案を見ていきましょう。

全日警事件(静岡地裁令和4年4月22日・労経速2495号3頁)

【事案の概要】

本件は、新幹線沿線警備業務の隊員であったXら2名が、雇用主であったY社から休憩場所を指定され、携帯電話に出動要請があれば出勤できる態勢を維持し続けており、休憩時間帯が労働時間にあたるとして、主位的に時間外手当を請求し、予備的にはY社が休憩時間を自由に利用させるべき債務を履行しなかったとして慰謝料請求を行った事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきであり、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているということができる。
ただし、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられ、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が認められる場合においては、労働基準法の労働時間には当たらないと解される(最判平成14年2月28日)。

2 これを本件について見ると、2時間の休憩時間中にJRからの緊急要請があった場合には直ちに相当の対応をすることが義務付けられているものの、静岡隊の隊員が休憩時間中に出動要請を受けたのは、平成30年度に1回、令和元年度に1回であり、隊員1人当たり2年に1回程度しかない。いずれも休憩時間中に出動した後、代替の休憩時間を取得している。しかも、いずれの要請も悪天候時点検であったから、当日の天候により予測できるものであった。そもそも新幹線の線路等はJRが保守点検を尽くしており、Y社の警備業務は補佐的役割であるので、勤務時間中も含めた静岡隊への出動要請は年10回前後であるし、休憩時間中の出動要請に対して対応が遅れてもクレームや懲戒の対象にはならない
また、Y社においては、休憩時間中の過ごし方も、多くの者はY社が選定した休憩場所で仮眠を取っているが、その場所から車で移動して別の場所で仮眠を取ることやトイレやコンビニに行くなど自由に過ごすことも許されている。そして、このように休憩時間中自由に過ごせることは、マニュアルが作成され研修が行われて警備隊員は熟知しており、Xらもトイレやコンビニに行ったりして自由に過ごし、管理者から注意を受けることもなかった
以上の事実からすると、Y社における休憩時間については、JRからの緊急要請に対して直ちに対応する必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に対応すべき義務付けがされていないと認めることができるような事情があるというべきである。
したがって、Y社における休憩時間は、労働基準法の労働時間に当たるとは認められない。

警備会社の仮眠時間の労働時間該当性が裁判で問題となることは少なくありませんが、本件のような勤務状況が保障されている現場は、実際にはそれほど多くないと思います。

多くの事案で手待時間(労働時間)と判断されていますので、運用にはくれぐれも注意が必要です。

なお、判例のポイント1記載の最高裁の判断は有名ですのでしっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間85 訪問看護師における緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、訪問看護師における緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間該当性について見ていきましょう。

アルデバラン事件(横浜地裁令和3年2月18日・労判1270号32頁)

【事案の概要】

本件は、特例有限会社であったY社と雇用契約を締結し、訪問看護ステーションの看護師としての労務に従事したXが、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成28年8月分から平成30年11月分までの時間外、休日及び深夜の割増賃金等1152万8940円+遅延損害金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、1055万8236円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金783万2119円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 緊急看護対応業務は、看護ステーションAの訪問看護利用者、介護施設Bの利用者及びホームCの入居者が緊急に看護を要する事態となった場合に、利用者ないし入居者、家族、施設職員等からの呼出しの電話があれば直ちに駆けつけ、看護、救急車の手配、医師への連絡等の緊急対応を行うことを内容とするものであり、看護師が呼出しを受ける理由としては、例えば、発熱、ベッドからの転落、認知症患者の徘徊、呼吸の異変等があり、実際に駆け付けることまではしない場合にも、救急車の手配、当面の対応の指示等をするときもあることが認められる。そして、緊急看護対応業務のための待機とは、前記緊急看護対応業務が必要となる場合に備えて、看護ステーションAの従業員が、Y社からの指示に基づき、シフトに応じて緊急時呼出用の携帯電話機を常時携帯している状況をいう。

2 このような業務の内容等を踏まえると、No1の携帯電話機を所持して緊急看護対応業務のための待機中の従業員は、雇用契約に基づく義務として、呼出しの電話があれば、少なくとも、その着信に遅滞なく気付いて応対し、緊急対応の要否及び内容を判断した上で、発信者に対して当面の対応を指示することが要求され、必要があれば更に看護等の業務に就くことも求められていたものと認められる(しかも、Y社の主張するところを前提としても、緊急出動(オンコール出勤)をした場合の稼働時間として通常は30分から1時間程度を要するというのである。)のであって、呼出しの電話に対し、直ちに相当の対応をすることを義務付けられていたと評価するのが相当である。
なお、Y社は、緊急看護対応の業務については、2名ずつの当番制を採用し、No2の携帯電話機を所持する担当者も待機させ、当番でない従業員も緊急出動(オンコール出動)するなど臨機応変に対応する態勢にあったと主張するものの、あくまでNo1の携帯電話機を所持する担当者が優先して対応するものと指示されていたことに加えて、平成29年1月16日から平成30年11月15日までの1年10か月の間に、No2の携帯電話機を所持する担当者が実際に緊急出動(オンコール出動)に従事した回数は2回、当番以外の従業員がこれに従事した回数は3回にとどまることが認められるから、緊急看護対応業務の態勢についての前記Y社の主張を考慮しても、No1の携帯電話機を所持する担当者が上記対応を義務付けられていたとの評価が直ちに左右されるものではない。

3 緊急看護対応業務に従事するための待機時間中、待機場所を明示に指定されていたとは認められず、外出自体は許容されていたこと(もっとも、呼出しの電話があれば、緊急看護対応が必要な事態の内容によっては、直ちに駆け付けなけれならないことは前記のとおりであるから、外出先の地理的範囲はその限度において自ずと限定されるというべきである。)を考慮しても、上記待機時間は、全体として労働からの解放が保障されていたとはいえず、雇用契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価することができる。

待機時間の労働時間該当性が争点となることは少なくありません。

典型例は警備業や運送業ですが、本件では訪問看護師について判断されています。

いずれも認容される金額が大きくなる傾向にありますので、事前の対策が必要不可欠です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間84 パソコンのログイン時刻からログアウト時刻までが概ね労働時間と認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、パソコンのログイン時刻からログアウト時刻までが概ね労働時間と認められた事案を見ていきましょう。

学校法人目白学園事件(東京地裁令和4年3月28日・労経速2491号17頁)

【事案の概要】

本件は、時間外労働に係る賃金等を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、296万3031円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金219万3727円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に出勤するとまず研究室に向かい本件パソコンにログインの操作をしてカレンダーに時刻を記入して業務を開始し、終業時に本件パソコンにログアウトの操作をして上記カレンダーに時刻を記入していた、Xの主な業務内容の詳細は、「業務状況表」のとおりであった旨主張し、X本人もこれに沿う供述をするところ、Xの上記供述内容は自然かつ合理的なものといえ、基本的に信用できるというべきである。
これに対し、Y社は、本件パソコンのログイン・ログアウトの時刻のみでは証拠が不十分である旨主張しているが、本件雇用契約には「所定時間外労働の有無」が「無」との規定があるものの、Y社がXに所定労働時間外の各種業務を担当させていた事実が存すること自体は実質的に争いがなく、にもかかわらず、Y社がXの労働時間の管理を怠っていたのであり、上記X供述の信用性を否定すべき証拠を提出できていない

被告会社が前記のとおり。パソコンのログイン・ログアウトの時刻のみでは証拠が不十分である等と主張することはよくありますが、裁判所的には「じゃあ、会社のほうでログイン・ログアウトの時刻以上に原告の労働時間を正確に管理・把握していた証拠出してね。」という感じです。

立証責任的観点から単に信用性がないと主張するだけでは足りませんので、ご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間83 事業場外労働みなし制度適用が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、事業場外労働みなし制度適用が認められた事案を見ていきましょう。

セントリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京地裁令和4年11月16日・労経速2490号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、未払割増賃金等の支払及び未払賞与等の支払及び労働基準法114条に基づく付加金請求等の支払を求め、また、XはY社による違法な行為により精神的苦痛を被ったなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料150万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、その労働時間について事業場外で業務に従事しており、各日の具体的な訪問先や訪問のスケジュールはXの裁量に委ねられており、上司が決定したり指示したりするものではない上、業務内容に関する事後報告も軽易なものであることなどからすれば、使用者であるY社は、労働者であるXの状況を具体的に把握することは困難であったと認めるのが相当であるから、XのY社における業務は事業場外での労働に当たり、かつ、Xの事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たるといえ、事業場外労働みなし制が適用される

原告は、製薬会社のMR(医療情報担当者)のため、営業先への移動や訪問に多くの時間を割いていた方です。

周知の通り、事業場外労働みなし制の要件はかなり厳しいため、裁判所はなかなか有効だと判断してくれませんが、本件では上記のとおり、有効と判断されています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。