有期労働契約56(社会福祉法人東京都知的障害者育成会事件)

おはようございます。

今日は、寮建替えに伴う世話人業務契約更新拒絶の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人東京都知的障害者育成会事件(東京地裁平成26年9月19日・労判1108号82頁)

【事案の概要】

本件は、Y社運営のA寮の世話人として業務を行っていたXに対し、Y社がA寮が廃寮となったとして世話人業務に関するX・Y社間の契約の更新拒絶をしたところ、Xは、Y法人に対し、X・Y社間の上記契約は雇用契約であり、上記更新拒絶は権利濫用として無効であると主張して雇用契約上の地位確認および賃金請求を求めた事案である(主位的請求)。

なお、Xは、本件において、X・Y社間の契約が雇用契約と認められない場合の業務委託契約上の地位確認および委託料請求(予備的請求1)ならびに更新拒絶が有効とされる場合の損害賠償請求(予備的請求2)も合わせて求めている。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、510万余円を支払え(予備的請求2の一部認容)。

【判例のポイント】

1 本件契約は、「業務委託契約書」の表題でX・Y社間でこれまで契約締結がなされており、条項についても「次の業務を委託し、世話人がこれを受託した。」と業務委託であることが明示されていること、本件契約の条項上、Y社の就業規則の適用は予定されていないこと、・・・雇用契約のような指揮命令関係があるわけではないことを認めていること、がそれぞれ認められる。
以上の諸点に鑑みれば、本件契約が業務委託契約であることは明らかであり、Xの主位的請求は理由がない。

2 Xが世話人として従事していたA寮と「はうす池上」「池上なのはな」がグループホームとしての同一性を欠くことは明らかである。・・・本件ではA寮の建物所有者であるAが建物を取り壊したことにより、A寮の運営が不能となり、「グループホーム運営に支障」が生じたこととなるため、Y社は本件契約の更新を行うことはできない。そうすると、本件通知が権利濫用であるとはいえず、Xの主張は理由がない。そして、本件通知が有効である以上、Xの予備的請求1は理由がない。

3 Xの法的構成は不明確であるが、本件通知に違法はなく、その他、Y社の債務不履行事実を認めるに足りる証拠はない
もっとも、民法651条1項は、委任契約において、債務不履行責任に基づく解除とは別の解除権を認めた反面として、同条2項において相手方当事者からの損害賠償請求を認めた規定であって、債務不履行の事実は要件事実として不要である。また、業務委託契約は、契約の性質上、民法の典型契約のうち、委任契約に類する性格を有する契約であり、民法651条2項の適用又は類推適用の余地はある

4 Y社のあるべき対応として「はうす池上」「池上なのはな」の世話人にXが就任できない代わりに他のY社運営のグループホームの空きのある世話人にXを就任させることも、本来十分考えられるところである
・・・Y社がXに「はうす池上」「池なのはな」の世話人として従事させないことの代わりにXに対し損害賠償させることが本件において不当とはいえない。

5 これに対し、Y社は、「やむを得ない事由」(民法651条2項ただし書)に該当する旨主張する。
確かに、Y社の主張のとおり、本件契約が終了するのは、業務を行うべきA寮の建物所有者であるAが取り壊しを決めたために廃寮となり、Xが業務を行えなくなることにあるから、直接の終了原因となったのは、第三者であるAの判断である。
しかし、Y社は、A寮の取壊し前から新建物の建築に向けて相当程度の関与を続けていたことが認められ、その中で新建物の設計・内装にはY社の意向がかなり反映されていることは明らかである。第三者の独自の判断によるとまではいえない。前記のXの事情及び前記諸事情と比較した場合に、Xの損害賠償請求が否定されるような「やむを得ない事情」があるとは到底言えず、採用することはできない

この判決内容には、原告代理人も、内心、驚いているのではないでしょうか。

民法651条2項ただし書の「やむを得ない事由」の有無が争点となっており、裁判所の判断を読んでもわかったようなわからないような内容です。

原告側は、担当裁判官に恵まれた形です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。