競業避止義務1(三田エンジニアリング事件)

おはようございます。

今日は、競業避止義務違反に関する裁判例を見てみましょう。

三田エンジニアリング事件(東京高裁平成22年4月27日判決・労判1005号23頁)

【事案の概要】

X社の就業規則には、退職後1年間の競業禁止規定、違反した場合には、退職金の返還を求める旨の規定がある。
なお、代償措置は定められていない。

退職時、従業員Yは、X社に「機密保持・競業避止に関する誓約書」と題する誓約書を提出している(内容は、就業規則の規定と同じ)。

Yは、X社の承諾を得ることなく、退職した次の日にA社に入社した。

A社は、X社の元取締役が代表取締役を務める会社であり、社員21名のうち16~17名が、X社の元社員である。

X社は、Yに対し、競業避止義務違反を理由に、退職金の返還を求め、提訴(不当利得返還請求)。

【裁判所の判断】

請求棄却(確定)

【判例のポイント】

1 就業規則禁止規定の趣旨・内容ならびに退職時に提出された誓約書の記載(会社の営業機密の開示、漏洩、第三者のための使用の禁止)に照らせば、本件競業禁止規定により禁止されるのは、従業員が退職後に行う競合する事業の実施あるいは競業他社への就職のうち、それによりX社の営業機密を開示、漏洩し、あるいはこれを第三者のために使用するに至るような態様のものに限定されると解すべきであり、その限りにおいて当該規定の有効性を認めることができる。

2 Yは、ビルの空調自動制御機器・システムの保守点検等の作業に従事してきた者であり、これらの作業は主に機械メーカーの操作説明書に従って行うものであったと認められ、このような作業のノウハウが、その性質上X社の営業機密に当たるとは認めがたい
→競業避止義務には違反しない。

退職後の競業避止義務は、労働者の転職を制限することになるため、就業規則や誓約書にそのような義務を定める規定があったとしても、直ちにその効力が肯定されるわけではありません。

就業規則や誓約書に定められた競業避止義務の内容を限定的に解釈するのが、最近の判例です。

多くの会社の就業規則で競業避止義務を規定していると思います。
しかし、規定したから、当然に従業員の競合他社への転職を禁止できるわけではありません。ご注意を。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。