Daily Archives: 2012年3月21日

賃金43(十象舎事件)

おはようございます。

さて、今日は、編集プロダクション社員の時間外割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

十象舎事件(東京地裁平成23年9月9日・労判1038号53頁)

【事案の概要】

Y社は、各種書籍・雑誌の企画・編集を行う編集プロダクションである。

Xは、Y社の元従業員で、平成19年7月から22年7月までY社との間で雇用契約関係にあった。

Xは、分冊百科シリーズの編集・制作を担当するとともに、ライターに記事の執筆を依頼したり、自ら記事を執筆する等の業務を行っていた。

Xの所定労働時間は、午前10時30分から午後7時30分であったが、全体として仕事量が多く、所定の出退社時刻を守っていたのでは、担当の業務を終えることは不可能であった。

一方、Y社は、締切りまでに良い仕事さえすれば勤務時間の使い方は自由で構わないとの考えから、従業員の出退社管理に全くといっていいほど関心がなく就業規則はもとよりタイムカードや出社簿等も全く存在しなかった。

そこで、Xは、Y社において全く出退社管理等が行われていないことに疑問を持ち、将来の残業代請求を視野に入れ、平成20年1月から、毎日、自らの出退社時刻を分単位まで手帳に記録するようになったが、それだけでは証拠としての客観性にかけると考え、出退社時ごとに、パソコンのソフト(Light Way)を立ち上げたうえ、各出退社時刻を打刻し、パソコンのフォルダ内に保存する方法を用いた。

【裁判所の判断】

Xがパソコンソフトに保存・記録していた時刻を、割増賃金請求にかかる期間内のXの出退社時刻に当たると判断

深夜の一部を除き、労基法上の労働時間に当たると判断

付加金として30万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 「労基法上の労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうものと解されるところ(最高裁平成12年3月9日判決)、その判断は、(1)当該業務の提供行為の有無、(2)労働契約上の義務付けの有無、(3)義務付けに伴う場所的・時間的拘束性(労務の提供が一定の場所で行うことを余儀なくされ、かつ時間を自由に利用できない状態)の有無・程度を総合考慮した上、社会通念に照らし、客観的にみて、当該労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かという観点から行われるべきものである

2 ・・・そもそも、Y社が上記のような勤務形態を採用した趣旨は従業員の作業効率を高め、より高い創造性を発揮させることにあり、こうした意図に照らすならば、Y社において、上記のような作業効率(集中力)はもとより仕事に対する創造性も著しく低下するはずの時間帯における、(完全)徹夜勤務まで容認していたものとは考え難く、少なくとも上記時間帯cのうち午前2時以降については、仮に何らかの業務が行われていたとしても、それは、いわゆる「許可・黙認のない持ち帰り残業」に類する性質のものということができる
そうだとするとY社の上記時間帯(午前2時以降)の行為は、特段の事情(残業指示の形跡等)が認められない限り、Y社の指揮命令下に置かれていたと評価することはできないものと解されるところ、Y社代表者とXとの間に上記のような特段の事情を基礎付ける事実関係を認めるに足る的確な証拠はない。
以上によると上記時間帯cは、午前零時から同2時までに限り「労基法上の労働時間」に該当するものというべきである。

労基法上の労働時間該当性の問題は、指揮命令下と評価できるかにより判断されます。

残業代請求事件ではよく問題となる論点です。

日頃から顧問弁護士に相談することがとても大切ですね。