解雇46(K社事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒解雇と相当性の原則に関する裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京地裁平成21年6月16日・労判991号55頁)

【事案の概要】

Y社は、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等の広告代理業務等を目的とする会社である。

Xは、昭和44年4月、Y社に入社し、正社員として主に営業に従事していたが、定年を迎え、その後、再雇用され、就労を続けた。

Xは、平成19年2月、飲食店において、Y社専務から退職した先輩の近況を聞かされていたが、突然、「そんなことはどうでもいい!馬鹿やろう!俺の退職金を払え。退職金を払えばいつでも辞めてやる!」と怒鳴り出した。

そこで、Y社専務がXに対し、「今の暴言は取り消せ」と言ったところ、Xはいきなり立ち上がり、これに危険を感じて自らも立ち上がった専務に対し、その左頬などを右手拳で少なくとも3回殴った上、その襟首をつかんで、「馬鹿やろう!馬鹿やろう!」と繰り返し怒鳴った。

専務は、これらのXの言動に加え、営業社員としての勤務状況、勤務成績が極端に悪く、架空売上書類を作成して売上げをごまかす繰り返しであったことをも照らし合わせ、Xが社員として不適格であると認め、その場で懲戒解雇を言い渡した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【事案の概要】

1 Xの言動は、もともとY社が他の者との合意払いが滞っている退職慰労金の分割払いを怠っていたことに原因があり、しかも、Xが憤慨し、不適切な発言に至った発端は、朝日生命から振り込まれた本件預入金の性質に関する専務の独自の見解に基づく回答の内容にあること、さらに、Xが暴行に及んだといっても、それ以前に最初に暴行に及んだのは専務であるから、Xの言動には酌むべき点が多々あるといわなければならない
加えて、Xによる上記言動は、飲食店における私的な飲食という、業務の遂行を離れた場面でされたものであり、しかも、その言動の態様に照らすと、Xはもちろん、専務も酔余の状況にあったことがうかがわれる

2 そうすると、Xによる上司である専務への言動が企業秩序を乱すべきものであり、Y社の就業規則が定める懲戒事由に当たるというべき余地があるとしても、また、Xの過去の業務の遂行に必ずしも芳しくない面があったことをいかに考慮しても、このような言動をもって、Y社の就業規則77条が定める戒告から解雇に至る8種類の懲戒処分のうち、最も重いいわば極刑である懲戒解雇に処すべきものとすることは、いかにも重きに失するといわざるを得ない

3 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は、懲戒権を濫用するものであり、無効である。

4 本件懲戒解雇は無効であり、また、Y社においては、就業規則に規定はないが、従業員の賞罰に関して賞罰委員会の制度が存するにもかかわらず、その手続を経ないまま専務が本件懲戒解雇を言い渡したことは、不法行為を構成すると言わざるを得ない。そして、当該不法行為の違法性の程度に加え、XとY社との間の再雇用契約が期間を1年とする雇用契約であるものの、その更新へのXの期待が法的保護に値するものであったこと、それにもかかわらず、Xは、本件懲戒解雇を受けたことにより、Y社において就労する意思を失った結果、1か月分の賃金請求が認められるにとどまること等本件に現れた一切の事情を考慮すると、Xが本件懲戒解雇によって被った精神的苦痛を慰謝すべき額は60万円とすることが相当である。
懲戒処分の相当性の原則に反するということで無効と判断されました。

また、適正手続違反を理由に、損害賠償請求を認めています。

なかなか厳しいです。

会社としては、感情だけで懲戒解雇すると、裁判になったときにしんどいです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。