賃金49(日本郵便輸送(給与規程変更)事件)

おはようございます。

さて、今日は、無事故・運行手当の割増賃金算定基礎にかかる規定の効力に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便輸送(給与規程変更)事件(大阪高裁平成24年4月12日・労判1050号5頁)

【事案の概要】

Xらは、大阪郵便輸送株式会社との間で労働契約を締結し、郵便輸送業務に従事していた者である。

大阪郵便は、平成21年1月、日本郵便逓送株式会社に吸収合併された。

日本郵便逓送は、同年2月、Y社に吸収合併され、Xらは、現在、Y社との間で労働契約を締結し、引き続き郵便輸送業務に従事している。

日本郵便逓送は、本件第1合併の際、同社の給与規程を基本として作成した給与規程(本件給与規程1)において、無事故手当および運行手当を基準外給与とした。

第2合併の際には、給与規程は変更されず、Y社は本件給与規程1を承継した。

Y社は、平成21年4月、Xらの同意を得ないまま給与規程67条を新設し、日本郵便逓送の従来運用を給与規程上明確化するためとして、新たな給与規程(本件給与規程2)を示した。

【裁判所の判断】

無事故手当および運行手当は、割増賃金の算定基礎とすべきである

付加金は課さないのが相当である

【判例のポイント】

1 本件給与規程変更2は、本件給与規程変更1の際に、予め予定されていたものではなく、本件給与規程1の文言上も規定されていなかった日本郵便逓送の従来運用について、本件組合から抗議され、また、労働基準監督署からも問題点を指摘されたことから、急遽検討され実施されたものである。しかも、日本郵便逓送の従来運用については、本件給与規程1からこれを読み込むことは不可能である上、本件組合やXら従業員に対して説明されないまま、したがって、協議も経ないまま、同規定の下でもその運用がなされ、その運用に合わせる形で本件給与規程変更2がなされたものである。
Y者や日本郵便逓送にとっては、本件給与規程2の内容は自明のことであったとしても、本件給与規程1から日本郵便逓送の従来運用の内容を読み込むこともできず、また、その説明も受けていない本件組合やXら従業員にとっては、本件給与規程変更2を、本件給与規程変更1の段階で予測することは不可能であるから、Y社が各変更の一体性を主張することは、労働者にとって著しく不利益であり、また信義にも反するというべきである。

2 本件給与規程1では、無事故手当及び運行手当を割増賃金算定の基礎から除外している。
しかし、上記両手当は、通勤手当や住居手当等とは異なり、労働の内容や量とは無関係な労働者の個人的事情により、支給の有無や額が決まるというものではなく、労働基準法37条5項、同法施行規則21条にいう除外賃金に該当しないことは明らかである。したがって、上記割増賃金算定の基礎に係る規程は無効であり(労働基準法92条1項)、上記両手当も割増賃金の算定基礎とされるべきことになる

3 労働契約の内容である労働条件を変更するには、労働者と使用者との合意によることが原則であり(労働契約法8条)、就業規則の変更によっても労働者に不利益に労働条件を変更することは、原則としてできない(同法9条)が、労働条件の統一的・画一的処理の必要性も考慮する必要があることから、同法10条は、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」と規定している。
・・・しかし、本件給与規程1の割増賃金の算定基礎に関する定めのうち、無事故手当及び運行手当の全額を割増賃金の算定基礎としない定めは無効であり、この無効な定めとは異なる日本郵便逓送の従来運用をY社においても採用していたとしても、労働基準法37条5項、同法施行規則21条によれば、正しくは上記両手当の全額を割増賃金の算定基礎とすべきものであったといえるから、同運用に合わせる形で労働条件を統一するについては、本件給与規程変更2により労働者の受ける不利益が小さいとはいえないこと及び元々日本郵便逓送の従来運用については、同社と日本郵政公社労働組合間の合意もなされていたことを考慮すると、変更後の本件給与規程2の内容の労働者への周知や本件組合への説明、協議をある程度時間をかけて丁寧に行う必要があったというべきである
ところが、日本郵便逓送及びY社は、・・・従業員や本件組合に対する周知・説明及び協議を、時間をかけて丁寧に行ったと評価することはできない。むしろ、日本郵便逓送の従来運用を絶対視し、本件給与規程1の是正を急ぐあまり、従業員や本件組合に対する対応を蔑ろにしたと評価されてもやむをえないものである。
・・・以上によれば、本件給与規程変更2は無効であると認められる。

上記判例のポイント2は基本的なことですが、見落としがちです。

基礎賃金該当性については是非、顧問弁護士に相談しておきましょう。